海岸までは『間廊』を抜け、歩いて十分ほど。そう看板には書いてあった。しかし到着までに十分間も歩くのがもどかしく、少し早歩きで歩いた。
「うぁぁ……」
感嘆の声が漏れた。見た瞬間、誕生日であること、これを逃せば今生見れないかもしれないことを主な理由とし、挙げ句父の秘蔵のパイプを折る云々と脅してまではるばる見に来て、本当に良かったと心から思った。
流氷は
さて、どのくらいの大きさかな、ローナが流氷に沿って海岸を歩いていると、流氷に階段がついていた。もしや、と思い探してみると、あった。流氷まで行けるボート。どうやら水夫らしき人が漕いでくれるようだ。値段は5ドル。『流氷まで行けるボート』の相場価格なんて知らないが、高い買い物ではないと思い、乗ることにした。
海風が興奮して火照った顔に気持ちいい。
「おや? お嬢ちゃん一人かい?」
肌が焼けた水夫がローナに尋ねてきた。
「はい。フィンランドから来たんですけど、父がすごく寒がっちゃって……」
「ははは! それは面白い! フィンランドの人なのに寒さが苦手なのかい?」
「はい。私も思わず笑っちゃいそうでした」
「笑っちゃっていいと思うぜ? だって面白れぇもん。面白かったら笑う。っていうかいつでもニコニコ。幸せの秘訣だぜ?」
とても朗らかな性格のようだ。いい感じの人だな、とローナは思う。
「にしても運が良いねぇ、お嬢ちゃん。今はこうやって錨で繋がれてるけど明日には錨外して流しちまうことになってたんだ」
「え!? そうなんですか?」
「おうよ。流氷っつってもいつまでも人間が占領しとくわけにゃいかねぇのさ。ここまで大きな流氷だと特にな」
なるほど、流氷が生物の住みか、とまではいかなくても何か生物の休息地点になるということも考えられるのだろう、と思った。
「まぁ、外しちまう要因は環境問題云々より金の方だろうけどな、錨何本か、でもそれなりにかかるんだろうよ、なんつってるうちに着いたぜー。流氷の上から見る夕焼けがオススメだから良かったら見てくといいぜ」
「はい、ありがとうございました!」
夕焼け、といわれても今は何時なんだろうと、ローナは時計を見た。時計は5時45分を指している。なんだ夕焼けなんて待てないや、一回ホテルに戻ってからかな、と思ったところで、あれ、と思う。5時45分でこの太陽の高さはおかしい。うーん、と首をかしげるまでもなくわかった。この時計はフィンランドの時間だ。フィンランドのタイムゾーンは標準時+二時間で、たしかニュージーランドのタイムゾーンは標準時+十二時間だったはずなので時差は十時間と考えていいはず。ならこの5時45分は、15時45分ということになる。冬の短い太陽ならあと少しで日の入りを迎えるはずだ、と考え直し留まることにした。
と、言ってもただ居るだけなのは暇なので、流氷の上を散策することにした。
こうして上に登って見てみると、とても広い。500メートル四方はあるんじゃないかと思う。
滑らないように歩きながらふちに寄ってみると、砂浜とはまた違った波の寄せ返しの音が聞こえて少し嬉しい気持ちになる。満足いくまで海の音を聞いた後、ローナは流氷の中心(目測で判断したものだ)を目指すことにした。途中一回転んだ。
やっと着いた、と足元に目をやってみるとギョっとした。
足元数センチ先で、アメーバ状の何かが蠢いていた。