ダンガンロンパ Redemption   作:ナーガ工場長

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元々次の話とワンセットだったけど長くなりそうなので、一旦投稿。
今回は交流パートだけなのでゆるくお楽しみください


(非)日常編5

「……ズズッ……」

 

右手でファイルのページをめくり、左手でコーヒーが入ったカップを口に運びながら目でファイルに書かれた文章やグラフを追う。

俺は今、自分の研究資料室で大量の資料を読み漁っている。希望ヶ峰にスカウトされる前、俺が今までアドバイスを送ってきた企業やこれからアドバイスを送る予定だった企業の資料…それらを独自にまとめた特製の資料だ。

 

コロシアイが始まってから落ち着くヒマなんかとてもじゃないがなかったが、ようやく本当の意味で一息付けた気がする。

・・・だが、それと同時に疑問もある。まず、オフィスみたいなこの部屋の作り…あまりに俺好み過ぎて怖いくらいに落ち着くことが出来る。どうやって人の好みなんか知ったんだ?

それにこの資料もそうだ。これらは全て俺の実家の資料保管庫に厳重にしまってあるはずの物、そんなものがここにある事自体がそもそもおかしい。コピーにしても本物にしても一か所の壁を埋め尽くすほどの数の資料をどうやって運び込んだんだ?宵月ほどじゃないが一度気になり出すと疑問が無限に湧き出てくる。

 

けど、答えはいつまで経ってもまとまらない。その原因は恐らくあれだろう。

「…なんか少し暑いな」

ほんのわずかにそう感じる程度のものだが、朝起きた時から今日は暑い。

体感的にも1℃とか2℃くらいだったから特に気にも留めてなかったが、ホットコーヒーを飲んだせいで体温が上がったためか少し背中が汗ばんできている。

 

丁度コーヒーも飲み干してしまったので新しく注ぎ足すついでに冷房のスイッチを入れることにした。

「…これで良し。……それとコーヒー、あとなんか甘い物も欲しいな。…棚とかに入ってないかな」

「コーヒーなら淹れといたわ。それとチョコを倉庫から持ってきてるけどいる?」

「おう、サンキュ。・・・って誰だ!?」

あまりにも自然に返されたから流すところだった…。今日、俺より先に入っていた人間はいない。一体誰だ⁉︎

 

その疑問に返すように俺さっきまで座っていた席にいつの間にか腰かけていた『ソイツ』はまた声を掛けてきた。

「“誰だ”とは失礼な…ワタシよ、ワタシ」

「あ、アレックスか…。一声くらいかけてくれよ」

「そんなの別に必要ないでしょ、どうせみんな知った顔なんだし」

俺の反論など全く気にも留めていない、というか話が微妙に嚙み合わない。

それに音もなく入ってきていたとは…流石は本来『怪盗』の才能を持っていたはずの人間か。

 

「…んで、何の用だよ」

「?」

「いや“?”じゃなくて…俺に用があって来たんだろ?」

「別に何も無いんだけど…単にお話がしたくて来ただけよ」

・・・ホントか?

それなりに長い日数経ってるが、どうもコイツの思考回路はまるで別世界の人間過ぎて、読める気が全くしない。

 

…ってちょっと待てよ。今の状況、結構ヤバいんじゃないか?

ここには俺とアレックス以外の人間はいない、身体能力は向こうの方が上、なによりこの場所自体が少し離れてて助けを呼ぶのも難しい。……どうする、隙を突いて逃げるか先に攻撃を仕掛けるか?

 

アレックスに悟られないように少しずつ出口に向かって後ずさりしていく。

「ところで暁日クン、少し気になったんだけどなんで後ずさりしてるの?」

あっさりバレた。

「い、いや?何のことだ?」

「もしかして…逃げるつもりかしら?」

「そんなワケないだろ、考えすぎだって」

「ふぅん…そんな子供だましの動きでワタシを欺けると思ってるのかしら?シロウトと一緒にしないでくれる?それとも…ワタシをからかっているのかしら?」

や、ヤバい怒らせたか?

ゆらり、と身体を揺らしながらおもむろに席を立ち始めた。……こ、怖くて体が動かない…。

 

さらにコートのポケットをまさぐりながらゆっくりと俺の方へ歩いてくる……。凶器を取り出そうとしているのか?

も、もうだめか……意識が遠のく中、死を覚悟した。

「…ってあら??気絶してる……ちょっと怖がらせすぎちゃったかしら?ほら、起きなさい」

「…んおっ」

ペシペシと顔を叩かれたことで、飛びかけた意識を何とか取り戻した。

 

体を確認した感じだと、どこかをケガした様子はない。

「な、なんとも…なってないな」

「バカねぇ、ワタシがそんな事するワケないでしょ。前に言ったこと覚えてる?」

「え、えーと…“命に価値は付けられない”…だっけ?」

「そっ、金品や情報なんかと違って、命は一度奪ったら絶対に返ってこない。とてもじゃないけどワタシにその価値を付ける事は恐れ多くて出来ない、だから命は何があっても奪わないの。例えコロシアイみたいなふざけた状況でもね。それがワタシのキョージってヤツよ。…ほら、もう立てるでしょ」

「あ、あぁ…悪い」

アレックスに支えられながら再度立ち上がった。

 

アイツの言う“矜持”ってのはよく理解できた。しかし、逆に言えば“価値が付くものだったら奪う”という事だ。

アレックスが『ステラ』という怪盗として活動していた時の事はよく話題になっていたので、俺もよく噂は耳にしていた。

 

ある国で悪政を働いていた政治家は税金として徴収していた金とともに悪事の証拠となる書類を盗み出されて、それがダークウェブを通して世間に流出し、失脚した。

他に財政界との癒着が噂されたある企業は社内で行われた表には出せない接待や取引の情報や、その事を告発しようとしたが揉み消された末に自殺した社員に関する資料や自殺そのものを隠蔽した証拠なんかが同じように流出した事で、経営不振に陥り倒産したなんて話もある。

当然だが、そのせいで職を失い露頭に迷うことになったり、自ら命を絶った何も知らない人間だっていたはずだ。

 

悪を裁くためだとしてもその結果として誰かの命を奪っているんじゃないのか?もしそうだとしてそこまでしてでも悪を裁く理由は一体何なんだ?

