真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの   作:MATSUKASA

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12話 信頼 以心伝心

 

「……それで、貴女がここにいるだけでも驚きなのだけど。一体どんな用事でこんなところに来たの?」

 

「もう! この私が会いに来たっていうのにつれないじゃないか、華琳ちゃん!」

 

 ようやく落ち着きを取り戻した曹操は、相変わらずの友人の様子に頭を抑えながら口にした。

 勿論、彼女の頭を悩ませている張本人である衛弘は一向に気にした様子もなく、むしろ不満すら口にする有様である。

 

「……ここが何処かの茶屋なら、私も友人との邂逅を楽しむ余裕があるのだけど、生憎そんな場所じゃないのよ。それで? あなたがわざわざこんなところにまで出張ってきたということは何か私に話があるってことよね?」

 

「久しぶりになのに華琳ちゃんは相変わらずだなー。でも話が早くて助かるよ。えーっと、私がここに来たのは、今回の戦に私が連れてきた軍を参加させて欲しくてお願いに来たんだよ」

 

「あなたが軍を? それは燕の私兵を参加させたいということかしら?」

 

 衛弘の要望は予想外のものであったが、曹操は素早くそれが自分にとっても益のあるものかもしれないと判断し、詳しく話を聞かせるように言った。

 今の彼女の姿は“覇王”を評されるにふさわしいものであり、先程まで頭を悩ましていた様子を微塵にも感じさせない。

 

 もし衛弘の話が本当であるなら、この戦ももう少しやりようが出てくる……。

 そういった期待を踏まえての物言いであったが、それを覚らせぬような威圧感が今の彼女にはあった。

 

「んーっと、私の私兵ってわけではないんだけど……まぁ似たようなものと思ってくれればいいよ。幽州の方で黄巾党を大いに破っている義勇軍があると聞いて、雇ってきたんだよ」

 

「あら、そんなことをするなんていったい何の為に?」

 

「私とて今回の乱では各地で生産を減らされたり、売り上げも落ち込んだりと散々な被害を受けてるからね。できれば一刻も早くこの反乱を鎮めてほしいと願ってるんだ。だからこそ官軍にはできる限りの支援をしているし、黄巾党を倒すために頑張っている子達がいれば支援を惜しむ気もない。今回のこともその一環みたいなもんだよ」

 

 訝しむように尋ねる曹操に、衛弘ははっきりと答えた。

 彼女が言う理由は確かに本心であった。

 今回の黄巾の乱によって衛弘達、衛北商会が被った損害は少なくない。一刀の知識のおかげで事前に備えをしていたが乱の発生以後、当然の如く各地の需要は減少、そして官軍への武具・糧食の供給も馬鹿にならない出費になっていた。

 その為、一刻も早く乱の鎮圧をしてほしいというのは切実に思う所であったのだ。

 

 尤も本当のところそれは理由の1つに過ぎず、全てというわけではないが。

 

「なるほどね……凡その事情は理解したわ。あなたが連れてきたくらいだしそれなりには使いものになると思っても構わないのよね?」

 

「ああ! 実力は私が保証しようじゃないか! なんと今なら3年保証付きだよ、これは使わないと損というものだよ!」

 

 衛弘は無い胸を張りながら自信満々に曹操の問いに答えた。

 そして彼女の言葉を聞いた曹操は考える。現状、兵は幾らあっても足りないくらいなのである。

 もし連れてきた義勇軍とやらが本当に衛弘の言う通り、実力も備えているのであればここでの協力を拒む理由はない。そして仮に実力不足であったとしても矢避け程度には使えるだろう。

 一瞬の内に事態の損得勘定を下した曹操は、手早くその軍を今回の黄巾党との決戦に参加することの許可を出した。

 

「分かったわ。あなたがそこまで言うのなら、その実力も信頼するわ。その義勇軍の戦への参加をこの曹孟徳が許可する。……できれば都の官軍以上には働いてもらいたいところね」

 

「さっすが華琳ちゃん!! 私はいい友人を持てて幸せだよ! なら、そのことを義勇軍の指揮官の子にも伝えてくるよ!」

 

