エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
≪こちらオーディン、情報を更新する。
上層部はケモノフスタン側と“終戦協定”を結ぶそうだ。
そのため、現時点をもって戦闘は終了。
レイヴン隊も基地へ帰投せよ。≫
戦闘終了…?
俺たちが戦闘している間にソレガ基地の爆撃は
成功したようだが、ソレガ基地から遠く離れた俺の目でも、
基地の機能がまだ生きていることぐらいわかる。
表面では冷静を保っているつもりでも、
冷や汗が心の焦りを自覚させる。
「こちらレイヴン1、その命令には賛同できない。
ここで潰しておかないと敵は勢いを増す!
協定なんてのはハッタリだぞ!」
俺は相手がNPCということも忘れてオーディンに怒鳴るが、
≪ショウ、貴様いつから政治屋になった?
非正規ごときが口を挟むな。≫
返事をしたのはテルキスだ。
『テルキス、ショウの意見は正しい。』
マリーも俺に賛同してくれるが、
相手にしてられないとテルキスはそれを一蹴して
一方的に無線を切った。
ーーダンっ
娯楽室のテーブルに拳を思いっきり叩いたのは
俺ではなくマリーだった。
「納得できない…!」
いつも冷静なマリーが珍しく感情的だ。
やはり俺と同じようにあのタイミングでの
申し出に違和感を覚えていたのだろう。
何せケモノフスタンは新興クランで、
本来ならMig21やF-4Eのような旧型機を
少しずつ弄りながら飛ばしているレベルだ。
それがどういうわけか、
新鋭とまでは言えなくとも、初心者にしては
やけに高価で高性能な機体をメンバー全員が乗り回し、
基地まで持っているときた。
どう見ても普通じゃない。
「黙れ。」
セーナが個室の壁に背を預けながらマリーを睨む。
マリーも負けじと睨み返す。
「お前たちど素人と違って我々には
ドクトリンというものがある。」
ほう…。
たしかにそういう戦術規範があるならこの状況も
納得できる。
この協定も次のための布石というわけか。
「ならそのドクトリンとやらを俺にも聞かせてほしいな。」
俺はテーブルに脚を載せてセーナに視線を合わせる。
セーナは相変わらずキツイ目付きだが、
レイヴン隊の隊長である俺がいちいちビビってられない。
「それは…」
セーナは口どもると視線を逸らして表情を濁らせる。
「…私も…知らない。」
ズコッという効果音とともに隣の相棒が
椅子から滑り落ちた気がするが、まあ無理もない。
セーナは羞恥心からか顔が真っ赤だ。
しかし、堅っ苦しいやつと思っていたセーナが
意外と可愛い表情をするものだ。
きっとトードの野郎のお気に入りに違いない。
「口先だけならなんとでも言える。」
椅子に復帰したマリーはため息を吐きながら
嫌味っぽく言う。
「う…うるさい!お前たちは傭兵だ!
我々の方針に口出しするな!」
「まぁまぁ、落ち着けよ。悪いな、野暮なこと聞いて。」
ジョッキのジンジャエールで喉を潤した俺は、
一呼吸置いて口を開いた。
「それじゃあ、お互い立場は違えど
同じ部隊、同じ任務で同じ空を飛ぶ身だ。
今の状況を俺たちなりに整理しよう。」
2人の同意を待たずにメニュー画面を開いた俺は、
それをテーブルいっぱいに映し出せるよう拡大する。
「まず俺が疑問に思うのは、
新興クランのケモノフスタンがここまで強くなっている理由だ。」
「同じく。」
声を合わせるマリーは俺の操作を見ながら
何をするのか不思議そうに覗き込んでいる。
「えー…と…ケモノフスタン…ケモノフスタン…あった。」
映し出したのはクランのランキングだ。
無論、トップはマジ卍。ふざけた名前だ。
それはさておき、
結成から半年以下のクランをリストアップし、
その中から勢力の強い順に並べ替えると、
トップに出たのはケモノフスタンだ。
だがダントツで戦闘力が高い。2位と2倍以上の差をつけている。
「半年でこれは異常だと思うんだ。
個々のプレイヤーが強いならまぁわからないでもないが、
見たところマジ卍のプレイヤーと
良い勝負に持ち込めるのは3〜4人程度だ。
となると考えられるのは…」
「裏に誰かが…」
ポツリと漏らしたのはおとがいに手を当てて
俺の話を聞いていたセーナだ。
「そう、俺もそう考えた。
だがマジ卍にこんな素人集団をぶつけたって
大したダメージは受けない。
まぁ管制塔ごと吹っ飛んだ野郎もいやがったが」
その“野郎”とは無論、我らがクソ指揮官のテルキスだ。
だいたい俺はカトラスのスカウトで
カールターナーと契約したのに、
いったいどのタイミングであいつが
しゃしゃり出てきたのだろう?
よく考えればなんの指令も受けていないのに
いつのまにか指揮官ヅラしてる。
マリーがぷふっと笑い、セーナも思わず苦笑。
「それはさておき。
今の段階でこの状況を操っているヤツはわからないし、
誰がどこで得をしてるか考えても
これ以上は推測の域を出ないわけだ。」
「どん詰まり。」
現状を一言で言い表してくれたマリーは
ふと何か閃いた様子で自分のメニュー画面を開き、
インターネットに接続するとなにやらキーボードを叩く。
「これ。」
映し出されたのは右肩下がりの折れ線グラフだ。
「なんだこれ?」
率直な感想を発した俺の脇腹を肘でど突いたマリーは
それを壁に拡大して投影する。
「これはAFOで起きたクラン同士の戦闘の回数を
ひと月単位でグラフ化したもの。」
なるほど。
いちばん左端はリリースされた月で、
いちばん右端は今月というわけだ。
今月はまだ集計中だが、言うまでもなく最近は平和だ。
リリース直後から急激に増えていく戦闘回数は
ピーク時の数字を数ヶ月維持すると徐々に平坦になっていき、
今年は減少傾向にあるうえ、
ここ数ヶ月は片手で数えられる程だ。
「平和だな。まるで冷戦みたいだ。」
「で、何が言いたいんだよ?」
平和なのは良いことじゃないか、と俺が言いかけた時、
「戦争ゲームに平和は不要。」
マリーは冷たくドスの効いた声でキッパリと言い切った。
言われてみればその通りだ。
自らの闘争本能を満たそうとログインした
戦争ゲームが毎日平和じゃ溜まったもんじゃない。
AFOを冷戦状態にしている二大巨頭といえば、
マジ卍と常勝軍だ。
とすると、常勝軍にも同じことが起きているのだろうか?
曖昧な情報の中から納得できる結論を探そうと頭を回転させるが、
そもそもまともなソースからの情報が少ない。
それはセーナも同じだったようで、
どうにも煮え切らない表情をしている。
「でもただの推測。」
しかめっ面の俺たちを見たマリーは
腕時計に目を向けながらそう言った。
釣られて俺も腕時計を見る。なるほど。
時間は夜の8時に近づいている。
「あっ、バイト…!」
聞き覚えのある、しかし明らかに口調の違う声の主を見ると、
セーナが青い顔をしてログアウトボタンを探している。
やがて俺の視線に気づいたのか、
「さ、先に失礼すりゅぞ!」
ポリゴンのカケラとなって消えていく彼女は
しまったと言った表情で何か言いかけて消えた。
「噛んだ。」
「噛んだな。あれは。」