真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの 作:MATSUKASA
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何度も書き直していたら遅れてしまいました、すみません。
「なるほどですねぇ。詠さん達は、敵が貨幣の力の上に立ってこちらを締め上げようとするなら、その貨幣をこちらで掌握してしまえばいいと考えているわけですか……」
一通り、黙って賈詡の考えを聞き終えた趙忠は彼女達が示した策の目的を確認するように呟いた。
「ええ、見えない貨幣の力でこちらに向かってくる彼女達を軍で立ち向かうことはできない。だから、向こうが持つ貨幣の力をこっちとしては何とかしないといけないの。その為の”新通貨”発行よ」
今、洛陽を窮地に追い込んでいるのは十中八九、衛弘達の商会である。彼女達はこれまでの商売を通じて築き上げてきた民衆からの信頼と幅広い商人たちとの人脈、そして豊富に蓄えた資金を駆使してこちらを締め上げてきている。
そして、その力がどれ程のものなのかは今の洛陽の街を見ればいやというほど理解できる。
日を追うごとに街の市場から商品は減り、そして商人と庶民は競うように商会がある地域へと逃げ出していく。このままいけば、賈詡が言う通り、遠くないうちに洛陽の市場からはあらゆる商品が消え、同時に商人や庶民もどんどんと洛陽を去っていくだろう。そうなれば、最早この街は空っぽとなり、名ばかりの都になってしまうだろう。
街から物資と人口が消えていけば、そこを拠点とする董卓達の基盤が根こそぎ失われることを意味する。それは文字通り、完全な敗北となるだろう。
このままいけば自分達が辿り着く結末を理解しているからこそ、賈詡はそうならない為の”秘策”を携えて趙忠の下に来たのである。
他にも、彼女の主君である董卓の目的を達する為という点からも、目の前の宦官を束ねる女の協力は賈詡にとって欠かせないものでもあった。
「とりあえず、詠さん達の考えた方策は分かりましたし、考えた理由とそれが効果があるということも理解はできます。でも……それを具体的にはどうやるおつもりですか?」
趙忠は一旦は、賈詡の構想に理解を示した後、最も課題となる点を聞いてきた。確かに、商会の権力の基盤は貨幣である。彼女達が民衆や商人を思い通りに動かせているのは貨幣を通じた権力を有しているからである。
その貨幣の基盤を破壊するという策の目的は理解できる。それに、その手法として新通貨を発行して相手の有する貨幣を揺らがせるというの確かに効果があるだろう。
しかし、それはこの手法が実行できることが前提の話である。
いくら有効な手立てとはいっても実際に行えなければ、所詮は絵に描いた餅である。この新通貨発行という対抗策を機能させるためにはどうしても克服しなければいけない課題がある。
「……とりあえずは、白湯様(現皇帝劉協の真名)の許可を頂いて、月の号令の下で歴代皇帝の廟に兵を向かわせてる。そこから手当たり次第に銅製のものを接収して、通貨の鋳造に充てるわ」
「勝手にそんなことをしていたんですか……。文句の1つも言いたいところですが、白湯様が許可されたならまぁいいでしょうか。それでも、そこで得られる”銅”なんてたかが知れています。この策で本当にその商会とやらの基盤を壊したいのなら、並大抵ではない量の通貨を発行しないといけません。その程度では到底賄えませんよ」
趙忠が懸念する課題は当然、賈詡達も十分に理解しているものであった。
新通貨を発行して、貨幣による信頼を破壊するとなれば膨大な新通貨を流通させなければ意味がない。
賈詡が言う、皇帝の墓荒らしをしたところでそれに見合うだけの原料を確保することは無理というのは趙忠でなくとも理解できることである。
「勿論、それだけで充分な銅を得られるとは思っていない。だからこそ、こうしてボクがあんたの所に来たのよ」
しかし、趙忠の嘲笑にも似た指摘を受けてもなお、賈詡は怯むことはない。むしろ、ここからが本題であるといった様子で鋭い目線を趙忠へと向けた。
「へぇ? 是非その考えを聞かせてもらえますか?」
どう考えても実行できない策だと趙忠は判断したが、目の前の賈詡はその不可能を可能にするための考えを秘めている様子でる。
その考えを是非とも聞きたいといった様子で、趙忠は余裕を見せながら続きを促した。
そして、
「この洛陽にはまだまだ表に出ていない莫大な銅があるはずよ。……あんた達、宦官が持つ私財としての銅貨。それを改鋳する形で新通貨発行の原料にする。そうすれば発行量は策の効果を持たせるほどに達せられるはずよ」
賈詡はさらに覚悟を決めたような表情で自身の秘めたる考えと、ここに来た理由を口にしたのであった。
彼女が今口にした言葉で、最初に語った”協力”の具体的な内容を完全に理解できた趙忠は、この話し合いにおいて初めて余裕の表情を曇らせ、目に見えてわかるほどにその顔を歪ませた。
「……それは、私達に新通貨発行のための銅貨を差し出せ、という意味ですか?」
