魔帝の残した物 作:tango
中央暦1639年3月22日
日本国が転移し、クワ・トイネと接触してから2ヶ月が経とうとしていた。
この2ヶ月間、クワ・トイネ公国は歴史上前例のない事態の対処に追われることとなった。
国籍不明機の領空侵犯から1週間後、クワ・トイネ公国、その友好国のクイラ王国と正式に国交を結んだ日本は、両国から莫大な量の食料・天然資源を輸入。
その量は両国の想定をはるかに超えていたが、軍も使った大規模な統制によりなんとか必要量の輸出を行なっていた。
天然資源の輸出に関してはクワ・トイネ向け輸出との優先度等で揉めたりもしたが、最終的には日本がより多く対価を払うことで合意した。
そして、日本はこれら資源輸入の対価として技術提供を行った。
たった数十年しか技術差が開いていない相手に対し技術提供を行う危険性は当然議論されたが、日本が必要とする量の食料を輸出可能な国家は現時点ではクワ・トイネ以外になく、またクワ・トイネ側も対価に技術提供を要求してきたため、
軍事に密接に関わる技術はできるだけ省いた上で、段階的な技術提供が行われた。
また、国交締結後すぐ日本に諜報員を送り込んだクワ・トイネは、彼らの常識を覆すいくつもの情報を入手した。
都市を一撃で消滅させる核兵器と、それを運搬する弾道弾。国民の多くが持つコンピューターとスマートフォン、そして、それに使用されている集積回路。
日本から提供された技術と、クワ・トイネの諜報局が入手したこれら情報を見たクワ・トイネ政府首脳は、日本との技術格差は非常に大きなものであると認識し頭を悩ませた。
「恐ろしいな、日本という国は・・・。明らかにミリシアルを超えている。彼らから上手く技術を入手できれば、第三文明圏の覇権を握ることすら可能かもしれん」
クワ・トイネ公国首相カナタは、秘書に語りかける。
日本がもたらす物と、それによる国の発展を彼は見据えていた。
「はっ。しかし、彼らが平和主義で助かりました。法律で軍隊の所持が禁止され、現在保有する以上の軍拡は困難とのことで。彼らの技術で覇を唱えられたらと思うと、ぞっとします」
「そうだな。しかし、彼らが食料・資源の自給能力を持たなくてよかった。このまま技術を発展させていけば、ロウリアも脅威ではなくなるだろう」
カナタは、夕日を見ながら、そう呟いた。
ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城 御前会議
月の綺麗な夜、秋になり、少し涼しくなったこの日の夕方。国土の多くが電化される中で、意図的に松明を使用し続ける城では、薄暗い部屋の中、王の御前でこの国の行く末を決める会議が行われていた。
「ロウリア王、準備はすべて整いました」
白銀の鎧に身を包み、筋肉が鎧の上からでも確認出来るほどのマッチョで黒髭を生やした30代くらいの男が王に跪き、報告する。
彼の名はパタジン、ロウリア王国軍最高司令官である。
「2国を同時に敵に回して、勝てるか?」
威厳を持ち、34代ロウリア王国、大王、ハーク・ロウリア34世はその男に尋ねる。
「我が王国は6年の歳月をかけ侵攻計画を練ってまいりました。亜人を多く抱える国家にこれほどの準備を行なったのです。王国軍の勝利はまず間違い無いでしょう」
「よろしい。宰相よ、1ヶ月ほど前に接触してきた日本という国の情報は集まったか」
日本はロウリア王国にも接触していたが、クワ・トイネ、クイラと国交を結ぶ仮想敵国とみなしたロウリアは、意図的に国交締結を遅らせ続けていた。
「クワ・トイネ公国から北東に約1000kmの所にある新興国家です。技術は我々と同等のようですが、法律で軍の保有を禁止しているそうですので、万一参戦してきても、作戦の障害にはならないと思われます。
また、奴らはクワ・トイネから莫大な量の食料を輸入しています。クワ・トイネを占領すれば有利な条件で交渉できるでしょう。」
「そうか・・・。しかし、ついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人どもが一人残さず根絶やしにされると思うと、私は嬉しいぞ」
「大王様、統一の暁にはあの約束もお忘れ無く・・・」
真っ黒のローブをかぶった男が王に向かってささやく。
「解っておるわ!」
王は、怒気をはらんだ声で言い返す。
(ちっ、3大文明圏外の小国と思ってバカにしおって。ロデニウスを統一したら、フィルアデス大陸にも攻め込んでやるわ)
「将軍、侵攻作戦の概要を説明せよ」
「はっ!説明致します。今回の作戦用総兵力は45万人。クワトイネ方面に30万人、クイラ方面に10万人を差し向け、残りは本土防衛用兵力となります。
クワ・トイネ方面は、まず最初に国境から近い人口10万人の都市、ギムを占領します。
