真・恋姫†無双 北郷一刀・商人ルート 天下も金の回りもの   作:MATSUKASA

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タイトルは割と適当です


9話 驚愕 噂をすれば影

 

 

 

 

 

 

「しかし”保護する”っといってもなぁ……具体的にどうすればいいのか考えもつかないな」

 

「そうだよねー、それが困っているのだよ……」

 

 衛弘から相談を受けた一刀はとりあえずは、外でするような話ではないということでいったん場所を変えるため店舗の二階、執務室にまで戻ってきた。

 だが、場所を変えたからといってすぐにいい考えが浮かぶということはなく、今は室内で一刀と衛弘は2人で頭を悩ませていた。

 

 黄巾党の首魁(と思われる)三姉妹と接触を果たすためには、どうしても黄巾党の中に入っていく必要があるが、そこには大きな問題があった。

 一刀達は商人である。自前で軍などもっていない。

 あわよくば商人として黄巾党の軍内に潜入でき、三姉妹と接触できたとしよう。だが、そこから三姉妹を連れ出すとなると、何十万ともいわれる彼らは血眼になって一刀達に襲い掛かるだろう。

 衛弘一人ならもしかすればそれでも逃げ出すことはできるかもしれないが、三姉妹を連れて、しかも追手に対処しながらとなるとそれはもう不可能というべきだろう。

 もちろん、一刀としても衛弘がそんな危険な真似をすることを認める気はない。

 

 そこで一刀が考えたのがどこかの軍に協力してもらい、三姉妹の保護を協力してもらうという案である。

 無論、そのときには三姉妹の素性などに関しては一切秘匿するという条件がつく。

 

 商会の手のものを黄巾党の内部に忍び込ませ、本隊にいると思われる彼女達を官軍との戦闘のどさくさに紛れて脱出させる。

 そして、協力してもらう軍に彼女達を保護し、連れて来てもらうのである。これであれば追手が差し向けられても対応は可能ではないか、というのが一刀の考えであった。

 

 一刀が自身の案を提示すると衛弘はなるほどと考えるそぶりをした後、小さく首を振って否定的な意見を示した。

 

「たしかに一刀が言う方法なら、実現できなくもないけどそれを実行に移すには大きな問題があるよ」

 

 曰く、その協力してくれる軍はどうするのさ?

 

 今回の三姉妹救出は極秘で為したいことである。協力してもらう軍にもそれは守ってもらわなければいけない。官軍の支援者である衛北商会がなにやら黄巾党と怪しい関係があるなど知られれば、一大事である。

  

 よって、協力してもらう軍は既に官軍であるような人たちは避けたい。なので、衛弘とも個人的な好がある曹操にはお願いできない。

 それにこちらから依頼することになるので、相手には少なからず借りを作ることになってしまう。であれば、どこかに領地をもつ諸侯に頼るのこともできない。今後、その諸侯の土地で商売を行うにあたって、借りを引き合いとしてたかられるようなことになっては目も当てられないからだ。

 

 つまり、一刀の案を実行に移すに当たって、協力あるいは金で雇う軍は官軍もだめであり、なおかつ有力な諸侯でもいけない。

 とはいっても黄巾党の大軍を相手にすることになるので、並以上の実力は求められる。

 

「官軍でも諸侯でもなく、たとえるなら流浪の義勇軍。それでいて確かな軍としての実力を持っている……そんな軍がいて初めて一刀の案は実行できる。でも、そんな都合がいい軍がそこらへんに転がっていたりしないでしょ」

 

 衛弘が一刀の意見に難色を示した理由であった。

 彼女の指摘を受けて、一刀も自身の考えがあまりにも都合のいい協力者を前提にしていることに思い至った。

 

(確かに、燕の言う通りだ。そんな都合のいい軍がそんなに簡単にいないよな……それに加えて協力を結ぶ以上、信頼できるような人柄じゃないといけないし、できればこっちからも恩が売れるような弱小勢力である必要もある……)

 

 衛弘に言われたことを頭の中で反芻し、自身の考えを否定しようとした。

 

 

 しかしその時、一刀に電流はしる!!

