真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの   作:MATSUKASA

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更新遅くなり本当にすみません。

色々と立て込んで執筆の時間が取れずにいました。

言い訳ばかりのこんなクソザコ作者で面目ありません……


29話 建前 面従腹背

  

 一刀達が新銭への対抗策を決め、そのために動き出したのと同じ頃。

 衛北商会の当主、現在は一刀を代行に置いているが、である衛弘は商会の本拠地である陳留を離れ、単身で冀州にいた。

 冀州でも最も栄えていると皆が口をそろえる都市、南皮。彼女はその街の中心に位置する城の廊下を歩いている。

 街の活況をそのまま映したかの如く、変哲のない廊下一つをとっても細部にまで精緻な装飾がされた佇まいは、首都洛陽の宮殿を知る衛弘をもってしても感嘆せずにはいられない程である。

 所々に主の趣味を疑いたくなるような奇妙な置物があるのが若干気になるが、それを差し引いても見事の一言に尽きる城である。

 街、そしてその象徴ともいえる城は万の言葉よりも雄弁にそこに住まう領主の権力を示す。これほどの城であるなら住まう領主の権力は絶大なものだと評することもできるだろう。

 それこそ、都の宮城に住まう天子と比肩してもである。

 城の内装からそんな感想を抱いた衛弘は小さく安心したように息をついた。

 城からわかるほどの絶大な権力、そしてそれを支える財力。そうでなければ自分がここに赴いた目的も達成できない。

 各地を回るにしても真っ先にここに来た自分の判断は間違っていなかったという安心が彼女を安堵させた。

 彼女が態々、ここに来たのには理由がある。

 商会は以前の会議をもって、全面的に董卓と延いては王朝と史上初めての戦争、貨幣戦争に踏み切ることを決意した。

 今も陳留や各地の支店では一刀の指揮の下、その為の準備や行動を進めているところだろう。

 衛弘はそちらに対して全く不安を持ってはいなかった。

 誰よりも信頼している一刀がやってくれており、そのために必要な立場も用意してきたのだ。一刀なら確実に、そして徹底的に課された仕事をしてくれるだろう。そんな確信が衛弘にはあった。

 だからこそ、衛弘も自分がするべきことを果たさなけらばならない。

 今回の貨幣戦争、商会は独自でその持てる力を結集して立ち向かう。しかし、それだけでは不十分である。

 元々、王朝と水面下で対立する方針を持っていた彼女は確実に勝利を得るために、自分達では用立てできない分野の力、もっと率直に言えば武力。これが必要になる局面が来ると認識していた。

 その為、彼女は親友である曹操に破格の資金援助を行い、その武力を用意してもらうように働きかけていたが、今はあの時と状況が違う。

 曹操だけでは不十分とまではいかなくとも、王朝が想定を超えた手段に出たことによって、この戦いは大陸全土を巻き込む規模、そしてこの先の行く末を決めるものにまで発展したのだ。

 

 衛弘は自分たち商会が持つ力を過少には評価をしていない。

 王朝を相手にしたとしても、こと経済という土俵の上なら十分に勝てると思っている。しかし、今回の戦争はそれだけでは確実とは言えない。

 最後には必ず圧倒的な武力が必要となる。

 それが衛弘の見立てであった。

 故に、一刀が経済の舞台で王朝の新銭発行という暴挙を叩き潰す一方、その先にある最終局面でこの戦いに終止符を打つ手札、それを引き込むのが彼女の目的であった。

 その際に、大陸に数ある有力者を見渡しても真っ先に取り込むべきなのはこの街の領主、四世三公の名門袁家である。

 衛弘は先ほどの安心した気持ちを引き締めなおして、自分達の勝利の為には欠かせない手札を引き込むために指定された会談の場所へと足を進めるのであった。

「遠方よりご足労頂き有難うございます。お初にお目にかかります袁家筆頭軍師を務めております田元皓と申します。以後、お見知りおきを」

「あ、私は初めましてではないですが、袁家の筆頭武官を勤めている顔良と申します。衛北商会のお店にはよく麗羽様と買い物に行かせてもらっています」

「ご丁寧にどうも。知っての通り、私は衛北商会の当主、衛子許だよ。親しみをこめてどうぞ子許ちゃんと呼んでくれたまえ。それと、まずは急な申し込みには関わらずこうして会談の場を設けてくれたことに感謝するよ」

