真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの   作:MATSUKASA

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19話 接近 虎穴に入らずんば虎子を得ず

 

 

 

 

 

少し時は遡る。

 

 

 董卓軍への支援をすることとなり手配を終えた一刀は、それらの引渡しの為に、洛陽の東門へ来ていた。

 

 そしてそこで、意外な人物と再会を果たすことになった。

 

「まっさか、一刀があの”衛北商会”のお偉いさんやったとはなー。よっ、お大尽!!」

 

「……霞。無駄話をしてる暇があるなら、物資の確認をさっさと済ませて欲しいが」

 

「ええねんって、そういうのは陳宮がやってくれとるから」

 

 せわしくなく、商会の人間と董卓軍の兵士が行き交うのを眺めながら暢気にしている張遼を、非難するように一刀は愚痴をこぼした。

 しかしそんな嫌味にも張遼は、どこ吹く風という様子である。

 

 今回の物資の引渡しに際して一刀は責任者を任され、こうして直接現場へ赴いたところ、以前に街で出会った懐かしい顔に再会した。

 

 ”張文遠”、彼女もまた董卓軍側の責任者としてここにきていたのである。

 彼女は商会の人間の中に一刀の姿を見つけると、若干の驚きはしたものの、妙に納得がいった様子であった。そして、こうして旧交を温めようと周りは忙しい中、一刀に話しかけている。

 

「もう、一刀もつれへんなー。せっかく同志とこうして再会できたんや、ちょっとは嬉しがるのが筋っちゅーもんやで!」

 

「生憎、今日は仕事で来てるからな。それはこの引渡しが終わってからにしよう。その時は、あの時貸したお金についても含めてじっくり話すのも吝かじゃあないかな」

 

「あっ!?……なぁ、ところで一刀? 自分らこんな量の物資を気前よく支援してくれたけど、実際のとこどんくらいお金持っとるん??」

 

 一刀の言葉に、「うわー、藪蛇やったかー!」という顔をした張遼は、強引に話を変えようとした。

 

「……その手には乗らないぞ。どうせここで俺がそれを答えたら、「そんなにあるなら、あれぽっちのお金、無いのと一緒やな!」とでも言って、踏み倒すんじゃないのか?」

 

「…ぎくり! そんなことあらへんよー」

 

「せめて、こっちを見て言ってくれよ……」

 

 一刀の訝しむ言葉に、張遼はわかりやすく動揺し、明後日の方向を見ながら口笛を吹くようにしていた。

 

「でも、そんなことより……その口振りやと、やっぱ相当に貯めこんでるんやろ?! ええなー、羨ましいわ。そんなにあるなら少しくらいうちに分けてくれてもええんと違う?」

 

 搦手が通用しないのなら、今度は正面突破である。そう言わんばかりに、張遼は媚びるような声で一刀に伺ってきた。

 

「たとえ俺が何十億銭と持っていたところで、1万銭は1万銭に変わりない。後ろにお金があるからってその価値が下がったりはしないし、返すものはキッチリ返してもらうぞ」

 

「一刀のケチ!」

 

「ケチで結構! ケチでなきゃ商人なんてやれないからな」

 

 だが当然、その正面突破も難攻不落の一刀には通用しない。貸したものは返してもらう。それは商人であれば当然の道理である。

 

 吐き捨てるように張遼が言った文句も、彼にとっては悪口でも何でもない。堂々とした様子で、一刀は言い返した。

 

「わかった、わかった。ちゃんと耳そろえて返すさかい、もう少しだけ待ってな、もうちょっとしたらまとまった金額が用意できるねん!」

 

 古今東西、こういう人物が言葉通りにお金を用意できるとは思えないが、一刀はあえてそれを口にしなかった。

 

 勿論、彼に、このまま踏み倒されてしまうのを黙って良しとする気は毛頭ないが、同時に、目の前の張遼がそれをするような為人ではないとも確信していた。

 特に急ぎで返してもらわないといけないような金額でもない。

 