 

 

 常識で考えればそんな軍など今の大陸にいるはずがない。しかし、一刀だけは知っている。黄巾の乱が発生した今、一刀が知る通りであればこれらのありえない条件をほとんどすべてといっても過言ではないくらいに満たした義勇軍が存在している可能性を。

 

(……いるかもしれない。そんな常識外れの軍が)

 

 この大陸において一刀しか知りえない存在があることに気付いた。

 彼ら、ただしこの世界では彼女らである、が一刀の知識通りの人物であるならその人柄も信用に値するはずである。

 それにこの先のことを考えても彼女らに接触することは非常に意味を持つはずである。

 

「あー燕。ちょっと信じてもらえないかもしれないけど、その都合のいい軍に1つ心当たりがあるかもしれない」

 

 未だにガァーと頭を悩ませている衛弘に向けて一刀は自身の心あたりについて告げるのであった。

 

 

 

 

 

「くっしゅん!!」

 

 一刀と衛弘が相談をしているのと同時刻、大陸の北方に位置する幽州と貴州の州境に駐留する一軍があった。

 

「桃香様、今は我等にとって大切な時です。このようなときに桃香様に風邪で倒れられるような事があっては困ります、どうかお体にはお気をつけ下さい」

 

「そんなんじゃないよ愛紗ちゃん。別に体はどこも調子が悪くないんだけどねー、なんかどこかで私の噂がされているような気がして……」

 

「今の我等は白蓮様のご好意でこうして一軍を率いるようになりましたが、まだ無名の勢力です。そのようなことを言っている暇があれば、桃香様にはもっと我等の主としても威厳というものをですね……」

 

「あー、なんだか朱里ちゃんに呼ばれたような気がするから、ちょっとみんなの方に行ってくるね!」

 

 「ちょっと桃香様!まだ私の話は終わっていません!」

 

 その一軍を率いる桃色の髪の少女は話が長くなりそうな気配を感じ取って、いち早くその場を離脱した。

 優しいが少し真面目すぎる義妹の声を背中に受けながら逃げるように前に進む彼女こそ、三国志を読んだことのあるものなら知らぬものがいないほどの英傑”劉玄徳”であるが、今はその彼女もただ無名の義勇軍の大将に過ぎなかった。

 

 彼女の持つ王としての器を正確に見抜けるものはまだこの大陸にはいない。ただ一人を除いては……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間は流れ、衛弘と一刀が相談をしてから暫く経ったある日。

 洛陽の自室で一刀は荊州から送られてきた手紙に目を通していた。

 

 あの後、一刀は衛弘に心当たりについて話した。それを聞くと彼女は「素晴らしいよ!」とすぐ同意し、一刀にその心当たりの軍を探すように伝えてきた。

 

 その指示を受けて一刀は一通の手紙を送った。その返事が今一刀の手元にある手紙である。差出人は徐元直。

 一刀が持つ心当たりについて、これもまた一刀の知識が正しければ彼女なら何か知っていると考えてもことであったが、彼女からの返事に目を通した一刀は自分の考えが間違えではなかったことに小さくガッツポーズをした。

 

 正確には一刀が思い描いていたような返事ではなかったが、彼女は確かに目的の人物を知っているとのことであった。

 

『私自身、一刀の言うその人とは面識はありません。ですが、私と同じ私塾を出た子達が手紙で伝えてきた今仕えている主人の名前が確かに一刀の言う方でした』

 

 そして手紙はさらにこう続いていた。

 

『もう一月ほど前になりますが、そのころは幽州の公孫瓚殿の庇護下で賊の討伐に当たっているとのことでしたので、今もおそらく幽州で南より流れ込む黄巾党の討伐に当たっているかと思います』

 