「そうよ。勿論、一旦供出した銅貨は新通貨を発行した際に、同じ額面でもとの持ち主に返すわ」
「……それを信用しろとでも?」
「そこは信用してもらうしかないわね……。必要なら供出した額面の借用書でも用意してあげる。それに、本気でその銭貨を巻き上げようとするならこうしてあんたに話すこともなく無理やり軍を動かしてやっているわよ」
「それはどうでしょうね? 私が言うのは何ですが、軍を動かして無理やり探したとしても私たちの持つ私財をあなた達が正確に捕捉できるとは思えませんし」
「確かに、こうしてボクが協力を申し出に来たのは、宦官を束ねているあんたなら確実に部下たちが蓄えている私財を把握しているからということでもあるけど、ボク達なりの誠意でもあるよ。それに……この策がそもそもできなければボク達は行き詰まって終わる。そうなればあんたたち宦官もただじゃすまないはずよ」
互いに一切目をそらさないで、口論を重ねる。
賈詡の言う通り、趙忠達宦官は先帝の頃から、都における人事などを掌握してきた結果、莫大な賄賂を受け取り、あるいは自身を有力な地位に付けて富を蓄えてきた。
その蓄えた銭貨を改鋳し新通貨の製造に充てるとなれば、課題であった発行量の問題は解決できるかもしれない。賈詡は明確に言葉にはしていないが、その場合に新しく鋳造される通貨は、従来の五銖銭に比較して、著しく質が悪くなるものになるだろう。
彼女が言う”同じ額面を返す”ということは、旧五銖銭1枚に対して、新通貨を複数枚作るような形でしか実現できないことは、確認するまでもないことだ。それをやるからこそ、彼女は同じ枚数の銭貨をちゃんと返すと口にしている。そんな質の悪い通貨を同じ額面でもらったところで等価交換とは言い難いのは明白である。
随分と図々しい話であるが、最後に彼女が口にした脅しに似たような言葉も事実であった。
「自分たちの敗北を材料にするとは、随分と情けない脅し文句ですねぇ」
「いや、協力関係を結んだ以上、ボク達の敗北はあんたたちの敗北にもなるはずよ。ここでボク達が有効な手立てを打てないままに沈めば……あんた達も一緒に沈む」
「それは自分達を過大評価しすぎですよ。詠さん達は私達にとっては数ある選択肢の1つに過ぎませんから。あなた達が沈んだとしても、私達にはこれまでに築いてきた権力の基盤があります。手を回して他の協力者を用意するだけです」
「……今の大陸の情勢でそんな協力者がいると思うほうがよっぽど楽観的な考えね」
話し合いはどんどんと物騒な方向へと進んでいく。
自分達の敗北を交渉材料として、協力を引き出そうとする賈詡に対して、趙忠は董卓と自分達は対等ではないことを匂わせるような発言で応えた。
一触即発といった空気が室内を支配するが、ここでの話し合いで趙忠の協力を得なければ、これまでの全てが水泡に帰してしまう賈詡はここで引くわけにはいかなかった。
情けなくとも、みっともなくとも自分が今出せる全てを以て、目の前の趙忠を説得すること、それは彼女が董卓の軍師としてしなければいけないことであるのだ。
「とにかく、この現状をどうにかする為にはこの策を上手くいかせるしかない。あんた達にとっても現状を放置することは望ましくないはず。だから……ボク達に協力して」
賈詡は机に手を置くと趙忠に向かって深々と頭を下げて見せた。
「……意外ですね。詠さんがここまで形振り構わずお願いしてくるなんて。それでも、協力はできません。そもそも、この策が上手くいって商会をボロボロにできたところで、その後のことはどうするつもり……」
常ならぬ賈詡の様子に困惑しながら、それでも答えは変わらないといった様子の趙忠は、この策の根本的な欠陥について指摘しようとしたところで言葉を止めた。
そう、この策には実行に移せたところで解決しようがない重大な欠陥がある。それは、狙い通りに貨幣による権力、つまりは商会の力を失くすことに成功した時に生じるものである。
貨幣の駆逐にも等しいといえるこの策。成功した暁には、この大陸においては信用における“貨幣”というものが失われることになる。それは、後世に亘っても計り知れない影響を及ぼすことは趙忠にとっても容易に想像ができることである。それは目の前の賈詡や彼女の主君である董卓にも同じであるはずだ。
にもかかわらず、彼女達はどうしてこのような暴挙に及ぼうとしているのだろうか。
趙忠はここに及んで、彼女達の真意が分からなくなった。
最初は相対している商会に最も有効な手立てということで手段の有効性が理解できたものの、その手法の困難さ、そして後世への弊害までを天秤にかけると、現在の窮状を打破することを差し引いてもあまりにも不利益の方が大きい政策である。
下手すれば、いやしなくてもこの政策を実行した時点で後世の歴史家たちは“史上最悪の愚策”という評価を下すに違いない。
それほどまでに愚かな政策である。
そして、それが分からないような董卓や賈詡ではないはずである。それなのに何故、このような愚行に及ぼうとしているのであろうか。
趙忠は大きな困惑を覚えた。そして、彼女は思考する。
――新通貨発行の目的は?
