真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの   作:MATSUKASA

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感想ありがとうございます。

拠点パートのラスト1話です。

チンチロリンのルールについては分かりにくければ「カイジ」かWikiを見ていただければと思います。


拠点フェイズ 1-4

『不幸な少女と豪運の少女』  (賈詡 ・???)

 

 

 

 

 

「あー! もう、どうして勝てないの?!」

 

「はっは、今日のオジサンはついてるみたいだ。悪いねぇ、お嬢ちゃん」

 

 洛陽の街中、そこに設けられた露店で、緑髪の少女が恨めしそうな叫びをあげていた。

 彼女の目線の先にあるのは、椀の中に入った3個のサイコロ。

 

 洛陽には各地から様々な商人が集い、多種多様なお店を出している。この店も、そんな変わった店の1つである。

 

 店に並べられた商品は、5個の髪飾りだけ。しかし、それらはどれも非常に精巧な作りのもの。巷で話題になり、今ではなかなか手に入れられないほどの人気の品ばかりである。

 

 普通であれば、すぐにでも売れてしまうような品だが、この店ではただお金を出してそれらを買い求めることはできない。

 店主とある遊戯をして、それに勝てばこれらの品から好きなものがもらえるという。

 

 その遊戯とは所謂、”チンチロリン”と呼ばれるものだ。

 

 簡単にその仕組みを説明すると、互いにこの3つのサイコロを椀の中に振り、その出目を競うというものである。

 

 しかし、その出目の決定法に少し特殊な決まりがある。

 この時、3個のサイコロ、それぞれの目がバラバラであれば”目無し”という例外を除けば最も弱い役として扱われる。

 そして、3個のうち2つが同じ目を出した時に初めて出目が確定する。同じ数字の目以外のサイコロの目が、その時の目となる。

 

 例えば出目が、(1・3・4)であれば"目無し"。(4・4・3)であれば出目は3。(1・1・6)であれば6といった具合である。

 この出目の大きさを以て、勝敗を決する。なお、出目の強さは、目無しより上では1が最弱、6が最強になる。

 

 勿論、それ以上に強い役も存在はする。

 3つのサイコロの目が(4・5・6)の時、本来は目無しであるが、この場合は例外。”シゴロ”という役で、これは出目6にも勝る。

 さらにその"シゴロ"よりも上には、全てのサイコロの目が同じ”ゾロ目”がある。

 

 両者が互いにサイコロを振り、出た目で勝負をするというのがこの露店のルールであり、店主に勝てば晴れて、商品の髪飾りを手にすることができるというわけだ。

 

 この緑髪の少女、普段は忙しく街に出ることは出来なかったが、今日はたまたま暇ができて街の散策に出たところで、このお店に出くわした。

 店主の誘いで覗いてみれば、商品としておいてる髪飾りは非常に質のいいものである。これを贈り物にすれば、自身の愛する主君はきっと喜んでくれると思い、彼女は誘われるままに料金を支払って、この遊戯に臨んだのである。

 

 その結果は、10戦して10敗。

 

 ここで冒頭の場面に戻る。

 彼女がつぎ込んだ金子は既に馬鹿にならないものとなっている。

 

「どうだい? まだやるかい?」

 

「当然よ! ほら、次こそ勝ってやるんだから!」

 

 しかし、負けが続いても彼女は引かない。髪飾りを手に入れたいのは本当だが、それ以上に負けたままで終わるなど論外だと思っていたのだ。

 

 再度、挑戦料を支払い、サイコロを握った少女はそれを椀へと放り込んだ。椀の中を激しく回るサイコロを、少女と周囲の野次馬は固唾を飲んで見守る。

 

 暫くの静寂を経て、サイコロの動きが鈍くなり、その目が明らかになった。

 

「やった! 6よ、6!! ようやく調子が出てきたわ」

 