 ちなみに彼女からの手紙にはその後、衛弘に対する限りない愛の言葉で埋め尽くされていたが、それをすべて読んでいては日が暮れてしまうので一刀は目的の部分だけ読んでその手紙をそっと閉じた。

 

 なにはともあれ、これ以上にないくらいに手がかりを得た一刀はすぐにこのことを衛弘に伝えた。

 

「それでどうしようか? 幽州といえばここからそれなりに距離があるとはいえ、黄巾の本隊がいる冀州の隣でもあるし都合がよくもあるな。俺としてはすぐに使者を立てて接触を図るべきだと思うのだが」

 

「お手柄だよ! すぐにそうしよう! 私もすぐに支度をするから一刀も出かける用意をするんだよ!」

 

「は?」

 

 徐庶からの手紙で得た手がかりを一刀が伝えると衛弘は立ち上がって喜び、一刀に「30秒でしたくしな!」と告げてきた。

 あまりにも突然な彼女の行動に一刀の口から出たのは純粋な戸惑い。

 

「ちょ、ちょっとまてよ! 態々、燕自身が行く必要はないだろ! それに直接行くにしても一旦は使者を送ってこっちの意向を伝えてからのほうがいいだろ?!」

 

 

 一刀の口から出た疑問は至極当然のものである。

 確かにここ最近は乱の発生によって、店の営業も縮小しているし店は殆ど于禁に任せているので衛弘と一刀が洛陽を離れても問題はない。

 だが、一応は初対面となる相手に商会のトップと2番手が同時に訪問するなんてあまりにも危険すぎるのではないか。それに今は各地の治安も最悪といっていいような状況だ。

 そんなときに態々、衛弘が長距離の移動に出るなんて正気の沙汰ではない。

 

 そう考えての一刀の言葉であったが、衛弘は「やれやれなにを言っているんだか」と呆れて見せた。

 

「この私がそんな面白そうな人と会うのを我慢できると思うかい? そして勿論私が行くのだから言い出した一刀にも同行してもらうよ!」

 

 再度であるが、今回の理は明らかに一刀にある。それでも衛弘は一切の逡巡をする素振りも見せずそう言い切った。

 道理を語っても、興味で返されてはもうどうしようもない。

 

「……せめて十分な護衛はつけさせてもらうぞ」

 

「私としては久しぶりに一刀と2人旅と洒落こみたいところだけど、まぁ今回はそれでいいよ。よきにはからいたまえ!」

 

 こうなった衛弘を説得することはできないことを一番知っているのは一刀である。

 せめて衛弘が危険な目にあわないように備えだけはさせてもらうように伝え、急ぎ護衛の編成に当たった。

 

 こうして衛弘と一刀自身が訪問することが確定となった。

 余談であるが、このあと衛弘が、「あ、どうせなら私が走ったほうが速いだろうし、人数も少ないほうが人目につかないだろし私と一刀の2人で行くとしようか!」と言い出したことによって、一刀が用意した護衛はすべて無駄になり、目的地に着くまで一刀は胃が痛い思いをすることになった。

 

 

 

 

 

「お、あそこに見える旗ってもしかしてお目当ての軍じゃないかい?」

 

「はーはー、ようやく着いたか……」

 

  限りなく不安を抱えたまま、洛陽を発った一刀達は数日の旅路を経て、ようやく目的の軍と思わしき一団を発見した。

  軍の中にはためくのは深緑の”劉旗”。おそらくあれが一刀たちの探していた軍で間違いないだろう。

  

  目的の軍を見つけてうれしそうにする衛弘とは対象的に一刀は疲労困憊といった様子である。

  

  この数日に渡る2人の旅路の道中、一刀の心休まる時間はなかった。

  昼は、ジェットコースターを髣髴とさせる速度で疾走する衛弘の引く荷車(彼女曰く13代目子許号)の荷台でこみ上げる吐き気を抑えながら賊に出会わせないか周囲を警戒する。

