ダンガンロンパ Redemption   作:ナーガ工場長

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(非)日常編4

「んぅ…これからに何をしようかしら」

朝から怒涛の展開とばかりに色々な事が続いて早くもお疲れ気味だった私は食堂の椅子に腰かけて伸びをしていた。

今ここに残っている人はそれほど多くなく、少し眠気も覚える程度にはヒマになっているが自室に戻って軽く仮眠といった発想は別になかった。

先生が何かの調査をする様子だった(その割に何故か例の棺を獅子谷君と協力してどこかへ運ぶつもりのようだった)けどどうやら小鳥遊さんが手伝うつもりみたいだから今のところ人手は足りているようだし、さらに人手がいるときに手伝おうと考えていた。

「…となると、いま調べるべきは…」

 

そうやって考えを巡らせて行きついた先は新たな施設の調査。

例によってモノパパたちが用意した新たな施設のことが気になって仕方がなかった。

先生から本当の才能を教えられると、やっぱり今までの気になりだすと調べつくしたくなるこの衝動は自分でも忘れていた蒐集家という才能由来の本能に突き動かされていたんだと実感させられた。

「…まぁ、変な才能じゃないだけよかったかしら」

ぼんやりしている時間が勿体ない。

才能を実感すると今まで以上に身体がうずいて仕方なかったので早速、行動を移すことにした。

 

今までに確認してきた才能資料室を整理すると

白暮君、夜桜さん、柊さん、シルヴィアさん、八咫さん、獅子谷君、東雲君、皇君、氷室さん、剣崎君、飛田さん、葛城君の12人分。

 

そしてまだ確認していないのが暁日君、小鳥遊さん、本代君そして…私の4人分。

(先生は教師である立場から考えるに恐らく才能に合わせた部屋はない考えた)

少し気になる事があるとすれば既に命を落としている本代君の資料室の扱いだ。

持ち主がいないから部屋に入る事が出来るのかどうか…入れたとして『改造人間』という才能を持った人間の才能資料室がどんなものかが全く予想が着かない。

見つけたら連絡してあげる必要もあるし…まぁまずは全員分の部屋を確認する所からかしら。

 

 


 

 

これまでの傾向から考えるに恐らく校舎内かタワー内に増えている可能性が高い。

手始めに校舎の調査から開始することにした。

 

ーー校舎5階

 

5階へ上がるための階段をふさいでいたシャッターは無くなっていた。

そしてそこから上に上がるための見当たらない、どうやら校舎は5階建てのようだった。

1階に1年、3階に2年ときて今回は『3-A』から『3-C』と書かれた表札が取り付けられた3つの教室、そしてその他の部屋が幾つかあった。

扉は普通の教室と変わらないが表札には『理科室』『職員室』と書かれている。

中はよくあるような部屋のつくりになっていて特に変わった様子はない。

 

…が、理科室には『カムクライズルプロジェクト2』と書かれたレポートが置いてあった。

けど、肝心の内容はそのほとんどが黒く塗りつぶされるか一部のページを抜き取れられており、内容の確認をすることが出来なかった。

唯一分かった事はこのレポートの作成者が『希望ヶ峰学園運営委員 研究部統括主任』なる人物であり、名前が『望月翔花』であることぐらいだった。

確か今の希望ヶ峰学園はスカウトや生活支援といった様々な分野を担当する部門が幾つか存在すると噂に聞いたことがある。このレポートは研究に関する部門の中でも一番偉い立場の人が書いた可能性が高い。そんな人が直接研究に携わるということは学園内でも特に重要視されていたとても大きなプロジェクトだったのだろう。

 

さっきの先生の話とこのプロジェクト名から考えるに、恐らくこのプロジェクトによって本代君が『改造人間』に至る理由が書かれていると思ったんだけど…。でも、これで先生の話の裏付けは取れたってことで良しとしよう。運営委員については先生に聞いてみようかしら。