 サイコロの目は(2・2・6)。出目は6である。

 かなりいい目を出したことに小躍りしながら、喜ぶ少女。周囲の野次馬もようやくこの不憫な子が勝てそうなことに安堵し、喚声をあげた。

 

「おお、こいつは驚いた。これは俺も気合を入れないといけないな……」

 

 しかし、そんな圧倒的な目を見ても店主は慌てた様子はなく、ただ感心して見せた。本来なら、自身の負けが濃厚なこの状況でも余裕を見せる店主は明らかに不自然であるが、自身の目を喜ぶ少女や野次馬はそのことに気が付かない。ただ1人、騒ぐ野次馬の中、じっとその店主の様子を見つめている黒服の少女を除いては。

 

「ふーん、さぁ一応あんたもサイコロを振ったら? まぁ、今回は私の勝ちでしょうけど!」

 

 一通り喜んだところで緑髪の少女は目の前の店主にそう促した。自分の勝ちを疑っていない彼女は自信満々といった様子である。

 

「いやいや、お嬢ちゃん。勝負は何があるかわからないもんだぜ。まぁ、みてなよ」

 

 そんな少女の自信を嘲笑うかのように店主はにやりとすると、サイコロを拾い上げておもむろに袖を正した。

 そして、気合を入れたつもりか、大きく両後ろに手を引いてから自身の頭の上でサイコロを握った両手を重ね合わせる。

 

「きええぃぃーー!」

 

 気合の入った掛け声とともにその手を振り下ろした。

 そもそも、この勝負は運否天賦のものである。こんな風に気合を入れたところで出目が変わるわけがない。そんな気持ちで、失笑する少女だが、どうも店主の男はそれが気に入らない様子だ。

 

「……お嬢ちゃん。1ついいことを教えてあげよう。勝負ってのは、下駄を履くまでわからないんだぜ。今の嬢ちゃんみたいに、自分の勝ちを確信した時こそ、一番危うい。そんなときに天はその慢心を咎めるのさ」

 

 サイコロが激しく動き回る中、説き伏せるように言う店主に、少女は何の世迷い言を、と切り捨てる。

 

 しかし、サイコロの目が決まった時、彼女はその言葉の意味を思い知らされた。

 

「……つまりはこういうことさ。悪いな。今回も俺の勝ちみたいだ」

 

 椀の中で止まったサイコロの目は(4・5・6)。”シゴロ”である。

 少女が出した渾身の出目6を、嘲笑うかのような結果。

 

 どよめく周囲の野次馬の中、少女は瞠目してしばし動けなかった。

 

「さぁ、どうするかい? まだやるか? それとも、ここらで引いておくか?」

 

 周囲の動揺をよそに、手早くサイコロと机に置かれた賭け金を回収した店主は、楽しそうに少女に尋ねてきた。

 しかし、そんな店主の声も今の彼女には届いていない様子である。

 

 勝ちを確信した状況から、まさかの敗北。それを受け入れるにはまだ時間がかかりそうであった。

 

 

 

 

 

「おじさん!! 私! 私がやるよ! いいでしょ?」

 

 しばし、ざわめく群衆の中、1人の少女がめいっぱい手を挙げながら参加を申し出てきた。

 

「ちょっとあんた?! 今は、ボクがやってるの! それに……今の見たでしょ。悔しいけど、この男の運は相当よ」

 

 後ろからかけられた声に、驚きながらも少女が振り返りつつその声に返した。

 彼女の目の前にしたのは、明らかに子供と呼べるような体躯の少女。流れるような銀の髪と陽の光を反射して光沢を放つ黒い着物に身を包む少女はおそらくどこかの貴族の令嬢か何かだろうと感じた。

 

 今の勝負もこの子は理解できてないのじゃないかという思いで、参加を諫めた彼女であったが、少女はそれを気にした様子はない。

 

「むー、こんな面白そうなもの私を抜きにやるなんてずるいじゃないか! まぁここは私に任せてみなされ! ……だよ」

 

