色々原作物語 作:わわわわ
今では夢に向かって頑張る天然不思議系ラスボス風お姉さんです。
小さな頃から星空が好きだった。
田んぼや畑に囲まれた田舎で月の明かりだけが頼りの暗闇の中、どれだけ離れているのか、想像もつかない程の距離があるというのに、その輝きを夜道に佇む私に見せつける。激しい自己主張をする訳でもなく、ただ、上を見上げれば目に映る、変わらぬ輝きを放つ星が堪らなく私を魅了する。
普通は暗闇を恐れるのが幼子だと言うのに、小さな私は夜みんなが寝ている隙に家を抜け出し、周りに何もないあぜ道でじっと空を見上げていたらしい。
そしてそれは今でも変わらない。性懲りも無く私は今日も昨日と同じように、何もない道の真ん中で空を見上げている。
変わった事といえば、満天の星空の下で歌を歌うようになった。歌うのは一曲だけで数分という短い時間。けれどもその間は、夜空に燦々と煌く星の一部になれたように感じられ、毎日の日課となっている。
アメージング・グレイス
何と美しい響きだろうか
星が放つ光の美しさに私が惹きつけられたように、テレビで一度流れた歌声に一瞬で引き込まれた。
全身に鳥肌が立ち、心臓がドキドキと激しく鳴り響く。微かな息遣いすらも、曲の邪魔をしてはいけないと呼吸を止めていた。母が好きな歌手が出るとのことで、ビデオに録画されていたその歌を何度も何度も繰り返して聴き、歌詞を覚えた。
当時小学生だった私には、歌詞の意味なんてわからなかったけど、そんなのはどうでもよかった。ただ、歌の美しさと、歌っていた女性がきらきらと、まるで星のように輝いて見えた事が重要だった。
あの頃から私は少しでも星に近づけたのだろうか?
伴奏は風に踊る木々と虫の鳴き声。
観客は夜空の星々だけ。
満天の星空の下で歌う私は、輝いているのだろうか?
星は何も言ってはくれない。
昔はこれだけで満足していたのに、今では物足りなくなっている。
たった一人だけ、私の歌を聴いた人がいる。歌い終えた後、その子から貰った拍手と称賛の声は、今でも胸の中で燻り続け、駆り立てる。
だけど、閉鎖された世界から飛び出す勇気は、私には無くて、妥協した毎日を送り続けている。
「星、遠いなぁ」
ゆらゆらと力なく腕を伸ばす。その腕の先にあるのは一際強い光を放つ一等星。今の私じゃあ届かないのはわかっている。けど、あの場所まで行きたいという思いは、日を追うごとに強くなっている。太陽に憧れたイカロスは蝋で翼を作り飛んだ。星に憧れた私は何で翼を作ればいいのだろうか?
星は何も言ってはくれない。
水面へと顔を出した気泡が数瞬の停滞のうちに、パチリと弾ける。今日の目覚めはそんな感じだった。
目覚めの波紋が体中に走り肌が波打つ。それを止めるために腕を前に出して、うんっと伸びをした。その体勢のまま、あふっ、と小さくあくびをすれば、表面を覆っている眠気、その中に沈殿していた意識が顔を出す。小さな頃から続けてきた、体に染み付いている目覚めのルーチンワークだ。
壁に掛かっている時計を見てみると、どうやら三時間も寝てしまっていた。
幸い私の出番までには、まだ少し時間がある。
「おはようございます」
声のした方へ顔を向けると、淡い黄緑色のドレスに身を包まれた、妖精かと見紛うほどの綺麗な女性がいた。
名前は高垣楓。私の記憶が確かなら、私の出番の三つ前が楓さんだったはずだ。
「うふふっ、ライブ中に居眠りするほど剛胆なのに、起きたあとの仕草は随分とナイーブですね」
「別に、小さい頃からの癖なだけ」
「通りで、仕草に幼さが出てましたよ」
ナイーブ。どちらかというと悪い意味に取られることが多いが、繊細や純粋といった意味があった筈だ。
それを瞬時に考え出し、スラスラと言葉を紡げるのは本当に凄いと思う、頭を使うベクトルが駄洒落じゃなければ、だが。
「空、晴れてた?」
「はい。今日の月は綺麗でしたよ。ムーンざりするほどに」
それは良かった。昼間は曇りだったから心配だったけど、晴れてくれたのなら問題ない。
それにしても。
「楓さん、上機嫌ね」
「ええ、それは…もう。ワクワクするステージでした」
「そう、なら私も私の仕事をするわ」
「ふふっ、ワークワクしてきて下さい」