 

職員室にもいくつかデスクが置いてあったものの引き出しに全て鍵が掛けられていた。

…とはいえ鍵はそんなに複雑な構造になっている様子もないからシルヴィアさんにでも頼んで開けてもらうことにしよう。

 

…けど、それより気になるものがあった。

 

それは黒檀調のデザインにでかでかと筆文字で『蒐集家』と書かれた扉だった。

「なんとまぁ分かりやすい…」

あまりにどストレートに書かれているためか少し面喰ってしまった。

けど、私にとっては待望の自分の才能資料室であることに変わりない。

「とりあえず中に入ってみようかしら」

気を取り直して扉を開けてみることにした。

 

 

ーー『蒐集家』の研究資料室

 

私の研究資料室は…なんというか一言で表すなら『カオス』って感じだった。

扉を開けて真っ先に目に入ったのは黒板、教卓、いくつかの机と椅子。そして黒板には右半分に古文、左半分に日本史について解説する内容の文とまるで教室のような部屋構え。

…と思ったらそこから左に目をやるとピアノと壁に立てかけられた音楽家の肖像画、その反対側には跳び箱やマット、その奥には壁一面に書きなぐられた数式…ととにかく統一性が全くない部屋になっていた。

「すっごいゴチャゴチャしてるわね…それにかなりホコリっぽい」

ここが解放されるまでにそれなりに長い期間が経っているからか、中はせき込むほどにホコリが溜まっている。

 

「なるほど…私の才能に合わせて色んな知識を得られるようにはしているのかしら」

まばらに置いてある本棚にも無作為に高校のものから大学レベルの内容の様々な教科の教科書やらさらに難しい専門書が置いてあり、思ってる以上に理に適っているようだった。

統一性がなく雑然とした内装のデザインが私好みでなかったことが少し不満だったけどなかなか面白い部屋だったのでまぁ良かったかしら。

ただこれ以上調べてもめぼしいものが見つかりそうになかったので部屋を後にすることにした。

 

扉を開けると目の前に背が高い人影が現れた。

獅子谷君や皇君と比べるとそれほど筋肉質ではない、何よりあの首から巻くようにかけた青いパーカーは…葛城君だ。

「…っ」

今朝の状況が状況なだけに誰かと会うつもりがなかったのか、私を見ると同時にバツが悪そうに目を逸らして部屋に入っていった。

それは私も同じで声を掛けるのも気まずく、そのまま立ち去ろうとしたその時、

「君は、あの男を信用しているのかい?」

そう問いかけてきた。

 

振り返って彼の方を見ると一心にこちらを見つめている。

様子を見ているのか、敵意を向けているのか目や表情では判断できず、返答次第では殺される可能性もゼロじゃない。…けど、そんな態度を取られたからと言って臆する気なんて全くない。

「彼が一体何者かなんてどうでもいいわ。…けど、彼の話した事は少し興味がある。それだけよ」

「ふぅん…なるほどね、異常なほどの知識欲を持つ才能、『蒐集家』か。君はそれで納得しているの?騙されるとか思ったりは?」

「そんなこと全く考えてないわ。私にとってこれ以上ない才能だと思ってるわ。…まだ調べたいこともあるし、もう行っていいかしら?」

「うん、呼び止めて悪かったね。ただ…あまり誰かを信用しすぎるといつか痛い目を見ることになると思うよ」

「それは忠告かしら?」

「いいや、ただの独り言だよ」

さっきのような感情を読み取れない顔から一変していつもの表情の彼に見送られる形で部屋を後にした。…でも、最後の一言は一体どういう意図だったのかしら。

 

 


 

 

