ーー
前日の夜時間、超高校級のゲームプログラマーの研究資料室にて。
「・・・・失礼致します。氷室様、お疲れ様です。差し入れを持ってきたのですが、良かったどうぞ。」
「…む?…あぁ剣崎か。差し入れか、助かるな。ありがとう。」
「疲れもピークに達しているだろうと思ってモノナミンβとΩを持ってきました。…根を詰めるのもいいですがたまには休憩を取った方が集中しやすくなると思いますよ。」
「お気遣い感謝するよ。……まぁ、善処するよ。」
「そうですか。…随分と散らかっていますね。少し掃除をしても構いませんでしょうか?」
「別に構わないよ。その辺のメモは必要のないゴミだからな。」
「かしこまりました。」
そう言って剣崎は掃除を始める。チラリとデスクに目をやると、氷室は再びパソコンに向かい集中しているようだ。
ーー隙だらけだ。
そう悟った剣崎はデスクへ近づき周辺を掃除をする…フリをして鍵を盗み出し、USBを模した盗聴器をパソコンへ差し込んだ。
「…こんな所でしょうか。掃除も終わりましたので退散させてもらいますね。」
「何から何まで悪いな。私がやるべき事もやってくれて助かったよ。」
「いえいえ、奉仕こそが僕の仕事ですから。……それから、念の為鍵を閉めておいたほうがよろしいかと。夜に1人だと襲われるかもしれません。」
「それもそうだな…。用心してかけておこう。……では、お休み。」
「おやすみなさい。
……永遠にね。」
「…?何か言ったか?」
「いえ、何も仰ってませんが?…では、失礼します。」
「…さて、次は…。」
ーー超高校級の執事の研究資料室。
自分の研究資料室に戻ってきた剣崎。
奥の部屋の扉の裏にひっそり息を潜めて、ある人物を待つ…。
…キィ。
「…来た。」
しばらく経ってその人物…東雲蒼真が部屋に入ってきた。
「やれやれ…。わざわざここに呼びつけるとはな。……剣崎クン!ここにいるんだろう!!隠れてないで出てきたらどうだ!?……恐らくオレを殺すつもりなのだろう?ターゲットとしてこれ以上うってつけな人物はいないからな。だが、早まるな!まだ引き返せる!キミもそちらへ脚を踏み込んではーーーっ!!」
東雲の訴えも虚しく、ワイヤーが切れるように細工された巨大なシャンデリアが東雲の小柄な身体を飲み込むかのように押し潰した。
「…まず一人。」
剣崎は機械のように冷静にそう呟いた。…一方で死体を見る目はどこか憐みを感じさせるものだった…。
一つ目の殺人後、例の盗聴器の受信装置を起動させ氷室の部屋の様子を探り始めた…。
『・・・・・・』
特に音や声は聞こえない。もうドリンクを飲んだのだろうか?それともまだ飲んでいないのか?それすらもはっきりしない。
……一時間くらい経ったが反応がない。
「……失敗か。」
諦めて装置の電源を切ろうとした瞬間、
『・・・・ゴッ!・・・・ゴホッ!ガホッ!!』
「・・・・!」
『ゴホッゴホッ!!・・・・ガボェッ!!・・・ち、血・・だと?・・・グフッ!・・・剣崎・・・まさか・・ドリンクに何を・・・ガッ・・・ガフッ!!・・・・・・・・・・』
氷室が命を落としたこと悟った剣崎は立ち上がり、急ぎ足で氷室の研究資料室へ向かった。
ー-コンコン。
扉の前に到着し、確認のためノックをする。
「・・・・・。」
…返事はない。
ー-コンコン。
……再びノックするもやはり反応はない。
「…。」
氷室の死を確信し、さきほど盗み出した鍵で扉を開く。
ー-そこには椅子から転げ落ち、目を見開き、口から血を流している氷室の姿があった。
「さて…片付けるか。」
口元の血を拭き取り目を閉じさせ、体勢を整えて椅子に座らせる。
そして、デスク周りの血痕を拭き取り、ゴミ箱の中身からΩのビンを取り出す。
……まるで事件などなかったかのように。
そして、扉に鍵をして立ち去った。
…再度自分の研究資料室に戻ってきた剣崎。
計画の最後の仕上げとして受信装置の破壊、予め録音していたシャンデリアが落下した瞬間の音声の再生予約、オルガンの自動演奏、そして扉に接着剤を付けて部屋を封じ込めた。
「…神よ。今、迷える魂が2つ貴方の元へ向かいました。…しかし、これでは終わりません。
剣崎は誰が聞いてるとも分からない独り言を呟き、部屋を後にした。
ーー
「うぷぷぷぷぷ…!大・大・大正解ーーーーー!!『超高校級の監察医』東雲蒼真クン、そして『超高校級のゲームプログラマー』氷室幽華サンを殺したのは恐るべき本性の極悪人『超高校級の執事』剣崎聖悟クンでしたーーー!!!!」
「ガッハッハッハッハァッッ!!まさか初のダブルキルがキミとはな…。可愛らしい顔をしてなんと恐ろしい事をするもんだ!!」
「・・・。」
剣崎は表情を全く変えず微動だにしない。
恐ろしいほど冷静だ。
だが、その状況に啖呵を切ったやつがいた。…葛城だ。
「…さてと。そろそろ聞かせてもらおうかな。」
「…何をでしょうか?」
「動機だよ勿論。正直まだ驚いてるんだ。前に犯人だと疑われただけで泣き出すくらいにはビビリな君が人殺しをするとは思えないからね。」
「やれやれ…。随分と人聞きの悪いですね…。」
「人聞きが悪いなんてよく言えたわね。2人も殺す時点で十分極悪人よ。のらりくらりと躱すつもりかもしれないけどそうはいかないわ。教えなさい。アナタが2人を殺したその理由を。」
「理由…動機…はぁ、全くうるさいな。なんなんです?
