色々原作物語 作:わわわわ
どうでもいい。それが口癖になったのは、何時の頃だっただろう。
「はあっ!」
上体を反らす。直後、頭があった場所にブレードが通り過ぎた。
直ぐ目の前に人がいて、しかもその人間は光を放つブレード状の刃物で切り掛かってきている。つまるところ、今は戦闘中であり、余計な事を考えている暇は無いのだろうけど、生来の能力故に思考が止まることはない。
人はそれを便利だと言うけれども、考える事を止められないというのはそれほどいいことでもなく、常に三人の自分が、頭の中でぶつぶつと呟いている様なものだから非常にうるさい。
一人は戦闘に集中し、もう一人は雑念に溢れている。最後の一人に至っては、昼御飯の事を考えている始末だ。
全くもって集中出来ていない。これでは相手に失礼だろう。
「どうでもいいか」
そう呟き、さっさとこの戦闘を終わらせることにした。
今までばらばらだった意識を対峙している人間に集中させる。
先程から攻撃が単調だ。加えてチラチラとこちらの足元を見ている。十中八九何かを狙っている。手に持つ得物がスコーピオンなので、隙を見せたら右手に持ったスコーピオンを地面に潜らせた下からの一撃、もしくは目線はフェイクで、地中から道路脇の塀へと移動させた横からの斬撃、そのどちらかで勝負をつける心算なのだろう。
しかし、空いている左手が少し気にかかる。可能性としては奇襲用のスコーピオン、シールドにガンナー用のトリガー。あるいはオプショントリガーのグラスホッパーかテレポーターだろう。
スコーピオンはないだろう。相手のスタイルを見る限り、速さと手数で圧倒するスタイルだ。両手にスコーピオンをセットしているなら、最初から展開していた方がいいし、一度見せた方がブラフとしても使える。
単に何も考えていないだけかもしれないが、その程度の相手なら、下から来ても横から来ても対処は楽にできる。
シールドにグラスホッパーやテレポーターは、直ぐにでも対処出来るため問題ないが、ガンナー用だとしたら不用意に突っ込むのは得策ではない。少しだけ工夫することにしよう。
至近距離で切り結んでいた相手のブレードを弾き、グラスホッパーで後ろへ跳躍、距離を取る。
同時に手に持っていたスコーピオンを相手の太腿に狙いを定めて投げつけた。
「なっ!」
相手がそれに気を取られている間に、グラスホッパーを着地点に展開し仰角45度方向へと跳ぶ。
シールドを使ってスコーピオンを弾いた相手が見える。それは悪手だと思う。まあ、どうでもいいけど。
「テレポーター!?」
急に視界から消えた為かそう勘違いしてくれたらしい。
後ろを振り向いてくれたおかげでトドメを刺すのが楽になった。そのまま重力に体を預け、新しく発動したスコーピオンで、脳天から股の下まで真っ二つにした。
厨房の奥に並ぶのは、色とりどりに調理された食材の数々。
端から見ても美味しそうだと思うが、個人的にはこれを食べるのが苦痛だ。味は美味しいと知っている。だけど胃の中に固形物を入れ難い身としては、味は二の次で一番に優先するのは流動性だ。
「シチューセット具は無しで」
「はいよ、毎日飽きないねぇ」
「美味しいから」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか、ええ?ほら、たんとお食べ」
そう言って器に並々とシチューを注ぐ食堂の人。下手をすればこぼれてしまいそうだ。溢れんばかりに入れられたそれを一切こぼさずに、トレーへと乗せるのは流石だと言うしかないが、至極どうでもいい場面でプロの技を見せられた僕は一つだけ言いたいことがある。
「サービスじゃない。嫌がらせ」
ただでさえ利用者の多いボーダー本部の食堂。その人ごみの中で、器いっぱいのシチューをこぼさないように席を確保する。まるで罰ゲームだ。
周りの声がうるさい。面白いものを見るかのような視線が鬱陶しい。微笑ましいものを見るかのような視線が煩わしい。男の話し声、女の笑い声、大人の会話、子供の噂話、人間の笑い声が木霊する。どいつもこいつもうるさくて、不愉快で、なにがそんなに楽しいのかわからなくて、思い出せなくて、身体の傷がチリチリと痛む。心のキズがジクジクと疼く。いっその事……。
