ソードアート・オンライン -ゲシュペンスト- 作:haraita
世界初のVR-MMORPG<<ソードアート・オンライン>>。どこまでも続く世界にプレイヤー達は期待と希望に胸を膨らませた。しかし開発者である茅場晶彦はプレイヤー達に告げる。
これは、ゲームでは無い、と。
ログアウトボタンが消え、ゲーム内での死が現実においても反映される世界で不安と恐怖に押しつぶされる者、現状を受け入れようとする者、そして希望を捨てずグランドクエストである鋼鉄の塔<<アインクラッド>>の攻略に乗り出す者たち。こうして意図せず、あるいは茅場の意図する形で一万人のプレイヤーを閉じ込めた仮想世界は動き出すのだった。
◆
――約一年後、とある階層のとある森の中で、一人の少年がふと目を覚ますところからこの物語は始まる。
◆
―――空だ。
空を見ていた。いつからそうしていたのかはわからない。たった今目を覚ましたのか、あるいはずっと前からこうして雪原に仰向けになり、曇天を意識無く見ていたような気もする。
ここは、どこだ?
少年は体を起こし辺りを見回す。そこは森の中のやや開けた場所だった。木々は雪をかぶり、地面にも土が見えない程に積もっている。
ここは、どこだ?
先程と同じ質問を頭の中で繰り返す。ふと、何かが、足りないような気がした。普段から身につけていて、気にも留めないものをどこかに落としてしまったような――――――
それが、何なのかはすぐにわかった。
「そうか、―――記憶だ、俺には記憶が無いのか」
記憶喪失。
少年はまさしく自分自身がその記憶喪失という状況に置かれているのだと気づいた。しかし、焦ったり、取り乱したりする気は起きない。失ってしまったものの価値を、それが手元に無い現状では確認する術は無かったからだ。
そして、どうやらこの記憶喪失はいささか特殊なもののようだ。自分が誰なのかはわからない、自分がどうゆう人間で、今までどんな風に生きてきたのか、どんな人間達と関わり持ってきたのか、といった事ははどれだけ考えてもまるで最初から無かったかのように思い出せない。
しかし、ここがどこなのかはわかる。
<<SAO>>(ソードアート・オンライン)
茅場晶彦の手によって創られた仮想世界、ゲームの中だ。だが、自分がどのような経緯でこの世界にいるのかはわからない。それなのにここが<<SAO>>と言う名のデスゲームの中だとはっきりわかる。それだけでは無く、この世界における一般的なルールやシステムに関する事はどうやら理解しているような気がする。
視界の左側を注視すると思った通りに自分のステータス画面が展開される。
<<クロード>>
どうやらそれがこのゲーム内での自分の名前ようだ。レベルは77。そこそこ上位のプレイヤーだったようだ。アイテムストレージの中は空で、武器や防具は今装備しているものだけのようだ。しかしどの装備名も知らないもので、わかるのは投擲用の<<ナイフ>>、<<スタン・ナイフ>>、<<ポイズン・ナイフ>>ぐらいだ。
「しかも、全部×99って・・・・ナイフ好きだったのか俺?―――――しかも、極めつけはこれか・・・」
腰の後ろに手を回し、メインウエポンであろう獲物を鞘から抜く。
<<ジャック・ザ・リッパー>>(切り裂きジャック)
それが、この武器の名前のようだ。形状はマチェットのそれで、ナイフと鉈の中間のようなものだ。光沢の無い鈍色の刃には、恐らくデザインであろう血錆が付着している。
「・・・・・」
なんと云うか、お世辞にも趣味が良いとは言えなっかた。とりあえず、軽く振り回してみる。
踏み込みながら前方に突き、
そのまま真一文に払い、
そして瞬時に逆手に持ち替え刃を返すと再び横に薙ぐ。
三工程の一連の動作、しかし他の者からみればだだ一度剣を払ったようにしか映らないだろう。体に染み付いていたような自然に動きと手にしっくりとくるグリップの感触がこの武器がまさしく自分のものだと言う事と、その付き合いの長さを示していた。
武器を鞘に納め、スキルやステータスを確認する、スキルは知識として覚えているものがほとんどだったが、見慣れないものもいくつかあった。見慣れたものの多くは追跡や隠密行動に関するもので、スピードと攻撃力に極振りされたステータスと合わせて考えると暗殺者を彷彿とさせる。また身に着けている黒を基調とした装備もそれを連想させる要因となった。
◆
こうしていても埒は明かない。
「さて、これからどうするか・・・・そうだ、まずは」
フレンドリストをメニューから開く事に試みる。自分でさっぱり自分の事を思い出せない以上、<<クロード>>と云う人物を知っている他の人間に聞くのが最も効果的だと判断したからだ。同じギルドや以前パティーを組んだプレイヤーが記載されているはずで、連絡を取り、会って話を聞けば記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない。フレンドリストの項目を選択するとウィンドウが開く。
『登録フレンド:0』
「・・・・・・・・・は?」
一瞬状況の理解が遅れ、頓狂な声を上げてしまう。衝撃だけなら自分が記憶喪失だと知った時以上だった。<<SAO>>のゲーム体系はMMORPG、つまり複数のプレイヤーが仮想的な空間共有している。ともすれば必然的に人との交流が生まれるし、そもそも、そのプレイヤー同士の交流こそがこのゲーム体系である目的の一つでもある。
「まさか、フレンド一人もいないなんて・・・・・泣きそ・・・」
と、冗談ぽく呟くが、すぐに本物の孤独感と疎外感が襲ってくる。
最初の余裕はもう無く、クロードはただ呆然と立ちつくしかなかった。