窮地に立たされた現状の打開とこの状況をもたらした者達への反抗。
――新通貨が出回ることによって引き起こされることは?
粗悪な貨幣の乱発による貨幣への信用の失墜。貨幣経済の崩壊。
――貨幣の失墜で齎されるものは?
貨幣による権力を持つ者の失権……
そして彼女は様々な自問自答を経た上で、彼女なりに董卓達が事に及んだ1つの結論へと辿り着いた。
「あー……なるほどぉ。 そういうことですかぁ!?」
思考に耽り、1つの突拍子もない結論を得た趙忠は似つかわしくないほど大きな声をあげてから、納得がいったという顔をした。
「な、なによ?! 急に考え込んだと思ったらいきなり高笑いして……」
一見すれば気が狂ったように思われるように思われる趙忠に、賈詡も戸惑ったように声をかけるが、当の本人はそれも意に介さないように楽しそうに笑うばかりであった。
「ああ、すいませんね。でも、詠さんが悪いのですよー。こんなぶっ飛んだ策を考えているんですから。ああでも、そもそも
「あんた?!」
笑いすぎて涙目になった趙忠は目をこすりながら、自分の中に思い浮かんだ董卓達がこの策に隠した真意を思い浮かべつつ、そう口にすると、賈詡は顔を青ざめて分かりやすい反応を示した。
「……駄目ですよ、詠さん。そんな分かりやすく反応したら自分から思惑を吐露するようなものですよ。この宮中で誰かを嵌めようとするなら、何食わぬ顔で真綿に針を包むくらいのことはしないと、上手く渡っていけませんよ♪」
「…………生憎と口に蜜、腹に剣のような連中に合わせて器用なことはできないの。それで? 結局この話は破談ということでいいのかしら?」
優しいお姉さんのように口に人差し指を当てながら宮中での立ち振る舞いを説いてくる趙忠。彼女の様子を見るに、十中八九こちらの思惑を見透かされたことを悟った賈詡は、せめてもの抵抗といった様子で嫌みの1つも返しながら、この話が決裂したということを確認する。
強がるようなそぶりを見せる彼女であるが、内心では自身と董卓が考えた策が実行に移せないままに根底から崩れることを、忸怩たる思いを抱えていた。
趙忠との会談は、彼女達の考える今後の為には最も重要な事柄の1つであったが、今、賈詡の目の前にいる彼女は明らかに賈詡達の真意を理解したといった様子である。
これでは趙忠達の協力を得る、というこの策にとって最も重要な事項の達成は不可能になってしまった。賈詡は平静を装う仮面の下で、激しい後悔に苛まされていた。
しかし、最早いくら後悔したとしても仕方がない状況である。
董卓達の企みは全て趙忠に露見してしまったと見るべきである。そうなれば、彼女がこの策に協力してくれる可能性は潰えてしまった。そして、それは董卓達にとって自分の思い描いた構想がもはや実現することは不可能になってしまったということを意味している。
”趙忠にこちらの思惑がばれることなく協力を引き出す”
それが自分達の策を成功させる為に必要な絶対条件であったのだが……、賈詡はそれに失敗した。
それどころか、もしこちらの思惑が趙忠に伝わったとすれば、一応とはいえこれまで築いてきた宦官との協力体制も決裂することになる。そうすれば、ただでさえ商会という底知れぬ大陸の怪物と対峙している今、身内にも敵を抱えることになる。
自身が齎してしまった結果とはいえ、これから自分達はさらに厳しい状況に置かれることになる。
「元々、あんた達とは一時的に利害が一致したに過ぎない。いずれはこうなる予定だったのよ」
行く先に広がる不安を少しでもかき消そうと、賈詡は毅然な態度で振る舞う。彼女が言う通り、元々、董卓と宦官が手を組んだのは一時的な利害の一致があってのこと。これをもって裏切りと非難される覚えはない、という意味も込めてそう告げた。
これをもって、董卓と宦官の協力は完全に決裂する。
………………そうなる予定であった。
「あれ? 誤解しないでくださいよ、詠さん。何もまだその”新通貨発行”に
