エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
長瀬のあの態度はいったいどういう意図が
あったのだろう?
あの歌にも意味があったのか?
曲名さえわかれば手がかりになるか…?
『はい隙あり〜!』
「あっ…!?」
無線から聞こえたカトラスの声に俺が
マヌケな声を漏らした直後、
ズダダダンという音とともに俺の背中に鈍い痛みが走った。
ーードゥウウウウウン
耳障りな効果音とともに目の前にLOSEの文字が現れ
自身の敗北を告げるが、
戦闘に身が入ってなかっただけにその実感も薄かった。
『どうしたどうしたー?今日も動きが鈍いね〜』
「今日『も』ってなんだよ…。」
『なーなー!もう一戦やろうよ!』
俺の尻すぼみな抗議を無視して再戦を求める
カトラスの表情からは、3連勝の嬉しさが滲み出ている。
一勝につき娯楽室の食べ物1つを賭けていたので
これ以上負け続けるとどうなることやら…。
しかしそれ以前に、
「悪い、今日は調子出ない。」
リアルとゲームは別に考えるようにしていたにも関わらず、
先日の長瀬の態度や言葉が気になって頭から離れない。
別にそれが原因で負けたとまでは言いたくはないが、
そうではないと否定できないのもまた事実だ。
『ちぇっ…!
あと一勝で新作スイーツコンプできたのに…』
新作スイーツ3つ分、合計で30クレジット。
円に換算すると3000円がカトラスの
仮想の胃を満たすために消えた。
1ヶ月分の接続料に相当する大出費…。
1つ1000円もする高級スイーツを恨むべきか、
勝負に負けた自分を恨むべきか。
生クリームを口の周りに付けてケーキを頬張る
カトラスの傍らでそんなことを考えながら
窓の外を見ていると、
青い機影が着陸するところだった。
見たことの無い機影…
カナード翼に前進翼、垂直尾翼は内側に曲がっていて、
腰のあたりから生えるエンジンはロボットアニメに
登場する補助ブースターのように巨大だ。
窓の前を通り過ぎる時に垂直尾翼のエンブレムが見えた。
ひっくり返した『核』を意味するハザードシンボルと
不気味に笑うピエロを組み合わせたエンブレム。
もう2度と見間違えるはずの無いトードのものだ。
「んん、ほーほは!」
「うわっ!?お前…!」
口にケーキを頬張ったまま何か喋るカトラスに
視線を戻すと、某フライドチキンの
カーネルおじさんと見紛うほど大量の
生クリームを口の周りに付けていた。
「どう食ったらそこまで汚れるんだよ…!」
カトラスの口元をおしぼりで拭っていると、
もう1機別の機体が着陸する。
トードと同じ前進翼の機体だが、機体のシルエットが
醸し出すオーラはどちらかというと東側の戦闘機を
彷彿とさせる。
2人目の前進翼のプレイヤーがハンガーに入る手前、
メニュー画面を操作してヘルメットを外した。
後頭部で纏められたブロンドのポニーテールが
解放され、滑走路を吹く風になびく。
そのプレイヤーはトードと何度か言葉を交わすと
そのままハンガーに入って出てこなくなった。
代わりに出てきたのはトードだ。
俺の視線に気付いたのか、トードは俺に手招きする。
スイーツに夢中なカトラスを置いて滑走路に出ると、
どこにでもいそうな黒目黒髪の青年が立っていた。
何気にこいつの素顔を見るのは初めてな気がする。
「行く先々でやらかしてるらしいな、ショウ。」
「…?」
「オイオイ、しらばっくれる気か?
疫病神の名は俺の耳にも嫌ってほど聞こえてるぜ。」
ああ、そのことか。
いい加減に運営からそのままの二つ名を
受け賜わりそうな気がしている。
しかしそれよりなにより言うべきは、
「知るか。それよりなんだ、あの新入りは。
実力があるのは認めるが、はっきり言って問題児だ。」
セーナの事だ。
俺に非がないわけでは無いが、
言う事聞かないし頭固いし暴力的だしで
どうにもこうにもと言う感じ。
「あいつは俺のお気に入りだ。それ以上悪く言ってみろ。」
どうやら地雷を踏んだみたいだが、
お気に入りをよそ者に預けるとは一体
どういう神経をしているのだろう?
「ならなおさらお前のそばに置いとくべきだろ。」
「分かってないな。
1番ヤバそうなとこには1番信頼できるやつを
置いとくんだよ。」
自分のクランに呼んでおいてヤバい奴扱いとは
いよいよ泣けてくる。
「そんな事よりアレだ」
トードは面倒臭そうに俺を軽くあしらって
ハンガーの方へ歩き出すが、
まだまだ話すことは沢山ある。
トードの後を追ってハンガーに入った俺の視界に、
さっきのブロンドのポニーテールのプレイヤーが映る。
容姿からしてたぶん女性プレイヤーだが、
彼女はレンチ片手にハンガーの天井から吊るされた
機体セットのエンジン部分を覗き込んでいる。
「お前らの機体を改修してもらう。」
トードの言葉に反応して振り返った
ポニーテールのプレイヤーは目が合うと同時に
興味を失ったと言いたげに再び機体セットに向き直る。
「なぁ、その前にさ…、
このクランの女子率高くないか?」
「ん?あぁ…。」
俺の言葉にトードは疑問符を浮かべるが、
彼女の頭に視線をやって納得したような
表情を浮かべる。
「あいつはカルシアって言って」
「悪いが俺は男だ。」
トードの話を遮って放たれた音声は
男とは言いづらい高音を保っていたが、
その口調やツナギの袖を腰に巻いて現れた上半身は
彼女が“彼女”ではなく“彼”であることを視覚に訴えていた。
「ん…んん…。
あいつはカルシアっていう名前でうちの整備士だ。
整備の腕は一級品、そして見ての通り脱いだら凄い。」
咳払いして言うほどのことではなさそうだが、
たしかに外見で女と決めつけてしまっている人間にとって
カルシアの適度に引き締まった筋肉や
しっかりとした肩には衝撃を受ける。
どう見ても男性プレイヤーのそれだ。
「ぶっ殺すぞトード。」
そして口が悪い。
「そのアバターでその髪型って…」
「なんだ?」
口調の割に目に力は無く、セーナやマリーのような
殺気も感じない。
故に、いつもと違って率直な感想がポロッと出た。
「ネカマプレイってやつか?」
「レンチで頭叩き割るぞ。このボケが。」