GOD EATER ~神の祝福~   作:ツレの人

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すべて始まり

「はぁ~、ただいま~」

 

 いの一番にローナが家に入り、その後を追う形でルヴィとリーザも家に入る。

 ただいま、と言っても、家に住んでいる四人が四人、全員が旅行で留守にしていたので--まぁ、一人は現在進行形で留守にしているが--とにかく、おかえり、と返す声はない。もしあったらあったで即座に112をプッシュするはめになるのだが。

 

「やっぱり家が一番だねー」

「そうねー」

「ちょっと。くつろぐのは、汚れものを出したり、身の回り整えてからにしようよ」

 

 上着を脱ぐが早いがくつろぎだそうとするリーザとルヴィ。それをたしなめるローナ。こなれている辺り、これが日常茶飯なのかもしれない。

 

「さて、とりあえずコートをかけて……ん?」

 

 コートをかけようとしたローナの動きが止まった。

 

「あら~? ローナ、どうしたの~?」

「いや、私のコートになにか変なものが……」

「……コートに変なもの? 虫でも付いてたかい?」

「いや、一部の国ではムシって呼ばれていたけど正確には虫じゃないもの」

 

 リーザの質問はほぼ正解だった。

 

「うーん……アメーバかい?」

 正解だ。過去、アメーバは日本でムシの名がついていた。

 

「正解……なんだけど……なんだろうこれ……」

「なになに、正解じゃないならそう言ってくれると嬉しいんだが」

 

 ローナの奥歯に物の挟まったような物言いが気になり、ローナが持っていたコートをリーザが覗きこむ。

 

「え!? これは……」

 

ローナのコートに付いていたモノを見てリーザも驚く。

そう。アメーバであることは確かだ。不定形のグネグネした単細胞生物だ。アメーバ状の生物、まぁアメーバというしかない。

しかしアメーバのサイズがおかしい。

アメーバというのは通常10~100マイクロメートルほどで、大きなものでも1ミリメートルを超えるかどうか、というものだ。しかし目の前のアメーバ状の生物はどう小さく見積もっても数センチメートルはある。

 

「なに……これ……?」

「分からない……けど、そうだね、明日会社に行けば分かるかもしれないね」

「……私も行っていい?」

 

アメーバの変種だとしたらそれはあまり大きな発見ではないのかもしれないがそれでも新種だとしたらローナは新種の発見者になるはずだ。もしかしたら生物の命名という体験が出来るかもしれない。

 

「うーん。私としてはいいんけどね。明日ローナは学校じゃないかい?」

「あ、じゃあ無理……じゃないよ、明日、土曜日だもん。午後からなら行けるよ」

「あぁ、なるほど。フェンリル社だ。一人で来れるよね?」

「もちろん。あそこのデータベースにはお世話になったし」

 

 ローナが生物学者を目指しているというのは前述の通りだが、フェンリル社は遺伝子工学系の会社ということで、遺伝子に関するデータはもちろん、生物学全般に関するデータを豊富に所持していたのだ。ローナは小さい頃からリーザに連れられ、一般公開されているフェンリル社の生物学に関するデータを見てきた。データにアクセスするための端末はフェンリル社の敷地内にしか存在しないため、必然的にフェンリル本社を訪れることとなる。

 要するに、フェンリル社はローナにとって、小さい頃から通慣れた場所、ということだ。

 

「じゃあ明日、午後2時くらいに」

「ん、わかった」

 

◇◇◇

 

「考えてみたら結構久しぶりだなぁ、フェンリル社来るの」

 

 バスを降り、フェンリルの建物を見上げ、しみじみと呟いているのはローナだ。

 小さい頃はよく来ていたが、大きくなり、インターネットの使用を親から許可されると、あまりフェンリル社に顔を出さなくなった。父親の忘れ物を届けに行くときなどには来るのだが、リーザも最近忘れ物をあまりしなかった。そのため来るのはほぼ半年ぶりだ。

 とりあえず建物に入る。瞬間違和感を感じた。少し眉をひそめ周りを見回し、違和感を洗い出す。

 人が多いような気がする。それに騒がしい、というか慌ただしい気がする。来てはいけなかったような気もするがとりあえず受付に向かう。

 

「すみません、サルドリーザ・ディバイニスの娘の――」

「フルローズナ・フレス・ディバイニス様ですね!? お待ちしておりました! こちらへどうぞ!」

「え、あ、はい……」

 

 エクスクラメーションマーク標準装備の若干嬉々とした様子で迎えられ若干戸惑うが、ともかく案内に従う。

 しばらく歩いていくと待機室のような場所へ案内され「ここで少々お待ちください」と言われ一人残される。

 

「えーっと……?」

 

 何をできるわけでもないので手持ちぶさたではあるが動きがあるのを待つ。調度品やソファーはかなり質の良いもので纏まっている。私服で来たことを若干後悔するレベルだ。

 

「もうちょっとちゃんとした服着てくれば良かったか――」

 その時ガチャン、という音と共に扉が開いた。慌ただしい足音が一つ入ってくる。

 

「ローナかい?」

「あ、お父さん」

「ローナ、君は凄い、まさしく世紀の発見をしたよ!」

 

 ローナの顔に唾を飛ばさんごときの勢いでまくし立てる。

 

「……あの、えーっと。来たらいきなりこの部屋に通されて、実は状況が分かってないんだけど」

「あぁ、ごめん。そうだね、道すがら話すよ。おいで」

 

 そういってリーザが先行し、部屋を出る。それにローナも倣いついていく。

 