しかし、趙忠の口から返ってきたのは予想外のものであった。
これにはこれまで大きく表情を変えることがなかった賈詡もはっきりとその顔色を驚愕に染めた。彼女には趙忠が言っている言葉の意味が分からなかった。
いや、言葉の意味としては理解できる。彼女は董卓達の考えた商会への対抗策”新通貨の発行”に協力してくれると言っている。
しかし、なぜ趙忠は協力を是としたのかが賈詡には全く理解できなかった。
(どういうこと? 黄はボク達の思惑を見透かしたかと思ったけど、それは杞憂だったの? いや、さっきまでのこいつの様子は明らかにこの通貨発行によるこっちの真意を理解した様子だった。だったらどうして? なんでここで”協力”なんて言葉が出てくるの?)
彼女は目まぐるしく思考を巡らせる。しかし、どう考えてもここで趙忠が自分たちに協力を申し出た理由が分からない。
ここで趙忠が協力をすると返事をしたのは、”自分を殺しにきた刺客を、そうだと知りながら自ら家に招き入れる”ようなことである。明らかに不自然な行為だ。
「どういうつもり!? どうしてこっちの意図を理解したうえで協力するなんて言えるの? ボク達はあんた達の……」
理外の事態を前にして、自分の理解が追い付かない賈詡は困惑した様子のまま率直に真意を尋ねるように口にしたが、その言葉は途中で遮られた。
「しっ! それ以上の言葉は言わないでください。その先を聞けば私は立場上、詠さん達に協力することはできなくなりますから」
趙忠は人差し指を口に当て、賈詡が言おうとした言葉を止めた。
この様子からも、明らかに彼女は賈詡達の思惑に気が付いている様子である。にも拘わらす、それを見逃したうえで協力を受け入れるというのである。
やはり、賈詡には彼女が何を考えているのか判断ができなかった。
「”詠さん達は現状を打開する為、そしてその原因たる商人たちに打撃を与えるために新通貨を発行する。そして、その為に私たちは協力を受け入れる”、この場の話し合いで決まったことはそれだけ。それ以上のことは私は何も知らない。……そういうことにしておきましょう。それがお互いの為というものですよ」
「……そんな都合のいい言葉で納得ができるとでも?」
「もう……。詠さんにとっては、私達が協力するという事実が大事なのでは? そもそも、こっちは協力してあげると言っているのにそれを疑うなんて、おかしな話じゃないですかぁ」
確かに趙忠が言う通り、宦官側の協力を得ることができたのは董卓と賈詡にとってこれ以上ないぐらいに望んだ展開である。それにも関わらず、協力すると言う趙忠にケチをつけるのは本来であれば、おかしな話である。
それでも、賈詡はあまりにも自分達にとって都合のいい状況に疑念を挟まずにはいられなかったのである。
「そもそも、お願いしてきたのはそっちなのですから、詠さんが納得する為に私が一々、説明する義理はないはずですよぉ」
続いて趙忠が口にした言葉に、賈詡は押し黙る。
確かに彼女の言うことはどれも正しかった。
自分からお願いしておきながら、その願いが受け入れられれば今度は相手に疑念を向けるなど、めんどくさいことこの上ない人物の所業である。
趙忠が協力するといったなら、黙ってそれに感謝を述べるのが筋というものであるのは賈詡にだって理解できた。
それでも、すんなりと片付けられない困惑が賈詡の中には渦巻いていたのである。
趙忠に対して彼女が語った今回の策の目的、”新通貨を発行することで、商会の基盤に打撃を与えること”はあくまで建前のものであった。賈詡と董卓の本当の目的は別のところにある。
そしてそれは、趙忠をはじめとした宦官には決して知られてはいけないものであった。その真の目的が露見してしまえば、彼らは間違いなく反発してくることは容易に想像がついたからである。
だからこそ、賈詡は趙忠に協力を要請するにあたっても、その本当の目的は絶対にばれることがないようにと細心の注意を払ってこの話し合いに臨んだ。そしてその結果は、失敗に終わってしまった。