 すぐに少女は彼女を押しのけて店の前に行くと、お金をだして挑戦を申し込んだ。

 

「おお、また随分と可愛い挑戦者だな。いいぜ、俺は誰からの挑戦だって受けよう」

 

「ふむふむ、それは重畳! それと、一応は確認なのだけど……この勝負って何回でも挑んでいいのかな?」

 

「ああ、勿論だ。お金がある限り、俺は何度でも挑戦を受けるよ」

 

 新しい獲物を見つけたように店主は舌なめずりをしながら、媚びるような声で少女の挑戦を受けた。その後、小首を傾げながら聞いてくる少女に店主はやさしそうにそう返した。

 

「ふーん……”お金がある限り”……ね。それを聞いて安心したよ!! じゃあ早速勝負と行こうじゃないか!」

 

 店主の言葉に、一瞬、底冷えするような声で呟いた少女はすぐにうれしそうな顔に戻ると勝負!勝負!といって挑戦料を机に置くと、その小さな身を乗り出してきた。

 

「おっと、待った。お嬢ちゃん、勝負の決まりはわかるかい?」

 

「後ろで見ていたからね、大体は理解してるよ! 要は、この賽を椀の中に転がせばいいのだろう?」

 

 手に取ったサイコロを指先でいじりながら答える少女に、店主も了承で返したことで勝負は成立した。

 

「まぁこんなのは、気合いを入れても意味ないよね……」

 

 そして、指先のサイコロを特に気負いもせず、少女は椀の中に転がした。

 

 再び、この場の全員の注目が中央の椀へと向けられ、再び静寂があたりを包み込む。

 

 その静寂の果てに、サイコロは動きを止めてその目が明らかになった。

 出た目は(2・2・5)の5。中々の出目である。

 

 おおーという声があたりに上がる。心配そうに事態を見守っていた緑髪の少女も、思いがけないいい目に安堵のような悔しいような気持になった。

 

「5か……うん、まぁまぁかな」

 

「へぇ……やるなぁ、お嬢ちゃん。これは俺も最初から気合を入れていかないとな」

 

 つまらなさそうな様子の少女と余裕を崩さない店主。

 

 次は店主の番である。彼は、椀のサイコロを回収すると、先ほど同様に徐に袖を正して大きく手を振りかぶった。

 

「きええぃい!」

 

 そして、よくわからない叫びとともにその手を椀の中へと振り下ろした。

 当然、彼の手に握られたサイコロはこのまま椀の中に放り込まれることになる、誰もがそう思った時。

 

「ぐわぁ、な、なにしやがる! 痛、いてて!!」

 

 しかし、その起こるべきだった事態はある者の手で防がれた。

 店主の目の前にいた少女が、 まさに手を振り下ろそうとした瞬間に立ち上がると、その手を掴んだのである。

 

 突然の事態に騒めく観衆。

 しかし、それも意に介さないままに少女は掴んだ手を捻り挙げると、店主の手から振られるはずだったサイコロは零れ落ち、彼は苦痛に顔をしかめた。

 

「いてて、なんのつもりだてめぇ! いくら餓鬼のやることとはいえ、こんなことしてただで済むとおもうなよ」

 

「盗人猛々しいとはこのことかな? よくもまぁそんな口が利けるものだね。ねぇ君、そこの落ちた賽を拾ってもらえるかな?」

 

 喚き立てる店主に、先程までの様子が嘘だったかのように冷たい目を向けた少女は、後ろの緑髪の少女に、彼の手から落ちたサイコロを拾うように伝えた。

 

 それが何を意味するのか、彼女にはわからないが、とりあえず言われたとおりに、机の上に無造作に落ちたサイコロを拾い上げた。

 

「ちょ、まて!!」

 

 この場で唯一、その意味を理解した店主の男が声を上げるが、その手を掴む少女が更に力を加えたことでそれ以上の言葉は出てこなかった。

 

「な、なによ、これ?! 賽の目が4と5と6しかないじゃない!!」

 