 そして夜は、交代で見張り番ね!と申し出て一刀にもたれかかるようにして無防備な寝顔をこちらに向ける衛弘に悶々とした夜を過ごした。

 

 心身ともに限界を迎えつつあった一刀はようやくこの旅が終わることに安堵しながら、目的の軍を改めて見る。

 確かに立派な旗を掲げているが、駐留しているといっても陣内に大きな天幕があるわけではなく、遠目に見える兵士達の装備はお世辞にも立派とは言いがたい。

 傍から見れば寄せ集めの義勇軍といった様子であるが、だからこそ一刀たちにとっては都合がいい軍でもあると言えた。

 

「それで、燕。どうやって彼らと接触するんだ? いくらか手土産は持ってきたといっても、いきなりやってきた俺らの相手をしてもらえるとは思わないけど……」

 

 気を取り直した一刀はさて、ここからどうしようかと隣の衛弘に尋ねる。

 なお目的の一軍を見つけた後、一刀は乗せてもらっていた荷台から降りて今は自分の足で地面に立っている。

 

「それは出たとこ勝負で突撃あるのみだよ! それに一刀が信頼に値するという人たちなら滅多なことにはならないだろうさ!!」

 

 聞いた一刀のほうが馬鹿だったと思うくらいにあまりにも彼女らしい答えを返す衛弘。

 そして彼女はそういうやいなや「全速前進DA!」と、どこかの社長のように言い残してまっすぐ旗が見える方角へと走っていった。

 

 彼女を一人で生かせるわけには行かないので一刀も慌ててそれに続く。

 一刀とこの乱世における英傑の出会いはすぐそこにまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで朱里よ、兵站はどうだ?」

 

「はい……いくらかの村で支援をお願いしたのですが、どこも今は余裕がないとのことで芳しくありません。しばらくは兵の皆さんへの配給も減らさなければいけないかもしれません」

 

「えー、また減らすのかー。もう鈴々のお腹はぺこぺこなのだー!!」

 

「うう、ひもじいよ……」

 

 劉備軍の陣内では主要な武将が勢揃いで、現状の確認と今後の方針についての軍議が行われていた。

 

 その中で、関羽に兵糧について尋ねられた劉備軍の軍師である諸葛亮はその顔を暗くしながら現状を端的に説明する。

 諸葛亮の言葉をきいて、今後も厳しい食糧事情が続くことを知った張飛と劉備がそれぞれにむなしく悲鳴を上げる。

 

「あわわ、申し訳ありません桃香様。公孫瓚様からいただいた兵糧ももう少なくなりましたし、このままでは黄巾党と戦うことも難しいことになってしまいます。私と朱里ちゃんで今、調達の目処を立てておりますのでどうか今しばらくは……」

 

「ううん、雛里ちゃんが謝ることじゃないよ。2人が私達のために色々としてくれていることは充分にわかっているからね」

 

 自身の主君の悲鳴を聞いた龐統が申し訳なさそうに頭にかぶる帽子のつばを掴み、俯きながら謝罪を口にした。だがここにいる全員が今の現状は彼女達軍師のせいではないことくらい理解していた。

 劉備軍は今、深刻な兵糧不足に陥っていた。

 

 劉備・関羽・張飛の3人が義姉妹の契りを交わして旗揚げして以来、各地で志を同じくする人たちを加えて、黄巾党をはじめとする賊の討伐に当たってきた。

 その後はその話を聞いた公孫瓚に招かれ、そこの客将として各地を転戦していた劉備たちであったが、大陸において黄巾の乱の発生を聞いて、彼女は一つの決断を下した。

 「大陸全土の困っている人達を少しでも助けてあげたい」と思い旗を掲げた劉備は少しでもそれを実現するために公孫瓚の元を離れることにしたのである。

 

 公孫瓚と劉備は洛陽で共に勉学に励んだ友であった。

 劉備から自分の元を離れる旨を聞いた彼女は、昔から変わらない劉備の姿に苦笑いしながら、少しでも力を貸してあげようと、自身の領内で義勇兵を募る許可と幾ばくかの兵糧の提供を申し出た。

