ーー翌朝。
さて、朝飯も食べた事だし宵月にこの重たい荷物を渡しに行くか。早速、部屋へ向かいインターホンを押した。
ピーンポーン…
「はい、あら暁日君。」
「宵月、これ頼まれてたやつな。」
「あ、ありがとう。助かったわ。」
「助かったって…これだけの本運んだ俺の気持ちにもなってくれよ…。」
「そんな女々しい事言わないの。はい、これお礼ね。」
そう言って渡されたものは携帯ゲーム機だった。
「?なんだこれ。」
「昨日モノモノマシーンで当てた物よ。私はゲームやらないから持ってても意味ないし、あげるわ。」
「あ、はい。どうも。」
「じゃあ私はこの本を読む事にしようかしら。用があるならモノトーク使ってね。」
「ん、分かった。…と、そう言えばモノトークと言えば昨日寝る前に通知が来てたな。……飛田からか。」
ーーーー
飛田明日香:やっほ〜悠?(๑˃̵ᴗ˂̵)
飛田明日香:寝ちゃったのかなぁ?( ˘ω˘ )
飛田明日香:しゃーない。探索で撮った写真送っとくから後で見といてねー( ・ω・)つ
飛田明日香:画像
ーーーー
…探索してた時に撮ってたやつかな………ってんん!?
「…ブッ!なんだこれ!?」
「どうしたのよ暁日君………プフッ!………フフフッ……なによその写真…!フフッ……!」
送られて来た画像はあの時3人で撮った自撮り写真だった。
だが、写真には加工されていて俺の目だけが少女漫画のようにやたらデカく輝いたものになっていた。
「あ、暁日君だけ、メルヘンな顔になってて…ククッ………!ダメ……お腹痛い…!」
宵月は完全にツボにハマってしまっている。
とりあえず飛田に抗議のメッセージを送る事にした。
ーーーー
暁日悠:飛田!なんだよあの写真!
飛田明日香:お、写真見たの?どうあの加工、エモいっしょ?(๑>◡<๑)
暁日悠:エモくないわ!どうやってあんな顔にしたんだよ!
飛田明日香:知らないの?メダル使ったら加工機能とか顔文字も使えるんだよ〜╰(*´︶`*)╯♡ モノクマ曰く、「追加コンテンツ」だってさ〜(*´꒳`*)
暁日悠:いやそれはいいからあの画像消してくれよ!
飛田明日香:え〜(´・ω・`)そんな事言うんだったらアタシのアイコンを悠の顔に変えちゃうもんね!o(`ω´ )o
ーーーー
いや待て。アイコンって事はみんなに見られるってことだよな?それは流石に不味い!
ーーーー
暁日悠:待て待て!画像は残す。それにもう消すようには言わないからアイコンにするのはやめてくれ!
飛田明日香:さっすが〜♪話が分かるね♪(´∀`*)じゃ、大切にしててねー!
ーーーー
「ふぅ、やれやれ…。」
「結局消さないのね?」
「あぁ。下手するとアイコンにされる所だったからな…。」
「それならそれでいいじゃない。クッ、フフ…。」
「冗談でもそういう事言わないでくれ…。」
あれが白日の下に晒されるのは笑えないくらいキツい。
ーー
で、労働の対価としてもらったこのゲーム機だが…。
「…ソフトが入ってないなこれ。」
このゲーム機は触ったことがあるが本体に差し込むカセットかダウンロードで取り込むことでゲームを遊ぶ事ができる。
ダウンロードされたソフトが入ってると思って確認したが入っていない。
ソフトが入ってないゲーム機を渡されてもなぁ…。
「氷室の研究資料室でソフトでも借りて来るか。」
あれからパソコンの解析をするために部屋にこもってるだろうから今もいるはずだよな。
ーー氷室の研究資料室。
「氷室ー入るぞ。」
「む、暁日か。ようこそ我が
エデンと来たか…。前から思ってたけど、コイツの中二病っぽい発言は分かりにくい上に色々キツイものがあるな…。
「ちょっとゲームを何個か借りていこうと思ってな。このゲーム機に対応するソフトあるか?」
「愚問だな。この部屋には古今東西のあらゆるゲームがあるのだぞ。メジャーもマイナーもこの部屋においては無効化するのだ!」
「は、はぁ…。」
「まぁ、このゲーム機は有名だからな。探すのもそれほど苦労はしないだろう。得意なジャンルとかのリクエストはあるか?」
「んー。じゃあアクションゲームかな。」
「アクションか。実に無難だな。まぁそれもよかろう。」
