真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの   作:MATSUKASA

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感想・評価ありがとうございます。


とりあえず書きだめてたものがまとめれたので投稿します。
今回は若干長いです。





6話 巡業 走ぐるを以て上と為す

 

 

「ところで一刀殿、今から訪ねる”徐元直”殿とはいったいどのような御仁なのでしょうか?」

 

「元直か? うーん、彼女はうちが洛陽に店を開いてすぐのときから手伝ってくれている古参の子で、その後荊州に店を広げるときに燕がその責任者に抜擢したんだ。元々、荊州に母親を残していた元直を気遣っての差配だったけど、それを差し引いても抜群に優秀な子だったからな」

 

「天下の衛北商会の支える三看板の一人とは知っていましたが、一刀殿をしてそこまで言わしめるとは余程の方なのですね!」

 

 一刀の前で馬を操る、楽進(字を文謙)はこれから会いに行く予定の人物について楽しみですといった様子でそう返した。

 

 洛陽で衛弘と今後の方針について決めた一刀はそこで決めた通りに一路、荊州の襄陽に向けて馬を進めていた。

 もっとも一刀自身は馬に乗ることはできないので、彼の前に座る楽進が操る馬の後ろに乗せてもらっている格好だ。

 

 楽進。

 彼女は于禁と一緒に洛陽で働いてもらっている3人娘の1人である。今回は一刀が荊州に向かうにあたっての護衛兼騎手役として同行してもらっている。

 ちなみに于禁は一刀不在の洛陽店の留守役であり、もう1人の李典は衛弘の護衛として彼女に同行している。

 

 楽進・于禁・李典。どれも一刀にとっては知ったような名前である。彼女達の名前を最初に聞いた際には「全員たまたま魏の三羽鴉と同名なんて珍しいこともあるものだなー」と現実逃避をしていた一刀であるが、その後に曹操の僚将である夏候姉妹や自身の前で見事に馬を操ってみせる楽進を見ると、彼女はやっぱりというべきか一刀のしる”楽文謙”その人なのだと認識するようになった。

 

(楽進どころか于禁に李典まで女性で、しかも俺の店の従業員になっているとか役不足も甚だしいだろ)

 

 現実を直視したところで一刀はまた頭を悩ませるのであった。

 

「なあ文謙だったら、どこの諸侯にいっても一角の将として任用されると思うんだけど、どうしてまたうちなんかで働いているんだ?」

 

 一刀は素直に思ったことを前の楽進に聞いてみる。

 ちなみに楽進は一刀のことを”北郷総裁補佐”と呼んでいたが、この旅の最初のときに堅苦しいのはやめてほしいと伝え、今は一刀殿と呼んでもらっている。

 

「いえ、一刀殿にそこまで評価していただけるのは光栄なことですが自分はそのような大した者ではありません。私は元々、故郷の街で沙和(于禁の真名)と真桜(李典の真名)の3人で細々とですが商いの真似事をしておりました。ですが、恥ずかしながらまったくうまくいきませんでした。そんな時でした。沙和が衛北商会のことを話し、そこで働いて商売の修行をしようと提案してきまして、現状に喘いでいた私達は何のツテもないままに都を訪れ、衛北商会の門を叩いたのです」

 

 一刀の言葉を否定しながら、自身のことを語る楽進に一刀は彼女達が初めて商会に来たときのことを思い出した。

 一刀達が洛陽に店を開いて暫く経ったとき、一刀はふと店先が騒がしいのを感じて執務室から出てそこに向かうと、どうやら店員と口論になっている楽進たちを見つけたのである。

 話を聞くに、突然押しかけて働かせてほしいという彼女達を店員は素性も分らない人を雇えないと断ったが、それでも引こうとしない彼女達に呆れているとのことだった。

 

 そして気になった一刀が彼女達に名前を聞くと3人の誰もが聞いたことのある名前である事に大いに驚いた。

 この時点で一刀はとりあえず彼女達は自分の知る武将とたまたま同姓同名だと判断したが、いつぞかに聞いた衛弘の”奇貨居くべし”という言葉を思い出した。

 偶然(だと一刀は思っていた)、有名な武将と同じ名を持つ3人の少女はまさしく”奇貨”なのではないかと考え、その場で店長権限を持って雇うことを承諾したのである。もちろんその判断にはこれだけ必死に懇願する年下の少女達を見てこのまま追い返すのは忍びないという気持もあったが。

 