 一刀は、彼女の言葉に「期待しておくよ」とだけ返して、それ以上の催促をすることはしなかった。 

 その後、しばらく張遼と他愛もない会話をしながら待っていると、お互いの部下から滞りなく受け渡しが完了したという報告が上がってきた。

 

「うし! じゃあうちは宮中の方に行った詠に報告に行くとするな。……ほいならな、一刀! 次に会うときまでに金の方は用意しとくで! そん時は、酒でも飲みながらまた話そうな!」

 

「……期待はしないで待っておくよ」

 

 報告を受け取った張遼は、そう言い残して、颯爽と街へと戻っていった。

 やっぱり次に会う時も返済は期待できないかもしれない、しかもその時は酒まで奢らされる羽目になりそうだと思いつつ、一刀は彼女の背中に声をかけた。

 

 しかし、将軍という地位にあってもこうして気さくに話してきてくれた彼女との会話は、一刀にとっても決して心地が悪いものではなかった。

 

 彼女と酒を酌み交わしながら、馬鹿話に興じるのも悪くない。まぁ、それなら多少、お金を出してもいいのかな。

 

 そんなことを思い、彼女との酒を楽しみにしながら、一刀も撤収するために素早く周囲の人に指示を下したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の外で物資の引渡しが行われているころ、董卓軍の軍師である賈詡は1人、宮中にいた。

 

 宮中の無駄に広い廊下を歩きながら、彼女は今後の自軍の戦略について頭を巡らせていた。

 

(子許のおかげで、久々に充実した物資で今回の討伐には臨める。霞と恋の2人なら特に、策なんてなくても大丈夫そうではあるけど……念の為にもう一度、行程を確認しとくかな)

 

 元々、何進の理不尽によって押し付けられた今回の討伐任務であるが、もし董卓軍に落ち度があるようなこととなれば、今度は鬼の首を取ったように何進はそれを弾劾してくるだろう。

 

 そうなれば、また親友であり主君でもある董卓に多大な心労をかけることになる。それだけは何としても避けなければいけないと思い、賈詡は入念に今後のことを考えていた。

 

「お急ぎのところ申し訳ありません。董中郎将の軍師、賈文和殿とお見受けしますが、今、少しお時間よろしいですかぁ?」

 

 歩きながら思考に耽っていた賈詡に後ろから声がかけられた。

 妙に間延びしたような声音と考え事をしていた最中ということもあって、賈詡はぞんざいにその声に返答する。

 

「誰? 確かにそうだけど、今ボクは急いでいるの」

 

 振り返った賈詡の目に入ったのは、1人の女性。

 仕立てのいい服に身を包み、包容力のあるようないでたちの彼女だが、どうも纏う雰囲気は只者ではない。

 

 どこかの貴族か、あるいは宮中の権力者か。

 

 投げやりに答えたことをしまったと思いながらも賈詡はその女性が何者か問うた。

 

「ああ、申し遅れました。私は十常侍に名を連ねる趙忠と申します」

 

 賈詡の問いかけで思い出したかのように、名乗った女性。賈詡は自分の前にいる人物が想像した以上の大物であるとことに瞠目した。

 

 ”趙忠”

 長年にわたる宮中の政争によって、今や皇帝の信頼と絶大な信頼を得た宦官たち。そしてその中でも、権力の中枢にいるのが十常侍と呼ばれる者たちである。

 趙忠は、その十常侍においても筆頭の地位にあり、皇帝から”我が母”と言われるほどの信任を得ていた。

 まさしく、今や宮中を牛耳る宦官たち、さらにその頂点に位置するともいえる人物が彼女であった。

 

「何故、あなたのような人がこんな一介の新任中郎将の軍師にわざわざ声をかけたのかしら?」

 

 しかし、いくら宦官のトップにある彼女といっても、立場上、賈詡は強気な態度を崩さない。

 

 一応、賈詡が仕える董卓は今、大将軍である何進の麾下に置かれている。そして、何進が宦官勢力と対立関係にあるのは、もはや周知の事実であった。

 