「さて、次は…ってあら?」

校舎内は5階以外の変化は見られなかったので次はタワーの探索をと、歩を進め始めた。

するとその途中、ある事に気づいた。

タワーに向かう道は途中で分岐していて一つタワー、もう一つは森が広がっていてその先が柊さんの研究資料室に繋がるという感じになっている。

それが、いつの間にか新たに分岐がもう一つ増え、鬱蒼とした森やそびえたつタワーのようなものは見えず、舗装された道がまっすぐ伸びていた。

道の先がどうなっているかはここから見ることは出来ない…か。

「へぇ…なかなかそそるじゃない」

意味深に伸びる道、それも分岐点から全貌を伺うことが出来ないとなると途端にうずうずしてきたので、足早に道を進むことにした。

 

ひたすらまっすぐ伸びる道を歩いて行った先は・・・なにかあるわけでもなく、この学園を囲う例の壁にぶち当たった。とは言えここまできて壁だけ…という事も流石に考えずらいのでもう少し周囲を見渡してみると壁が途中から金網フェンスに変わっており、”立ち入り禁止”と書かれた金網フェンスの扉を発見した。

”立ち入り禁止”…そんな標識を律儀に守る人間がここにいると本気で思っているのかしら。

幸い鍵もかかっていない、そんなわけで早速扉を開けて中に入る事にした。

 

敷地?内にあったものは白を基調にした無機質なデザインの建物だった。

窓が多めに並び、大きめのエントランスといったビルのような雰囲気が特徴的だが階層は2階までと低く、あまり生活感は感じられない。

それ以上になにより屋上に設置された巨大なパラボラアンテナや1階にあたる場所にあるシャッターが目を引く怪しい外観になっていた。イメージ的には”工場”や”研究所”といった感じかしら。

見た目だけではどういう建物か判断するのは難しそうなのでエントランスから入ってみることにした。

 

建物内に入ってみると白い壁に床とこれまた無機質な内装となっている。

またホールに入ってすぐのところに案内板があり、そこには

 

”←『超高校級の改造人間』の研究資料室”

 

それから

 

”『超高校のアドバイザー』の研究資料室→”

 

と書かれていた。

つまりここは暁日君、そして本代君の研究資料室の兼ね揃えた施設ということか…。

2人分の研究資料室がひとつになっているとは何もかも異例尽くしね。

 

案内板の矢印が示す通り、右には大きめのすりガラスが張られた白い金属製のシンプルな型開き扉、左には2枚一組の大きめの誰も寄せ付けないオーラを放つ重厚そうな扉が向かいあっている。

なんか図らずも彼らの人間性が表出したような形状になっている気がするけどまぁ別にいいわ。

まずは右の部屋から調べることにした。

 

 

 

ーー『アドバイザー』の研究資料室

 

中は一台のデスクと分厚いファイルが何冊も収められた本棚が並んだシンプルなつくりのオフィスになっていて八咫さんの研究資料室によく似た雰囲気だった。

…が予算や売り上げといったお金に関するデータが多かった八咫さんの部屋とは違い、こちらはISOに関する書類や、品質管理、それから現場改善といった実際の現場内で活用されることの多い資料や、様々な企業内で行われている社内活動に関するデータが非常に多い。どうやら彼の才能は企業内での環境や活動をよりよくするためなんかに発揮される才能だったようね。

 

特に”暁日製作所”という企業の諸々を集めたデータはかなり多い。名前から察するに恐らく彼のご親族の方が経営する会社のようね。

中身は気になるけど企業秘密に触れかねない内容も多そうだし、知識が増えたからといって彼のような的確なアドバイスが出来るかもわからない。

それならちゃんと持ち主に読んでもらった方がいいかもしれない。今は軽く目を通す程度にしておいて暁日君に連絡だけしておくことにしよう。

クス…彼の喜ぶ顔が浮かぶわね。それにあわよくば読む許可を正式にもらえる可能性もあるかしら。

 

 

 

ーー『改造人間』の研究資料室

 