彼女に釣られて私までくだらないことを言ってしまった。寝起きの所為にしたいけど、ソワソワと落ち着いてくれない心が否定する。
今の気持ちを表すなら、高揚といった表現が最も適切だろう。らしくもない冗談を言ってしまったのも、そのせいだ。
懐かしい夢を見たせいだろうか、自分でも驚くくらいにやる気が出ている。
ああ、今日はいつも以上のパフォーマンスができる。そんな自信が体の奥底、根源とでも言うべき場所から湧き上がってくる。
まるで、自分の体じゃないみたいに心臓が跳ねて、心がはしゃいでる。世間からの評価では、表情があまり変わらなく、クールで、大人の余裕があるみたいに見えるらしいけど、本当はそんなのじゃない。ちょっと天然が入っているって書かれたけど、そんな事実もない。
いつだって私は上を目指している。表情は変わらないかもしれないけど、きらきら光る夜空の星に焦がれてる。
小さい頃からの夢で、憧れで、目指している場所なんだ。
だから早くステージに立ちたいんだ。
だから早く夜空の下で歌いたいんだ。
夜空に佇む星のようになりたいんだ。
「大空さん、そろそろ出番です」
プロデューサーに呼ばれた。
体が少し強張る。
そろそろ出番か。もう少しでライブか。もう直ぐステージに上がるのか。あとちょっとで歌うのか。あとちょっとで輝くのか。もう直ぐ煌めくのか。もう少しで星に届くのかな。そろそろ近づいたかな。まだまだ星には遠いかな。どれくらい先なのかな?
………辿り着けるだろうか?
「星凪さん?」
いけない、またどこかへ飛んでいたようだ。
いつまでたっても慣れないこの感覚、ぐちゃぐちゃになった頭と心。期待と不安、高揚と低迷、ポジティブとネガティヴ。相反する二つの感情が混じり合い、私の心を雲が遮り全容を隠す。
それを俯瞰する私。
ちらほらと雲が途切れ光が差すが、底まで届かない。
「ああ、空が見たい」
うんざりするほど明るい月の側で、儚い光を放つ星を想うと笑みが浮かぶ。
ライブ前の楽しみだけど不安で、興奮するけど緊張して、自分でもよくわからない感情になるのはいつもの事、好きな歌を歌えば直ぐに落ち着く。
待機室の中で一人のときだけ歌うからか、私が歌うアメイジンググレイスは幻の歌と言われているらしい。
人伝てに聞いた話だから、浸透しているかどうかはわからない。
「ふふっ、星凪さん笑ってます」
「今、気分がいいから」
そう、気分がいい。
だから、久し振りに人前で歌ってもいいかもしれない。
人前で歌ったのは幼い頃に出会った少女と、最初のステージだけ。
待機室の前で、誰かが聞いていたときがあったかもしれないが、それは数に入らない。
幸い今日は歌う前に、ちょっと喋らないといけなかった筈だから、丁度いい。
喋るのがどちらかと言うと苦手な私に、MC…MC?を務めさせるプロデューサーを恨んだけれど、今は感謝している。
「楓さん」
「はい」
「私、ワークワクしてきますね」
呆気にとられた楓さんの顔はすごいレアだと思う。
私が微笑みながらウインクする姿もレアだと思う。
そのまま振り返らずに部屋を出る。扉が閉まる直前に楓さんの激励が聞こえた。
返事としてではないが、鼻歌を歌いながら通路を歩く。曲はもちろんアメイジンググレイス。
忙しそうにしている舞台裏の人達が、手を止めて驚いている様が楽しい。いつもなら最後に一礼していくのだが、今日は歩みと歌を止めたくないので、手を振るだけで許してほしい。
不安はまだある。星は遠くて、いつ辿り着けるかわからない。辿り着いた証明もできないから、自己で判断するしかなく、結局のところは自己満足にしかならない。
けど、それでも上を向く。
だって小さい頃からの夢だから。
舞台裏に辿り着いても足を止めず、ステージを目指す。
私の様子がおかしい事に気付いたプロデューサーが、駆け寄ってきたがそれでも足を止めなかった。
ただ一言、あの歌を歌う事だけ伝えた。
この時の私は非常にふわふわしていたのだろう。
追いすがってきたプロデューサーの言葉を、聞いたふりをして右から左へ受け流し、たった今ステージを終え、舞台から降りてきた奏ちゃんの頭を撫で、そのままステージに突入していた。ともすれば、何らかの魔法がかかっていたのかもしれない。そう思えるほどに私は浮き足立っていた。