 しかし彼女達が本当に自分の知る武将達なのだとわかった今となってはあのときの自分の行動を褒めてやりたい気分である。

 

 彼女達は採用された後はすぐにめきめきと頭角を現していった。于禁はその類まれなセンスを生かした商品開発に活躍し、李典は衛弘と妙に馬が合ったようで暇を見つけては共によく分らないカラクリの開発に勤しみ、楽進は街のごろつきレベルであれば数十人が束になっても物ともしない武勇で、店の面倒ごとの悉くを解決してくれた。

 また楽進同様に于禁・李典の2人も並外れた武の心得があり、一刀や衛弘が外に行く際には頼もしい護衛として同行してくれたりもしている。

 

「あのとき、寄る辺もない私達を迷わず雇い入れてくださった一刀殿と総裁のご厚情には深く感謝しています。それに一刀殿は”うちなんか”と仰いますが、私のようなものが同行とはいえ宮中に参内する栄誉に属すことができたのはほかでもない商会のおかげです」

 

 楽進も自分が商会に来たときのことを思い出したのだろう。

 深く感謝するように視線は前に向けたままでも丁寧な言葉でそう告げてきた。

 

「お礼を言うのはこっちさ。文謙達が居るおかげで俺や燕も安心して外を歩けるのだから。それに今も文謙が居なかったら、俺は馬にものれないしな……はは、自分で言って情けなくなってきた」

 

「そんな! 一刀殿を貶すような意図はありません!! 一刀殿が成し遂げられ大業に比べれば馬に乗れるくらいの技能なんて……」

 

「俺にはその程度のこともできないんだよ……」

  

 俺の自虐を聞いてあわててフォローをしてくれる楽進は本当に根から真面目なのだろう。

 今も、「あっいえ、自分は・・」と懸命に慰めの言葉を探す彼女に心の中で感謝しながら、彼女の動揺が伝わったのか激しく揺れる馬上から振り落とされないように一刀は楽進に捕まる腕に一層の力を込めた。

 

 そのことがさらに彼女を動揺させたりもしたのだが、当の一刀は気づかないままそのまま楽進の腰に手を回して強く彼女に捕まるのであった。

 

 楽進の苦悩は馬が目的の荊州に到着するまで続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日を跨いだ明くる日、一刀と楽進は目的の襄陽(じょうよう)、その中心に位置する「衛北商会 襄陽(じょうよう)支店」の前にいた。

 

 その道中、日が暮れた後に一旦休憩で村に立ち寄った際、不寝の番をするといって休もうとしない楽進を休ませるため、「楽進が寝ないのであれば俺も寝ない」と一刀が言い張ったりすることもあった。

 一刀にそういわれて楽進は大いに慌ててから渋々休むことに了承してくれた。

 その時の楽進を見て一刀は、普段は常に衛弘にからかわれる立場にあるが、人をからかう背徳的な楽しみを感じ、妙な納得を覚えた。

 

 その後の道中は隙を見て一刀は楽進をからかい、楽進もまた律儀にそれに反応をしてくれるのが面白く実に楽しい旅路であった。

 主に一刀目線の話ではあるが。

 

「……まさか一刀殿がこんなに人を弄ぶような御仁であるとは知りませんでした」

 

「むむ、それは心外だ。それは単に楽進が毎回可愛い反応をしてくれるのが原因だと思うが」

 

「か、可愛いなんてやめてください! ほら、また人をおちょくって!」

 

「ははは、悪い悪い。今度から気をつけるよ」

 

 げんなりとした様子の楽進に一刀は心にもない謝罪をしてから、目の前の店舗に目を向けた。

 

「店の前から乳繰り合う男女の声が聞こえたかと思ったら……一刀さんでしたか」

 

 一刀が前を向いたちょうどその時。中から白い服に身を包んだ金髪の女性、一刀たちがここに来た目的の人物がやれやれといった様子をしながら出てきた。

 

「悪いな元直、わざわざ出迎えまでしてもらって」

 

「本家の総裁補佐様が来られたのに私が出迎えしないわけにはいきませんから。とりあえずは長旅ご苦労様です。立ち話もなんですからどうぞ中へ」

 

 丁寧な言葉でぶっきらぼうに中へ入るように促す彼女こそが”徐庶”。字は元直。 ここ荊州一帯における商会の活動を一手に引き受ける女傑である。

 

