エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
数週間が経ち、現実世界では秋が来ようとしていた。
俺の予測に反してケモノフスタンの動きはおとなしいまま
不気味なほど静かだった。
砂漠エリアのカラ基地に所属が変わった俺は、
ハンガーの前にイスとサイドテーブルを広げ
日傘を立てて昼寝をしながらフェンスの外を眺める。
地平線の先まで砂漠が続くが、
ここにはあの
とても快適だ。
あの声が聞こえなくなると思うと
今にも舞い上がりそうな気分だ。
実際、機体セットを装備すれば舞い上がれるが、
無許可で離陸すると撃墜されかねないので今は抑える。
それはさておき、
今日はスクランブル待機に入れなかったマジ卍メンバーの
穴埋めとして呼ばれたため、
こうしてハンガーのど真ん前で暇を潰しているわけだ。
別にそれだけが理由ではないが、
何があろうとここから動くつもりはない。
なんたって外気温はもうすぐ41度になるらしい。
仮想世界のため多少は軽いはずだが、
現実世界がちょうど過ごしやすい気候になってきているだけに
そのギャップは大きい。
「あっちぃ…」
日傘を立てているにも関わらずフェンスの先にある砂漠は
加減も知らずに日差しを照り返す。
ヘルメットのバイザーを下ろした俺のイスに衝撃が走った。
ーーガンっ
「ブリーフィング」
声とイスを蹴った脚の主はマリーだ。
チームにセーナを加えて以来ずっとこんな感じだから
きっと暑さのせいでは無いのだろう。
「わかった、すぐ行く。」
ブリーフィングルームに入った俺は、
左右をマリーとセーナに挟まれるように席に着く。
ほんの一瞬、ハーレムという言葉が脳裏をよぎるが、
2人の意識は俺では無くお互い。
俺はただの緩衝材扱いだ。
何はともあれ、周囲には俺たちの3人以外誰も居らず、
誰かが入ってくる気配もない。
最後に1人、入室するが、
薄暗い部屋に浮かび上がるそのシルエットに
俺はわずかながら不安を感じてしまった。
「全員居るな?よし、始めよう。」
そう、声の主はテルキスだ。
「…マジかよ。」
「なんだ?俺が指揮官で不満か?」
ホログラムの光はテルキスのメガネでキラリと反射し、
見る者にインテリ官僚的なイメージを抱かせる。
「あぁ、そうとも。ご名答だテルテル坊主。
てか何でお前が居るんだよ。」
「なんだ、聞いてないのか?
貴様らはこの基地に移動しただけで
それ以外はこれまで通り何も変わらん。
恨むなら貴様の雇い主を恨め。
では、ブリーフィングを始める。」
テルキスがメニュー画面を操作すると、
だだっ広い砂漠がホログラムで表示される。
「今回の任務は機密情報の奪取だ。
本日未明、AFOの運営から新規ミッションとして
追加されたものだ。」
「それは重要?」
マリーの問いにテルキスは眉をピクリと動かす。
「クランの運営上はなんら影響は無いが、
重要な“情報”だ。」
「情報…?」
「あとは戦術マップを観た方が早いだろう。」
ホログラムを操作して戦術マップを表示したテルキスは
少し脇に移動すると腕を組んで背中を壁に預けた。
ホログラムに映される砂漠の風景に変わりは無いが、
映し出される砂漠の中央に双発のレシプロ機の姿をした
人影が横たわっている。
背中についた大型のレーダーや翼の形からして
E-2早期警戒機だろうか。
ネームドキャラなのかマップ上の光点には
『Angel』の文字が表示されている。
「ミッションの受注と同時に更新されたのが
この戦術マップだ。」
さらにテルキスが操作を加えると、
マップ上に無数の敵NPCの地上ユニットが現れる。
俺とマリー、そしてテルキスの視線が
レイヴン隊で唯一攻撃機を使うセーナ1人に集まった。
「なんだ。私の顔に何か付いているのか。」
童顔ツリ目がキリッと睨みを効かせ、俺は目を逸らした。
視界の隅でセーナが腕を組み、たわわな果実が
ぷるん、と狭そうな腕の中に収まった。
いや、見た感じ収まりきってはいないが。
「今回の主力はセーナに任せる。
ショウとマリーはセーナを敵の戦闘機から守れ。」
テルキスが咳払いを混ぜて話を切り出した。
「また、今回のミッションは
他のクランと遭遇する可能性がある。」
「話を重ねて悪いが、
そもそもその情報って何なんだ?」
テルキスは教えても良い情報かどうか考えているのだろう。
少し唸ってから顔を上げた。
「まぁ良いだろう。
今回のミッションで回収する情報は次回のアップデートで
追加される新要素に関する事前情報だ。」
なるほど、それなら重要だ。
ソロでやっていた事にも有ったが、AFOの運営は面倒な事に、
普通のゲームならホームページやインターネットで
発表するような情報を情報収集ミッションとして
公開している。
良く言えば遊びゴコロがあると言えない事もないが、
ミッションを受注したクランが多いと
こうしてNPCが包囲するようになる。
ソロプレイヤーでもミッションの受注はできるし、
頭を使えば誰よりも、どのクランよりも早く
クリアすることは可能だが、
情報には当たり外れがあって挑むリスクが高すぎるため
俺は挑戦したことがなかった。
「貴様らレイヴン隊の任務は現地に誰よりも早く向かい、
墜落地点の周辺を制圧。
ショウ、貴様の特殊兵装枠に搭載した
無線中継ポッドを使って情報を奪い取ることだ。」
戦術マップに俺たちを表す光点が現れて
敵ユニットを制圧すると、
俺を表す光点は墜落地点の上空を旋回しだす。
「墜落地点制圧後はポッドを起動して
墜落地点上空半径5km内を旋回、
作戦空域のスレスレを飛行するカールターナーが
貴様のポッドを中継して情報をダウンロードする。」
「ん…?別にポッドだけあれば情報は取れるはずだろ?」
攻略情報ではダウンロード前にいかにテンポ良く
敵を殲滅し、制空権を確保し続けるかが
重要だという話だったが、
カールターナーが関与する事で何か利点があるのだろうか?
「E-767早期警戒管制機のスキルを使う事で情報処理速度が
段違いに向上する。
つまり、ダウンロードにかかる時間を
大幅に減らせるという事だ。
俺は貴様如きが迫り来る無数のミサイルを
全て躱せるとは微塵も思ってないからな。
もしものための保険だ。」