エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
広域レーダーを見ると、カールターナーの警告通り
3機の機影が墜落地点に向かっている。
このままでは制圧した墜落地点の制空権を
横取りされる形になってしまう。
情報を求めてミッションを受注した割には
遅い到着だが、敵は元からそのつもりだったのだろう。
地上を制圧する事を考えると攻撃機が必要になるが、
他のチームが地上を制圧してくれているなら
あとは戦闘機でゴリ押しして制空権を確保すれば良いだけの話だ。
「やられたな…。」
敵がミサイルの射程に入るまでは数分とかからないだろう。
選択肢は無い。
「マリー、作戦変更だ。方位1-9-0に向かって
敵機を迎撃する。」
「わかった。」
俺が右へ旋回し始めるとマリーは俺の頭上、
つまり背中にぴったり張り付くように旋回してきた。
「なっ…」
動揺を隠せない俺に追い討ちをかけるように
マリーは手を伸ばして俺の主翼に手を添え、
主翼に触れた手はそのまま肩甲骨を撫でて、肩を掴む。
「レーダーを騙すため。」
確かに、AFOのレーダーは2D表示で
高度差は表示しないため、
理論的にはこの体勢だとレーダーには1機としてしか
表示されないはず。少しでも操縦をミスすれば空中衝突で
2人とも事故死扱いになりかねない体勢の中、
俺は背後で口角を上げているであろうマリーの表情を
想像して口を開く。
「それだけ…か?」
俺の肩を掴む手に力がこもる。
2人の間に緊張感と数秒の沈黙が流れ、
そしてマリーが口を開いた。
「ショウは私の僚機。だから…ダメ。」
何が、と聞くのは野暮な話だ。言われなくても分かる。
考えるまでも無く心当たりならあった。
マリーが言っているのは俺とセーナの距離感。
セーナを隊に入れて最初の任務の時に
セーナの戦闘力を低く見た俺はセーナを直掩につけて
マリーを前衛に出した。
結果として俺の心配は無駄に終わったのだが…。
自分なりに効率を重視し過ぎたあまり、
マリー自身の僚機としての気持ちを完全に無視していた。
「そうだな…、わかってる。」
肩を掴む小さな手に優しく手を重ね、
2人がソロ同士だった頃の挨拶をする。
「じゃあ…バディを頼めるか?」
肩を掴んでいたマリーの手はそれに答えるように
俺の手を握るとゆっくり肩甲骨をなぞり、
「もちろん。」
その答えとともに俺の背中を軽く押し、
頭上を追い越して雲の中へ飛び込んだ。
その先の米粒のようなサイズで見える敵機は
雲の中に消えたマリーを警戒するような動きを見せながら
雲を迂回して俺の側面を突く針路を取る。
HMDにも敵を表す緑色のコンテナが3つ現れ、
Su-33と表記された。
「エッジレス、こちらレイヴン1。
敵機を視認した。機種はSu-33、機数3」
言わずと知れたスホーイ設計局の戦闘機だが、
Su-33はSu-27を基に設計された艦載機だ。
艦載機と言うだけあって空母でコンパクトに収納する為に
翼が折り畳めるようになっていたり、あまり兵装を積めない分、
格闘戦能力を強化してあったりと、
使い方によってはとても厄介な相手だ。
『…フランカー』
マリーのMiG-29Aを設計したミグ設計局とスホーイ設計局は
ソ連を支えた二大巨頭。
言い方を変えればライバルとなるだけに、
MiG愛好家のマリーの闘志に火がつく
≪了解、ちょうど手が空いたカトラスを向かわせたから
適当にあしらって時間を稼いで。≫
「わかった。ショウ、エンゲージ。」
『マリー、エンゲージ。』
ーーWARNING…WARNING
とは言うものの、敵に横っ腹を見せている俺に
自分がロックオンされた事を警告音が伝えてくる。
「マリー、ロックオンされた。そっちは?」
『何も。このまま敵の上から入る。』
「了解、敵の注意を引く。」
雲に入ってレーダーから姿を消したマリーの位置をイメージし、
マリーに対する敵の注意を引き離す飛び方をしなければならない。
だが俺はまともに正面からはぶつかれない。
向こうは射程の長い特殊兵装で狙えるが、
俺が特殊兵装で積んでいるのは文字通り“特殊”な中継ポッドだ。
何か出来ることと言ったらカールターナーとの
無線通信やデータリンクが安定するくらいで、
それくらいしかできないくせに対艦ミサイル並みに重い。
正直言って邪魔臭い。
しかし、今回の作戦の要である以上は
機関砲弾の1発すら浴びる訳にはいかなかった。
「ミサイル接近、回避する…!」
敵が発射したミサイルを
俺はフレアを放出しながらバレルロールで回避した。
空気を切り裂く音とともにミサイルとすれ違う。
背筋を死神に撫でられるような感覚に思わず身震いする。
アフターバーナー全開で逃げたくなる気持ちを抑えて
背後を取られないよう俺は敵とヘッドオンした。
俺の方はまだ通常ミサイルの射程に入っていないが、
ロックオンしないまま無誘導で1発のミサイルを放った。
「FOX2!」
無論、ハッタリだが、3機の編隊飛行が少し崩れ、
『隙あり。』
その隙をつくように
雲に隠れていたマリーが敵の頭上から襲い掛かり、
敵の1人とドッグファイトに入った。
残りの2機は援護出来る位置を取ろうとマリーの背後を取るが、
さほど狙いもせずに発射されたミサイルを
ひらりひらりと躱してカラスを思わせる漆黒の翼を
翻したマリーはあっという間に
自分の背後についた別の敵の背後を取り返して
ミサイルを1発命中させ、
そのまま敵を追って雲の中へ消えた。
背後を取られた味方を助けようと雲に向かう敵を
今度は俺が狙う。
間合いが一気に狭まり、通常ミサイルの射程に入った。
ロックオンされた事に気がついた敵2人は編隊を解き、
1機は低空に逃げ、もう1機が蛇のように機首を上げるコブラで
俺の背後に回り込もうとする。
しかし俺は回避より攻撃を優先した。
コブラで俺の背後に回った敵機を引っ張ったまま
低空に逃げるもう1機を追いかける。
低空に逃げた敵機は遮蔽物の無い砂漠の上を
右へ左へ旋回を繰り返しながら逃げて行く。
おそらくシザースと呼ばれる
マニューバをやっているつもりらしいが、
俺の機体はカルシアの改造で通常とは比べ物にならないほど
機動性が上がっている。
相手の旋回のタイミングを見てから反応しても
十分に間に合うし、加速と減速の性能も上がっているため、
相手は俺が普通のF/A-18Fと思って格闘戦を
挑んだ時点で不利だ。
しかし、もう1機の敵に背後を取られている俺の
圧倒的不利は変わらない。
唯一の救いは俺と俺が追う敵機が視界の中で重なり過ぎて
まともに撃てないことだろう。
AFOにおいて誤射はかなり減点される上に
回数を重ねるとレッドプレイヤー認定されてしまう。
判断はIMCPと呼ばれる自立管理制御プログラムが
その時の状況やログ、プレイヤーの発言などを基に行うため、
攻略サイトに載せられるほど厳密な判断基準が存在しない。
極端な例えを挙げれば、IMCPの判断次第では
1回の誤射でレッドプレイヤーになる。
それ故に、俺の背後の敵はタイミングを
見定めようと時間を掛けているのだ。
まぁ、あまり時間は無いが。