 彼女はこの荊州で私塾生であったときから衛弘と知己であり。衛弘が洛陽で店を開いた時、わざわざその手伝いに駆けつけてくれた才媛でもある。

 一刀とはその時に知り合った彼女だが、一刀の自惚れでなければ彼女とはそれほど仲が悪くないと思っている。いや、むしろお互いに同志として認め合っていたりもする。

 

 そんなわけで口調はぶっきらぼうではあるが彼女が一刀を歓迎していないということではなく、一刀と楽進も彼女に従い店の中へ入っていった。

 

 

 

 

「それで、一刀が直接こんな田舎にまで来てくれた理由を聞かせてもらえませんか?」

 

 応接のような部屋に通されて、一刀と楽進と改めて対面した徐庶は単刀直入に用件を聞いた。

 聡明な彼女のことである。一刀がここに来たからにはそれなりの理由があると察して、回りくどい話もせずこうして本題を切り出してくれたのだろう。

 

「そういってくれると話が早くて助かる。元直に今後の商会の方針について燕からの指示と意見を聞きたくて来たんだ。実はな……」

 

 彼女の気遣いは一刀にとってもありがたく、早速ここに来た目的について彼女に伝えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  一刀達が荊州に向かっている頃、衛弘は兗州は陳留、その太守が住まう城に居た。

  彼女がいる謁見の間にいるのは3人。

 衛弘本人と彼女の友人である曹操、そして王朝よりここ陳留を預かる太守である”張邈(ちょうばく)”、字は孟卓であった。

 

「だからー少しの間、顔を見せなかったのはすみませんって言ってるじゃないか!」

 

「なにが”少しの間”だ!! 5年だぞ! 5年もまともに顔すら見せなかったお前がそれを言うか!!」

 

「永き人の世の営みから考えれば5年なんて誤差みたいなものだと思うのだよ」

 

 張邈の文句に対しても清々しいほどに悪びれた様子もなくそう言ってのけた衛弘。

 

 張邈、字を孟卓、は一応は衛弘にとって主に当たる人物だ。

 いくら枠にとらわれないことを信条とする彼女であっても、身元保証のないままでいるのは何かと不都合が多い。

 そのため、一応彼女は張邈麾下の官吏としても身分を有していた。

 

 だから、衛弘と張邈の関係は所謂ところの主従に当たるのだが、この2人においてはその関係も一般のそれとは大きく異なっていた。

 先ほどの会話でも平気で主君に当たる人物に食ってかかるように話す衛弘は主従関係を持っていても張邈に臣下の礼を執る気は全くなかった。

 一方の張邈も彼女にそれを求める気もない。

 

 体裁上は主従に当たる彼らの関係はその実、友人関係に近いものであった。

 

「お前は昔っから詭弁ばかりを話しおって! 何年も音信不通だったお前がいきなり洛陽で富豪になったと聞いた時の儂の気持ちも考えろ!」

 

「……私と同じくらいの年なのに自分のことを”儂”ってのは爺臭いよ、孟卓様」

 

「喧しい!! この放蕩娘が!」

 

 張邈にとって、目の前の少女は常に頭を悩ませ、胃痛の原因であった。

 もう随分と長い付き合いになるため、衛弘がおとなしくするようなこともなく、その行動を制約することはできないとわかっているし、名ばかりの主従関係を振りかざしてそれをするつもりも張邈には無かった。

 

 それでも、ここ数年の彼女の行動には小言の一つでも言わずにはいられなかった。

 行商人の真似事をしていたかと思えば、突然、衣服の商売を始めてそれを瞬く間に大陸全土にまで広げてしまった。

 特に張邈の治める陳留には彼女が当主を務める商会の大規模な店があり、この街の住人であれば今となっては幼子ですら衛弘の名を知らないものはいないほどだ。

 

「人の街をこれだけ勝手に変えておいて詫びの一つくらいしに、もっと早く顔を見せに来んか馬鹿者!」

 

「あら、でも燕のおかげでこの街も随分裕福になったし、その恩恵はあなたも受けたのじゃないかしら?」

 

 張邈の不満に横から口を出してきたのはこれまで2人のやり取りを楽しそうに傍観していた曹操だ。

 

 曹操も陳留太守の張邈とは、幼いころに洛陽で共に勉学に励んだ学友であり、今に至っても盟友といっても差し支えない関係を保っていた。

 

 本来、男に対しては自分の父を含めてもいい感情をあまり持ち合わせていない曹操であるが、ことこの張邈は例外であった。

 なお今更であるが張邈の性別は男である。彼の弟の張超も当然男である。

 