理由がないと人を殺してはいけないんですか?」
「…は?」
あまりに予想の斜め上を行く返答に思わず言葉を失った。
「なっ…!じゃあアンタ理由もなく2人を殺したって事?…そんなの何よりサイテーな人殺しじゃねぇか!!」
「知ったようなクチを聞かないで下さい。それに何ですか、さっきから“極悪人”だの“人殺し”だの…。私は貴方たちを『救済』して差し上げるつもりだったのですよ?」
「どうやら…それが貴方の動機のようね。詳しく聞かせてもらうわよ。」
「…まぁいいでしょう。どうせ死を待つ身だ、最期に真意を語るのも悪くない。その前に一つ訂正させて下さい。先程『殺した理由はない』と言いましたが少し語弊がありましたね。厳密には『殺したその後に理由がある』と表現する方が正しいでしょうか。」
「…モノクマボールか。」
「そう、その通り。私はあのモノクマボールを使って叶えたい願いがあったんですよ。」
「な、何を…だよ…?」
「人類全ての“死”ですよ。」
…誰1人としてその言葉の意味を理解出来なかった。
「フフッ、まぁポカンともしますよね。この崇高な願い…凡人には到底理解出来るはずもないですから。」
「お前…何言ってんだ?」
「今、この地球では一体何が起こっているか皆様はご存知でしょう?…そう、戦争、貧困、環境破壊、いじめ、虐待…。強者が蹂躙し弱者が虐げられるあまりにも醜い世の中になっています。私も孤児という生まれなだけにこの学園に入る前からこんな世の中で在り続ける事を憂いていました。」
剣崎はその悍ましい計画の一端を嬉々として語りはじめた。
聞いていようがいまいがお構いなしに目を輝かせて語るその様子は、その幼い容姿と相まってまるで子供が将来の夢を語っているかのようだった。
「宵月様には以前お話ししましたよね?『夢は世界平和だ』って。あの時の言葉は嘘じゃありません。コロシアイが始まった時、16人もの超高校級がいればきっとそれも叶うはずだ…そう思っていました。
……ですが現実はどうですか。これまでのクロも私欲に駆られて人殺しをしているじゃないですか!!
…その時気づいたんですよ、『所詮は人間だ、人間そのものが害悪なんだ』ってね。人間の愚かさに絶望していた時、私は聞いたのです。
ーー『皆に死の救済を与えよ、さすれば救われん』という“神”の声を。
そしてあのボールが出た時、これを利用して弱者に『死の救済』、そして強者に『死の制裁』を与える事を決めたんですよ!!
