真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの 作:MATSUKASA
字数の関係上、1つだけの掲載です。
3000~4000字(大嘘、2回目)
『一刀の趣味』 (一刀・張遼)
一刀には趣味があった。
そもそも、この時代は一刀が以前いた現代と比べれば非常に娯楽が少ない時代である。テレビやゲーム、あるいは漫画といったものはない。
元々はそういったものを人並み程度には嗜んでいた一刀にとって、この時代の娯楽の不足は非常に問題であった。
そもそも、人は仕事だけでは生きていけない。一刀とて、今の仕事に文句があるわけではないし、目的をもって働くことにはやりがいを感じている。
しかし、それでも息抜きは必要なのだ。
例えば、一刀とよく一緒にいる衛弘。
彼女は非常に多趣味な人間であった。得意とする絵を描くことや、夜に飲みに行くこと、他にも歌を自作して歌うことや踊ること等、枚挙に暇がないくらいに趣味といえるものがあった。
近頃の彼女は、李典と気が合うようで暇な時を見つけては店の裏で、”発明”と称して何か怪しげなものの制作に励んでいた。
そんな彼女は、よく一刀にも仕事以外にも楽しめる趣味を持つべきだと語った。心の余裕がいい仕事をする上での秘訣だ、とも。
そして、一刀はこの時代でも自分にとっての趣味といえるようなものを探し始めたがこれが難航した。
一刀はまず、身近な人達に聞いてみた。
その結果、鍛錬・発明・お洒落、衛弘について妄想・読書・自分の偉業を日記に書く、など色々な意見を得られたが、どれも一刀にはしっくりこなかった。
ちなみに前者3つが洛陽の店員達、残りが各地の店の責任者達のものである。
内容が随分と偏っている気もするが、それは彼の交友関係が少し異質なこともあるだろう。
そうしてしばらくは特に趣味もないまま、毎日を過ごして一刀であったが、ここのところ趣味と呼べるようなものを見つけていた。
そして、仕事に余裕ができた今日もその趣味のために街に繰り出した一刀は、行き交う人をよそ目に目的の場所へと向かった。
「おお、北郷さん! ご無沙汰でさぁ!」
そうして一刀が辿り着いたのは、洛陽の通りに出ている小さな露店。一刀達が洛陽で商売を始めてから随分と経ったが、初めのころに比べて洛陽の活気は非常に良くなっていた。
街の通りには各地からやってきた商人たちが小さく店を構え、盛んに物を売るようになった。一刀が訪れた露店もそうした店の1つである。
店主は一刀に気づくと、気さくに声をかけてきた。この辺りで商売をする者たちで一刀と衛弘の顔を知らないものは殆どいない。
この街で何か商売をするなら必ずと言っていいほど、衛北商会とは関係を持つ者が殆どだ。
商品の仕入れ、あるいは販路として商会と取引するものは多い。この店もその例には漏れず、商会とは良く取引する相手であった。
「どうも、陳さん。ここのところ景気はどうかな?」
「ぼちぼちでさぁ。この前の反乱の時には随分と儲けさせてもらいましたからね、暫くはのんびりしますよ。あ!でもまた何かいい儲け話があればおしえてくだせぇよ!」
一刀も慣れたように挨拶を返し、社交辞令のように商売の様子を尋ねた。
この店に並べられているのは東西の様々な武器、この”陳さん”と呼ばれた人物は武器商人であるのだ。
各地の職人などから武器を仕入れ、それを売る。
最近では黄巾の乱に際して、大陸では武器の需要が急増したこともあって、一刀は仕事でも彼と取引を幾度もしていた。
そして、今日も店には、おそらく彼が仕入れてきたと思われる数々の武器が並べられていた。
「まぁ、また何かあればその時はお願いするよ、ところで今日は何か買いに来たわけじゃないんだけど、見ていってもいいかな」
手でお金の形を作りながらこちらに聞いてきた彼に一刀は軽く答えると、ここに来た目的を告げた。