 男でありながら曹操に友人と認められる、この一事をもって張邈の能力に疑問を抱くことはないだろう。

 ちなみに現在、張邈は曹操がその能力を認める唯一の男であるが、つい先日その2人目になるかもしれない人物を彼女は見つけていたりするが、それはここでは置いておくとする。

 

「孟徳、お前はどっちの味方なんだ? お前からもこの放蕩娘に言ってやってくれ」

 

「あら、私にとっては燕もあなたも大切な友よ。どちらかを贔屓するつもりなんてないわ」

 

「流石は華琳ちゃん! やっぱり君は私の親友、いや心の友と書いて”心友”だよ! 私たちの前では管仲と鮑叔牙もなんのその! だね」

 

 共通の友人の中立に一方は頭を悩ませ、もう一方は熱烈なラブコールで応えた。

 

「全く、お前らときたら……、とりあえずだ子許。戻ったからにはこれまでのこと洗いざらい話してもらうからな!!」

 

「んー、そうしたいのは山々なんだけどね、こう見えて今の私は多忙なんだよ!というわけで宴もたけなわなところ悪いけど、私はお暇させてもらうとしよう!」

 

 張邈の言葉を一瞬考えるようにしてから衛弘はそれに拒絶で返すと、くるりと回って謁見の間を後にしようとする。

 

「え、おま?! 待たんか!?」

 あまりの突然のことであり後ろで張邈が抗議の声を上げるがそれは衛弘の足を止める理由にはならない。

 

「はっはっは、ここは走ぐるを以て上と為す! さらばだ孟卓様! あ、華琳ちゃんもまたねー。さぁ曼成ちゃん(李典の字)、火急的速やか且つ迅速に馬を出すんだ!」

 

 高笑いとともにこの場を全速で離脱した彼女は部屋の外に待機させていたお供に声をかけると、孫子も驚くような速さで、城から去っていった。

 しばらくしてまるで嵐が去った後のような静寂が謁見の間を包み込んだが、

 

「この馬鹿者がぁぁぁーーーー!!」

 

 しばらくした後に、正気に戻った張邈が裂けんばかりの怒声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「でもよかったんか大将はん? なんや逃げるように出てきてしまったけど・・・」

 

「全く問題なしだよ! 孟卓様にも伝えることは伝えたし、城に行く前に伯寧ちゃんには今後の方針もすべて伝えておいたからね。彼女なら万事うまくやってくれるよ」

 

 逃げるように城を後にした衛弘はその足でそのまま陳留の街をでて、お供の李典とともに荒野を南へと進んでいた。

 

 彼女が言う通り、張邈との謁見の前にはすでにここを訪れたもう1つの理由を済ませておいた。だから、無事(?)張邈と面会し、今後のために”軍備は入念に”ということも伝えることができたのでもうこの街でやるべきことは粗方終えたといってよかった。

 

「そいなら当初の予定はもう終わったと思うんやけど、どうして洛陽に戻らんと南に向かうんや?」

 

 衛弘の言うことは理解できたが、では元々の予定を済ませた今、こうして自分たちが南に向かうのはどうしてなのか李典は尋ねた。

 

 洛陽を出立する前に衛弘と一刀はこれからの予定について、楽進・于禁・李典の3人には今後のことについて一通り説明をしてある。

 それは今後を考えると彼女たちにも協力してもらう必要があるため、当然のことであった。

 

 だから李典は今回、自分たちが陳留に来た目的は理解しているがその予定の中にはこうして南に行く予定はなかったはずである。

 

「ちょっと、豫洲の方が心配になってね。思いのほかすんなりと予定が済んだから直接私もそっちに行こうかなと思って」

 

「ん? 豫洲には店長と凪が向かう予定やったと思うんやけど?」

 

「勿論、2人のことは信頼しているよ。ただ豫洲の子敬ちゃんは一刀とはある意味で相性が悪いし、それ以外にも気になることがあるからね」

 

 考え込むように口にする衛弘に李典は「なんや大将はんもいろいろ大変やなー」と返す。

 衛弘がそういうのであれば李典はそれに付き従うだけである。

 

「だからもうしばらく付き合ってもらうよ曼成ちゃん。それにこれは君にとっても好機になるはずだ。豫洲に行くまではまだしばらく時間もある。その道中、君の考える発明品について私はいくらでも聞こうじゃないか。もし私の興味を引けるものがあればお金成立! 私がその開発を支援しようじゃないか」

 

「おお! さすがは大将はん!! なら夜も寝かさへんくらいにウチの発明に聞いて聞いてもらうで!」

 

 

「くっくくく、ただし私は厳しいからね、いくら君がいい案を出しても……その中でっ! ……選ばれるのは一握り! まさしく狭き門……! それでもいいというなら聞こうじゃないか」

 

「ウチかて望むところや!」

 

 こうして始まった李典と衛弘による道中における会話はその後、豫洲に着くまで続けられた。

 果たして李典は無事、支援を勝ち取れるのか!?

