「じゃあ八重さんは、ただそこにいただけだって言うの?」
「そうだよ」
――嘘ぉ……!
帰ってきたその一言に私はすごく驚いた。
「美緒ちゃんのお父さんやお母さんは、賢い人で、自分の言っていることは法律に基づいた正しいものだと理解しているし、同時に、自分たちの言い分が情を無視した世間に受け入れられ難いものであることも理解していて、自覚もしている。世間の中では基本的に、数の多くて、冷静さを保っている方が勝つ。だから二人は、二人で一人を攻撃できる世間を作り出して、そして、あらん限りに相手を罵倒して、優しい言葉をかけて緩急つけて相手を混乱させるんだ。そうして相手が普通の世間でなく、異常な世間を押し付けられ、攻撃と癒しの境界で混乱している隙に、彼らは自分たちの築き上げた世間こそが普通なんだと誤認させて欲しい結果を手に入れていく。――だから僕は、その場から自分を消した。どんなに荒々しい言葉をかけられようと、どんなに優しい言葉をかけられようとただそこにいるだけの状態を保つ」
―――凄い凄い!
私は興奮した。初めて出会った、両親をやり込める人を前に、興奮が止まらなかった。胸はドキドキと高鳴っている。止まらない。ほおっておけば、どこまでも高く舞い上がりそうだった。
「するとどうなるの?」
けれど同時に。
「相手を見失った彼らは、けど攻撃性と相手をやり込める意志を失っていないから、互いを攻撃するようになる。人間、三人で二人と一人だと世間を作れて、二人側が有利になるからそっちが大抵勝つんだけれど、二人だと世間が作れずに鏡になるから、負けを押し付けられる相手がいなくなって、相手との対等な戦いになる。一人と一人の言葉の力なんて基本的にそんなに大差ない。結果、味方を敵として認識した彼らは、敵対心と自身のやましい心によってどちらかの力が尽きるまで二人は互いへの攻撃を繰り返して、自分の中の自分も傷付けて、共倒れする。そして僕はそうして彼らが疲れ切ったところで――」
――ひどく胸が痛んだ
「あの人達から遺産を勝ちとったのね!」
嫌いな人たちが負かされるのは私にとって爽快な出来事であるはずなのに、なぜか私の心は痛みの声を上げていた。それの正体もわからないまま、私は思いきり叫んでいた。
「――そうだね……」
私が興奮気味にはしゃぎながら大いに称賛の言葉を言うと、彼は少し困惑しながらそれを受け取った。私はあの両親に勝った八重さんが物悲しそうにする理由がさっぱりわからなかった。やがて彼は何か口を開いて、そして――