暁日君の研究資料室をある程度調べ終えて今度は本代君の方へ向かう事にした。

近未来的かつ重厚な扉は自動ドアになっていて近づいたらシュッとスピーディーな音と共に勢いよく開いた。そしてその中は…少しうす暗く、巨大なカプセルのような物体がいくつもひしめき合う奇妙な部屋になっていた。獅子谷君の身長以上はありそうなカプセルの中は緑色に発色している謎の液体で満たされており、中で何かが培養されているようだった。

また同じ部屋内にあったクリーンベンチには何かの実験で使うためと思われる”被験者001”~”被験者013”と書かれたシールが貼られたシャーレが何枚か置かれており、さながらSF映画やホラーゲームのような雰囲気の部屋で、どこかに”かゆい うま”とでも書かれた日誌でも置いてありそうな空気を漂わせている。

…まぁ流石にそんな日誌は置いてなかったけど。

 

もう少し部屋の中を調べてみると、入ってきた扉とは別にもう一つ別の扉を見つけ、そっちを開けて先に進んでみると、大きめのベッド、天井から吊り下げられた巨大な証明とこちらは手術室みたいな部屋になっている。また、中がくり抜かれたドーム状の見たことがない装置も設置されていた。

…あまり思い出したくはないが、その装置の見た目は本代君のオシオキの時に使われたものと酷似している。恐らくあの時のように頭に被せて使うものなのだろう。

部屋の繋がりから考えるにここは前の部屋で培養した何かを投与する実験で使うのかしら。

この研究資料室はデータ以外に才能の持ち主の能力を磨くためにあった他の部屋とは違い、データを取るのに特化した部屋といった方が近そうね。

 

それにしても…ここでは一体どんな実験をしていたのかしら。

”被験者”っていうからには人間が実験の対象になっていたのは間違いないと思うけど…。

関係がありそうなことと言えばさっきのレポートだけど、先生は例のプロジェクトの内容については何も聞かされていないみたいだから特に得ることもなさそうね…。

 

 


 

 

…寄り道した先で中々興味深いものを見ることができたわね。

 

そんなことを考えながら施設を後にして分岐点まで戻り、今度はタワーに到着した。

エントランスを見渡しても特に変わった様子はない。これまで通り葛城君と剣崎君の研究資料室、そして私たちのことなどつゆ知らずのんびり泳ぐ魚たちが入った巨大な水槽があるだけだった。

仕方がないのでエレベーターで別のフロアを探索することに…としたところで新たに点灯しているボタンが一つある事に気づいた。そのボタンには『B1』の表示されている。

…こんなボタン、今まであったかしらと疑問に思いつつも押してみた。

まもなくドアは閉まり、エレベーター内にグゥォンというモーター音だけが響きわたり始め、身体にかかる重力で下に降りていることを感じることができた。

…そして、その重力とモーター音が止まり、アナウンスと共にドアが開いた。

そしてそのドアの先に広がっていたのはーー

 

 

またしてもうす暗い部屋と、その中でぼんやりと怪しく光る巨大なモニターだった。

モニターの前には大量のパソコンと逆探知や盗聴するためと思われる幾つかの謎の受信装置がある。いずれも情報を入手や盗むためのもの、どうやら地下のフロアが丸々小鳥遊さんの研究資料室になっているようね。何故か白いハトを模したぬいぐるみが入った鳥かごがあるけどこれは多分伝書鳩の代わりといったところかしら?