「北郷さんにはいつもお世話になってやすから、なんも遠慮しねぇで下せぇ!ささ、どうぞゆっくり、どれも自慢の一品でさぁ!」
当然のように了承を返す店主に、一刀は感謝を告げて並べられた武器たちをじっくりと眺めた。
そう、一刀の最近の趣味とは武器の鑑賞であったのだ。
とはいっても、一刀は武器を扱えるわけではない。ただ見ているのが好きなのだ。
本来、武器とは動物、あるいは人を殺す為の道具である。しかし、それと同時に芸術品でもあるのだ。
人を殺す道具に芸術性など必要ないという人もいるかもしれないが、一刀はその考えは違うと言いたい。
確かに武器は道具である。しかし、戦場などにおいては唯一、自分の身を守る為の相棒ともいえる存在である。
であるなら何の飾り気もないような簡素な武器よりも、愛着が持てるような自分好みの意匠が施されたものの方がいいに決まっている。
特に、この時代は簡単に人が死ぬ時代だ。自分の命を預ける武器にこだわりを持つ者は少なくない。彼らは、武器を自分の体一部とも考え、その見た目、あるいは機能にとことんこだわる。
当然、そういった需要に応えるために職人たちも精魂を込めて武器を作り上げる。
その集大成がここにある武器たちであるのだ。一般兵の持つ量産の武器ではない、どれも一点物の傑作。
それらを眺め、この武器に込められた職人の思いやどんな人が使うのかを考えるが一刀は楽しかった。
「北郷さん、この大太刀なんかどうです? 南方の職人が手掛けた一品ですが、これまた切れ味は抜群! 達人が使えば、相手も切られたことには気付かないってもんですよ」
「ほう……、これはなかなか」
色々と武器を物色していた一刀に、店主が差し出してきたのは一振りの大きな刀。
わずかに反った刃線は店主の言う通り、物を斬るのに最適な形を追求した結果なのだろう。そして、施された意匠が必要最低限の質素なものであるのも斬るという一事を突き詰めたことの証左である。
華美とは無縁の見た目であるが、愚直ともいえるようなその有り様はまた乙なものである。
おそらく、これを使うのは非常に真っ直ぐな心を持ち、主君に忠義を尽くすような武人なのだろう。
その刃を見ながら一刀はそんなことを考えた。
「重くてとてもじゃないが俺には振れそうにないな。でも、この必要なもの以外をすべて切り捨てたような見た目はすごくいい……」
「北郷さんじゃ、振り上げるのすら一苦労さ! でも、さすがにお目が高いねぇ」
元々、店主も一刀に何か武器を売ろうという気はないのか、一刀の言葉にも彼は全く気を悪くした様子はない。
彼も一刀と同じく、ただ武器を愛する1人としてこの会話を楽しんでいるようである。
「ところで陳さん……、あそこにある鉄球は武器なのか?」
「ああ、あれですかい? あれは兗州の変わりもんの爺の作でさぁ。俺もあれを武器に使うってのはよく分らんですがどうも、愛用する武人がいるそうで試しに仕入れてみたってところです」
一刀は、並べられた武器の端に置かれた、全面に棘が付いた鉄球を指さしながら聞いた。モーニングスターのような見た目であるが、こんな武器は初めてである。
店主の話ではこれを使うものがいるそうであるが、いったいどんな人物か。
見るからに重そうな見た目のそれは、一刀では持ち上げることすら不可能である。これを振り回すというには、おそらくゴリラのように筋骨隆々の男なのだろう。やはり大陸は広い。
そんなことを一刀は考えた。
しかし、こんなバリエーションに富んだものまであるのを不思議にも思うが、これには実は理由があった。
以前に一刀が、衛弘に武器の多様さについて聞いたとことがある。
彼女曰く、
「それはいいところに気が付いたね。確かに一刀の言う通り、このところ武器の種類はすごい豊富になってきた。でもその一因はほかでもない、君にもあるんだよ」