 そして、3つのサイコロを拾い上げた少女はそれをみて、明らかに異様なことに気が付いた。

 

 本来、サイコロの目は1~6、相対する面の和がどれも7になるように配されている。しかし、今、彼女の手にあるサイコロは明らかに異質であった。

 

 4の裏には4、そして5と6の裏も同様である。どうあっても、4以下の目は出ないようなサイコロ、それが3つ、彼女の手の中にあった。

 

「この店主は、客がいい目を出した時は自分の袖に忍ばせたそいつを取り出して使っていたというわけだ。そいつならどう転んでも4以下の目は出ない。それで、まんまと景品につられた客から金を巻き上げるという商売をしていたということだよ。……いや、こんなのを商売と呼ぶのは反吐がでるかな」

 

「ということは、さっきの”シゴロ”も、インチキというわけね!!」

 

 明るみに出た、男の悪事を糾弾するように叫ぶ彼女。しかし、意外にも少女はその言葉に首を振って見せた。

 

「まぁ、おそらくそうだろうけど。さっきの勝負にそれを使った証拠はないよ。だから、さっきの目が本当なのかインチキなのかを証明することはできない」

 

 残念そうに、そういった少女に、腕を掴まれた男は追従する。

 

「そ、そうだ、この嬢ちゃんの言う通り、証拠がねぇ! さっきのはちゃんとまともな賽を振った上での結果だ! それを、使ったのは今回が初めて……、いや実際には使っちゃいねぇ。ほんの冗談のつもりで今取り出しただけだ」

 

 誰が聞いても明らかなウソにしか聞こえない男の言だが、それを確かめる術はない。明らかな罪を前にしても、それを追及できないことに緑髪の少女は歯噛みする。

 

「まぁ、これまでのことは確認しようがないからね……。でも、この後のことは別だよ。もうその賽を使うことは認めない。正真正銘、正当な賽で勝負してもらう。とりあえずはそれでいいじゃないか」

 

 納得いかないが、彼女の言うことにも一理ある。

 緑髪の少女は忸怩たる思いを抱えながら、この場は引き下がった。

 

「まぁ、安心しなよ。私も自分のところの商品がこんな汚いことの見世物にされたんだ。このまま許すほど、甘ちゃんじゃあない……、さぁ仕切り直しだ! ここからが本当の勝負と行こうじゃないか!」

 

 捻り挙げた男の手を放しながら黒服の少女が明るくそう言うと、中断となった遊戯は再開された。

その少女の目には明らかな治まっていない怒りの炎が灯っているのに、この場で気が付いたのはサイコロを手にしたまま、悔しそうな表情をする彼女だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの勝負は一方的なものであった。最早、それは勝負とは呼べない何かであった。

 

「私の目はシゴロ、そちらの目は3。これで私の五連勝だね」

 

 最後に残った景品の髪飾りをその手に取りながら少女がそういうと、目の前の結果が信じられない様子の男は、自分の前に置かれた椀の中のサイコロを呆然と見つめるだけであった。

 

 

 ここまで、少女が出した目は最初の5を皮切りに、6→2のゾロ目→6、そしてこのシゴロである。男は完膚なきまでに叩きのめされ、全ての景品を持っていかれてしまった。

 

「さて、これで景品はなくなったけど、どうしようか?」

 

「勘弁してくれ……、もう今日は店仕舞いだ」

 

 呆然としたままの男に少女が声をかけると、男は静かに首を振って、撤収の準備を始めた。もう、客を引くための商品は根こそぎ取られてしまったのだ。男の行動は当然であった。

 

 しかし、少女はそれを許さない。

 

「あれま、随分傷心してるみたいだね。でも、それは困るなー。いくら、やる気がないといっても最初にした約束はちゃんと守ってもらわないと」

 

「約束? 一体、何のことだよ?」

 

 本当に言っている意味が分からないという様子で聞き返す店主。

 