 

 こうして劉備達は彼女のもとを離れて、黄巾党と戦うために立ち上がった劉備軍であるがそこで2つの大きな問題に直面した。

 

 まず1つ目が公孫瓚の元を離れる時に彼女から許可をもらったとおり、義勇兵を募集したところ想像以上の人数、5000を超える兵が集まったのである。

 公孫瓚の下で各地の賊を破っていた劉備達の勇名は領内で広く知られており、彼女が今回の黄巾の乱に際して兵を募ると聞いて、それに賛同する人々は彼女達が想像した以上に大勢いたのであった。

 

 ちなみに、劉備達から5000以上の義勇兵を集めたと聞いたときの彼女は顔を引きつらせていた。

 

 こうして立派な一軍を率いることになった劉備であったが、あまりにも大勢の兵を得てしまった為に、今度はそれを維持する上で欠かすことのできない兵糧の問題に直面した。充分な好意を受けた彼女にこれ以上頼ることを良しとしなかった劉備は手持ちの食糧を、新たに加わった2人の軍師、諸葛亮と龐統の采配で何とかやりくりしながら戦ってきた。

 

 しかし、それでも限界がある。黄巾の乱が発生して以降、各地では食糧の値段が高騰し、それの確保は困難を極めた。軍師達のやりくりと多少なりとも各地の村から食糧を分けてもらうことでこれまでは、冀州から流れてくる黄巾党の一団と戦ってきたが、今では日々の配給を減らさなければいけないほどに劉備軍の台所は逼迫していた。

 

 であれば、公孫瓚以外の諸侯に黄巾党討伐のための支援をお願いするということも考えたが、ここでもう1つの問題が浮上した。

 

 2つ目の問題、それは今の劉備達の身分であった。

 以前は太守である公孫讃の客将という身分であった劉備であるが、彼女の元を離れた今の劉備は一軍を率いるとはいえ、領地も官位も持たない身分である。

 

 諸侯から見ればどこの誰とも知れない一軍の将の彼女を支援するわけがなかった。

 軍師の2人が各地の諸侯に手を回して支援のお願いを申し出たが、その殆どが相手にもされず、あるいは明確に拒絶されてしまった。

 

 そういった事情で劉備軍は旗揚げ以来、描いた大望とは裏腹に未だに幽州に留まることを余儀なくされ、全軍を挙げての戦いもできないでいた。

 

 日々の配給も減り、大義のために戦うこともできていないことに 兵の不満が高まりつつあることはここに居並ぶ諸将も理解しているが、打開策が見出せないままでいた。

 

「あーあ、どこかに私達を支援してくれる大金持ちさんがいないかなー」

 

 手詰まりな現状を前にして劉備は願望めいたことを口にするがそれに応える者はいなかった。

 あまりにも希望的観測な彼女の言葉であるが、それをはっきりと否定するのも憚れるほどに今の劉備軍は危機的状況にあったのだ。

 

 今回の軍議でもなにか有効な手立てが出ることはなく、今後も各地で支援をお願いすることと兵達への配給を減らすことだけ決め、軍議はお開きとなった。この先に光明が見えないことにみなの顔にはやるせない疲れの色が浮かぶ。

 

 

 そんな時である、軍議の為に集まった彼女達の元に1人の兵が飛び込んできた。

 

「軍議のところ失礼致します! 急ぎ、玄徳様にお伝えしたいことがあり参上しました!」

 

「む、何事だ?! まさか黄巾のやつらでも現れたのか?」

 

 ただならぬ様子で飛び込んできた彼に、関羽が顔を厳しくしながら応える。

 

「いえ、そういうわけではないのですが……。商人を名乗る怪しい2人組が玄徳様に話があると陣中に来ておりまして。対応を伺いしたく報告にあがりました」

 

 関羽の鋭い目線を向けられた伝令の兵士は、少ししどろもどろといった様子で用件を口にした。

 