楽しそうにそう語った彼女に一刀は首を傾げた。一刀は服を作った覚えはあるが、武器を作ったことはない。
それなのに、武器の多様性を生んだ原因は自分にあるという言葉の意味が分からなかったのだ。
「基本的に武器なんてのは道具に過ぎない。それならその機能だけを満たす最低限の形のものがあればいい。違うかい?」
そういった彼女に一刀は自分なりに反論した。武器をただの道具と思わない人は大勢いるはずである、と。
すると、衛弘はまさにそれだよといった様子で一刀の反論を受け入れた。
「その通りだよ、一刀! 武器は確かに道具だけど、一刀の言うことも事実だ。人によっては武器に自分を重ねてその意匠や機能に強いこだわりを持つ人は少なからずいる。ほら、ここまで言えば察しが付くのじゃないかい? 私たちが扱っているものにもそれと同じものがあるじゃないか」
そこまで言われて一刀も気が付いた。
なるほど、服についても全く同じことがいえるじゃないかと。
十人十色の趣向があればそれに合わせた武器があって然るべき。あとはそれが市場で価値を持つことができれば当然、それらは世に出回ることになる。ここで、一刀達のしたことが関係してくる。
貨幣経済の浸透である。
一刀達のおかげというべきか、今となっては大陸の商会が進出した地域では当然のように貨幣による物の取引が成立している。
市場に出るものをその参加者によって価値付けできる機構が出来上がっていたのである。言い換えれば、価値が認められる物はきちんと売れるのである。
こうなると、潜在的であった意匠や機能にこだわった武器の価値が、公にも認められるようになる。そうなれば、あとは簡単だ。
職人たちはこぞってより付加価値の高い武器を市場に出そうと努力する。そこでお金が得られれば自分で食料を作らなくても、買って暮らせるのだから、場合によっては生活のすべてを武器の製造に費やす者も出てくるだろう。
その結果として、市場には凝った作りの武器が出回っているというのだ。
これは他の財にも言える、例えば食事だって同じである。
ちゃんとそれを価値あるものとして万人が認める機構と、取引できる環境、そしてその手段としての貨幣。
これらが揃った結果が、消費財の品質向上につながったのだと衛弘は語った。
この話を聞いて以来、一刀はさらに武器鑑賞に喜びを見出すようになった。
自分たちの活動の結果、人に余裕が生まれ、こうした一見不要なものもしっかりと価値をもって取引されるようになった。それは人の生活が豊かになった証左でもあるのだ。
自分たちのしていることが確かに誰かの生活の役に立っている、一刀はそれを見るのが楽しかった。
話がそれたが、再び露店へと場面は戻る。
「陳さん、その後ろの包みはなにか大事な物とかなのか?」
「おっと、見つかっちまったか! こいつぁ売り物じゃなくてねぇ。冀州に当代随一といわれる偃月刀の職人がいて、その人の作品ですよ。俺はどうしてもこいつが欲しくて、長いとこ探したがこの前、漸く手に入れることができたんでさぁ」
どこか自慢するようにそう言われてしまっては一刀も気になって仕方ない。
「それほどの品なら、是非とも拝んでみたいな……」
「本当なら断るところですがねぇ……北郷さんに言われちゃ仕方ねぇ!」
店主は口ではいやいや言いながらも、どう見ても自慢したくて仕方ないという様子である。
徐に、後ろに置いていたその包みをほどくと、中から取り出した偃月刀を一刀の目の前に置いた。
真紅の柄の先には、見事というしかない龍の頭がつけられている。そして、開かれた龍の口から先にあるのはこれまた美しいとしか言いようのない幅広の刀身。
光を反射して浮かびあがる刃紋はまるで宝石のような輝きであり、刃が描く流麗な曲線美は芸術品と呼ぶのが相応しい。