…無難って一言多いんだよ。
「…特にどういうアクションかの指定はなかったから適当に何本か取ってきたぞ。好きなのを選びたまえ。」
「おう、ありがとう。そうだな……じゃ、これにするか。」
そう言って俺が手に取ったゲームのタイトルは、『クリーチャースレイヤー』。
様々な武器を駆使して異世界の怪物・『クリーチャー』を撃退する、というハンティングアクションゲームだ。そして一人でも複数人でも遊べるのがこのゲームのウリだ。
「このゲーム、マルチでやるほうが好きなんだよな俺。」
「ほう、それは私を誘っているのだろうか?」
「あ、いやそういうつもりじゃ…。」
「そう言っても無駄だぞ。私もやらせてもらうからな!」
「いや、あっちはいいのかよ?」
「8割ほどは完了している。それに時間は半永久的にあるから、まったくもって問題ない!ずっとパソコンを相手にしていて退屈していたのだ。さぁ、一狩り行こうではないか!」
…単にゲームがしたいだけか。なら素直に言えばいいのに。
「…実はあらかじめプレイしているから、全難易度で遊べるのだがそれでも構わないか?」
「まぁガッツリやるつもりじゃないからそれの方がありがたいかな。」
「よし、ではクエストは最高難易度のX級で行くとしよう。武器は決めたか?」
「あぁ。双剣にした。昔っからこのゲームシリーズは双剣使ってるんだ。」
「思い出のゲームといった所か。フン、悪くないな。」
「そういうお前は何にしたんだ?」
「ランスだ。」
「えっ、ランス?」
「不満か?」
「不満ってわけじゃないけど、なんか意外だなって。もっと太刀みたいな派手なのを使うと思ってたし。ランスってなんか地味じゃないか?」
「太刀など所詮、『全集中の呼吸』とかほざいて暴れるガキの武器だ。それにランスを意外だの地味だの随分と言ってくれるな。鉄壁のガード、そこから繰り出される鮮やかな一撃、実にクールではないか。」
人のことを言えた立場じゃないけど、氷室なりのこだわりがあるんだな。…クールかどうかは置いといて。
ーー「よし、ひるんだぞ!攻めろ攻めろ!」
「任せろ!くらえ必殺、デススティングラッシュ!!」
「よし、尻尾切ったぞ!」
「フハハハハ!私に不可能などないわ!!!」
「っしゃ!倒したぞ!」
流石に手慣れているだけのことはあるな。ランスが見たことないような勢いでラッシュをして一瞬で尻尾を斬ってしまった。それはともかく、攻撃に名前を付ける必要あるのか?単に気分的な問題だろうか。
「久々にやったけど、やっぱり面白いよなこのゲーム。」
「この私に付いてこれるとはな。中々いい腕前だったぞ。」
「天才ゲーマーに褒められるとは光栄なことだな。」
「そうだろうそうだろう!もっと崇めたまえ!」
冗談交じりに答えたけど満更でもなさそうだ。
「外に出られたら、これの最新シリーズやりたいなぁ。」
「………残念だが、このシリーズはもう無い。これを最後に絶版になった。」
「…え?なんでだよ?10年近くは続いてる人気シリーズだろ?」
「ディレクターの暴走だよ。」
「暴走?」
「金に目が眩んだ一人の男が最新作の開発をおじゃんにしたんだ。元々評判の悪い奴だったが発売前の情報でソフト単体では以前までの武器が使えない、使えるようにするために必要なダウンロードコンテンツの小売り、一本では完結しないシナリオといった金儲けのためとしか言えない商法の情報を出して叩かれていたんだが、ある時ついに会社の金を横領しようとしてブタ箱行きだ。その後、開発チームの統率も取れなくなり、最新作の開発も中止。シリーズも事実上の終了となった。1人のバカが金に目が眩んだせいで全て台無しになる…愚かなものだよ。本当に金は醜い存在だ。」
金は確かに争いの要因になりがちだ。俺もそんな光景を何度も見てきた。けど、氷室はやけに金を毛嫌いしてるんだよな。昨日の動機の話の時でもそうだ。はっきり「金が嫌い」って言ってた。
「なぁ、氷室。お前なんでそこまで金を嫌ってるんだ?お前の才能上、金は会社にないと困るだろ。」
「気になるか?」
「ま、まぁ。気になるといえば気になる、かな。」
「では、少し語るとさせてもらおうか。私の
え、そっから?