 曹操の許可を得た衛弘は万歳をするように大袈裟に喜び、すぐに天幕を後にしようとしたが、彼女を曹操が呼び止めた。

 

「それには及ばないわ、燕! 仮にも共闘することになる軍の指揮官だもの、私が直接話をしに行くのが筋というものでしょ」

 

「か、華琳様!? 華琳様はこの官軍全体の指揮を預かる身です。そのような場末の義勇軍の為に足を運ぶ必要などございません!」

 

 衛弘を呼び止めた曹操は、悪戯を思いついた幼子のような笑みを浮かべながら、自身がその指揮官に会いに行くと伝えたのである。

 その言葉に最も早く反応を示したのは彼女の軍師である荀彧であった。

 

「桂花、猫の手も借りたい現状、共闘を願い出てくれるのはこちらとしても有難いことなのだから、私自ら礼を言うくらいはするべきよ。それに、燕が連れてきたという子だもの、直接会って話してみたいじゃない?」

 

 荀彧の尤もな諫言に曹操は建前と本音で応えた。

 どう考えても、本音は後者のようである。彼女は衛弘をしてここまで言わしめる義勇軍に限りなく興味を抱いたのである。

 

「というわけだ、桂花。護衛として私が華琳様に付いていくとしよう。お主は華琳様ご不在の間、ここで全体の準備を確認しておいてくれ」

 

 こうなっては自身の主が止まらないことをよく知る夏侯淵は、手早く自身のすべきことを理解し、慌てる同僚に指示を出した。

 

「わざわざ華琳ちゃんに来てもらうなんて悪いね。でもなかなかに見どころある子達だから期待してくれてたまえ! さて、善は急げだ! そうと決まったらさっそく行こうじゃないか!」

 

「ふふ、精々期待させてもらうとするわ」

 

 曹操の言葉を聞いた衛弘は、思い立ったら即行動といった様子で天幕を駆け出していく。そしてそれに続くように曹操と夏侯淵もあとに続いた。

 その義勇軍とやらが一体どんなものなのか。

 共闘に値する者ならよし。もしそうでなくても衛弘が連れてくるくらいであれば、彼女の言う通りなにか見どころはあるのだろう。

 

 行く先に待ち受ける人物に思いを馳せ、いくらかの期待を持ちながら曹操は天幕を後にする。

 願わくばこれから訪れる乱世にて自身と並び立つに足る人物であることを……。

 

 

 この先の時代を語る上で欠かせない2人の人物。彼女達の邂逅はすぐそこに迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「官軍なんて敵じゃないのー、ぶち殺してやるの-」

 

「ほわぁぁぁーー」

 

「おらおら、お前達きばりや!! もう少ししたら敵さんもお目見えやでー!!」

 

「ほわぁぁぁ――」

 

 一路、洛陽を目指して進軍する黄巾党本隊の中。頭に黄色い布を巻いた2人の女性が指揮を上げるように声をかけると、全軍が雄叫びのような声を上げてそれに答えた。

 士気は最高潮に達したともいえる黄巾党本隊の中にいて、一際目立つその2人は自身の言葉で盛り上がる兵を見て満足そうに頷いていた。

 

「おい! 沙和、真桜! 勝手な真似をするな。私達は子許様の命で、この黄巾党に潜伏しているんだぞ。あまり目立つような真似は控えろ」

 

 兵士を鼓舞していた2人の傍にいた少女、同じく頭に黄色い布を巻いた楽進は調子に乗って兵士達を徒に盛り上げている2人の友人に口を尖らせながら自分たちの役割を再度伝えた。

 

「えー、でもこいつら面白いのー。どんな言葉をかけても馬鹿みたいに返事してくるのー」

 

「そうやで凪。潜伏するからこそ、うちらも黄巾党に馴染まないかんのや。だからこれも作戦のために必要なことなんや」

 

 しかし楽進の注意を受けた2人、于禁と李典は全く反省した様子もなく、むしろ自分たちのほうが正しいといった様子であった。

 