「こ、これは……当代随一の名に恥じない仕事ぶりだ……」
人は美しいものを見ると言葉を失うというが、今の一刀がまさにそれであった。
店主は自慢げにその偃月刀についての
一刀は外野の喧騒も忘れて、しばしその芸術品に見入っていた。
「な、ななななななな!!!!!」
しばらくの間、武器をじっと見つめる男と、誰も聞いていない自慢を続けるオヤジという珍妙な光景が繰り広げられていたが、急に横から入ってきた声でその喜劇は終了となった。
一刀と店主が声のした方向を同時に向くと、そこにはまさに件の偃月刀を指さしながら、プルプルと震える女性が立っていた。
彼女の急な登場に、驚き2人がしばし固まっていると、女性はものすごい勢いで店主へと向かってきた。
「おっさん!! この偃月刀はなんぼなんや?! いくらなら売ってくれるん?!!」
必死の形相で店主に詰め掛けて値段を問う彼女。
「い、いや、これは売り物ではなくてですね……」
あまりにも女性が強引なせいもあって、タジタジになりながら店主は売り物ではないことを伝えた。
「そんな?!! いけずなこと言わんといてーな! こんなええもん見せられてお預けとか、出来るわけないやん! な! 頼むて、これ、うちに売ってーな!」
それでも女性は引き下がらない。どうにか売ってくれないかと、店主に捲し立てる。
思いかけず、完全に部外者となった一刀は改めて、急に登場した女性の姿に目をやった。
身に纏っているのは羽織に袴という和風の服。そして、履いているのは下駄とくれば、一刀は望郷の念をこの女性に感じた。
しかし、肩から掛けた羽織の下にあるのは胸を隠すさらしが巻かれただけ、履いている袴も大きく切れ込みが入り、横からは生足が見えてしまっている。
(非常に目のやり場に困るが、これはこれで素晴らしい)
一刀はそう思い、今度デザインする服のバリエーションに取り入れようと考えた。こんな時も仕事のことを忘れない彼は非常に勤勉な男である。
閑話休題。
しかしこの女性、ただならぬ気配がある。一刀もこれまで何人もの豪傑にあってきたが、その誰にも劣らない、いやそれ以上のものを感じたのである。
彼女は間違いない、超がつく一流の武人なのだろう。であれば、この武器に惹かれたのも頷ける。
一刀がそう考えている間も、女性と店主の押し問答は続いていた。女性の迫力に押された店主はすぐにでも泣き出しそうな様子である。
一方の破廉恥な格好の女性も武器を買うまでは一歩も動かない気迫が見て取れる。
「陳さんもそこのあんたも、一度落ち着いて!」
武人の気迫を正面から受け続ける店主を憐れんで、一刀は仲裁に入るために間に声をかけた。
一刀の声に、2人はいったん組み合うような形から離れる。店主はわかりやすく助かったっと安堵した様子である。
「なんやあんた? あんたもこの武器は売れへんっていうんか?!」
喧嘩腰の女性は、急に入ってきた一刀の方を睨みつけた。その迫力は本物であり、確かにこれをずっと真正面から受けていた店主が泣きそうになるのも理解できる。
しかし、一刀は努めて冷静なままその視線を受け止めた。
「いや、あなたがただならぬ武人であることは見ればわかる。それに、俺だってこの武器の魅力は理解しているつもりだ。だから、これを欲しがるあなたの気持ちは痛いほど理解できる」
「なんや、ヒョロイ見た目の割には話の分かる奴やん!」
一刀は女性の返事に、男としての何かが傷ついたのを感じたが、これくらいで平静を失う彼ではない。
この世界に来て、こんな経験をするのはこれが初めてではない彼は、この感覚に随分と慣れていた。
「というわけで、陳さん。その武器にかけるあんたの思いは俺もわかってはいるけど、やはり武器の本分はそれに見合う人物に使われることだと思うんだ。だから、この偃月刀は彼女に売ってあげたらどうかな? 彼女ならこれに見合う人物だと俺は思うし、保証しよう」