「私が聞いたとき、君は”お金がある限り”勝負を受けるといったじゃないか! 確かに景品はもう無いみたいだけど、まだ”お金はある”……。だったら、この勝負はまだ終わっていないよ。君にはほら、そこのお金があるじゃないか。それがある限り、勝負を投げ出すなんて私は認めないよ」

 

 少女が指さすのは、机の後ろに置かれた1つの箱。その中には彼がこれまでに貯めてきたお金が入っていた。

 

「おいおい、冗談はよしてくれ。お嬢ちゃんが何者かは知らないが、今日はもう終わりだ。頼むから帰ってくれ」

 

 意気消沈した様子でそう告げる店主だが、それでも少女は引き下がらない。

 

「うん、ざっと見て5万といったところかな。結構、貯めてるねぇー。今、私の手元には1万銭の現金と手に入れた商品……安く見ても3万くらいがある。これで4万銭。それと……今私が来ているこの服。これは結構な上物でね、店だと2万はくだらない代物さ。……さぁ、これで6万! どうやら急いでいるみたいだし、ちまちまやるのはよくないね! 最後に君の5万銭と私の全てで6万銭を賭けての勝負と行こうじゃないか!!」

 

 指を折るようにして計算した少女に、男は何を言っているのかわからずに困惑する。

 

 自分の全財産である5万銭を賭けて勝負しろだと? そんなの受けるわけない。第一、そんな危険な博打みたいな真似を誰が好んでするものか!

 

「そんな勝負……受けるわけないだろ……。兎に角、今日はもう仕舞いだ」

 

 当然のように拒絶で返す男。

 

「ふーん……。女が服まで賭けると言っているのに、こそこそと帰る腰抜けだとは。この私もがっかりだよ。でもまぁ、腰抜けなら仕方ないね。早く帰って、泣きながらママのオッパイでも啜っていればいいよ。君にはそれがお似合いさ!」

 

 清々しいほど満面の笑顔で安い挑発をする少女に、手仕舞い始めていた男の動きが止まった。

 

「この餓鬼ぃ……、あんまし大人をなめんじゃねえぞ。こっちが下手に出ればいい気になりやがって……わかった、やってやろうじゃねぇか! 身ぐるみ全て剥がして、てめぇのその貧相な体を天下の往来に晒してやらぁ!! てめぇこそ、精々泣きながら真っ裸で母親のところに帰らせてやるよ!!」

 

 男は、額に青筋を浮かべながら、その挑発をさらなる挑発で返した。

 ここまで言われて引き下がるわけにはいかない、それに向こうは全てを賭けるのだ、これで勝てばこの生意気な餓鬼を泣かせて、その上でこれまでの負けも全て取り返すことができる。

 

 男は再度居直って、椀とサイコロを机に用意した。

 

 男の挑発と勝負する気になった態度を見た少女は、若干その挑発に苛立ちながらも、努めて冷静にその勝負を受け入れた。

 

 まさかの事態に、固唾を飲んで緑髪の少女を含めた群衆たちが見守る中、最後の勝負が行われた。

 

 

 

 

 

 

 その結末は、ご想像にお任せするが、暫く経った後、その場所には呆然と天を見つめる全てを失った男と、机の上には椀の中で”3つの赤い点を空に示すサイコロ”だけが残されていたであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいわよ、子弘!! あそこまで完膚なきまでにやってくれるなんて!」

 

 いまだ興奮冷めやらぬように語る少女、彼女は先程の現場に居合わせた緑髪の少女、賈詡。字は文和である。

 

 今、彼女のいる場所は先程の露店から少し歩いたところにある酒店(この時代の料理屋)である。

 

 あの後、彼女は自分を助けてくれた少女、子弘と名乗った少女に礼がしたいと告げ、こうして食事のために店へ一緒に入ったのである。

 

「いや、私はしたいことをしただけだよ! あのやり口に腹を立てていたのは私も同じだからね」

 