自分達の真意が彼女に露見したからには、協力を得ることは出来ない。それが賈詡にとってこの話し合いが行き着くべき当然の結末であったはずだ。
なのに、目の前の趙忠はこちらの真意を見透かした上で、”協力してあげる”と言ってきている。
賈詡はその不自然さを放置して、その言葉を素直に受け入れることはどうしてもできなかったのだ。
「はぁ……。まぁ、賈詡さんとしては私が協力をのんだのは確かに理解しがたい事かもしれませんし、疑うのも当然かもしれませんね」
そんな賈詡の気持ちすらも見透かしてか、趙忠は一つため息を吐いてからそう口にした。
「私にとってはですね……天子様が安寧に毎日をお過ごしになられることが全てなんですよ。それを邪魔するようなものは
「黄、あんた……」
ぽつりと呟くように趙忠は自分の考えを零した。本来ならこんなことを語るべきではないと思ったが、賈詡の疑念を放置したままにして、彼女達の策が上手くいかなくては自分が協力を申し出た意味がなくなるかもしれないと考えたからである。
手を結んでからしばらくが経ったが、恐らく初めて包み隠さない彼女の思いというものに触れた賈詡は、息をのんでその言葉を聞いた。
「だから全てのことが済んだ後、白湯様の身の安全、これを確実に守ってもらうということであれば、今回のあなた達の策に乗ってあげるのも吝かではないということですよ。……あなた達がこの策で
続いて趙忠が語った言葉に、賈詡は少なくない衝撃を受けた。
目の前の彼女のことを賈詡は朝廷の権威を我が物として、したいままとしている物の怪のようなものだと思っていたが、その実は大きく違っていたと理解した。
手段や在り方に問題はあれど、彼女もまた、ただ敬愛する主上のことを心から思っている忠臣というべき存在なのだろう。
趙忠が賈詡を言い包める為に虚言を弄しているという可能性もあったが、賈詡には今、彼女は本心から言葉を口にしているのだという確信めいたものを胸に抱いた。
なぜなら、彼女の主上を思う気持ち、それは自身の中にあるものと全く同じ色のものであると彼女の本能が告げてきたからである。
「……黄。あんたのことを見誤っていたこと、謝るわ。天子様の身の安全は今後、事がどう転ぼうと必ずボク達が守ってみせる」
「はい、それを守ってくれるということなら、私もちゃんと義務は果たしてあげますよ」
真摯に告げた賈詡の言葉に趙忠は満足そうな笑みを浮かべてから、しっかりと協力はするということを再度伝えた。
全てではないにせよ、趙忠の不可解な言動の理由を少しは理解できた賈詡は、改めて彼女の協力に感謝の意を示した。
こうして、様々な思惑が重なり合う中で董卓達による反抗策、「新通貨の発行」は実行への道筋を得ることになった。
この会談の以後、素早く集められて膨大な五銖銭と帝廟から得た貴金属を原材料として、新通貨、後に”董卓銭”と呼ばれるものは貨幣としてこの大陸に放たれることになった。
都の鋳造所を昼夜を問わずに稼働させ凄まじい速さで生み出されたこの新貨は、”鴆毒”となってこの大陸に羽ばたいた。
古の時代、稀代の商人として名を馳せた”呂不韋”を殺したとも伝えられるこの猛毒は、奇しくもこの時代においても商人を殺すものとして世に現出することになった。
この毒が放たれたことは、時を置かずしてまさに殺されようとしている者達、商人である衛弘と一刀の下にも伝わることとなる。
こうして、商会と董卓達の戦いは、”貨幣”というものを新たな舞台として次の段階へと突入していくのであった……。
なんかごちゃごちゃした話になってしまってますが、各自にいろいろと考えがあるという話です。
趙忠のキャラは原作とだいぶ乖離していますが、空丹のいない世界線ということでご容赦くだせぇ。
次話で董卓銭の発行に対する主人公陣営の反応と行動の開始までを描いて、貨幣戦争に突入していく予定です。
次の更新も来週の土日の予定です。