 彼女達3人は今、所属する商会の当主である衛弘に極秘任務だよ!と言い渡されて、こうして黄巾党の内部に潜入していた。

 極秘と言われたからには誰にもばれないよう潜入する必要があると考え、彼女達は頭に黄巾党の兵士たちと同じような黄色の頭巾を被り、こうして内部に紛れ込んだのであるが……そこでこの2人の行動である。

 

 本当に自分たちの役目を分かっているのかと心配な様子の2人に楽進は内心で冷や汗をかく。

 

「いくら馴染むといっても限度があるだろう……目立つことをすればそれだけ離脱の時に厄介事を生みかねないんだぞ」

 

「チッチッチ、分かってへんな―凪。こうやって率先して目立つからこそ、連中はうちらを信用して監視の目も薄くなるってわけや」

 

「そうなのー。私達も考えがあってやってるのー」

 

 楽進の尤もな忠告に、李典は得意そうに指を振りながら返した。

 彼女に言われて楽進も思い直す。確かに彼女の言うことにも一理あった。

 

 今回、自分たちに課せられた任務を考えると、黄巾党内での信用を得るのは必須ともいえる。あえて、兵たちを鼓舞するような位置に立つことで彼らの信用を得れば仕事もやり易くなるともいえる。

 

 どう見ても楽しんでるようにしか見えない2人であったが、その実は綿密な計画に基づいた上での行動であったのか。

 

 予想外にもしっかりとやるべきことを考えていた2人に楽進は「それならば」と納得してみせた。

 

「よーしお前ら! このまま洛陽まで突っ走るでー」

 

「とっとと進むのー。この蛆虫共―!」

 

 楽進が引っ込むのを見て、李典と于禁は再度兵たちに向かって鼓舞するように声をかけた。

 その様子を見ると、本当は2人ともただやりたいだけなんじゃという気がしないでもないが、とにかく自分は任された使命を果たすだけであると思い直す楽進であった。

 

 ちなみにこの時の于禁と李典の行動の結果、もともと指揮官と呼べるような人材に乏しかった黄巾党内で2人は兵士から将のような認識を受けるようになった。そして、そのことが楽進等の任務を果たす時には非常に役に立つことになるのだが、どうも楽進は納得がいかずもやもやとした気持ちを抱えることになるのであった。

 

 どうも彼女の生真面目という性格は様々なところで貧乏くじを引く運命にあるようである。

 

 兎も角、衛弘達が劉備達と準備を進める中、黄巾党内部においても着々と張三姉妹救出の為の用意が進められていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は戻って、官軍の隣に布陣する劉備軍内部。

 事前に打ち合わせた通り衛弘と一刀は合流し、官軍と劉備軍の仲介をする手筈になっていた。

 とはいっても、その役目はここに来た途端に「ちょっくらいってくるよ!」と官軍の本陣に向けて駆け出して行ってしまった衛弘が全てを引き受けた為、一刀は今、劉備軍の面々と彼女の帰りを待っていた。

 

「それにしても燕さん、大丈夫かな? 1人で飛び出して行っちゃったけど……」

 

「仮にもここは官軍のど真ん中であるから、大丈夫だとは思うが……まぁもう少しは自分の身分と手順ってものを理解してほしいところだけどな……」

 

 そんな経緯で、一刀達が今できるのは衛弘の戻りを待つことくらいである。

 そんな暇を持て余して、劉備が一刀に話しかけてきた。

 ちなみに一刀は今、劉備と話す際に畏まった口調ではなく砕けたもので話しているが、これは劉備本人から真名を許したのだからそんな他人行儀の話し方はやめてほしいと請われてのものである。

 

 

「ははは、確かに燕さんって見るからに自由奔放って感じだもんねー。でもあの曹孟徳さんと知り合いなんてすごいなー。あっ一刀さんも会ったことあるんだよね!曹孟徳さんって一体どんなかんじの人なの?」

 

 そんな軽口の合間に、劉備は興味津々といった様子で尋ねてきた。

 

「孟徳殿か……。俺はお店のお客としての彼女しか知らないからあまり正確なことは言えないけども、まぁ一目見て只者ではないってわかるぐらいの覇気を持った人だったよ」

 