「両親はどちらもプログラマーでそんな両親の下に生まれたが故にプログラミング技術を受け継いだのは必然だった。ある日、母のパソコンを使ってプログラムを組んでゲームを作ったのだ。その時は特に何も思わなかったがその出来が非常によかったらしく、母はとても褒めてくれた。そのゲームをみんなにも遊んでもらおうといくつかのゲーム会社に掛け合ってくれたのだ。…だが、所詮は素人の作ったゲーム。誰一人として相手にしようとしなかった。仕方なく、フリーゲームとして配信したのだが…そのあとどうなったと思う?」
「……有名になってゲームの利権争いが始まったとかか?」
「その通り。金になると分かった瞬間、連中は目の色を変えて我先にと出版権を狙い始めたのだ。だが、母は屈しなかった。『最期』まで誰にも利権を渡さず守り抜いた。」
「『最期』…だって?」
「会社の工作員によってありもしないデマを書かれたのだ。『利権を独占し、私腹を肥やす屑』とかな。…全く、自分を棚に上げてそれをやろうとしたのは誰だろうな。最終的に母は精神を病み、自殺してしまった。」
「…ひでぇ。」
「その後は父の田舎に帰りしばらく身を潜めることになった。それでもデマは流れたが、父の尽力で何とか鎮火したよ。あんな目に遭おうとも私を守ってくれた両親には頭が上がらないよ。」
「・・・・・」
「さて、ここで問題だ。このような過去があろうとも、会社を立ち上げ顔を出さずに大ヒットゲームを作り続ける理由は何だと思う?」
「…客に喜んでもらうため?」
「無論それもあるがそれ以上の理由がある。『復讐』だ。」
「ふ、復讐?」
「いくら大ヒット作を作り出しているといえど、会社を立ち上げてまだ日は浅い。息の長い会社に並ぼうものなら『出る杭は打たれる』の言葉通り強引に吸収合併されるのがオチだろう。まずはキャリアを積んで地盤を固めてから、最後に一気に巻き返しこちらが会社を吸収する、というわけだ。そして、かつて母を自殺に追いやった連中の悪事を暴き白日に下に晒してやるのさ。以上が私の目的だ。」
「…なぁひとつ聞いていいか?」
「なんだね?」
「お前と最初に会った時『老若男女誰でも楽しめるゲームを作る』って言ってたけど、あれは嘘だったのか?」
「嘘じゃないさ。それは最終目標だよ。私はいずれこの世界にあるゲーム会社をすべて吸収するつもりなのさ。悪人とは言えどかつては名作を作ってきた連中。その人間たちの叡智を集めればいつかは実現する…そう信じてるのだよ。」
「そうだったのか…。」
最初に聞いた目標が嘘だったらどうしようと思っていた。けど、それは杞憂だったようだ。復讐心に囚われても真摯にゲームと向き合える…それが氷室幽華という人間なんだろう。
「それにしても以前の裁判は本当に残念だったよ。」
「柊と八咫のことか?」
「ああ。実は彼女たちをわが社の経理と専属イラストレーターとしてスカウトしていたのだよ。動機にさえ気づいていれば、コロシアイは起こらなかったのだろうか…。」
「お前は悪くないよ。悪いのは、このコロシアイを仕組んでいる黒幕だ。」
「まさかこの神が慰められるとはな…。面白い、気に入った!では再びゲームをするとしようか!!」
「ま、まだやるのかよ!?作業はともかく、寝てるのか?ずっと気になってたけどクマがすごいぞ!」
「問題ないと言ってるだろう?寝るだけならここでもできるからな!」
「待った待ったぁ!それは聞き捨てなりませんな!」
「何だクマ公?」
「折角用意した個室を使わないのは許さないよ!これからは個室以外で寝ることを禁止します!いいね!」
モノクマが突然現れて言うだけ言った消えたと思ったら、モノドロイドの校則に
14.個室以外での故意の就寝を原則禁止します。
の一文が増えた。
「やれやれ、しばらく徹夜か。」
「だから寝ろよ。個室に行けばいいだけだから大した問題じゃないだろ。」
「その時間が惜しいのだよ。それはさておきゲームするぞ!実はここにはテレビゲームだけでなく、カードゲームもあるのだ!さぁ
「あーもう分かったよ!すればいいんだろ!」