一刀はするりと視線を店主の方に向けると自分の考えを告げた。
確かに、この偃月刀は見るだけでも美しいものであるが、やはり武器なのだ、と一刀は思う。ならば、その武器としての真価を発揮することこそが最もこの偃月刀を輝かせる、一刀は言外にそう伝えたのである。
「はぁ……、北郷さんにそんな真剣な目で言われちゃ、こっちも頷くしかないじゃないですかい……。わかりやした! この武器あんたに売ろうじゃねぇか!」
一刀の説得を受けた店主は諦めたように、それでいてどこか満足そうにそう言い放った。彼とて本心は一刀の言ったことと同じであったのだ。
「ほんまに?! おおきにやで、オッサン! それとそこの兄さんも!」
店主の言葉を聞いた女性は喜色満面の笑みでそういうと、すぐに支払おうとお金を入れた袋を懐から取り出した。
「というわけだ、姉ちゃん。お代は2万銭だよ」
そして、店主の言葉を聞いた女性は、袋を取り出したところで硬直した。
「……なぁなぁ、かっこいい店主さん。もうちょっとだけ安くならへん?」
その後、体の前で指を突き合わせると、急に猫なで声になって値切り交渉を始めた。
「……一体、いくらくらい持っているんだ?」
「うーんと、これくらい……」
店主の訝しむ声にこたえて女性がお金の入った袋を広げると、その中にあるのはざっと見ても1万銭と少しくらいである。
「か、勘弁してくれぃ!! これじゃあ大赤字だ。仕入れの値段にも届かねえ!」
「えぇー、そこをなんとか! 今、厳しいねん。これ以上、給金を前借りするって言っても詠が許してくれへんねん! だから何とかこれで!」
半額近い金額しか持ち合わせていないという女性に慌てて、首を振りながら無理だと告げる店主。一刀も同じ商人としてこれには同意である。
彼は態々、各地へと足を運んでここで武器を売っているのだ、その労力を費やして仕入れ値以下で売るのはいくら何でも許容できない。
とは言っても、女性も引き下がる様子はない。どうしてもこの偃月刀が欲しいのだろう。
このままじゃまた、さっきの状態に逆戻りしてしまう。
「はぁ、仕方ない……。陳さん、2万銭ならいいんだよな。だったらここに1万銭くらいはあるから、これと彼女のお金を合わせればお代には足りるよな」
見るに見かねた一刀は再度、助け舟を出した。
自身の懐から財布を取り出して足りない分を自分が出すと告げたのだ。
一刀が言ったことで売るという形になったのに、このままいってしまっては格好がつかない。1万銭は大金であるが、一刀にとって、この程度の出費であればまぁ特に痛手でもない。
「ええ! いいんですかい? 北郷さん」
「えっ?! あんたは神様やったんか……」
驚く店主と、なぜか手を合わせてこちらを拝んでくる女性。
「いいさ、いいものを見せてもらったお礼と、またこれからもちょくちょく見に来させてもらう分と思ってもらえれば。またいいもの仕入れたら是非見せてくれ」
一刀がそう告げると、店主もそのお金を受け取り、取引は成立した。
勿論、彼がここで口にしたいいものとは偃月刀のことであり、断じて他のものではない。
そして、女性はすぐに偃月刀を手に取ると、まるで愛しの我が子のようにそれを抱きしめて、柄に頬擦りをしていた。
「ほんま、おおきに!! いや、見た目に似合わんと自分、中々の男やん!」
ひとしきり、偃月刀を愛で終えた女性は一刀の方に来ると、肩をバンバンとたたきながら、礼を告げてきた。
正直、かなり痛いが、これも喜びの表れだと一刀は思い直してその礼に応えた。
「それにしても、この偃月刀に目をつけるとは自分もお目が高いなぁー。実はなんか武でも鍛えとるん?」
「いや、俺は見る専門で。使う方はからっきしさ」
「そんな、勿体ないで! この時代、いつ何時、危険があるかわからへん。いざという時のために、普段から鍛錬はしておいた方がええと思うで」