 

そしてエレベーターが開いてすぐ目の前にあった一際巨大なモニター…そこには、

自身の研究資料室でトレーニングをしているシルヴィアさん、図書室で調べものをしている小鳥遊さんと先生、無人の教室、食堂でお茶を飲みながら談笑している夜桜さんと皇君、そして…この部屋でモニターを食い入るように見ている私の背中が映っていた。

腕を上げたり、何かのポーズを取るたびに映像の私も同じように動いている。どうやらリアルタイムの映像のようだ。…という事はつまり…。

「この映像…なるほど。監視カメラ映像のモニタールームってわけね」

「だいせいかーい!!」

…モニター越しに親の顔並に見たウザいクマが背後に現れたのを確認した。

 

「…なんの用かしら」

モニターで何しているかは分かるので振り返らず返事をした。

…なんかクネクネとセクターダンスを踊ってるわね。

「もう!振り返るくらいしてくれたらいいじゃんかよ!つれないなぁ!」

今度は踊りながら怒っている。踊るのか怒るのかどっちかにしてほしいわ…。

「そんな事より、ここはモニタールームで合ってるのかしら?」

「そうだよ!情報屋の小鳥遊さんにピッタリかなって思ってここに設置してるんだ!」

まぁ確かにピッタリといえばピッタリか…。

 

「それで、ここがモニタールームという事はここでカメラをいじる事でも出来るのかしら?」

「まっさか~!そんな勝手なコトするのはダメダメ!ここで出来るのはカメラの確認だけだよ!でも〜それだけでも十分だと思わない?」

「は?何の話をしてるの?」

「だってさ、ここでずっとカメラの映像を見てたらさぁ、みんなの行動を把握できるでしょ?そんで把握した行動パターンを利用して…とか出来るじゃん?」

笑えない冗談まで言い出して流石に鬱陶しくなってきたわね…。

コイツの相手をするのも時間が勿体ない。

「そんな甘言に乗せられるとでも思ってるの?バカ言わないでちょうだい」

こう言ってやったら拗ねてどこかに行くだろう…そう思ったのだが。

 

「うぷぷ~もちろん知ってるよ。キミはそーいうコトするような人間じゃないってね」

「…え?」

拗ねるどころかそう返してくると分かっていたような返答をしてきた。

まるで私が人を殺すなんて事絶対にありえないという確信すら感じさせる余裕っぷり…まるでそういう出来事があったと思わせるような口ぶり…どういう事?

 

 

 

・・・・・私は今とても悍ましい推理を立てている。

()()()…そういえば以前モノクマは私たちから”記憶の一部を抜き取った”と言っていた。

そして先生は”私たちは3年間を一緒に過ごしたクラスメイト”と言っていた。

 

 

 

つまり私たちは失われた三年間で()()()()()()()()()()を経験していたって事?

 

 

 

…いや、それは流石にありえないと信じたい。信じたいけど…確証が持てない。

「…モ、モノクマ……あなたは、あなたは…何を…」

振り返って聞き出そうとしたがもうそこには誰もいなかった。少し長考をしすぎてしまったからか痺れを切らしてどこかに行っちゃったのかしら…。

でも、アイツが正直に答えてくれるとも思わない、少しだが冷静に考え直すことができた。

となると先生から聞き出すべきか…。

そんなことを考えていると突如モノドロイドが振動した。どうやら誰かがメッセージを送ってきたようだ。送り主は…先生からだ。

 

 

 

ーーーー

 

壱条魅弦:集まれる人たちだけで構いませんので至急食堂に集合お願いします

 

ーーーー

 

 

 

これはまさに“渡りに船”というやつね。色々先生から聞き出してやろうかしら。

“至急”という事は調べていたことについては何か分かったのかしら。兎に角、食堂へ急ぐとしよう。

 

 


 

ーー食堂

 

「では、これより『第1回料理選手権』を開催しまーす!!」

「Fooooo!!イエーーーー!!」

食堂では謎のイベントの開催宣言を行う先生とそれを盛り上げる飛田が異様に高いテンションで声を上げていた。

「・・・・・いやどういう事!?」

俺は確か学園内を散策してたはず。で、急に先生からメッセージが送られてきた何かと思って食堂に来たら、唐突にこの催しが始まって…全く情報が追い付かん。

 