……そして願いを叶えるための礎に2人はなったと言うわけです。彼らはまだ穢れてはいない。だからこそ即死と毒殺というなるべく苦しまないような方法で魂を天国へ送ったのですよ。貴方達も本来であれば私の手で『救済』してあげたかったのですがなにぶん、一度のコロシアイでの上限が2人である以上、不可能だったのでね…。残念です。」
「く、狂ってる…。」
「狂ってるですって?私からすれば私を裁いても尚、コロシアイを続けようとする貴方達の方がよっぽど狂ってると思いますがね。だから私はこう言ったのです。『私に投票した事を死ぬほど後悔する』…と。神に選ばれたこの私を裁くという事はつまり、今の醜い世の中は何も変わらなーー。
「ふわぁ〜〜。」
……誰です?今あくびをしたのは。」
「あぁ、ごめんごめん
「…葛城様ですか。言いたい事があるならはっきりと言ってもらえますか?」
「“神に選ばれた”ってよくそんな妄言が言えるよね。」
「…はぁ?」
「君はあくまで神の声を聞いたからそんな事を、しかも善意でやってるつもりみたいだけど結局それさ、どう繕ってもただの人殺しだよね。」
「いいえ違います。私のやる事全てが皆を救う事になるんですよ。」
「だからその誰かの為みたいな理由が気に食わないんだよね。」
「…なんだと?」
「オレさ、前の柊さんの時みたいな『誰かの為』って理由での犯罪が大っ嫌いなんだよ。どんな犯罪者がどう取り繕っても最終的に決めたのは『自分の意思』によるもの。それを自分の責任逃れのために『誰かの為』って言うのが嫌で仕方ないんだ。」
「…何が言いたいのでしょうか?」
「つまりさ、君はさっきからその『神』とやらを盾に殺人の言い逃れをしてんじゃないかって言いたいんだよね。正義だの神だの…結局自分を正当化するための建前じゃない?」
「…ち、違う…!」
「…全く、どれほど深い理由があるかと思ったらただのカッコ付けか。心底ガッカリだよ。まだ素直に認めた本代君の方がマシだ。」
「……………チガウ…!ワタシハ………スクワレナイ……モノヲ……スクウタメニ………ザイニンヲ……サバク…タメニ……!!」
「う〜ん、これでも折れないか。…となるともうちょっとはっきり言うべきだったかな。
『君は』
『最低な』
『救いようの無い』
『クズだ』」
「お、おい葛城。それは流石に言い過ぎなんじゃ…。」
「いいんだよ暁日君。コイツみたいなクズになるとこれくらい言わないと効かないよ。」
「やっぱり。」
「?」
「…やっぱり私の意見は間違ってなかったようですねぇ…。弱者をいたぶり、自分の意見が通らない異端者を徹底的に排除しようとする!愚かで救いようの無い存在だ…。」
「やれやれ…。ここまで来るとクズとかじゃなくてただのバカだな。」
「あわよくば同情を買ってオシオキを逃れるつもりだったが、そんな事はもうどうでもいい…。こんな醜い存在と一緒にいるくらいならこっちから願い下げだ!!モノクマ!この私に相応しいオシオキを用意してるのだろうな?」
「もっちろーーーん!!今回も『超高校級の執事』剣崎聖悟クンのために!スペシャルな!オシオキを!!用意しました!!!」
「これで…私は天国へ逝ける。」
「オレは神とか宗教染みた物は全く信じてない。…けど、君が逝く先は間違いなく地獄だと思うよ。」
…剣崎は反応しない。聞こえてはいるだろうがアイツの言う『醜い存在』の言葉など耳に入れたくないのだろう。
…そう思っていたら、
「あぁそうだ!最期に1つ面白い情報を伝えておきますね!」
突如、剣崎の方からこちらへ話しかけてきた。
「何よ。」
「実は1つだけ宵月様の推理にミスがあったのですよ。」
「ミス…ですって?」
「そう。あの時宵月様は私が氷室様の死体を確認した際にパソコンの電源を落としたと推理したと仰っていましたが、実は
「な、何ですって…!?何で今になってその事を教えたのよ!」
「別に意味はないですよ。ただもう解決したし必要ない情報だと思ったからです。ま、これが戯言と捉えるかどうかは皆様にお任せします!」
「…さて、陛下!最後まで貴女にお仕え出来なかった事をお許しください!ですが私は神の元で貴女を天から見守らせてもらいます!いつか貴女が天に召された際、再び貴女にお仕えできる事を願っています!陛下に神のご加護があらん事を!!…ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「それでは!張り切って参りましょう!」
「「オシオキターイム!!」」
「アーーーーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!」