 用意された会談の場所は広大な城のさらに奥まったところの一室であった。城に勤める者達もほとんど寄り付かないような一角にあり、ここなら万が一にも話が外に漏れることはない。

 入室した衛弘は誘われるままに用意された椅子に腰を掛け、並んで座る2人と机を挟んで対面した。

 そして片や杓子定規のような定型の、片や親しみを込めた様子で交わされた挨拶に、衛弘は自身の気負いをおくびにも出さず、いつもの調子で軽く返す。

「いえ、礼には及びません。あなた方の商会の活動の結果、袁家の領地も商人の行き来が活発になり、私達もその恩恵を受けておりますから。ここならば話が外に漏れるということも心配いりませんし、そもそも私達がこうして会っていることさえ外に漏れるようなこともありませんので遠慮は必要ありません」

 衛弘の社交辞令にも筆頭軍師の田豊は冷めた様子で返した。

 そんな彼女の様子に衛弘も、真に言わんとしていることが容易に察せられ、ひいては彼女が一筋縄ではいかぬ相手だと理解した。

「なるほどね……、この場に本初殿(袁紹)がいないのすらそちらの計算の内というわけか。いやー、相手を慮って先に手を回す、商人には必須の能力だね。元皓殿は中々に商人の才がおありみたいだね。どうかな? うちで働いてみる気はない? こうみえてうちの商会は金払いのよさには自信があるんだよ!」

「過分なお誘いですが、誰彼構わずへりくだるような仕事がこの非才に務まるとは思えませんので、丁重にお断りさせて頂きます」

「真直ちゃん、それ全然丁重じゃないよ……」

からからと楽しそうな衛弘とは対照的に田豊は丁寧な言葉遣いで、辛辣に返した。

慌てたような顔良の言葉が虚しく室内に響き渡る。

「ふふ、これは手厳しいね。まぁ気が変わったらいつでも言ってよ。うちは有能な子は大歓迎だからさ」

「ご安心を、そんなことは万が一つにもあり得ませんから」

 ハハハ、フフフ、と表面上は穏やかだが、突き刺すような言葉の応酬に室内の温度が急激下がっていくような錯覚に顔良は襲われた。

「まぁそんな戯言に付き合うほど、金さえあればどこにでも飛んでいく者と違って私は暇ではありませんから。遠慮はいらないと申しましたし、早くわざわざ商会当主がここに来られた要件をお聞きしたいですね」

「へー、遠慮はいらないという割にはその気持ち悪い話し方は変えてくれないんだね。君が言った通り、ここでの話が外に漏れることはないんでしょ? なら、私に対して敬語は不要だよ。正直、中身もないのに敬語だけ並べられるのは不快なんだ」

「確かにそうね。正式な会談ならともかく、非公式の悪巧みに敬語は不釣合いなのは認めるわ。お言葉に甘えて崩させてもらうわね。あんたもさっきまでのヘラヘラした態度より今の方がよっぽど好印象よ」

 慇懃無礼といった様子の田豊に、衛弘は急に声のトーンを低くし、有無を言わさぬような言葉で田豊の仮面を指摘する。

 それを受けた田豊はひるむこともなく、ちょうどいいといった様子で先ほどまでの取り繕ったような態度を一変させ、ぶっきらぼうな素でそう返した。

「ちょっと真直ちゃん。私達は喧嘩に来たんじゃないよ!」

「何よ斗詩。こんなの政治ではじゃれあい見たいなものよ。これくらいの言葉の応酬もできないようならすぐにつぶされるわ」

「そうだね。これくらいは交渉の前の戯れだよ。むしろ元皓ちゃんが話が早くて私としては安心したくらいだよ!」

「ええ!! これ私が間違っている流れなの?! うぅ、こんな世界知りたくないよぉ……、もう! 文ちゃん変わってよぉぉ!!」

「ちょっと斗詩! 冗談でもそんなこと言わないで! あの脳筋をここに置いたらそれだけで私の心労が増えるでしょうが! それにこいつだって、うちの領内の流通を牛耳った上で、こっちが会談の申し込みを断れないのをわかって最初に礼を言っているのよ。これくらいでちょうどいいのよ」