 それ故に、ここで賈詡がその宦官のトップである趙忠に下手に出るようなことが誰かに見られれば、何進はそれを気に入らないだろう。

 

「まぁ、こんなところで立ち話もなんですから、良ければ少し座って話をしませんか?」

 

「……あなたと話をしているところを誰かに見られれば、どんな言いがかりをつけられるか分かったものじゃない。せっかくのお誘いだけど、遠慮させてもらうわ」

 

 気さくな様子で、通路に面した座席に誘う趙忠。しかし、賈詡は警戒したまま、彼女の言葉に否定を告げた。

 賈詡には趙忠の意図が分からなかった。

 

 このまま彼女の誘いに乗るというのは、あまりにも危険だと判断したのである。

 

「んー、随分と警戒されてますねー。……まぁ当然ですね。むしろこれでほいほい付いてくる程度の人物なら、こっちから願い下げですし」

 

 趙忠は自分のことを注視する賈詡を逆に価踏みするように言う。

 

「……やはりあなた目を付けたのは間違いじゃなかったですね。ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。この区画は入念に人払いをしていますから、ここで私達がどんな会話をしても漏れることはありません」

 

「……どういうつもり。あなたの敵側の何進についているボクに、そんな手間をかけてまで私と話したいということは何なの?」

 

 自分の懸念まで見透かして、それを排した上での再度、誘ってくる趙忠に、賈詡はその真意を尋ねた。

 

「私はあなたたちを敵なんて思っていませんよ。むしろ、傾さんの横暴に振り回される貴方達とはいい関係が築けると思っています」

 

「あら、裏切りの誘い? それなら生憎だけど間に合っているよ」

 

 あからさまな好意を示し名が言う趙忠にも、賈詡はにべもなくそう答えた。しかし、趙忠の真意は彼女が言った裏切りの誘いなどではない。

 

「……違いますよぉ。そんな程度のくだらないことであれば、こうして私が出張ってくるようなことはしません。私があなたと話したいのは……もっと大きなもの。この国の行く末についてです……」

 

 賈詡の力を抜いた言葉に対して、趙忠はそれまでのほんわかとした態度を一変させると、有無を言わさぬ迫力でそう告げた。

 

 この言葉には、賈詡も言葉を失い、ただ彼女の言葉に耳を傾けた。

 

「ここだけの話ですが……おそらく天子様のお体の具合は、もう長くもたないでしょう。そして、その後に起こることは……あなたなら理解できるでしょう?」 

 

 続いて、趙忠の口から語られた言葉はさらなる衝撃を賈詡にあたえた。

 

 彼女の口から語られたのは、とんでもない事実であった。

 

 この大陸の支配者である、皇帝の死。

 それを予期させるようなことをこうして自分に伝えたのは何故か? いや、そもそもこの話は本当なのか?

 

 様々な疑念が濁流となって賈詡の脳内を巡る。

 

「……もし仮に、その話が本当だとして、それをボクに話すあなたの目的は何なの?」

 

 辛うじて彼女の口から出たのは、そんな言葉であった。

 

「私も伊達や酔狂でこんなことを騙ったりしません。先ほどの話は紛れもない事実です」

 

 前置きするように言ってから、趙忠は話を続ける。

 

「……私はこの王朝については誰よりも知っている自負があります。だからこそ、天子様の身に何かあれば、今の王朝がどうなるのか、予想はついているつもりです。……それを何とか防ぎたい、その為にはあなた方の協力が欲しい、だからこうして人払いをしてまであなたを呼び止めたというわけです。……どうですか? 私の話を聞いてくれる気になりましたか?」

 

「あんたの思惑はわかった。けど、その前に1つ聞かせてもらえる? どうしてボク達なの?」

 

「私達は政治権力こそ掌握していますけど、軍事についてはからっきしです。……ですがこの先のことを考えると、武力は必ず必要になります。それと、こうしてあなたに話を持ち掛けたのは……、あなたと董仲穎殿であれば、私に賛同してくれると見込んで……ですね」

 