「みんなきえてしまえばいいのに」
「おいおい、なに物騒なこと言ってるんだ?」
「迅」
「怖い未来になってるぞ」
「どうでもいい」
そう、どうでもいい。未来なんて、今がどうでもいいのに気にするだけ無駄だ。どうせその内死ぬことになるし、それを願ってさえいる。自殺ができないから、約束したから。だから戦って死ぬ。擦り切れて死ぬ。その為には……。
「遠征行きたかった」
「国近ちゃんと一緒に居たいからか?」
「わかってるくせに」
「まだ変わらないのか?」
「変わりようがない」
変わろうと思ったこともある。楽しいことや嬉しいこともあった。少しだけ笑えたこともある。柄にもなく、勝負に負けて悔しいと思ったし、勝ったときは喜んだ。
だけどその感情はすぐに消え、結局はどうでもいいと完結する。広大な湖に絵の具を一滴垂らしても、少し広がってやがて見えなくなる。それと同じだ。風が止まり、波紋は吸い込まれ、色が飲み込まれていく。湖面は時が止まったように静かで、濁った灰色。
昔、人形みたいだと影浦さんに言われたけど、そんな高尚なものではない。生きているだけ、死んでないだけの死に体。周囲に害を振りまくだけの自分は人形よりもタチが悪い。
どうしてさっきは、みんな消えればいいと思ったのだろう?自分だけが消えればいいだけなのに。
……まあ、どうでもいいか。
「まっ、これ以上は俺一人じゃ無理だな」
「そう」
「それより珍しいな。空がまともな食事をするのは」
「国近さんに言われたから」
「へぇー、なんて?」
忍田さんに買ってもらった携帯を開き、一番新しいメールを迅に見せる。その間に半分まで減ったシチューを一気に飲み込み、せり上がってくる嘔吐感をじっと耐える。数週間も同じことをすれば慣れるものだ。初めは食べ終わるまで一時間は掛かったのに、今ではその半分ほどになった。
けれども、慣れたとはいえ気分がいいものではない。約束の期限が過ぎたらもとの食事に戻そう。
「一つ。ご飯はちゃんとした物を食べること
一つ。夜はきちんと寝ること
一つ。私たちの部屋は好きに使っていいよ
一つ。いまやってるゲームは一人で進めたら駄目だよ?
一つ。ちゃんとできてるかどうか、遥ちゃんに見張ってもらってるからね、か」
「なんで笑ってるの?」
読み上げた途端に迅が机に伏せて笑い出した。
肩を震わせながらも、腕を伸ばして携帯を渡してきたのでもう一度メールを見る。
世間一般的に見れば少し変な文面かもしれないが、これは国近さんが自分のことを心配してくれたものなのだから、笑うことではないと思う。そんな心配をどうでもいいと切り捨てられる自分は、どこか異質なのだろう。まあ、それすらもどうでもいいけど。
食堂から離れ、軽い吐き気を抑えながら一息つく。
考えるのは友人であり、恩人でもある年下の少年の事。
「今日もどうにか最悪の未来を回避したな」
知らない間に額に浮かんでいた汗を拭い、意味もなく天井を見上げた。
蛍光灯が放つやや強めの光が視界をぼやけさせ、風景が変わる。目に浮かぶのは、先ほどほとんどの人間から読み取れた最悪の未来。町は血に染まり、人は首のない死体に変わり、瓦礫の上で変わることなく膝を抱える友人。
それを取り囲む自分達。
出会った時からほぼ毎日のように見ている光景だ。
未来を見るサイドエフェクトのおかげで、どうにか回避出来ているがそれもいつまで持つのかわからない。
「ほんと、国近ちゃん様々だね」
それでも、様々なパターンの最悪の未来ばかりだった昔に比べて、今ではほんの少しいい未来が増えてきている。まだまだ少しマシといった程度のものだが…。
このままいけば、あいつが心の底から笑えるような未来がくるだろう、いつか必ず。
それまでに、あいつが踏み外さないように軌道修正するのは、自分の役割だ。
支えるのは別の人がやってくれている。少し前に比べればずっと楽で、少し悔しいがその方がいい結果になっている。
「だから、今日も暗躍頑張りますか」
そう呟いて暗がりへと歩を進めた。
ただし柚宇さんが出てくるとは言っていない。
集団戦とか書ける気がしない