「今ここに来てるのは…葛城くんとアレックスさん以外の全員か。ま、半数以上いるし充分かな」

いや、説明もなしに司会を続ける気かよ⁉

「いやいやちょっと待ってください先生」

「おや、どうしたんだね暁日くん」

「どうしたじゃないっスよ。なんで急にこんな催しを?ってか調べものはどうしたんですか!てっきり何か見つかったのかと…」

「いや、もちろん調べものは進めてるぞ。ただちょっと息抜きをだな…」

呑気にお茶すすってるし…。

 

「あれ?でも先生途中から『競走馬の戦績からひも解くミカガミファームの歴史』って本読んでなかった?」

「…ブフォ!!な、なんで知ってんだ⁉」

「何回か声掛けたけど反応ないから何を熱心に読んでるんだろって思って表紙をチラッと見たらどう見ても競馬の本だったから」

「いやいや誤解しないでくれよ?勿論ちゃんと調査自体はしていたぞ。ただ、クラスメートの家族が経営してた牧場を取材した本があって懐かしくてだな…別に競馬が好きだからつい読みふけっていたとかそうじゃねぇぞ?」

『フゥムなるほど、センセーは競馬が大好き、と…』

「おい待て待て、そんな事データに記録せんでよろしい」

「・・・・・・」

盛大にテーブルに吹き出したお茶を拭きながら取り繕ったりフィリウスに突っ込んだりと忙しいけど…黙ってるということは全員考えてる事は同じか。“語るに落ちる”ってやつだな。

 

「・・・・どうやら時間のムダね」

痺れを切らしたのか少ない言葉だが怒気を含んだ口調で宵月が席を立った。

「ああコラコラ待ちなさい、まだなんの説明もしてないじゃないか」

「…手短に説明して」

「聞くところによると今まで食事を作ってたのは剣崎くんが主でキミと葛城がフォローしてたんだって?その剣崎くんがいなくなって葛城くんもあの調子となると料理を作るのはキミ一人になってしまう。しかしそれだと人数が少ないとはいえ毎日それをするとなると大変だろ?そこで、なら当番制にしたらキミへの負担も軽くなるんじゃないかと考えたワケよ」

「ふぅん…」

「そのためには全員がどれだけ料理できるかも知る必要があるから今回の催しを開催させてもらいましたってコト。んで今日はキミの担当は味見。どうよ?キミも彼らの料理テクに興味あったりしないかい?」

宵月の才能の性質を利用して上手く説得している。やっぱりこういうのは担任じゃないとなかなかできそうにない、流石だ。

 

そしてその宵月の答えは…。

「私の好奇心を刺激して引き留めてるつもりでしょうけど…まぁ、そういう事なら乗せられてあげるわ」

先生の思惑は読まれていたけど説得に成功したようだ。

「そうこないとな!よし、改めて開催と行こう!じゃあまずルール説明からさせてもらうぞ!」

 

 

先生から説明されたルールは

・作る料理は何でもOK

・制限時間は1時間

の二つ、そして今回料理を作るのは俺、皇、獅子谷、飛田の4人で小鳥遊と宵月、夜桜と先生は味見役になった。

どうやら小鳥遊と夜桜は料理が出来ないとのことで小鳥遊はインスタントやカップ麺を作るレベル、夜桜は詳しくは話さなかったが宵月は言葉を濁らせたうえに珍しく顔を青ざめさせていた。

夜桜…俺が知らないところで宵月に何を作って食わせたんだ?

