魔帝の残した物   作:tango

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魔帝の残した物

中央暦1639年1月24日午前8時――――

クワ・トイネ公国空軍第6戦闘飛行隊 

 

快晴な空が広がる日。三ヶ月前に部隊配備が開始されたばかりのピメント4戦闘機に乗り、パイロットであるマールパティマは公国北東方向の警戒任務についていた。

公国北東方向にはいくつかの島があるだけで、他は何もない。最後に東の調査が行われたのは10年ほど前だが、その時もせいぜい漂流船を見つけたくらいだった。

緊張状態が続く隣国ロウリア王国、そして虎視眈々とこちらを狙う列強パーパルディア皇国への備えのため、そう一ヶ月前に言われてこの任務についたマールパティマは、そろそろこの任務に飽き始めていた。

そんなある日。

 

「………!?」

 

ピメント4の搭載するレーダーに、一つの点が現れる。

 

「これは・・・」

 

自分以外にこの空域を飛ぶ航空機は、今日は一機もいないと聞いていた。しかし、事実レーダーには機影が写っている。

隣国の偵察機だろうか。可能性としてはそれが一番高いが、それならば一つおかしなことがあった。

電波レーダーには確かに機影が写っているが、魔力レーダーには何も写っていないのだ。

これはつまり、レーダーに映った航空機は、魔法を使わず科学技術だけで構成された航空機ということである。

しかし、そのような航空機を保有する国は第三文明圏には存在しない。

 

「どこの国だ?」

 

機影はマイハーク方面へ真っすぐ向かっている。

彼はすぐに通信機を用いて司令部に報告した。

 

『アリーシア1よりHQ。マイハーク方面へ飛行中の国籍不明機を一機確認。現在位置は・・・』

 

報告を行ってからすぐ、司令部より通信が入る。

 

『HQよりアリーシア1。国籍不明機に文明圏共通通信で呼びかけて領空侵犯を警告しろ。反応が無ければ警告射撃を行え』

 

司令部からの命令に従い、彼は不明機に接近すべく機体を旋回させた。

すぐに不明機を目視する。時速600km/h程の速度で飛行しているその航空機は、4つのプロペラを持ち胴体と翼に赤い丸が描かれていた。

彼は不明機に通信を行うが、何度やっても何の反応も示さない。

そのことを司令部に報告すると、次に彼は不明機の後ろにつき警告射撃を行う。

すると、さすがに意図が通じたのか不明機は北東方向に進路を変え、そのまま飛び去っていった。

 

「なんだったんだあれは・・・」

 

国籍不明機を追い返した後、クワ・トイネ公国は近隣国家に対し国籍不明機に関しての問い合わせを行なったが、答えはどれも同じで、そのような航空機は知らないというものだった。

 

 

クワトイネ公国 政治部会

 

国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日、国防大臣から国籍不明の航空機が領空に侵入し、空軍の戦闘機がそれを追い払ったという報告を受けたからである。

直ちに近隣国家に問い合わせを行なったが、帰ってきた答えは皆同じだった。

カナタは発言する。

 

「皆のもの、この報告についてどう考える」

 

情報分析部が手を挙げ、発言する。

 

「戦闘機のパイロットからの報告では、領空侵犯機は魔力レーダーに映らなかったとの事です。魔力レーダーに映らない、すなわち機械のみで構成された航空機を保有するのはムー共和国のみです。そのため、領空侵犯機はムーの航空機である可能性が高いかと思われます。ただ・・・」

 

「ただ、なんだ?」

 

「はい。ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに第八帝国と名乗る新興国家が出現し、付近の国家を次々と侵略しているとの報告があります。諜報部の報告によれば、彼らの使用する航空機は魔力レーダーに映らないそうです。航続距離や空母の保有に関してはまだ情報がありませんが、第八帝国の航空機がここまで来れる可能性は十分にあるでしょう」

 

参加者の一部がわずかなため息を漏らす。もし本当に国籍不明機の正体が第八帝国のものだった場合、クワトイネの仮想敵国がまた一つ増える可能性があるからだ。

 

「しかし、第八帝国は現在レイフォルと戦争状態にあります。強大な空軍を保有する彼の国の哨戒網を抜けてロデニウス大陸周辺に向かうのは、いかに高度な技術を保有していようと困難でしょうし、領空侵犯機が第八帝国の物であるとは考えにくいのです」

 

会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。

ただでさえロウリア王国との緊張状態が続いているのだ。そのような状況下での領空侵犯は、下手をすれば大事になる。

敵意がないならあちらから通信してくるだろうし、それができなくても、クワトイネ国内にいくつかある緊急用滑走路に向かえばいい。

わざわざマイハークへ向かう理由はないはずだ。

 

首脳部が頭を悩ませているその時、政治部会に、外交部の若手幹部が息を切らして入り込んできた。

政治部会中に何の連絡もなく入ってくる。通常ならば考えられない、手続きを全てスルーしてでも伝えなければならない緊急事態が発生したのだろう。

 

「何事か!」

 

外務郷が声を張り上げる。

 

「報告します!」

 

若手幹部が報告を始める。要約すると、下記の内容になる。

 

本日6時42分、公国北部沿岸で空母を含む数隻の国籍不明艦隊を探知した。

沿岸警備隊が臨検を行ったところ、日本という未知の国家の外交官が接触してきた。

調査によって下記の事項が判明した。

・日本という国は、突如としてこの世界に転移してきた。

・元の世界とあらゆる接触が断絶されたため、付近に探索機を派遣していた。またその際、偵察機が公国の領空を侵犯した件については深く謝罪する。

・クワトイネ公国と会談を行いたい。

 

政治部会の誰もが、最初は第八帝国が接触してきたのかと考えた。しかし、報告を聞くと特使は日本という国から来たといっている。

国が転移したなどとにわかには信じがたいことを言っているが、領空侵犯の事を知り、空母を持つということは当事者、またはその関係国である可能性が高い。

少なくとも領空侵犯機に関する何かしらの情報が得られるだろうと考え、まずはその特使に会う事を決定した。

 

 

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