エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
引き返すといっても車のように一時停止なんて芸当が
できるのはカトラスのようなVTOL機だけなので、
宙返りする以外に方法はない。
しかし、敵機も近づいている今、
峡谷から出るのは出来るだけ避けたい。
そのために俺はまず出来るだけ高度を下げた。
深さ600m程度の峡谷の底は峡谷の至る所から流れ落ちる
滝の水しぶきでさらに視界が悪い。
600mもあるならマリーは今の飛行速度でもハイGターンで
余裕を持って180度回転できるが、
戦闘機では無いF/A-18Fは機動性に欠け、
視界の悪い峡谷ではハイGターンに必要な速度を稼げない。
かといって普通に減速して宙返りすると、
これまた旋回性能に劣る俺は失速して墜落する可能性がある。
ああすればこうなるという面倒な状況だ。どうして
こうも足を引っ張ってばかりなのかと今更ながらに後悔する。
俺がいる限りマリーは一度峡谷から抜け出すまで飛行し続けるか、
敵に捕捉される前提で峡谷から出るかの二択しか無い。
「何か方法が…ハイGターン…急旋回…速力不足…」
『アルファ1、引き返す?』
「通常の速度で急旋回…?」
『は…?何?』
「そうだ…!」
苦肉の策だが、方法がないわけではない。
人間だから、このゲームだからこそできる方法がある!
「引き返すぞ!アルファ2、少しだけ速度を上げるんだ。
俺の合図でハイGターンをしてくれ。」
『わかった。そっちは?』
「お前に迎えに来てもらう。」
『……?』
「ハイGターンしたら腕を伸ばして飛んでくれ。」
『…オッケー』
俺はマリーとの距離を詰めると、
速度をギリギリまで落として機首を斜め上に
傾けた状態での飛行を始めた。
少しでも体勢を崩せば俺の体は揚力を失って
水面か岸壁のどちらかに激突する。
その間に通常の速度で飛ぶマリーはドンドン離れて行く。
『いい?』
「良いぞ!」
合図と同時に霧の向こうで宙返りするマリーの姿が
ボンヤリと見える。
2人の距離はあっという間に近づく。
「俺の腕を掴めっ!!」
俺はすれ違う寸前のところで体を横転させて腕を伸ばした。
無論、こんな低速度で機体を傾ければ機体は揚力を失って
降下するのだが、機体が横転すると同時に
俺の腕はマリーにしっかりと掴まれた。
「ーーっ!!」
経験したことのないGと腕が引きちぎれそうなほどの痛みに
並行して視界は俺の予想通りグルリと回転する。
「放せっ!」
エンジンの出力を上げると同時にそう叫んだ俺の腕は
マリーの腕から離れ、気づけばマリーと同じ方向に飛んでいる。
「…成功か…!?」
『…痛い。お前重すぎ。』
「悪い…、これくらいしか思いつかなくてな…。」
とりあえず成功したようだ。
しかし今の“振り子”で機体にはかなりの負荷がかかったはずだ。
1番は2人とも利き手を使ってしまったが故に起こるであろう
右腕に装着された機銃のトラブルだ。
「機体チェック。」
『チェック…、機銃の照準がズレた。弁償して。』
「ホントにすまん。絶対弁償する。」
予測していただけに返事も即答だが、
俺の方も予想通り機銃にトラブルがある。
『そっちは?』
「機銃に異常はなし。
でもベルトリンクとガイドレールが切れた。
2〜30発しか撃てない。」
『オッケー、それで?さっきの洞窟が何?』
そう、ここでようやくスタート地点だ。
ニヨッテ基地を離陸して30分ほどしか経っていない。
「俺の予想では洞窟を抜けた先に
ジャミング施設があるはずだ。」
『ってことは…』
マリーは何か気づいてしまった風のリアクションをする。
「洞窟に飛び込む。」
『死ねっていうの?』
例によって切れ味の鋭い即答だが、
2人も行く必要は無い。
「飛び込むのは俺だけだ。
洞窟を抜けてジャミング施設を機銃で穴だらけにする。
アルファ2はジャミングが解除されたら対空戦だ。」
『でも機動性じゃ私の方が…』
マリーは俺の機動性のことを気にしているようだが、
AFOはそこまで厳しくは無い。
爆撃機でも使わない限りは大抵の機体が侵入できる程度の
洞窟になっているのが普通のはずだ。
求められるのは繊細な操縦と一瞬で判断する決断力。
「アルファ2は空戦で不可欠だ。
これくらい俺にやらせろ。」
『…わかった。もうすぐ洞窟が見える。』
「了解。」
大見栄を張ったところまでは良かったが、
洞窟は峡谷の流れに対してほぼ90度になっているように見える。
ろくに編隊も組めないこの峡谷の狭さでは
ハイGターンは必須だろう。
「それじゃあ行ってくる。」
マリーを追い越していると彼女は心配そうに
唇を「へ」の字に曲げている。
若干の加速を加え、タイミングを見計らってハイGターンをする。
俺の体は減速とともにスライディングの時のような
傾きかたをして方向を変える。洞窟の入り口が正面にきた。
「やっぱりな。」
俺の予想では正しかった。
洞窟はただの洞窟では無く、おそらくなにかの搬入口という
設定なのだろう。
コンテナ船でも通れそうなほどの広さの洞窟の壁面には
誘導灯が埋め込まれ、暗い洞窟の中で進路を示している。
失った分の速度を取り戻すためにスロットルを上げて
洞窟内に飛び込んだ。