 

 

「つまり、その装置があれば取手を回すだけで、簡単にカゴが編めるようになるんや!」

 

「くくく……秀逸!……」

 

「うちが考案したこの新型の衝車なら、たとえ函谷関の門であっても一突きや!」

 

「まさしく……悪魔的発想……!」

 

「回転によってただの槍の突きの威力を上げるっていう寸法や!」

 

「ふふ、奇抜……! 卓抜! 理外の発想……!」

 

 この旅における問答の結果は余人の知るところではないが、この後、商会の蓄えは一時的に大きく減じることになり一刀は大いに頭を悩ませることになる。

 

 ただ彼女の門は想像以上に広く、その上無防備であったのだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても元直殿があんな方だったとは…………正直意外でした」

 

「まぁ普段の仕事する姿はまさしく”できる女”って感じだけど、あれが元直の素だよ」

 

 荊州での用事を済ませて、次の目的地に向かう道中。

 楽進は荊州での出来事を思い出したように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど子許様の考えは理解しました。この地域一帯もそのように取り計らいましょう」

 

「相変わらず理解が早くて助かるよ」

 

 一刀の口からこの先に予想される乱とそれへの備えについて聞いた徐庶はそれだけですべてを察したかのように了承を口にした。

 

「ですが、生産の縮小となりますとどうしても生産者の反感を買うことになります。彼らの中にはうちからの仕事で生計を立てている者もいますし、すんなりとはいかないかもしれません」

 

「それも道理だな。もし生産者の中で減産に不満がありかつ生活が苦しくなると思われる場合はその分を金で補填してやってもいい。このことは燕にも許可をとっておいた」

 

 徐庶はするべきことを理解したうえで、懸念を口にした。それは今回のことを決めた際に一刀が抱いた心配と同じものであったので、一刀はそれに対して澱むことなく返事をすることができた。

 

 生産調整。口にすれば簡単なことだが、実際はそれほど簡単なことではない。

 うちが委託する服の生産で生活を成り立たせているような人たちにとってはその仕事が減ることは死活問題である。

 当然、強い反発が予想され、場合によっては拒絶されることも考えられる。彼らにとってすれば今回の減産は全くの急な話であり、すべては一刀たちの都合で行うことであるからだ。

 

 ならば対策はするべきである。

 その為一刀がその懸念を口にした後、衛弘と2人で以下のことを取り決めた。

 

 1つ、減産の結果生活に支障が出ると認められる者にはお金による補償を実施する。

 2つ、事態が落ち着いた暁には再度、同じ委託をすることを約束し、同時にその際に委託をもう一度受けてもらうことについても確約をとる。

 

 これであれば生産者たちの不満を抑えつつ、事態が改善した暁にはすぐに元の生産に戻るとも可能になるだろう。

 もちろん、乱の影響で家などを失う人が出てくるかもしれないが、そのすべてを防ぐことはできない為、全くの元通りというわけにはいかないが。

 

「そこまでのことをすれば、彼らもうちが協力者を見放すことがないと信頼してくれるようになり、改めて事業をする際にはその信頼は大きな資産になりますね……。素晴らしい考えですが、それは一刀が考えたのですか?」

 

「まぁ、言い出したのは俺だけど実際に方策を示したのはほとんど燕のおかげだよ。あ、それと補償に当たってお金が必要になるなら洛陽の本店から融通することもできるからその時は手紙なり使者でも送ってくれ」

 

「まさしく妙案ですし、今回の乱が終わった暁にはうちの商会は市井で他とはくらべものにもならない信用を得られますね。その切っ掛けを考えただけでも素晴らしい考えです。悔しいですが、やはりあなたは子許様の隣にいる資格を持っているようです。それと資金の問題ですが、援助には及びません。ここ荊州でのこれまでの稼ぎは洛陽にも劣らないものですから十二分には余裕があります」

 

 徐庶は改めて考えをまとめてから、一刀を見つめるとそう返してきた。

 彼女は一刀のことをほめるが、本当にすごいのはこの地でも洛陽に負けないほどの利益をたたき出している彼女の方だと一刀は感じる。

 

(ほんと、三国志序盤の超重要人物だけあってめちゃくちゃ優秀だよなぁ。でも彼女がここにいたら、劉備達って諸葛亮にちゃんと会えるのだろうか?)