 再度、賈詡は目を瞠った。

 

 自分たちが涼州からこの都にきてこれまで目にしたもの、そして、董卓が思い描いた理想を目の前の彼女は全て見透かしているというのだ。

 その上で、協力を持ち掛けてきている。

 

 ここは彼女の話を聞くべきだ。賈詡はそう判断した。

 

 もし、彼女の話が自身の主君が望むものに利用できるなら精々利用してやればいい。それに、もし違うとしても、ここで聞いた情報はそれ以外にも使えるはずである。

 

 そう考えたうえで、賈詡は趙忠の話を聞くと決めた。

 

 たとえ彼女の誘いが、自分たちを蝕む毒であったとしても、愛する主君の描くものの為にはその毒くらい飲み込むくらいの覚悟が必要である。

 

 ”漢王朝の再興と世の安定”

 

 都と宮中の現状に嘆いた董卓の理想、それは、人の手には余るものかもしれない。しかし、心優しくも強い芯をもつ彼女は、それでもこの夢をあきらめはしない。

 

 であれば、彼女の軍師である自分の役目は、その実現のために出来る全てを尽くすことであるはずだ、それは紛れもない賈詡の本心である。

 

「あんたの話を全て信用するわけじゃない。それでも……ボクと月……董仲穎の理想の実現に役に立つというなら、その話、聞かせてもらおうじゃない。」

 

「ご安心ください。しばらくはここに人が来ることはありませんから。……共に”王朝の存続”を願う私達は分かり合えると思いますよ……」

 

 こうして賈詡は大きな一歩を踏み出した。

 この判断は自分と主君にとって、必ずや役に立つものでる、いやそうして見せるという、確固たる決意をもって。

 

 しかし、彼女は気が付かない。

 彼女が踏み出したその一歩は、いつの日か、彼女の友人である商人が語った、毒壺へと踏み出す一歩でもあったということを。

 

 

 

 

 かくして、時代の歯車は回り続ける。

 様々な思惑がたがいに渦巻き、絡まり合い、そして溢れ出す。

 

 そして賈詡と趙忠の邂逅から暫くの時が流れてついにその時が来たのである。

 

 ”霊帝崩御”

 

 この報せと共に、止まっていた混沌の世は静かに動き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、この報せが大陸に知れ渡った時の反応は意外な程に冷静なものであった。しかし、この先の乱世を見据える者たちは、この一報が次なる戦火の幕開けになるという確かな予感と共に、事態の行く末を見守った。

 

 そして身を刺すような緊張感が大陸に広まった中、その張り詰めた糸を震わせる事件が起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、”次期皇帝についての話があるため、至急宮中に参内されたし”か。これは余達に風が吹いてきたな」

 

 皇帝の死を受け、盛大な国葬の用意が進められているなか、何進は大将軍府にて宮中より届けられた報せを手にしながら、ほくそ笑んだ。

 

「ええ、姉さま。次の皇帝になるのは長子である妾の子、弁殿下に決まっています。そうすれば、私と姉さまは、晴れて皇帝の母と叔母ということになりますから、もうあの宦官達に気を使う必要はなくなりますわね」

 

「ああ、瑞姫。今回の訃報、余達にとっては間違いなく吉報であった。お前があの愚鈍な男に嫁いだ目的が、ようやく成就する時が来たのだ!」

 

 何進は妹の何太后に向き合って、力強くそう告げた。

 

 元は一介の肉屋に過ぎなかった自分たち姉妹が、ついにこの大陸で最高の権力者の地位にまで上り詰める時が来た。

 2人は湧き上がる歓喜にその身を震わせた。

 

「ええ! 妾も今以上に贅沢な暮らしができるのね!」

 

「はは、当然だろう。お前は皇帝の母となるのだ。その権威は今以上になるだろう」

 

 姉妹の描いた夢がもうすぐそこまで迫っていることに2人は浮足立ちながら、そんな会話を交わした。

 

 そして何進は、最後の仕上げだと言わんばかりに立ち上がると、宮中からの知らせを握りしめて、急ぎ参内する支度を始めた。

 