その魔法が途切れ、夢の中で舞っていた蝶が地に降り立ち、屋根より高く昇ったシャボン玉がパチリと弾けたのは、ステージに一歩踏み出し、私の姿が観客の前に露わになり、拍手が、歓声が、ステージを埋め尽くした瞬間だった。
……どうしよう。
実は私、MCで何を話すのか一切考えてないのだ。
本当なら、ライブ前の空き時間に考えようと思っていたのに、全部ココアが悪いのだ。
あったかいし、甘いし、安心するし。飲んだ後寝てしまうのも無理はないと思う。
バレない程度に歩幅を小さくして、少しでも時間を稼いでいたがそれもそろそろ限界だ。もう三歩も歩けばステージの真ん中に着いてしまう。
一歩。
ちらり、と横目でステージを見る。たくさんの人がいて何かを期待したような顔をしている。
二歩。
目線をあげれば、数時間前まで空を覆い隠していた雲がなくなり、澄んだ藍色の夜空が広がっている。
三歩。
とうとう着いてしまった。結局どうすればいいのか思い浮かばなかった。
そういえば……。
「MC、どのくらいすればいいんだろう」
しまった、マイクに入ってしまった。
会場がざわめきで満たされる。
そろり、と舞台脇を見ればカンペが用意されていた。
時々あれを見ればいいのか。
「皆さん、こんばんわ」
音の波が押し寄せる。それは返しの挨拶だったり、歓声だったり、意味を持たないただの音だったりたくさんだ。
「本日は、私達シンデレラガールズが出演するライブ、ウィ、ウィンター…………に来てくださりありがとうございます」
今回開催されたライブのタイトルを忘れてしまった。
これは、もしかしたら結構大きなミスだったりしないだろうか。
もう一度舞台脇を見て見ると、プロデューサーが額に手を当てていた。
観客を見て見ると、なぜか仕方なさそうに苦笑していたりする人が結構いて、頑張れとの声援も聞こえた。
多分大丈夫だろう。
「月が、綺麗ですね」
何故か歓声が聞こえた。それも、私がステージに上がってから一番大きい歓声だった。
ちょっと落ち着くために空を見上げたら、楓さんの言う通り綺麗な月が見えたから、その事を言っただけなのに。
まあ、いいか。
「さっき、懐かしい夢を見たんですよ」
笑われた、それもたくさんの人に。無理やりステージに立たされて笑い者にされる。先ほどは感謝していたが、やっぱりプロデューサーは許せない。
そう思って舞台脇を再度見て見たら、怒った顔をしたプロデューサーがいたので見なかったことにする。
心は凪のように澄んでいる、マイクの前に立つまでの荒れ模様が嘘のようだ。
だからプロデューサー。私にMCを任せたことは許すから、どうか私を許してほしい。
だめかな?
「とても、いい夢でした」
どんな夢か聞き返されたけど、それは教えられない。あれは私だけの大切な夢だ。だから内緒、とだけ伝えると、騒がしかった会場が嘘のように静まった。
けど関係ない、もうスイッチは入ってる。
あとは想いを込めて歌うだけだ。
「だから、今日は気分がいいんです」
ちょうどいいタイミングでイントロが流れる。今回のライブで歌う曲にないメロディだからか、ざわめきが起こる。
だが、それも直ぐに無くなり。最初はどよめき、次に歓声、最後には聞き分けられないほどの音の集合体。様々な音が混じり合ってこんがらがった波は、私が口を開けたことで、消え失せる。
「星も、綺麗ですし」
どこからか、私の方が綺麗だという声がかかる。
アイドルをしているとよく言われる言葉。けれども、この日は特別になった日で、格別に好きな星よりも綺麗だと言われ、少しでも星に近づけたという実感が湧く。
「だから、私の好きな歌、歌います」
海で遭難した船乗りたちが、自分の居場所を知る為に北極星を見るように。
「聞いて下さい」
自分の原点を思い返して、今の自分がどこにいるのかを知ろうと思った。
「アメイジング・グレイス」
なんと美しい響きだろうか
夜空に寄り添う星の一つになれますように
そんな想いを込めて私は歌った
オリ主は観客のライブの思い出を全部自分で塗りつぶすブラックホールみたいな人
星になりたいのに星が爆発した後にできるブラックホールにしかなれない可哀想な人
前書きと後書きの8割は嘘です