「で、どういうことなの?」

「うん、ローナが見つけた、あのアメーバだけどね、単細胞生物群体だということが分かったんだ」

 

 単細胞生物群体とは読んで字のごとく単細胞生物が群体を形成してなりたっている生物のことである。

 

「単細胞生物群体って、あのカツオノエボシみたいな? でもそれだけだったらそんなに騒がれることでもないんじゃない? 単なる新種っていうだけで。というか定数群体? 結局アメーバ状のなにかだったけど藻?」

「いや、単なる単細胞生物群体。藻じゃない。というか単細胞生物群体であることも大したことじゃないんだ。重要なのはその細胞のもつ性質でね」

「で、その性質っていうのは?」

「捕食を行う細胞なんだ」

「……ん? 単細胞生物も捕食くらいするよね?」

 

 オオタイヨウチュウなどがそのいい例である。

 

「うん、そうだね。それだけならそんな反応をされても仕方がない。でもそうじゃないんだ、あの細胞は本当に様々なものを捕食した。有機物のほとんど全てに限らず、無機物まで。それも強毒性の物質や放射性廃棄物なんかも捕食することが確認された。ペソ毒素を捕食させた細胞から毒性及び毒素は、放射性廃棄物を捕食した細胞からは放射線は出ていない、どういうことかわかるよね?」

 

 それは……どういうことだろう。理解はできる。それに父が言うのだし嘘ではないのだろう。しかし放射性廃棄物や強毒性物質をも捕食するということは、今現在廃棄法が確立されていない放射性廃棄物の廃棄、その他も爆発物の廃棄などを安全に行うことが可能になる。その経済効果は計り知れないだろう。ただでさえ今の世の中はゴミが大きな問題になっている。ゴミ問題は数十年前から叫ばれていたが、これといった解決策は存在しなかった。マスドライバーを作成し宇宙に放るという案、《間廊》に捨てるという案、色々な考えが出されたが長期的に考えるとデメリットが大きすぎるということでボツになり、結局良い解決策は生まれず、ゴミだけが増え続ける。

 しかし、それを捕食する細胞が発見された。そしてその細胞の権利をフェンリル社が独占したら。フェンリル社にもたらされる利益はどれほどになるだろうか。

 

「さて、着いたよ」

「んーと、ここは?」

「社長室だよ。プレジデントがローナに会いたいと言っていてね」

「え!?」

 

 そう聞いてすぐに服のちょっとした乱れを直しはじめる。もう少し早めに言ってくれればと思う。

 

「あぁ、そんなに硬くならなくても大丈夫。気さくな人だからね。緊張することもないよ」

「う、うん」

 

 その返事を聞いてリーザが社長室の扉をノックする。

 

「失礼いたします」

「どうぞ、入ってくれたまえ」

 

 ガチャ、と扉を開けリーザが入り、そのあとをローナが続く。

 

「こんにちは、君がローナ君なのかね?」

「はい、えーっと……」

「ダグスヴェラ・フレキ・フェンリス。ダグス、もしくはプレジデントとでも呼んでくれたまえ」

「あ、はい、じゃあダグスさんと呼ばせていただきます。私はフルローナ・フレス・ディバイニスと申します」

 

 プレジデント、というのはフェンリルに勤めているわけではないローナにとっては少し呼びにくい。

 50歳くらいだろうか。初対面なので詳しくは分からないが悪い印象は一切持たなかった。

 

「ふむ、ご丁寧にありがとう。ではいきなりで申し訳ないけれど本題に入らせていただくよ。リーザ君、持ってきてくれているかね?」

「えぇ、こちらに」

 

 そういってリーザが手に持っていた袋から容器をテーブルの上に置いた。中は水で満たされ、その水にアメーバ状の生物が浮いている。

 

「この細胞についてはサルドリーザ君から聞いているかな?」

「はい、有機物、無機物問わず捕食する細胞だと聞きましたが」

「うむ、その認識で間違っていないよ。この細胞は我が社にとってどころか世界にとって福音になりうる。その細胞を発見したのは君だ。君に細胞の命名をお願いしたいのだよ」

 

 細胞の命名。予想していなかったわけではないが、いざ問われるとやはり難しい。

 ダグスはこの細胞を福音と呼んでいた。福音、エヴァンジェル、エヴァンジェル細胞。少し違う気がする。

 しかし、その路線は良いかもしれない。この細胞は神の送り物であると考えてみれば。少し傲慢だがこの世界を良いものにしろという天啓、神託。オラクルだとしたら。

 

「……オラクル細胞」

「ん?」

「オラクル細胞。少し傲慢かもしれませんが、人間に対して、世界をさらに良いものにせよという天啓、神託だと考えてみました。それでオラクル細胞です」

「なるほど、オラクル細胞か……。私は好きですね、その名前」

 

 リーザが同意の意をしめす。

 

「ふむ、君の可愛い娘さんは良いネーミングセンスをお持ちだね。オラクル細胞か。よし。それで申請を行おう」

 

 本当に通った。自分が考えた名前が新しい生物の名前になった。

 この時、オラクル細胞持つの捕食の性質は人間が制御、抑制可能なものだと思われていた。目先の利益が大きすぎて本質に気がつくことが出来ない。

 後に世界を滅ぼし、また人類の命綱となる細胞。後の世界で最も憎悪を受け、世界で最も必要とされる細胞。

 オラクル細胞の誕生である。

 




この時点でフェンリルという名前だったのかは不明ですが、他の名前を考えるのがめんどくさかったのでフェンリル社ということにしておきます。
あと、生物学的知識についてはあやふや、というか分からないので適当に知ってるワードを羅列しています。どうぞご指摘ください。

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