「失敬な、私はそこまで捻くれていないさ! ……まぁ、会談そのものを断られるとは思っていなかったのは事実だし、断られたらその程度かなーと思っていたけどね」

「ほら見なさい!」

 先程までは険悪な様子であったにも関わらず、今となっては軽口を言い合うような2人の様子に顔良はドン引きしながらも、武人であれば相手を殺す得物をぶつけ合って互いを理解するみたいなものか、と無理やり自分を納得させた。

 それでも、自分はまだ得物を振るう方が性に合っているという思うあたり、彼女もまた一角の武将なのだろう。

「はぁ、悪いわね、随分と話が逸れたわ」

「いいさ、元皓ちゃんも随分と苦労しているみたいだね」

「まったくうちの連中はこの手に疎い者ばかりで困ってるのよ。さっきの話じゃないけど、あんたも中々に話が通じるみたいだし、どう? うちに来たら私の副官見習いくらいにはしてあげるわよ」

「ははは、それはうれしい誘いだけど、私も腹に一物抱えた狸ばかり相手にするのはごめん被るから、丁重にお断りさせてもらうよ」

 こんな会話をしながらハハハと笑いあう2人に、顔良は改めて自分が武官でよかったと感じるのであった……

「さて、お互いに自己紹介も済んだし、早速で悪いけど本題に入らせてもらってもいいかな?」

「ええ、私も暇ではないのは本当だからそうしてくれると助かるわ」

 顔良が場違いな感じをぬぐい切れないのを他所に、2人は佇まいを正してこの会談の本題へと話を進めた。

「とは言っても、こんな厳重な部屋を用意して、筆頭武官の顔良ちゃんを同席までさせてくれたんだ。君なら大方は私の話が何かわかっていると思うんだけど」

「ふーん、まぁこれだけあからさまにすればそれぐらい察するわよね。ご明察の通りよ。私も今回の董卓と王朝の所業についてはすでに知っている。その上で標的にされたあなた達がどうするか、予測はできてる。それでもそれは予測でしかない。私にはそれが正しいか答え合わせをする術はないの。だから、はっきりとあんたの口から、商会のとる行動と私達に何を望むのかはっきりと聞かせて頂戴」

 未だに話に入り込めていない顔良であるが、どうもここまでの話を聞く限り、この場に自分がいるのは大きな意味があるようである。

 彼女も田豊につられるようにして衛弘の言葉に注目する。

「それは、ご尤もだね。要求を言葉にせず相手に察しろというのはあまりにも傲慢だったよ。失礼したね……」

 2人の視線を受けた衛弘は自嘲するように呟く。

「単刀直入に言うよ。私達商会は今回の王朝による新銭発行を一切認めない。それを明確に示した上でこれを叩き潰すつもりだ。そして……君達には、私達が新銭を潰したところで最後のとどめとして、洛陽を……攻め落としてほしい」

 そして、端的にここへ来た理由を告げたのであった。

「ど、どういうことですか?!!」

 衛弘の言葉を受けた2人は対照的な反応を示した。

 片やその意味が理解できないという様子で、片や概ね予想通りといった様子で。

 勿論、驚きのあまりに声を上げた顔良が前者である。

 そして、彼女の反応は概ね常人がする反応と言えた。衛弘は今、明確にこの大陸を支配する王朝に反旗を翻すと宣言したのである。

 もし、これがどこかに漏れれば不忠として叩き斬られても致し方ない程のものである。

 しかし、そんな当然の反応をしたのは、この場で彼女だけであった。

 発言をした当の本人の衛弘はもとより、隣の田豊も驚いた様子もなくその言葉を受け止めた様子である。

「あんた、自分が何を言っているのか理解してる? 今この場であんたを不敬だと切り捨てても十分に赦されるくらいの発言なのだけれど?」

 焦る顔良を軽く手で押さえるようにしながら、田豊は淡々とその言葉の真意を探るように口にした。

「元皓ちゃんも意地悪だねぇ。本当はもう少し婉曲に話をしようとしたけど、ここまでお膳立てされては私が言葉を飾るのは誠意にかけると思ったのさ。さぁ、私は答え合わせをしてあげたよ。君の予想は合っていたかい? まぁ、こんな部屋を用意して、筆頭武官、軍事の責任者である顔良ちゃんを呼んでくれたあたり、私の見立てでは同じ結論に至っているのかなと思ったのだけど、どうかな?」