 

 

 

ーー

 

厨房の広さは4人で料理するのには十分だが食材の取り合いやお互いの作業の邪魔になるのを防ぐため2組に分けて料理することになり、くじ引きの結果飛田と獅子谷が1組目、俺と皇が2組目に料理することになった。

 

獅子谷は今回鹿とアナグマ、猪の肉を使ってタタキや炭火焼きといったセットにしていた。猪の肉は昔牡丹鍋で食べた経験はあるがその時は結構クセがあって少し苦手意識があったけど獅子谷が作ってくれた料理はどれも凄い美味しかった。獅子谷曰く、どの肉も状態がとても良かったらしく、その上で苦手な人でも食べやすい動物の肉と調理法を選んでくれたようだ。…そこまで気を使ってくれたんだな。

 

そして飛田はから揚げを大量に出してきた。料理出来るのも意外だったけど揚がり具合が丁度よくジューシーに仕上がっていて美味しかった。どうやってこれだけジューシーな味付けにしたのかというと、どうやら隠し味にオイスターソースを使っているかららしい。

隠し味まで使うとは…相当料理をやってるんじゃないのかを聞いてみたら、どうやら両親が共働きな上に下の兄妹がいっぱいいるらしく自分が料理を作る必要があったとの事。なるほど、だから取り分けやすい唐揚げを作ったって事か。

 

さてそんなこんなで次は俺たちの順番が回ってきたけどホントに色々食材があるな…。キャベツに人参、サバに牛肉と普段見かけるものからモロヘイヤや兎肉といったこの国ではあまり見かけないような変わったものもあればシュールストレミングみたいな使うのも憚られるようなものまである。

他に何があるかな…と思って魚用冷蔵庫を漁ってたら『シーラカンス』と書かれた・・・・・シーラカンス!?

 

…思わず二度見どころか四度見くらいしてしまったけど気を取り直して調理を始めよう。

皇の様子を横目で見る感じ、どうやらもう調理を始めているようだ。よく見えないが手際がよく意外と慣れた様子に見える。俺も料理できるとはいえ本当に基礎レベルのものだけど、負けるわけにはいかないな。

…あの人数をいっぺんに満足させられてゴソっと出せそうでなおかつ俺の料理スキルで出せそうなものは……アレかな。

 

 


 

…そろそろ時間かしら。今のところどちらかが出来上がったものを時間より早く出してくるといったことはない。

…とそこへ、「出来ました~」と言って二人同時に料理を持ってきた。

暁日君は大きめの平皿に乗せた料理を、皇君は大きめの寸胴鍋を抱えている。

「お、来た来た!それで二人は何を作ったのかな?」

「俺はチャーハンを作りました」

「俺はカレーを」

先生の質問にそれぞれ答えた。

 

全員分のお皿に取り分けられていき目の前に置かれていく。

見た目や匂いは悪くない、けど問題は味だ。

「…いただきます」

まずはチャーハンから一口、口に運ぶ。

 

・・・・・こ、これは・・・!

 

「…普通ね」

具材は玉ねぎ、にんじん、ねぎ、それとウインナー、味付けは塩コショウとよくある家庭で作るようなチャーハン。ごはんの状態も悪くなくちゃんとパラパラしている。

不味くもないし、かといってすごい美味しいという訳でもない普通に作った普通のチャーハン。…これ以上特にいう事がない。

「うん、普通に美味いな」

先生も同じ意見のようだ。

「…えっと…それだけ?」

当の暁日君はというと呆気にとられたような顔をしている。

 

「それだけって言われても…ねぇ?」

「…………正直リアクションに困るな」

みんなも口をそろえて同じ様な反応をしている。

 

「いやひどくね⁉もうちょっとなんかあっても良いだろ⁉」

「だってすごく普通だし…」

「普通以外に言う事がないのよ」

「でも美味しくないというわけではございませんわよ」

「そそ!フツーに美味しい!」

飛田さんと夜桜さんがフォローしてくれているけど…

「あーーーもう普通普通言うな!そうですか、分かりました!どうせ俺の料理なんか面白みなんてありませんよ!!そんなに面白くもない料理ならもう食うなよ!!!」

逆にそれがトドメとなってしまい暁日君は拗ねてしまった。

 

「ほら拗ねないの、料理を作れるだけでも十分偉い事よ?」

「うぅう…」

半泣きになってる暁日君をなんとか慰める。

…我ながら子供に言い聞かせてるみたいね。

 

 

ーー暁日君がなんとか落ち着いたところでお次は皇君の料理だ。

戦闘や指揮指令といった事の方が得意そうな彼が料理を作れる事自体、意外だったけど果たして味は…。

 

「・・・・・‼・・お、美味しい…‼」

甘すぎず辛すぎない所謂“中辛”くらいの辛さ、使っている具材も普通のカレーと特に変わったところもない、だけどコクが非常にしっかりしていてとても美味しい。

この味付け、とても素人がやろうと思って出せる物じゃない…!