 

 改めて彼女の凄さを認識した一刀であるが、そんなことを不安に思うのであった。

 

 その後、しばらく細かな点についてお互いに認識の共有を図った。

 そして、それが一段落着いたところで一刀が次の目的地に向かうために辞去しようとした時、徐庶はこれまで以上に真剣な表情をしたかと思うと「こちらからもどうしても聞きたいことがある」と話を切り出したのであった。

 

(ついにきたか……)

 

 彼女の言葉は一刀にも予想がついたものであり、特に驚くこともなく先を促した。

 一刀の了承を得た徐庶は、さらに真剣な目をするとその言葉を口にした。

 

 曰く、

 

 ”最近の子許ちゃんの様子はどうですか”

 

 と。

 

 そこからは怒涛であった。

 

「ちゃんと毎日ご飯は食べていますか? 夜はぐっすり寝てますか? 寝てる時の寝顔の似顔絵はありませんか?都でなにか悪い虫がついたりしていませんか? ところでどうして私のところに子許ちゃんは来ないのですか? はっ、もしかして私のことが嫌いになったのですか?!うう、それなら私はもう生きていけません、一刀私はどうすればいいんですかぁぁぁ!?」

 

 目まぐるしく表情を変化しながらものすごい早口で捲し立てる彼女に、この姿に慣れている一刀はいつものことかと落ち着いた様子だが、隣の楽進はあまりの変化に若干顔を引きつらせていた。

 

 一刀はいつものことだと落ち着きながら、当主のこともちゃん付けで呼び、勝手にフィーバーし始めた彼女を慣れた手つきで宥めていく。

 

 ・燕は相も変わらず壮健だし心配はいらない。

 ・悪い虫なんてつかせていないし、燕には虫も寄ってこない

 ・今回、一刀がここに来たのは燕はどうしても外せない用事があったからだ。むしろ、自分が行かなくても元直ならすべてを理解してくれるという信頼だ。

 

 順に彼女へそう告げる一刀に徐々に落ち着きを取り戻した彼女は、「ほ、ほんとうですか?」と涙目になりながらもこちらの話を聞く余裕ができた様子である。

 ここで一刀は最後の切り札を使う。

 

「ああ、本当だから安心してくれ。それと俺が手ぶらで同志に会いに来ると思うか?ほら、これがご所望の品だ」

 

 そういって一刀は1枚の紙を彼女に差し出した。

 そこに描かれていたのは、凛々しい顔をしてにこやかに笑う衛北商会の総裁の自画像。

 徐庶のもとを訪れることが決まった後に一刀は、衛弘に頼んで自画像を描いてもらうようにお願いしたのだ。

 「んー何のためかはよくわかんないけど、それくらいお安い御用さ!」と快諾してくれた彼女は手早くそれでいて精巧な自画像を描いてくれたのだ。(なお、徐庶に渡す分とは別にもう1枚書いてもらいそちらは一刀の懐に収めている)。

 

 思わぬ手土産に、徐庶は狂気乱舞。飢えた獣のようにその自画像を手に取ると、

 

「流石は我が同志!! はぁー不足していた子許ちゃん分が満たされますぅーーー」

 

 絵を顔に押し当てて徐庶は謎の成分を補充するように、「くんかくんか、はぁはぁ」と息を荒げだした。

 これには普段は並大抵のことでは動じない楽進もドン引きであった。

 

 徐元直、彼女はどうしようもないくらいに衛弘中毒者であった。

 

 

 

 

 

 その後、満足した様子の徐庶に見送られて一刀と楽進は豫洲へと向かうために馬を進めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「確かにあいつの燕に対する執着はもはや病気の域だな」

 

「他人の嗜好に何か口出すような考えはありませんが、あの時平静を保てなかった自分の不甲斐無さが恥ずかしいです」

 

 

 徐庶の奇行を目にした時に動揺したことを恥ずかしそうに言う彼女に、たぶんそれが常識的な反応だと思うと告げて、一刀は軽く目の前の楽進の頭を撫でる。

 