一刀の言葉を聞いた女性は真剣な顔でそう言ってきた。確かに彼女の言うことも一理あると、一刀は感じた。
「そうでさぁ、北郷さん。その女性の言う通り。今は何があってもおかしくないご時勢、剣の一本振れなきゃ、女1人守れやしないってもんですぜ」
彼女に同意する店主の言葉に一刀も考える。
(これまで、自分は確かに守られてきてばかりだったが、確かに今後のことを考えると、付け焼刃でも剣を振るえるようになるべきかもしれない)
”それに、店主が言ったように誰かを守らないといけない時が来るかもしれない”とも一刀は考えた。
明確に1人の人物を頭に思い描きながら、一刀は2人の言葉に頷いた。
「だったら、この剣なんかいいですぜ。これも南方の職人の作品だが、切れ味は一級品! 余計な装飾もない分、重さもそんなにはない。これなら旦那でもつかえますぜ。お代は結構ですから、どうか受け取ってくれやせんか?」
「どうせ、俺は非力だよ……。しかし、いいのか? これだってそこそこ値が張るんじゃ?」
「いいってもんですよ! 世話になってるのはこっちも同じことでさぁ。それに、北郷さんの初めての武器を売ったとなれば、俺も商人として箔がつくってもんですよ」
「なら、俺は調子に乗って札がつかないように気を付けるよ」
軽口をたたきながら、有難く店主の好意を受け取る一刀。手に取った太刀は、今日見た大太刀によく似ているが、二回りほどサイズは小さい。しかし、作りはしっかりしており手にはずっしりとした重みが感じられた。
「なぁ自分、せっかく最初の獲物なんやし、銘でも付けたらどうや?」
店主と一刀の様子を隣で見ていた女性が、いいことを思いついたかのように、一刀に提案してきた。
その言葉に、一刀も確かにと思う。
男なら一度は憧れる、名前付きの自分専用武器。一刀の中に眠る少年の心がくすぐられる響きである。
一刀は少し考えて、この小太刀の名前を”
隣の女性からは「なんや、けったいな名前やなぁ」と散々な評価であったが、一刀にはこれ以上の名前はないと思っていた。
”小さな玄鳥を守る為の剣”
一刀の決意を短く、それでいて確かに刻んだのがこの銘である。
こうして一刀は思いがけない形で、自分の武器を手にすることになり、この日から毎朝、この剣で素振りをすることが彼の日課になるのであった。
そしてその後しばらく、一刀達は武器についての自論を語り合ったが、日が傾きだしたころ、偃月刀の女性は帰る時間だと言って場を後にした。
駆けるように去っていた後、彼女は少し離れたところで何かを忘れたように立ち止まった。
「おーー! 今日はほんまにおおきになー、それと名乗ってへんかったけど、うちの名は張遼、字は文遠や! それと真名は
そう言い残して、偃月刀を抱えたまま彼女は夕日に向かって走り去っていった。
なんとなく彼女もおそらくは名立たる武将なのだろうとは思っていた一刀も、まさかあの”張文遠”であったことには流石に驚いた。
また彼女とはどこかで会うような予感を抱きながら一刀も店主に礼を告げて、帰路についた。
ゆっくりと一刀は自身の居場所へと帰っていく。腰には一振りの小太刀とそこに込めた決意を下げながら。
黄巾の乱が落ち着いて、しばらく経った頃の洛陽での一日であった。
ちなみに、一刀が腰に小太刀をつけて帰ってきたのを見た衛弘は、
「か、一刀……一体何が不満だったというのかい?! みんな、一刀が謀反をおこしたぞー!! であえ、であえ!!」
と喚き始めたので、一刀はその迷惑な小さな頭を腰の小太刀で小突いて止めた。
それが、一刀が得た獲物の最初の一振りとなったのは何とも皮肉な話であった。
一刀 meets 張遼
これだけなのに何でこんなに字数を使うんだ……
恋姫世界の武器について若干の考察入れました。
すべてをお金で解決する主人公の鑑。