 続く衛弘の言葉に顔良はハッとして隣の田豊を見る。

 彼女の指摘の通り、本来なら武官である自分がこの場にいる必要はない。そして、田豊が普段いる執務室ではなくこんな城の奥まった人気のない部屋に、人払いまでして会談する必要もないのである。

 つまりは、田豊はこの話が武官である顔良も聞くべきである。その上で間違っても外部に漏らすわけにはいかないものになると元より知っていたという事になるのではないか。

 さらに、この話を断るなら自分がここにいる意味もない。そうなればこの途轍もない要請に対して田豊が何を思っているのかも自然と察せられた。

 顔良は知らず、手のひらに溜まる汗を握りつぶして深く息をのんだ。

「意地が悪いのはどっちだか……。私の主、袁本初様は朝廷の臣下。そしてその臣であるこの身は陪臣として朝廷に使えるもの。なんのしがらみもない商人と違うの」

 今度は自身に場の注目が集まったのを感じた田豊が何かに言い聞かせるように口にした。しかし、その声色はこういったことに疎い顔良の耳をもってしても、明らかに建前としか思えないような響きを含んでいた。

「確かに、今回の王朝が及んだ新銭発行はどう考えても道理にそぐわないわ。これを野放図にすればこの大陸は向こう数百年にわたって貨幣という手段を喪失し、朝廷の栄えある歴史に消せない傷を残すことになる。それは臣下として見過ごせないことには同意する」

「そうだね、主君が道を誤ったならそれを諫めるのも忠臣の責務だと思うよ」

 言葉を選ぶようにして自身の考えを述べる田豊に衛弘が軽い調子で口を挟む。

「ちょ、ちょっと待って、真直ちゃん。それじゃあまるで……」

「勘違いしないで、斗詩。私は朝廷に逆らうといっているわけではない。朝廷の権威を欲しいままとして暴挙に及んだ董卓の所業を見過ごすことはできない。これを討つことは漢の臣下としてするべきこと。子許、あんたも言葉が足りないのよ。あんた達も漢朝と大陸の未来を思って、今回の新銭を認めることはできない。そして、朝廷に巣くう佞臣の董卓を討つために私達の協力を仰ぎに来た。そういう意味よね?」

「言葉尻をとって遊ぶのは好きではないけど、概ねその理解で正しいよ。ごめんね、顔良ちゃんも私の言葉足らずで誤解をさせちゃったみたいで」

 念を押すかのように、田豊は衛弘が伝えた要請にあった”王朝”をそっくりそのままに”董卓”に置き換える。

 そして、衛弘も田豊が捻じ曲げた理屈に同意を示した。

「あー、なるほど。そういうことなら……ってなりませんよぉ! いくら董卓さんが悪いことをしているといっても、董卓さんは天子様から丞相の位を正式に賜っているんですよ! その董卓さんを討つというなら、それはそのまま朝廷に弓引くのと同じじゃないですか!」

 「全く違うわ。董卓も漢の臣下。その臣下が陛下の名を勝手に用いて暴政を敷くというなら、同じ臣下の私達が諫めるのが道理。それが討伐という形であっても」

 責めるように口にした顔良の言葉にも田豊は一切姿勢を変えることなく、理屈に則して如何に、この話が反逆には当たらないというのかを説いた。

 その論調は一見すれば道理にかなっているものにも思え、顔良は口を閉ざす。

 その胸の内には、董卓討伐と朝廷への反逆の何が違うのかというもやもやとした疑念を残したままに。

そして彼女の葛藤を虚しく、密室での会談はさらに続いていくのであった。




今後は1話当たりの文字数を5000字強くらいを目安にして、少しは更新頻度をあげられるようにします。

亀更新になってもエタることは決してしないので、お読み頂ければ幸いです。
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