 やはり自分は間違っていなかった。袁紹は盛んに、宦官討つべしと上奏をしてきたがそんな労をせずとも今こうして、権力は私のもとに転がり込んできたではないか。

 

 何進は自身の成功を疑っていなかった。それは隣にいる妹の何太后とて同じである。

 

 それ故に、彼女達は気が付いていなかった。

 

 あまりにも今の状況ができすぎているということ、そして、そんな状況をみすみす見逃すほど、宮中に巣くう宦官達は甘くないという当たり前の事実に。

 

 何進は勇み足で宮中へ向かっていった。

 そこには自身を嵌めるために巧妙に張り巡らされた罠があるとも知らないままに。

 

 

 

 

 暫く宮中への道を進んでいく何進。

 大将軍府から宮中へ行く道すがら、逸る気持ちを抑えながら進む彼女を出迎えたのは、蹇碩という男であった。

 

「おお! 何大将軍!! お待ちしておりましたぞ」

 

「蹇碩か……その口振りだと、余を呼びに来たということか?」

 

 大袈裟に両手を広げながら歓迎するように言う男に、何進は上機嫌を隠さないままに問いかけた。

 

「此度の一件、誠に残念なことではございますが。この大陸の安寧を思えば、我らは悲しんでばかりではいられますまい」

 

「然り。故に余もこうして、悲しみに震える身を奮い起こしてきた。肝要なのは、我らが擁くべき天子様を決めることだ」

 

「…………流石にございます。何大将軍がご健在であれば、この大陸の平和も守られましょう」

 

 何進は心にもないような建前を弄する。その実は、この国家の一大事を経て、如何に自分が更なる権益を獲得するかということにしか興味がない。

 

 何進の背に付き従うようにして、ともに宮中へと向かうこの”蹇碩”という男も彼女と同じである。

 

 元々、何進は立場もあって宦官とは正面から対立していた。しかし、この蹇碩だけは少し事情が違った。

 蹇碩は、宦官でありながら武にも通じており、少し前に設立された西園八校尉の最上位、”上軍校尉”に任じられた男でもあった。

 

 そのことに宦官嫌いで有名な袁紹などは憤慨して見せたが、何進は大きな反発を見せることはなかった。蹇碩は何進と内通していたのである。

 

「蹇碩、貴様のこれまでの働き、誠に大儀であった。此度、弁殿下が皇帝となられた暁には、相応の褒美をもって応えられるであろう」

 

「……光栄にございます」

 

 蹇碩が密かに何進へ、宦官たちの動きを伝え、何進はそれに倣って宮中で彼らと立ち回ってきた。

 袁紹が彼女に、宦官の排斥を上奏しても彼女がすぐにそれを良しとしなかった理由の1つには、蹇碩を通じて宦官の動きを把握していたという余裕も関係していた。

 

 奴らを排せずとも、奴らの動きをこちらは把握できている。それに、自身の周囲には徹底して宦官の息がかかった者は忍ばせていない。

 

 こちらの動きは気取られず、敵の動向は手に取るようにわかる。この余裕こそが何進に、武力での宦官排斥を留まらせた。

 

 そして、彼女はこれまでの働きを労うように蹇碩に言葉をかけたのである。

 

 

 

 

 しかし、この自信がすべて虚構の上に成立したものであったとしたらどうであろうか。

 

 自分は敵を知り、敵はこちらを知らない。

 

 そもそも、そう思わせることこそが敵の狙いであり、その為にあえて自分たちの手の者を傍に忍び込ませた。

 彼女はその可能性を考慮するべきであった。

 

 もし、それに少しでも気付くことができていれば、自身の言葉に後ろで答えた男の返事に、隠せない侮蔑の色が含まれているということに気が付けたはずである。

 

 それでも、自身の出世を信じる彼女は気が付かない。そして、何も知らないままに自ら窮地へと足を進めていくのであった。

 

 

 

 

 

 




次回「何進死す!」
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