結局その後一晩中相手させられた。
ーー「…疲れた。まさか一晩中相手させられるとは。」
一度晩飯を摂るため部屋から出たが何処から見ていたようで最後まで離してくれなかった。
食堂に行ったとき、例のボールが全部で6つになっていた。
「あと二つか…まさかあんなのを狙ってコロシアイなんて…。」
ーー翌朝、食堂。
「おはよう。…ってどうしたんだ?」
食堂に来てみると何か様子がおかしい。
どうも慌ただしい。
「暁日……大変なことになった。ボールが盗まれた。」
「盗まれた?」
「あぁ。剣崎が朝食堂に入ったときに気づいたらしい。」
「なくしたと思って真っ先にここを探したのですが、見つからなくて…。」
「今から全員の個室を調べる。それでもいいか?」
「分かった。なら、すぐ調べよう。」
ーー「大和、どうだった?」」
「一通り探したが、それらしきものは見つからなかった。」
「ボールは一体どこへ行ったのでしょうか…?」
「仕方ない。今、ここには東雲と氷室以外の10人がいる。3,3,4のグループに分け2つは探索、1つは東雲と氷室に声をかけるグループにして行動しよう。」
そう言われて俺と剣崎、獅子谷の3人でボールを探すことにした。
「私たちは外を探すわ。暁日君たちはタワーを探して。」
宵月、葛城、夜桜の3人と探索個所を決めた。
ーーモノクマタワー。
「……よし、探すぞ……。」
「ですが何処を探せば…?」
「とにかく、1階から虱潰しに探すしかない。」
そう話していると、
ズドン!!!!
突然大きな音が聞こえてきた。
「なんだ!?今の音!?」
「暁日様!今の音は僕の研究資料室から聞こえたようです!」
「研究資料室だな!」
あの大きな音明らかにただ事とは思えない…だが、
「あ、開かない?」
「鍵が…!」
「…どけ!………俺がぶち破る………!!………………………うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
雄たけびを上げて獅子が扉を殴り飛ばした瞬間、『その音』が鳴り響いた。
ピーンポーンパーンポーン…。
『死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』
ーー死体発見アナウンスを耳にしながら、目にした光景………………
荘厳なパイプオルガンが鳴り響く中、礼拝堂の中心に落下した巨大なシャンデリア。
ーーその下敷きになり押しつぶされた『超高校級の監察医』東雲蒼真の変わり果てた姿だった。
「………………し、東雲……。」
俺たちが呆然としていると、
「暁日君!今のアナウンス…!」
「…!東雲君…!」
宵月たちが合流した。
その直後、
ピーンポーンパーンポーン…。
『死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』
再びアナウンスが鳴り響いた。
「い、今のは一体?」
「アナウンスが二回?」
「誤作動…ではなさそうね。」
「もしかして…。」
「どうした葛城?」
「死体一体につき、1回分のアナウンスだとしたら…。」
「…!まさか…!」
その直後、モノトークに通知が入った。
要件は
ーーーー
皇大和:氷室の研究資料室に集合。大至急だ。
ーーーー
「皇からだ。」
「『大至急』…嫌な予感がする。急ごう。」
頼む…杞憂であってくれ!
ーー氷室の研究資料室前。
「皇!」
「来たか。何かあったのか?」
「実はタワーで東雲が殺されていたんだ。」
「東雲が!?……なるほど、だから2度もアナウンスが…。」
「ってことは…。」
「あぁ。恐れていたことが起こってしまった。…一度中に入ろう。」
そう促され、入った先ではーー。
昨日見た後ろ姿…。寝ているのかと思うくらい静かだった。
手に触れた瞬間、冷たさによって現実に引き戻される。
椅子に座っている人物…それは、
ーー穏やかな顔を浮かべ、永遠の眠りに就く『超高校級のゲームプログラマー』氷室幽華だった。
一言。
Twitterの氷室ファンの皆さん、ホントごめんなさい。