3度目のオシオキの開始を知らせるボタンが押されたがその最中でも剣崎は高らかに笑っていた。
ーー
目隠しをされ、両手をロープで拘束された剣崎。
そのロープの結び目から伸びた先を持ち、剣崎を牽引する中世の騎士の姿をしたモノクマ。その状態を同じく中世の装いに身を包んだ民衆達に見守られながら、階段をゆっくりゆっくり登っていく…。やがて、階段を登り切り着いた先はーー。
上部で不気味に輝く刃を吊り上げた断頭台だった。
断頭台に身体を固定される剣崎。
モノクマの合図によっていざ、刃物が落とされる…そう思った瞬間、
突如、別の騎士の姿をしたモノパパ達が乱入してきた。
どうやら剣崎を助けに来たようだ。
目隠しと手の拘束を解き断頭台から解放される剣崎、だがそれを取り押さえよるモノクマ達と逆にそれを妨げようとするモノパパ達の集団の中でもちくちゃにされる。最早剣崎の事などどうでもいいと言わんばかりに争う集団によって足蹴にされ、しまいには誰かによって階段に向かって蹴飛ばされてしまう。
頭を打ち付けた後そのままの勢いで全身を階段の角にぶつけたり、擦りむいたりしながら一段一段と階段の転がり落ちていく…。
地獄のような苦痛の中、ようやく一番下まで落下したところで逃げようとする。だが、その瞬間それを見ていた民衆達が何かを叫んでいる。どうやら上を指しているようだ。それに促されるように上を見るとーー。
争いの最中に壊れた断頭台から外れた刃が眼前へ迫っていたーー。
気づいた頃にはもう遅く、剣崎が見上げるとほぼ同時に刃が剣崎の首と胴体を切断した。
切断面から血を吹き出しながら倒れ込む目の前の惨劇に民衆達が悲鳴を上げる中、何処からともなくエンジン音が聞こえてきた。すると、『今日は燃えるゴミの日です』という掲示がされたゴミ収集車がやって来た。そこから降りて来た作業着姿のモノクマとモノパパが剣崎の亡骸を荷台へ投げ込み機械を操作すると、装置が作動し亡骸がメキメキと音を立てながら内部へ飲み込まれていった。それを確認してから再び運転席に乗り込み、ゴミ収集車は何処かへ走り去って行ってしまった。
ーー
「エクストリィィィィィムッッッッッ!!!オマエがあの世になんか逝けるワケないじゃーーーーーん!!」
「骨も残らないほどの灰になるまで燃やされて、せいぜい肥料として世の役に立つんだなぁ!!ガッハッハッハッハァッッ!!」
「成程…これぞまさに『因果応報』って感じだな。ふわぁ〜今日も長かったなぁ…。朝早くから捜査とかしてたから疲れちゃったな。…さ、帰ろっか。」
「・・・・・。」
「あれ、宵月さんどうしたの?」
「…彼はなんであんな事を言ったのかしら。」
「あんな事…あぁ、『パソコンの電源を落としたのは彼ではない』ってやつ?気にする必要ないよ、所詮は彼の負け惜しみだ。」
「…だとしたら尚更気になるわ。別に教える必要すらない情報じゃない。」
「さぁ?もしかしたら最期に悔しがる顔でも見たかったんじゃないかな?真意はそれこそ『神のみぞ知る』ってやつだと思うけどね。…ほら、帰ろうよ。流石に眠いや。」
「えぇ…そうね。」
事件は確かに解決した。…だが、剣崎が最期に残した言葉のせいでなんとも言えない不穏な空気はそのままだった。
ーーーー
「…これで約半分、といった所か。最初はどうなるか不安だったが意外と順調だな…息子よ。」
「あんなモンなんですよ…父さん。はじめは強がってるけどちょっと不安を煽ってやったらすぐに崩れる。その後はドミノ倒しのように連鎖してくんですよ。特にアイツラみたいな
「ガッハッハ!違いねぇな!まぁこの調子だと割とすぐに終わりそうだな。」
「うぷぷ……そうだね。でもこれからだよ…。ボクと『アイツ』の分の“復讐”はまだこれからする事のほんの序章に過ぎないからね…。アイツラが全てを知ったとき、それから全てが始まるんだよ!うぷぷぷぷ…うぷぷぷぷぷぷぷぷ!!!」
ーーーー
ーー同時刻、超高校級のゲームプログラマーの才能資料室にて。
誰も居ないはずの部屋で一台、パソコンがひとりでに動き出していた。
そして画面にはある文字が表示されていた。
『・・・・・最終保存から24時間経過。指示プログラムに基づき、マスター氷室幽華を死亡と判断。これより、マスターの指示により残存データより新規データの再構築を開始します。
……現在25%。推定終了時間、6時間。』
ーー
【チャプター3 この醜き世界に制裁を! END】
残り:9名
To Be Continued...
ーー
【アイテム獲得!】潰れた懐中時計
三章を記録した証。
剣崎聖悟の遺品。
女王陛下からの贈り物。
未来を見据えた持ち主を失い、時が進むことも戻ることも無くなった。