 

「ふふふ…どうだ?我が朱雀隊特製“海軍カレー”の味は?」

皇君は自慢げにそう言っている。

「なるほど確か海軍では週に1回カレーが振舞われるんだったな。つまりこれはキミが食べているカレーということだな?」

「ええそうです。自分は料理が苦手だったのですが、有事に際して料理を作れるようにしておくべきだと判断し、艦隊で働いている専属料理人たちからこれを教わったのです。さて、さっきの質問の答えをまだ聞いていなかったな。もう一度聞こう…朱雀隊、いや“四神”設立から代々受け継がれてきた伝統の海軍カレー。その味…如何かな?」

 

『うまーーーい!!!』

「ふっ…その言葉が聞きたかった」

みんなから絶賛の声が上がって、皇君も機嫌がよさそうにしている。

 

それにしても…

「皇君、このコクは一体どうやって出しているのかしら?」

「知りたいか?」

「そりゃあ勿論知りたいわ」

「・・・・それは、秘密だ」

…あら、なんか意外な返答ね。

「いいじゃない、ちょっとくらい教えなさいよ」

「ダメだ、これは我が軍にとっては武装に匹敵するほどの機密情報なんだ。いくら学友であろうとこれは絶対に教えるわけにはいかない」

「うむむ…」

その後も何度か食い下がったり、それとなく聞いてみたりしてみたけど『機密情報だ』の一点張りで頑として教えてくれなかった。よっぽど重要な秘密なのか嘘っぽいような…どっちかというと後者な気がするけどどうしても教えてくれないのなら仕方ないわね。ここで味をしっかり覚えて私の手で再現してやるわ。

そういえば・・・なんかもっと重要な聞くべきことがあった気がするけど、なんだったかしら?

 

 


 

ーー同刻

 

「…モノクマ!見てるんだろ?出てきてくれないかな?」

「・・・はいはーい!みんなが楽しそうなコトしてる中、ぼっちでヒマそーな葛城クン、なんの御用でしょうか?」

「聞きたいんだけど、次の動機は決まってるのかな?」

「はぁ~~~~イヤミにも反応しないのね…」

「別に俺にはなんの関係もないどうでもいいことだからね。それよりさっきの質問なんだけど、答えてくれる?」

 

「うぷぷ…イラつくほどドライだねぇ…。そうねぇ・・・実はちょうどいい感じに次の動機のアイデアになりそうなネタを1コ用意してるんだ。だからやろうと思えばいつでも動機を出せるよ。……あ、でもでも具体的な内容については教えるわけにはいかないからね!」

「あぁ、勿論それは承知の上だよ」

「・・・・で、こんなコトわざわざ聞いて一体なにを考えてるのかな?」

「実は俺もこのコロシアイになにか一つ新しいエッセンスを加えてあげようと思ってね、それを準備して始めるタイミングを考えるために今後の方針とかを君から聞きたかったんだ」

「なるほどなるほど…それはどういうものかな?」

「おっと、それは教えられないね。動機を教えてくれなかったし、これでおあいこだろ?…それに…」

「それに?」

 

 

「彼らだけじゃなく、君もオーディエンスの一人なんだ。お客様を全員楽しませる…それこそが本当のエンターテイナーだからね。その目で俺の舞台を最後まで見ていてもらうよ」

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