「ふむ、いきなり桃香様に用があるなど不審だな・・・」

 

「はい、関将軍の仰る通り我々も最初は相手にしなかったのですが、どうも彼女達もしつこく。なんでも”衛北商会のものが会いたい”とだけ伝えるようにと譲らず……」

 

「それは本当ですか!?」

 

 関羽の言葉に返すように困惑した様子でその闖入者について報告する兵士が、全てを言い切るのを待たずに、諸葛亮が言葉を挟んだ。

 

「は、はい。本当です。あまりにもむこうが強情なのでこちらとしても対応に困り、こうして報告に参りました」

 

 普段の様子とは違って、目を瞠る諸葛亮に兵士は驚きながらそう応える。

 彼の言葉が嘘ではないと知った諸葛亮は、おそらく自分と同じ考えにいたったであろう相方の龐統を見つめる。

 諸葛亮は視線を受けた龐統が一度頷くのを確認したところで、自身の考えを劉備に伝える。

 

「桃香様、これは天啓にございます。是非その方々とお会いしましょう。”衛北商会”といえば今や大陸では知らぬものがいないほどの大商会です。また彼らは今回の乱に当たっては多大な資金を投じて、官軍の支援をしていると聞いています。もし彼らから支援がもらえれば今の状況も全て解決できます」

 

「え? 私が言ったこと本当になっちゃった? 朱里ちゃんがいうなら、その商人さんたちに会ってみるよ……ううん、会わないといけないね」

 

「ありがとうございます! それではすぐにその2人をここにお連れしてください。その際はくれぐれも丁重にお願いします」

 

 主の許しを得た諸葛亮は手早く伝令の兵士に指示を出す。指示を受けた兵士は予想外の指示に驚きを覚えながらも、かしこまりましたと返事をしてすぐそれを実行する為に去っていった。

 

「ねぇ、朱里ちゃん。そんな大商会の人ならここに呼ぶんじゃなくて、私が直接行ったほうがよかったんじゃないかな?」

 

「いえ、いくら衛北商会の者とはいえ、使いの者にこちらが下手に出ては侮られる可能性があります。相応の地位のものであれば桃香様自身が足を運ばれるのがよいかと思いますが、下手に出ては足元を見られてしまいますので」

 

「そうです、いくら大商会の者といっても使者程度に桃香様が自ら出向いては”御しやすい”と思われるかもしれません」

 

「んー支援をお願いする以上こっちから行くほうがいいかな、って思ったんだけど交渉って大変なんだね」

 

 劉備の疑問に応える諸葛亮と関羽。

 彼女達にとって劉備は敬愛すべき主である。その彼女が侮られるようなことがあってはいけないというのが関羽の思いであり、諸葛亮にとってもそれは同じである。

 また交渉事において、こちらから相手に窮状を曝け出すような真似は避けたいという思いがあった。

 

 このときの諸葛亮の判断は当然のものであった。

 しかし、程なくしてこの判断は大きな失策であったことをまざまざと突きつけられることとなる。

 しかし、かといって彼女を責めることは誰もできないだろう。

 今まさに訪問してきた2人組こそがその衛北商会のトップとNo.2であることなど、いくら伏竜と謳われた彼女であったとしても想定できないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーやー、お取り込みのところお邪魔してしまって申し訳ないねー!!」

 

「おい、燕。少しは遠慮したらどうなんだ」

 

 兵士が去っていってから暫くして、”衛北商会のもの”を名乗る2人組が劉備たちの元にやってきった。

 

 片方は、鷹揚に片手を上げながらこちらに挨拶をしてくる少女。

 黒を基調とした軽装に身を包み、首には皮でできた眼鏡のようなものをぶら下げている。しかし、身にまとう衣装は軽装であっても一目でかなりの高価なものであるとわかるほどに上質なものである。