 全てを知っているわけではないけども、と前置きをしたうえで一刀は以前会った時に抱いた正直な感想を口にした。

 一刀も曹操の為人を詳しく知るわけではない。しかし、事前に知識として偉人であると知ってはいたものの、実際にあった時に彼女から感じられた、他者を圧倒するような覇気はこれまで様々な経験をしてきた一刀でもたじろぐものであった。

 

 一刀はそこまで考えてふと思い出す。

 先ほどからすごい親しそうに話しかけてくる隣の少女、劉玄徳もその曹操に比しても劣らないほどの偉人であるはずだが、彼女からは曹操と対峙した時のような迫力や威圧を感じない。

 あるいはそれこそが彼女の魅力なのかもしれないが。

 

 そこまで考えたときに再度、一刀の胸の奥に以前に去来したものと同じような感情が沸々と湧き上がるのを感じたが、一刀は何とかそれを表情には出さずに抑えることができた。

 

「そっかー、やっぱりすごい人なんだね。うう、なんだか緊張してきたよ。朱里ちゃんや雛里ちゃんは何か曹孟徳さんについて知ってることってある?」

 

「曹孟徳どのですか……聞くところによれば器量・能力を兼ね備えた稀代の傑物で、“治世の能臣、乱世の奸雄”と評される人物とのことです」

 

「それに腐敗した中央にあっても厳格に職務を務める方とのことで、噂では権勢を振う宦官の縁戚の者であっても風紀を乱した場合には一切の遠慮もなく刑を処すほどだそうです」

 

「なるほど、まさに治世の能臣と評されることはあるというわけか……しかし乱世の奸雄とはな。善悪定かならずといったところだな」

 

 劉備に話を振られたことで、傍に控えていた2人の軍師、諸葛亮と龐統がそれぞれ収集した情報から曹孟徳という人物について語った。

 彼女たちの話を聞いた関羽は何やら考えるような素振りをしながら、素直な感想を口にした。

 

 余人ではその威容を計ることすら難しいほどの人物。それが曹孟徳という人物なのだろう。

 

 自分たちは今からそんな人と対面することになるのか。

 特に意識もせず、雑談のつもりでの会話ではあったが劉備軍の中には言葉にできない緊張が広がっていた。

 

「みんな難しく考えすぎなのだー。ようはその曹操ってやつに会ってみればどんな奴か分るのだ!」

 

 そんな緊張した空気を感じてか、張飛が大きな声で話に入ってきた。

 

「……確かに鈴々の言う通りでもあるな。どうせこれから直接会うのだ。噂でどんな人物と評されていようと、直接この目で見ればどのような為人か知ることができよう」

 

 曹操との対面を前にしてもいつもと変わりない様子の張飛に、他の劉備軍の面々も緊張が和らぐのを感じ、落ち着きを取り戻していた。

 天真爛漫な張飛を微笑ましく思いながら、関羽も会う前から緊張していても仕方ないと切り替え、自分に言い聞かせるようにそう口にした。

 

 

「ええ、その心がけは大切なことよ。他者の言うことを真に受けるのは愚者。賢者は他者の言葉を聞いた上で、自身で確かめてから初めて判断を下す。その位のことは心得ているようで一先ずは安心したわ」

 

 関羽の言葉に帰ってくるはずのない方向から返事が聞こえた。

 この場にいる全員が慌てて声のした方向へ向き直ると、彼女はそこにいた。

 

 水色の髪をした武官らしき女性を傍らに控えさせて、悠然と立つ女性。

上から目線の物言いでありながら、不思議とそれが当たり前のように感じさせる雰囲気を放つ彼女こそが、今まで話をしていた“曹孟徳”であるということはこの場にいる全員に理解出来た。

 

「お待たせ―! 華琳ちゃんに話をしたら直接来てくれるってことだったから連れてきたよ!」

 

「ええ、もう話は聞いているかと思うけど我が名は曹孟徳。朝廷より騎都尉の地位を賜り、此度の官軍の指揮官の任を受けた者よ」

 

「曹孟徳様の臣下、夏侯妙才だ。よろしく頼む。それと北郷殿は都の時以来だな」

 