「でも、ほんとにすっきりしたわ。あの男、あんなインチキでボクをだまして11連勝もしていたなんて、本当に腹が立つ男ね!」

 

 賈詡の正面に座ってお茶をすする"子弘"と名乗った少女は、気にしないでといった様子で返した。

 

 賈詡は先程のことを思い出したのか、まだ収まらぬ怒りを抱えている様子であった。

 

 そんな彼女の様子を見て子弘は、

 

(うーん、文和ちゃんとの勝負であの特殊賽を使ったのは最後の一回だけなんだけどなー。他は普通の賽を使った上で負けてたし‥‥‥‥。というかそもそも、文和ちゃんの目はほとんどが”目無し”だったしなー)

 

 そんなことを思ったが、ここは言わぬが花かと考えて、静かにお茶をすすっていた。

 

「でも、本当に良かったの? あの男から回収したお金の殆どはそれまでの被害者に返してたし、その上、髪飾りまでボクにくれたけど……」

 

「ああ、別にお金欲しさにやったわけじゃないからね! それに元々それは君のものだよ。最後の勝負、インチキがなければ勝っていたのは文和ちゃんだ。堂々と持っていけばいいよ。それに、文和ちゃんみたいな子の手に渡るほうが、その髪飾りを作った人も本望だろうさ」

 

 賈詡の言う通り、子弘は巻き上げたお金を、賈詡を含めた店の被害者に返してしまった。その上、景品であった髪飾りも周囲にいた子供たちにあげていたのだ。

 

 決して少なくない金額と高価な装飾品をまるで惜しむ様子もない彼女に、賈詡はこの少女が一体何者なのか、大いに気になったが、恩人を疑うような真似をするべきではないと自分を戒めた。

 

「うん……。そういうことなら有難く受け取るわ。ありがとう。これで、月……ボクの友人も喜んでくれるはず」

 

「あれ、てっきり文和ちゃんが使うものだと思ったけど違うのかい?」

 

「うん、友達は一緒に地方からこの洛陽に来たのだけど、立場上忙しくてなかなか街に出てこられないの。せっかく都に来たのだし、少しくらい、都らしい楽しみをその子にもしてもらいたくて……、この髪飾りを贈ろうと思っていたの」

 

 本当にその友人のことを思ったように語る彼女に、子弘もいいことをしたような気分になり、彼女の献身を称賛した。

 

「きっとその友達も喜んでくれるよ。なんたってその髪飾りは、この都でも一級品だからね! うん、私が保証するよ」

 

「ふふ、どうしてあなたが保証できるのよ。でも、不思議とそういわれると本当に喜んでくれるような気がするわ」

 

「まぁ、聞く限りだとその子は、文和ちゃんがくれたものなら何だって喜びそうだけどね」

 

 取り留めもなく互いの友人などについて語り合う2人。今日、出会ったばかりだが気の置けない友人のような気持になりながら、その後、日が沈むくらいまで2人は話し込んでいた。

 

 そして別れ際、2人は今度、その友人も連れて3人で街を散策しようと約束をしたのであった。

 

 その際、この街にはあまり詳しくないという賈詡に、子弘はこの街のことならなんでも聞いてくれと、無い胸を張りながら自信満々に答えた。

 そんな彼女の様子が、背伸びをする子供のように思えた賈詡は、笑いながら楽しみにしていると告げ、自分の居場所へと帰っていったのであった。

 

 この時、確かに2人は友人となった。

 

 この先に待ち受ける乱世に、自分たちが大きく巻き込まれていくことになるなど、この時にはまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 




店主「ノーカン、ノーカン!! こんな勝負はノーカンだ!」


新キャラ登場です(嘘)。彼女の正体はまた今後明らかになる予定です。


これで拠点パートを終わって、次から本章に入ります。
番外とは言いつつ、所々本章にも関係してくる話もあります。

次の章は若干、重い感じの話題から始まる予定です。
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