蒼い薔薇という少女
2038年。科学の技術が10年、20年前とは比べ物にならないくらいに進歩した世界でその少女は生を受けた。
フルローズナ・フレス・ディヴァイニスと名付けられたその少女は、理由は不明ながら目が覚めるくらい蒼い髪をしており、両親であるサルドリーザ・ディヴァイニスと、ルヴィング・ディヴァイニスは少し驚くものの、その少女をローナと呼び、大きな愛を持って育てた。
フルローズナ。ブルーローズと語感を似せ、作られた言葉だ。蒼いバラには神の祝福という花言葉がある。蒼い髪をもって生まれてきたことを神の祝福と考え、願わくは、その歩む人生にも神の祝福があらんことを、と名付けられたものである。
2040年にはローナの妹、マリー・ルロ・ディバイニスも生まれる。
家は裕福でも貧乏でもなかったが、父親であるリーザはフェンリル社という生物化学、生物工学系の製薬会社の一企業に勤めており、そこで研究者をしていた。幼いローナは研究者という職業をよく理解していなかったが、いろんな人の役にたつため頑張っているんだよ、とリーザに言われると父親の仕事に対して誇りを持つようになり、将来は自分もフェンリルに、と思い、その分野の勉強を積極的にするようになっていった。
2050年、マリーを除く、ディヴァイニス一家はローナの14歳の誕生日を記念して、ニュージーランドに旅行に来ていた。南極から流れてきた流氷を見たい、というローナの希望だ。もちろんマリーも行きたがったのだが、その日はちょうど小学校の修学旅行。旅行の日程はリーザの仕事の都合上どうしてもずらせなかったため、マリーは結局行かないことになった。相当に悔しがっていたがどうせマリーの修学旅行も外国だというのに。確かジャパンとかいったか。
地球温暖化が進み流氷は希少な存在となっているのだが、その年は輪をかけて気温が高く、それ以降の年平均気温は低くなる見込みがないという。
今年を逃すと南極の流氷が見られないかもしれないと両親に無理を言い、ニュージーランドを訪れたというわけだ。最も、海外旅行も科学の進歩でハードルが下がっているのだが。そうでなければ誕生日というだけでフィンランドからニュージーランドまで旅行ができるわけがない。
「うぁ、寒っ」
流氷を見るのが目的なので冬のニュージーランドを訪れた。温暖化が進んでいるとはいえ冬のニュージーランドが寒いというのは分かっていたのだが外に出た瞬間思わず口に出た。
「おぉ、た、確かに寒いね」
「あら、確かに寒いですね~」
そう言ってローナの後をついてくる形で外に出てきたのが両親のリーザことサルドリーザとルヴィことルヴィングである。
ルヴィはあらあら、と言わんばかりの困ったような顔をして言ったが、リーザは明らかに歯の根が噛み合っていない。
「……お父さん、ホントにフィンランド人?」
思わずローナがそう聞いてしまったほどの寒がりようだ。
「ん、な、失敬な! 私はれっきとしたフィンランド人だよ?」
「それなら良いんだけど」
別に張り合うつもりはないので引き下がるが、リーザの方は凍え死ぬぅ、などと言っている。それを見てローナは吹き出しそうになったが、どうにか堪えた。
「ホテル、チェックインしに行こっか。お父さんが死にそうだよ」
「そうねぇ~。お父さん死んじゃったら困りますし~」
空港の前なので、タクシーはいくらでも拾えた。タクシーに乗った瞬間のリーザの露骨な『生き返った』という表情を見てローナはまた吹き出しそうになる。
「で、チェックインした後はどうするんだい?」
すっかり元通りのリーザがローナに尋ねる。
「うん、私はすぐ流氷見に行っちゃうつも……お父さんはホテルで待ってなよ、一人で大丈夫だから」
流氷を見に行くと言った瞬間のリーザの顔を見てそう付け加えるローナ。普段ならそんな危ないことを、と止めるリーザだが、よほど寒かったのかうーん、そうかい? なら気を付けるんだよ、とローナの一人での行動を認めた。
「お嬢ちゃん、流氷見に行くのかい? それなら今チャンスだよー、なんでも相当でっかいのがオマルの近くの海岸にあるらしい。お嬢ちゃんたちはウェリントンのホテルに泊まるみたいだけど、このホテルもでっかいホテルだからね、オマルまでの『間廊』もあるさ」
タクシーの運転手がそんな情報を教えてくれた。ちなみに『間廊』というのは空間回廊の略で、近年確立された技術である。
高エネルギーで開かれるトポロジーを通ることにより、目的地と目的地の間の距離が近くなる、ということらしいのだが、それを確立した技術者が故人なので詳しい理論は分かっていない。理論が分かっていないようなものを使うのは危ないだろうという意見もあるが、事故は起こっておらず、しかもとてつもなく高い利便性があるので、あまり大きな声でないのが実情だ。海外旅行のハードルが下がったのもこれが主な要因である。しかしなかなかに大きな設備が必要なのでどこにでもあるものではないのがほぼ唯一の欠点だ。
「流氷が近づいてるんですか? 良い情報ありがとうございます」
「なーに、良いってことよっと、着いたな」
リーザが支払いを済ませ、タクシーから出てくるとやはり歯の根が噛み合っていない。コンマ数秒以下の時間で寒さを感じることができる感覚神経はある意味凄いとローナは思う。
チェックインを済ませ、26階の部屋に荷物を置くと、さっそくホテルの従業員に『間廊』の場所を尋ねる。
案内図があるのでそちらを参考にどうぞということだったので、案内図を見る。地下にあるようだ。
「もうすぐ南極の流氷が見られる……!」
期待を胸に秘め、ローナは『間廊』に入っていった。
二次創作処女作です。なにとぞ暖かい目で見守っていただけるとありがたいです。