 いつもと変わらない様子の衛弘と余裕の笑みを浮かべながら淡々と自己紹介をする曹操。

 そして、主に続くように手短に紹介する夏侯淵。

 意外にも彼女は一刀のことを覚えていたようであり、劉備軍の面々を見渡した後、その中に一刀の姿を見つけると、少し表情を緩めて挨拶をしてきた。

 

「孟徳殿と妙才殿もお変わりないようで何よりです」

 

 彼女たちの登場で一瞬静まり返っていた劉備軍の面々の中、一刀は素早く2人に挨拶を返した。

 

「曹孟徳さん! どうしてわざわざこんなところにまで?! す、すみません私は劉備。字は玄徳と申します。一応、この義勇軍を率いる指揮官をしています」

 

 一刀の言葉を聞いて、慌てたように劉備も今目の前にいるのが間違いなく曹操であると理解し、遅れながら自己紹介をする。

そして、彼女に続くようにして関羽、張飛。そして諸葛亮と龐統も自己紹介をしていった。

 

 一通りの自己紹介が終わったところで、

 

「貴女がこの軍の指揮官なのね。劉備……いい名前ね」

 

 一通り劉備軍の面々の名乗りを聞いた後に、曹操はまっすぐ劉備を見つめると笑顔を保ったままにそう伝えた。

 

「曹孟徳殿、なぜ官軍の指揮官である貴殿がこのようなところにまでわざわざ来られたのですか?」

 

いったん場が落ち着いたのを見計らってか、関羽がこの場にいる全員が疑問に思っていたことを再度尋ねた。

 

「あなたは関羽ね。私は友人から面白い子たちがいると聞いたから是非この目で一度会ってみたいと思い来ただけよ」

 

「そうだよ、華琳ちゃんと私は親友だからね。私たちの前では管仲と鮑叔牙も琴を断つくらいだよ!」

 

「燕、なんだか色々と混ざっていないかしら? ……ということで私がここに来たことに深い意味はないわ。だから安心しなさい」

 

 特に深い意味はないと、曹操は言うが劉備達はその言葉を額面通りに受け取ることはできない。

 本来ならば自分たちを呼びつける立場にいる彼女がわざわざここに来たのには何かしらの裏があるのではないかと疑い、関羽は警戒を解かないままに劉備の傍に控えた。

 一方、諸葛亮と龐統の軍師2人は曹操の言葉よりも衛弘が発した言葉に意識を向けていた。

 彼女は曹操のことを真名で呼び、親友とまで言ってのけている。そして曹操もそれを否定しようとせず、むしろどこか誇らしそうな様子でさえある。

 

 曹操という人物については噂で聞く限り、この時代においても並び立つのものがいないくらいの才媛であるという。そんな彼女が衛弘、ひいては衛北商会と強い繋がりがあるともとれる発言をしたのだ。

 今回のことで、劉備達は衛北商会と好を通じることができ、それを好機と考えていた2人であるが、商会とつながりを持っているのは自分達だけではないようである。

しかも曹操と衛弘の様子を見る限り、その繋がりは非常に強固なものに思えた。

 

 勿論、このことがすぐに劉備達の脅威となるわけではないが曹孟徳に商会の財力がついているかもしれないという事実は、今後のことを考えると決して無視できない事実だと軍師たちは判断したのである。

 

「ふふ、確かに燕が言う通りに中々に面白そうな子達ね。こちらの発言をしっかりと吟味するだけの知恵も持ち合わせているようだし、澱みのない武の気配も素晴らしいわ」

 

「ふふふ、私が見込んだ子達だからね! 当然というものだよ!」

 

 関羽や軍師達の考えていることまで見透かしたような口ぶりで、賞賛の言葉を述べる曹操。そんな彼女になぜか自分が誇らしげに再び無い胸を張る衛弘。

 

「流石は燕ね。できるならこのまま色々と語り合いたいところではあるけども今は時間が惜しい。……劉備よ、あなたはこの軍を率いて黄巾党と戦うためにこの場へ参陣したと聞いたわ。その義の心やよし!官軍指揮官の曹孟徳の名においてあなたの参戦を許可するわ。戦いにおいてあなたたちには戦況に応じて遊撃軍として動いてもらう。そちらの判断で黄巾党の本隊に攻撃を仕掛けてくれればいいわ。できれば意気込みだけではなく、戦果を以てあなたの大義を示してくれることを期待しているわ」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