ギム制圧後、新設した自動車化部隊を首都クワ・トイネに向かわせさせ、海軍の支援を受けつつ一気に制圧します。
残った歩兵中心の本隊は、部隊を3つに分け各重要拠点を占領させます。
また、本土の飛行場から発進した空軍部隊でにこれら攻撃の支援、ならびに制空権の確保を行わせます。
地上での侵攻と平行して、海からは5万の兵をマイハーク北岸に上陸させ、交易の中心地マイハーク市を占領します」
「次に、クワ・トイネ軍の兵力ですが、かの国の軍は15万人程度で、兵士には亜人も混じっています。諜報部の報告では彼らは国土全域に分散しているとのことですので、地上侵攻軍25万を止められる力はないかと思われます。
6年間の準備が実を結ぶことでしょう。」
「そうか・・・ふっふっふ、はっはっはっはあーっはっはっは!今宵は我が人生で一番良い日だ!!余は、クワ・トイネ、クイラに対する戦争を許可する!!」
「「国王万歳!ロウリア万歳!」」
王城は喧噪に包まれた。
クワトイネ公国日本大使館
「と言うわけで、ロウリア王国との戦争が始まれば、貴国に対しての食料品の輸出が出来ません」
クワ・トイネ、ロウリア間の国境にて、ロウリア王国の兵力が集結するのを見たクワ・トイネは、戦争が近いと判断し、日本大使館に説明に来ていた。
外務省キャリアの田中は、その言葉を聞いて絶句する。
突然の国ごとの転移、地球から遮断され、外務省に科せられた使命、それは国民を飢えさせないことだった。
大穀倉地帯で、肥沃な土地を持つクワトイネ公国と友好関係を結べ、かつ日本国民に必要量の食料が確保出来たのは、まさに奇跡であった。
さらに、日本の幸運は続く、クイラ王国、日本で必要な資源はほぼこの一国でまかなえるほどの埋蔵量が確認されている。資源の面でも、日本にとっては奇跡的に転移後いきなり解決できた。
対価として少なくない技術を提供することになったが、それでも国民生活を維持することはできる。
それが、ここに来ていきなり、絶対に守らなければならない食料の輸入が途絶える可能性がある事を知らされる。
もしも、クワトイネからの輸入が途絶えたら、国民に1年以内で1000万人以上の餓死者が出る。
「なんとかなりませんか?我が国は、輸入が途絶えると非常に困るのです」
「我が国としても心苦しいのですが、ロウリア王国の軍事力は強大です。彼らは国境に数十万の大兵力を集結させており、今もその数は増えています。我が国も対策を練ってはいるのですが、戦争が始れば、都市を何個か放棄しなければならない可能性が高いと考えられており、その状況下で流通を確保し続ける事は、非常に困難です」
「援軍があると助かるのですが・・・」
「日本国は、武力による紛争の放棄が憲法にあります。軍事的支援は・・・。」
「では、残念ですが有事の際は食料輸出は行えなくなる可能性が高い。あなた方の国内問題に口を出すつもりはありません」
憲法を守って1000万人の餓死者を出すか、憲法を超拡大解釈して、国民及びクワトイネ公国を危機から救うのか。
日本大使館への食料輸出に関する勧告後、3週間というスピードで、日本国は戦後初の海外派兵を決定することになる。
中央暦1639年4月11日午前 ロウリア・クワトイネ国境付近
ロウリア王国軍クワ・トイネ侵攻部隊 前線司令部
クワ・トイネ公国外務部から、何度も国境から兵を引くよう警告があった。
すべてを無視する。
クワトイネへの侵攻は、もう決定しているのだ。
「明日、ギムを落とすぞ」
ロウリア軍中将パンドールは、クワ・トイネ侵攻の先遣隊約10万の指揮官の任を与えられていた。
部隊は歩兵を主力とするものの、最新の戦車を100両程装備していた。
たった10両で防衛線を崩壊させる強力な兵器、それの最新型が100両もある。
パンドールは、満面の笑みを浮かべ部隊を見渡していた。
戦車は高価な兵器であるが、近隣諸国を併合したロウリア王国の国力を用いれば、最新型でも数を揃えられる。
「ギムでの戦利品はいかがしましょうか?」
副将のアデムが話しかける。彼は冷酷な指揮官であり、ロウリア王国が領地拡大のために他の小国を統合した時代、占領地で行われた数々の残虐行為は、語るに耐えない。
「亜人は王の命令に従い本国へ送れ、市民と捕虜の扱いは国際法に従え。財産に関しては任せる」
「了解いたしました」
アデムは将軍に一礼すると、後ろを振り返り、すぐさま部下に命じる。
「ギムを占領したら亜人を全員集めろ、他の市民や捕虜は条約に従って扱え。市民の財産に関しては好きにせよと、全軍に伝えろ」
「はっ!」
アデムの部下は、すぐさま天幕を出ようとする。
「いや、待て!」
アデムに呼び止められる。
「抵抗する市民・兵士をどう扱っても自由だとも伝えろ。それと、投降した兵に下士官がいたら連れてこい」
「ははっ!、承知いたしました」