 もう一方は、白色の服に身を包んだ男性。

 緊張した様子のない少女を真名で呼び、苦言のようなことを呈している。だが彼がまとう衣装も隣の少女と同様に見慣れぬ材質で輝きを放っているようにも見える。

 

 都のやんごとない身分の2人。

 

 それが劉備達が彼らを見て最初に抱いた感想である。

 

「いえ、大陸随一の商会である”衛北商会”の方にお越しいただけるとは光栄でございます。私はこの軍の軍師をしております、姓は諸葛、名は亮、字は孔明と申します」

 

「お、同じく軍師の龐統です。字は士元と申します」

 

 入ってきた2人を一通り観察した軍師の2人は一礼をしながら自身の名前を告げた。

 2人の名乗りを聞き、少女の方は面白そうな笑顔を向け、もう1人の男性は傍目にも分かるほどに眉間にしわを寄せて険しい顔をした。

 

 この時の彼の心情を表すとすれば、

 

(アイエエエ! 孔明?! 孔明ナンデエエ! ソレニ士元!? 士元ナンデエエエ!!? チビッコ軍師ナンデエエエ???)

 

 絶賛混乱中であった。

 彼が知る知識であればこの時期の劉備の元に伏竜鳳雛が揃っているなんて想像していない事態であった。しかもどう見ても小学生くらいにしか見えない見た目である。

 ありえない事態を前にして彼は混乱した。

 

 しかし、一刀もこの世界に来て衛弘とともにいくつもの修羅場を潜ってきた男である。内心ではとてつもない驚愕が巻き起こっていたが、何とかそれを顔に出すまいと必死にこらえ、結果として激しく顔を顰めることによってそれを成し遂げた。

 

「あ、す、すみません。私はこの軍を率いている、姓は劉、名は備。字は玄徳と申します。それで私の後ろにいるのが……」

 

「関雲長だ、お見知りおきを」

 

「張翼徳なのだ!」

 

 一刀の必死の表情を、自身の自己紹介が遅れたことへの苛立ちだと勘違いした劉備が慌てて名乗りを行った。

 そして彼女に続いて、後ろに控えていた2人も自身の名を口にした。

 

 この3人の紹介は、先ほどの孔明があまりの衝撃を持って一刀を襲ったこともあって、多少は驚いたが努めて平静に受け止めることができた。

 髭もじゃの関羽と張飛の2人が見た目麗しい女性と子供にしか見えない少女となっているが、随分と一刀もこの世界に慣れてきていた。

 

「わざわざ丁寧にありがとう! 私は衛北商会の衛子許さ。私のことは親愛を込めてどうぞ子許ちゃんと呼んでくれたまえ! それと、こっちにいるのは私の相方の北郷一刀だよ。彼のことは軽蔑を込めて……助平と呼んでくれればいいよ!」

 

「おい、だれが助平だ!」

 

 衛弘のあんまりな自己紹介にすかさず突っ込みを入れる一刀。彼女のこうした態度も一刀には最早慣れたものであった。

 

 しかし、衛弘の言葉を聴いた劉備軍の面々の反応は様々であった。

 驚きのあまりに目を見開いて暫く硬直する者。反応に困って苦笑いを浮かべる者。

 

 前者の反応が諸葛亮と龐統であり、後者が劉備である。

 

 ちなみに関羽と張飛はというと、

 

「何なのだ愛紗、この頭のおかしいちっこいのは」

 

「こ、こら鈴々、そういうのは思っても口にするんじゃない」

 

 割と失礼なことを言っていた。

 

 

 こうして一刀達は劉備たちとの対面を果たすことになった。

 この時の彼女たちの出会いは一刀にとって衛弘との出会いに次ぐほどのものになるのであるが、この出会いが後にどのようなことになるのかは当人達にも知らぬことであった。

 

 

 

 




ほんとはもう少し書いたのですが15000字超えたので分割してきりがいいところまで描いたら次話で投稿します。

あと数話でこの章を終わらせて、次の章に入る予定です。
今年中にそこまではせめてかきたいです。

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