 こちらを試すような笑みを浮かべて、劉備達の参戦と独自の判断での軍行動の許可をした曹操。

あまりにもあっけなくこちらの要望が通ったことに劉備は驚きを隠せないでいたが、素早く臣下の礼をとって感謝の言葉を口にした。

 

 劉備の返事を聞いた曹操は満足そうに一度だけ頷くと、すぐに傍らの秋蘭に指示を出して踵を返していく。

 

「そういえば燕、貴女は戦の間はどうするの? もしよければ私の本陣で護衛をつけておくけど」

 

「それには及ばないさ! 桃香ちゃん達をここに連れてきたのは私だからね、まぁ商人の私にできることはないけど、この子たちと一緒にいるつもりだよ。またこの戦が片付いたら華琳ちゃんの戦勝記念の祝宴は盛大に手配しておくから、その時にね! ふふふ安心したまえ、祝宴のお金なら私が用意しておくさ。それなら栄華ちゃん(曹供の真名)も文句は言うまい」

 

「あら、それは楽しみね。まぁあの子なら燕のすることに文句を言うとは思わないけど。……なら私は盛大な勝利でその祝宴に花を添えるとしましょうか。……劉備、我が親友の身、貴女に預けるわ。くれぐれもこの子に危害が及ばぬようにしなさい。これは指揮官からの命令と思ってくれて構わないわ」

 

 早くも勝利後のことについて話し合う2人。これが他の誰かの会話であれば、明らかに目の前の戦を前にして油断が過ぎるものであると断じられるが、殊この2人に関してはそれが当てはまらないだろう。

 

どちらもこの戦の行く末を確かに見据えた上で見せる余裕があった。

 

 そして曹操が去った後、あまりにも衝撃の連続な出会いであったが、劉備軍の面々はすぐさま気を取り直して、黄巾党との戦いに向けて取り得る作戦の話し合いに入った。

そこには衛弘と一刀も参加する。

 曹操にも知られるわけにはいかないこちらの目的を密かに成功させる為には何が必要か。居並ぶ面々はお互いが持つ情報を共有し、互いに1つの目的の為に行動を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、華琳様。よろしかったのでしょうか?」

 

 劉備との邂逅を済ませた曹操が自陣へと戻る道すがら。先ほどの一件について夏侯淵が尋ねた。

 

「秋蘭、あなたが言うのは劉備軍に自由な行動を許可したことかしら? それとも、彼女達に燕の身柄を預けたことかしら?」

 

「どちらもです。いくら燕様がお連れした軍とはいえ、劉備という名はこの辺りでは聞いたことがありません。そのようなものに自由な行動を許し、燕様の身を預けるのはあまりにも危険が過ぎるのではないでしょうか?」

 

 夏侯淵の抱いた疑問は至極当然のものであった。

 彼女は今回の戦が自分たちにとって非常に重要なものであること、そして自身の主にとって衛弘がどういう存在なのかを知っている。

 だからこそ彼女には先ほどのやり取りがあまりにも不用心なものではないかと思え、危惧したのである。

 

「あの子が信じるというなら私も劉備達を信用する。それだけのことよ。燕はああ見えて考えなしに行動する子じゃないわ。今回劉備達を連れてきたのも何かあの子なりに考えがあってのことなはずよ。それを邪魔するわけにはいかないわよ」

 

 曹操が口にするのは自身の友人に対しての絶大な信頼。

 

「義勇軍を連れてきたのも燕様に考えがあってのことというわけですか……。であれば、その考えが我らにとって不利益になる可能性もあるのではないでしょうか?」

 

「口を慎みなさい、秋蘭。いくら貴女と言っても燕に疑いを向けることは許さないわ。あの子が私に不利益なことをするわけがない。あの子は私を無条件で信頼してくれている。だから私も燕は無条件で信頼する。それが私たちの関係よ。彼女に何か考えがあったとしてもそれは私たちを害するものであるはずがないわ」