 そして、「なっ、一刀殿」と慌てる反応を楽しみながら、次の目的地に向かうのであった。

 

 ちなみに、徐庶が一刀から受け取った衛弘の自画像は荊州のお店の一番目立つところに額縁に入れた飾られることになった。

 そして、店では毎朝その自画像に向かって深く礼をしながら商会への忠誠の言葉を宣言することが義務付けられることになった。

 

 それを聞いた一刀は、自分の商会がとんでもなく黒い商会になってしまったと慌てて、その朝礼をやめるように徐庶に伝えたが、「なにを言うのですか同志一刀。子許ちゃんを崇めるのはわが商会のものであれば当然の義務です」言い切る彼女を説得するために多大な苦労をする羽目になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むー、とりあえず本家様のご意向はわかりましたけど、そんな地味なことはパオの仕事ではないと思いますー」

 

 豫洲の店舗についた一刀達はそこの責任者である魯粛、字を子敬と対面し、荊州の時と同様に商会の今後の方針について伝えたところで彼女から帰ってきたのはそんな言葉であった。

 

 魯粛。三国志のファンであれば知らぬほどがいないほどの有名人であり、呉の周公瑾が亡くなった後にはその後継者として曹操との戦いなどで大いに活躍した人物で知られている。

 それ以外にも呉と蜀の同盟を実質的に成立させるなど、非常に優れた功績を残した人物である。

 

 前にいる彼女がその魯粛なのだが、一刀にはどうも彼女に本当にあの魯粛なのか信じられないでいた。

 

 彼女は、元々それなりに裕福な家庭に生まれた。そして天性の目立ちたがりだった彼女は儒学の勉強など地味でつまらないといい、実家のお金で馬をたくさん買ったり、軍略の勉強のためにそれに関する書物を大量に買うなどの散財をした。彼女の奇行は裕福だった魯家の家計を傾かせ、世間からは「魯家の狂人」と呼ばれる始末であったそうだ。

 

 あまりにも目に余る行動をする彼女の扱いに困った両親は、そのころ徐々に商人として名を広げていた衛弘に家の支援と、魯粛を引き取ってくれないかとお願いしてきたのだ。

 これを受けた衛弘は快諾し、彼女がうちで働くことを条件として魯家は何とか家計を持ち直すことができたそうだ。

 

 この時のことを衛弘に聞くと、「なんか面白そうな娘だったし、まさにこれも奇貨置くべしだよ!」と言っていた。結果として今、彼女は商会における三看板の一角を任されるまでになったのだから、その慧眼は流石であるといえた。

 

 だから一刀も彼女の能力の高さに疑いを持っているわけではないがそれでも今目の前で、ぶーぶーと不満を垂れる姿を見せられてはどうしても彼女が優秀だと認めたくない気持ちに駆られてしまう。

 

「子敬、今回のことは燕直々の指示で行うことだ。それを他人任せにするのは流石に俺も看過できないぞ」

 

「いや、このパオがするのはもっと大きな仕事じゃないとダメなんですぅ。こんなチマチマとした工作は元直さんや伯寧さんに任せておけばいいんですよ」

 

「いや、お前はこの豫洲の責任者だろ。ここのことは燕もお前に任せているんだから、他の2人に迷惑をかけるようなことはそれこそダメだろ」

 

「袁術様といい、子許様といいどうしてみんなパオの凄さを理解してくれないんですかーー!!」

 

「袁術殿はともかくとして燕はお前を評価しているからここを預けていると思うがな……」

 

 納得いきませんと、大声を上げる魯粛にさすがに疲れた一刀も言葉に少し棘を混ぜながら彼女に返した。

 一刀は正直、目の前の魯粛という人物が苦手であった。

 

「あ! いいこと思いました! パオが北郷さんと結婚して商会の主になればいいんです!」

 

 それは彼女がすぐにそんなことを口にするからだ。

 今もしなだれるようにしながら机に体を乗り出して一刀に迫ってくる魯粛に対して、やっぱりこの娘は苦手であるという気持ちを新たにする。

 

「ほらほら北郷さん、こんなに魅力的な体が今なら思うようにできるんですよ。それに豫洲責任者の私と商会の2番手である北郷さんがくっつけば商会の頂点に立つことだってできるんですよー」

 

「生憎俺は燕の下にいる今の状況で十分満足してるんだ」

 

「ふふふ、隠さなくてもいいですよ。男なら一国一城の主になるのは誰もがもつ夢ですからね」

 

