エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
<討ち取って手柄とせい!>
サムライのような自己紹介に
普段の俺なら鼻で笑うかもしれないが、相手はネームド。
油断はできない。
敵機を2機とも撃墜し終えたアルファ隊も
今の通信を聞いていたようだが、きっと俺と同じような
反応をしていることだろう。
≪ぐわっ!?アルファ5被弾!≫
レーダーとHMDから友軍を表す反応が1つ消えた。
アルファ隊の生き残りは残り1機だけだ。
俺とマリーを合わせても残り3機。
普通なら圧倒的に有利な状況だが、向こうはステルス機だ。
それも機種すら分かっていない。
二つ名を持ったネームドのプレイヤーはそれなりに情報が出回るが、
そういう情報を調べたこともない俺は二つ名を
聞いたところで相手が何を使うのかさっぱり分からない。
≪クソ、思い出した!相手はF-35だ!≫
俺とマリーの編隊に加わったアルファ2が吐き捨てるように叫ぶ。
F-35と言えばF-15相手の空戦で一度も
撃墜されたことがないという超強力な機体だ。
それ故にAFOでもかなりのレア扱いされている。
<にゃはっ!>
雷神が笑った。
次の瞬間、
無数の機関砲弾がF-16Cを操るアルファ2を襲った。
体を斜めに横切るように十数発の砲弾を受けたアルファ2は
断末魔すら上げることなく爆散した。
「逃すかッ!」
猛スピードで急降下して逃げるF-35をマリーが追いかけ始めた。
レーダーに映らないとはいえ幽霊では無い。
目視で捉え続ければ何とかなるはずだ。
それにF-35の最大速度はマッハ1.6で、
俺のF/A-18Fと対して変わらない。
ましてやマリーのMIG-29AはF-35よりも速い。
後に続くように急降下した俺は、早速通常ミサイルで
F-35の背中を捉えた。
「フォックス2!」
すかさずミサイルを発射。
マリーの真横を通り抜けたミサイルは
F-35に当たるように見えたが、
相手もフレアを放出してそれを躱す。
<はははっ!>
笑い声が無線を通して聞こえてくる。
『舐めるなッ!』
マリーも立て続けに通常ミサイルを2発発射するが、
今度はフレアすら使わずにローリングで躱される。
<よーし、それじゃあボクの番だね!>
相手の声に思わず身構えた俺が
向こうの手を潰そうと特殊兵装の4AAMに切り替えた刹那、
<それっ!!>
相手のF-35が垂直に近い角度で上を向き、減速した。
ーー激突する
反射的に左右に別れた俺とマリーを見下ろす形で
やり過ごすF-35のプレイヤーは、
見失うまいと彼女を目で追っていた俺とマリーに
指鉄砲を作って撃つような素振りを見せた。
「チッ!」
相手の完全に舐めた飛び方に完全に頭に血が上っているマリーは
すぐに急減速し、ハイGターンで背後のF-35を追おうとする。
<楽しかったよ!また遊ぼーねーっ!>
しかし、F-35はクルリと向きを変えて
エリア外へ向かって一気に加速して逃げて行った。
そのスピードは確実にマッハ1.6よりも速い。
ゲーム性を維持するために燃料いう概念が無いのを
良いことにマリーと俺はアフターバーナーで後を追うが、
俺はもちろん、マリーですら追いつくどころか
どんどん引き離されている。
『エコー2、それ以上は作戦エリア外だ。帰還せよ。』
AWACSからの無線でようやく諦めが着いたのか、
マリーは軽く舌打ちして引き返してきた。
「ムカつく…!!」
怒鳴り散らすタイプの怒り方をしないマリーは
ロックオンできさえすれば相手が鳥でも
全て撃ち落としてしまいそうなほど顔を真っ赤にして怒っている。
『当空域からの敵勢力排除を確認。
エコー隊は基地へ帰還せよ。』
「エコー1、了解。」『エコー2…、了解。』
基地への道すがらに俺はさっきのF-35が
撃たなかった理由を考えていた。
AFOは戦闘機の擬人化ゲームであるが故に、
機銃は腕に装着される。
つまり、機体が垂直になってもプレイヤーの姿勢は
地面に対して垂直で、言わば”気をつけ“の姿勢になるため、
撃とうと思えば指鉄砲で狙っていたあの一瞬の時間で
俺とマリーを2人とも撃墜できていた。
なのに撃たなかった。
単純に舐められているだけなのかもしれない。
しかし、何かもっと理由がある気がした俺は
さっきの空戦中の会話を何度も思い返してみるが、
一向に納得のいく結論は出ない。
そうこうしているうちに地平線の先にバッテン基地が見えてきた。
思うところは色々あるが、何はともあれ、
AFO最強のクランから守り抜いた基地だ。報酬も弾むだろう。
もしかすると今日のトップニュースに載るかもしれない。
残り時間はあと2分ほどだが、いくらAFO最強でも
残り2分で基地を壊滅させられる訳がない。
<Warning! Warning! Riding through the night!>
歌が聞こえる。
きっと誰かが戦勝祝いに盛り上がっているのだろうが、
オープンチャンネルで無意味に大声を出すのは
マナー違反だ。
<Feel like burning in the artificial sun.Meltdown !>
「こちらエコー1、歌っているのは誰だ?
着陸指示を受けられない。」
<Don't feel your minds meltdown !>
「歌っているのは誰だ?今すぐ止めろ。」
<よう、エコー1。ショウ…だったかなあ?>
どこからか見られている気配を感じた俺は一瞬身構える。
「…誰だ?」
<ふっふっふ…。ふははははははっ!!>
耳に響く気味の悪い笑い声を上げる。
<ショウ君の授業料の取り立てに来ましたァァァァ!
ついでに初回特典の核爆弾もお届けでぇぇぇぇす!!>
オープンチャンネルで放たれたひと単語に
全員が凍り付いた。
核
AFOで最も高額な課金アイテムで、
それを保有するのは最強クラン、マジ卍のクランマスターのみ。
『こちらバッテンタワー、レーダーに反応あり!
巡航ミサイルだ!』
「マズイっ!!」「ダメ!間に合わない!」
すぐさまハイGターンで180度方向を変えようとした矢先に
俺のすぐ真下を超低空で飛ぶ物体が通り抜けた。
基地の防空システムもミサイルや対空砲で迎撃しようとするが、
その弾幕を全て掻い潜って基地の中心に巡航ミサイルが達した。
夜明けの空、南の方角に太陽が生まれた。
「うわっ!!」「くっ!?」
ヘルメットのバイザー越しにもかかわらず
思わず目を覆うほどの爆発が起き、
基地周辺の密林の木々がかなりの範囲でなぎ倒された。
猛烈な衝撃波で全身を揺さぶられ、思わずバランスを崩しかける。
キノコ雲が空高く登る。
『こちらAWACS…。基地が完全に破壊された。
我々に帰る場所はもう無い。』