 

 秋蘭が口にした懸念を、曹操は厳しい口調で一蹴した。

 一見すれば盲目ともいえる彼女の言葉ではあったが、これまでのことも考えるとそれを否定することはできない。

 

 いち早く今回の乱が大規模になると見抜いて備えをするように伝えてきてくれたのは衛弘であった。

 また、何進に働きかけて黄巾党討伐に諸侯を駆り出させたのも彼女である。

 

 その結果、こうして曹操は正式な官軍の指揮官として黄巾党本隊との決戦の場に立つことができ、今回の戦で結果を残せば彼女の描く覇道に限りない糧が得られるだろう。

 

 直接、口に出しては言わないが衛弘は華琳の為を思ってやったことなのだろう。曹操の描く大望を臣下でなくとも知る人物は大陸広しといえど片手で足りるくらいであるが、衛弘はそのうちの1人、いや最も曹操のことをよく知る人物である。

 だからこそ、曹操は自身の臣下に対して衛弘には自分と同じように敬意を払うように伝えており、臣下もそれを受け入れている。

 

 しかし今回、衛弘は曹操に多大な利益になるようなことを取り計らってくれたが、一方で曹操が衛弘に対してなにかしてあげたというわけではない。

 それでも衛弘は自分のしたことをひけらかすことも無く、曹操に見返りを求めるようなこともしていない。

 

 この一事でも曹操と衛弘が損得などを抜きにした友情で結ばれていることは明らかである。

 だが、何を以て自分の主と衛弘がこれほどまでの強い信頼関係を築いているのか夏侯淵にはわからなかった。

 

「秋蘭、私と燕には互いに同じ大望があるの。私にとっての夢はあの子にとっての夢でもあり、あの子の夢は私の夢でもある。だからこそ、私は燕のことを無条件で信頼しているの」

 

 夏侯淵の疑問に答えるようにどこか遠い目をした曹操は呟くような小さな声で衛弘との関係について語ってみせた。

 少ない言葉数ではあったが、それは確かに彼女の衛弘に対しての信頼を如実に表すものであった。

 

「そう、だから私はあの子を裏切らない。そしてあの子も絶対に私を裏切らない。それを確信しているからこそ、よ」

 

 再び囁くようにそう告げた曹操を見て、夏侯淵は自身の懸念が如何に見当違いの物であったのかを覚った。

 

「申し訳ありません。過ぎたことを申しました」

 

「構わないわ。でも今後は燕に対して疑念は抱かないようにしなさい。あるいは抱いたとしても口にはしないようにしなさい。……さて、この話はここまでよ。私達はこの好機を確実にものにしなければいけない。劉備達が参戦するようになったからには、この戦の描きようも出てきたわ。陣に戻ったらすぐに桂花と劉備達の戦力を計算に入れた上で作戦の検討に入るわ。秋蘭、あなたにもしっかり働いてもらうわ。期待しているわよ」

 

「は、身命にかけても」

 

 夢見る儚い少女のような顔を一変させた曹操は、いつもの如く覇王たる雰囲気を醸し出しながら手早く指示を出した。

 期待している、と敬愛する主君に言われては夏侯淵の気持ちが昂るのを感じずにはいられなかった。

 

 夏侯淵は先ほどまでに曹操が見せた常ならぬ表情を頭から拭い去り、すぐに自分ができることを考える。

 

 曹操は自身の夢と衛弘の夢は同じであると語っていたが、それは夏侯淵にとっても同じである。

 我が主君、曹孟徳の覇道の実現こそが夏侯淵の描く夢に他ならないのだ。

 その大望の実現の為であれば、命すら惜しくないと彼女は思っている。

 

 夏侯淵は図らずも自身の決意を再確認することになり、すべきことを理解してまっすぐと足を進めていった。

 彼女がいく道こそが、曹孟徳の覇道である。

 

 彼女の眼にはもう迷いはなく、ただ覇道を行く主君を遮らんとする敵だけを見据えていた。

 

 

 




長々とここに書くのもいけないかなと思いましたので、更新についてなどは活動報告などに書くようにします。


皆さんよいお年を。
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