 ほらほら、とこちらを誘う彼女にそれでもと拒絶を伝えると、彼女は「むむ、なかなかに手ごわいですね」と拗ねたように口をすぼめると驚きの行動に出た。

 

「ほら、北郷さぁん。今ならこのパオの美しいおっぱいだって北郷さんの思うままですよ」

 

 彼女はそう言って、一刀の手を取ると、それを自らの胸に押し当ててきたのである。

 突然の行動を見た隣に座る楽進は顔を真っ赤にしながら「ななな、破廉恥な」とつぶやいている。

だが、当の手を押し付けられている(傍から見れば一刀が魯粛の胸をもんでいるように見える)一刀は、特に動揺した様子もない。

 

(さて、どうしたものか)

 

 と暢気に今後のことを考えていた。

 

 もう数年間、衛弘と共に一癖も二癖もある海千山千の商人たちと亘り合ってきた一刀からすれば大抵のことは動揺に値しない。

 商談の最中に色仕掛けを仕掛けてくる相手は珍しいことではなく、そういったものに対しては努めて冷静な対応をするのが上策であると一刀は心得ていた。

 

 だから一刀の動揺を狙って、こうした行動に魯粛が及んでも一刀は慌てて振り払うようなことはせず、どうやってこの破廉恥な娘を納得させるのかを考えていた。

 

 あまりに動じない一刀に業を煮やして魯粛は胸にあてた手をさらにこねるように押し付け、それを見た楽進が「はわわ」とさらに顔を赤めるが、一刀はきわめて冷静であった。

 自分の胸に男の手を押し付ける女とそれを見て赤面する少女、そして胸を触っても悟りを開いたような顔で思考にふける男。

 ひどくシュールな絵面が、豫洲の商会で繰り広げられていた。

 

 しかし、ようやくこのまま魯粛を放っておくのもよくないと考えた一刀は彼女に手を放すように伝えようとしたが、それをする前に魯粛から先に手を放してきた。

 

 急に解放されたことを訝しみ、魯粛を見るとどうも彼女は顔を白くしながら口をパクパクとさせていた。

 

「ひゃぃぃぃ!! どうして御当主がここに……、もしかしてこれはパオを貶めるための巧妙な罠だったのですか!!」

 

 顔面蒼白で一刀の背中の向こうを見ながら彼女が口にした瞬間、その言葉の意味を理解した一刀はすぐさま後ろを振り返った。

 

 

 

「へぇ、心配してきてみればまさかこんな不埒な現場に出くわしてしまうなんて、さすがの私もビックリだよ。うん、流石に海よりも広く山よりも高い度量の私も今回ばかりは少し怒ってるんだよ。ああでも誤解しないでくれたまえ。別に一刀が子敬ちゃんの贅肉を揉みしだいていたことに怒っているのじゃないよ。私は理解のある女だからね」

 

 一切の言い訳も許されないような様子で少女は言葉を続ける。

 

「男である一刀が女性の胸に憧れを持つのは理解できるからね。だから私はそのことには怒ってないんだ。私が怒っているのはね、信頼していた2人が仕事をかまけて暢気に乳繰り合っていたことに対して怒っているんだ。さてどうかな2人とも? この私の怒りは短慮なものといえるのかな? そこのところを是非とも教えてくれないか?」

 

「うわー店長、最低やん……」

 

 明らかに”少し”ではない怒気を小さな体に纏いながらそこに立つ少女の姿を見ると、一刀は初めて盛大に動揺したのであった。

 




人物紹介


徐庶 (字 元直) 真名:篝里(かがり)

オリキャラその3。
商会の荊州地域での活動を統括している少女。
水鏡先生の私塾で学んでいたことがあり孔明と士元とは幼馴染。
基本的に仕事のできる女だが、衛弘がかかわると暴走する。
彼女のせいで荊州での商会ではブラック企業のような風習が生まれた。
ゆくゆくは全地域でそれを義務化しようと目論む。

演義だと序盤に劉備を助けた名軍師。彼が推挙したことで劉備と諸葛亮たちが出会うことになった。
恋姫だと彼がいなくても劉備達は諸葛亮と出会っているので、役目がなくなってしまった人。
一応、彼女はこの後蜀陣営とかかわりを強めていく予定。



書きだめはあと断片的にしかしかないので、今週末に投稿できたらなという感じです。
ちなみに次回で黄巾の乱の発生、その後2~3回で黄巾の乱を終わらせて連合編に入る予定です。
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