…それがずっと気になっていた。

 

「どうしたの暁日クン?まだ体調が悪いの?」

「アレックス、せっかく来てくれたんだし少し世間話でもしないか?」

「?…まぁいいけど」

俺が抱いている疑問をストレートにぶつけてみる事にした。

 

「・・・なるほど、ワタシが悪事を働くコトで結果的に命を失う人間いるコト、それが命を奪わないというキョージと矛盾してる…そう言いたいのね?」

「そうだ。実際お前はどう考えているんだ?」

「言われてみれば確かにそうなのかもしれないわね。でも、だからなんだというの?」

「…は?」

 

「ワタシは今までずっと悪人を断罪するためにずっと動いていた。でもそのせいで社会的だったり、物理的に死ぬことになったとしてもそうなるかなんてワタシに制御できるワケがないじゃない。ワタシが命を奪わないのはあくまで直接的なものに限るわ」

「お前…それ本気で言っているのか?」

 

「当たり前よ。ワタシだってなんでも出来るワケじゃない。残念だけど、ワタシのやったことで失われる命があってもそれは運が悪かったとしか言いようがないわ。それでも“正義”という建前で人類を滅ぼそうとしてた剣崎クンよりはずっとマシだとワタシは思うけどね」

「は…はは…」

 

悪びれる様子はなく、いっそ清々しいほどに開き直っている。

倫理観が人とは違う人間だとは思っていたけど、ここまで違うことを見せつけられてしまうと呆れを通り越してもはや笑いしか出てこない。

アレックスは剣崎を引き合いに出しているが、規模の差くらいしか違いはないんじゃないか?

…けど、何が正しいかなんて人によって千差万別である以上、俺からは何も言うことが出来ないし俺の意見が正しいのかどうかすら分からない。

 

「じゃ…じゃあ、仮定の話だけどそれを理解してたとしてもこれまでと同じように盗みを続けてたと思うか?」

「当然よ。巨悪の断罪、それがワタシに与えられた使命なの。誰が何と言っても続けるつもりだったわ。…まぁもう捕まっちゃったからそれも廃業したんだけどね」

“使命”…その単語を言った時だけ今までの飄々とした態度から変わり、語気を強めて返してきた。

 

「少し聞きたいんだけど、“使命”ってのは何なんだ?何がお前をそこまで駆り立ててたんだ?」

「・・・へぇ?」

?何が“へぇ”なんだ?

「さっきみたいにビビってるだけかと思ったら、今度は結構切り込んでくるのね」

「いつまで一緒にいるかなんて分からないからな。知れることは少しでも知っておきたいんだよ、それで困る事なんてないからな」

「フフッ、まるで宵月サンみたいなコト言うのね。まぁいいわ。・・・少し長くなると思うけどそれでもいい?」

「ああ」

 

 

お茶とお菓子を囲んで俺はアレックスの話を聞くことにした。

「そうね…まずどこから話そうかしら。・・・・・やっぱりワタシの生い立ちから始めるのが一番ね」

・・・あれ、このパターン前にもあった気がするぞ。

「実はワタシ、こう見えてもヨーロッパの貴族の生まれなの」

「へぇ~・・・・・ってえええぇぇぇ!!??」

「あら、そんなに驚くコトかしら?」

驚くに決まってんだろ。思わず椅子から転げ落ちてしまった。

けど、ひっくり返る俺を全く気に留めずアレックスは話を続けた。

 

「ワタシがやけに日本語が上手いの、おかしいと思わなかった?かつて栄華を誇っていた貴族の令嬢としてそれにふさわしい英才教育を受けたからなのよ。他にも英語、フランス語、中国語、ロシア語なんかも喋れるわ。両親も庶民の人たちから慕われていて…あの頃が一番幸せだったと思うわ」

あ、頭が痛くなってきた…こんな冗談みたいな話がまだ続くってのか?

 

「でもね、そんな生活もずっと続かなかった。ある日の晩、私の家が突然庶民たちに襲撃されたの。家は炎に包まれ、襲撃者も家族を殺そうと押しかけてきた。ワタシもついに逃げ場を失い、ここまで…という状況で両親が身代わりになってワタシを逃がしてくれたの。・・・なんとか生き延びたワタシは、全てを失い身内にも頼れずスラム街を転々としてあてもない旅を続けていた。そして裏の世界で生きるようになってしばらくしてから、親しくなった腕のいい情報屋からある真相を知ってしまったの」

「そ、それは?」

 

「襲撃事件を手引きしたとされる人物、それがワタシの家で働いていた使用人の一人だったの。ソイツがワタシの家に関する根も葉もないデマを流して庶民たちの不満を募るように仕向け、最終的に反乱を起こすように扇動していた。確かにあの事件以降行方をくらましていたから、黒幕と言われたら納得がいく話だったわ。けど、調べてくれた人物の腕が立つとはいえにわかに信じられなかった。だから自分で直接調べて裏付けすることにしたの。・・・・そ、そして」

一瞬言葉に詰まっていたが、再度続けて語り始めた。

 

「情報の裏付けは出来たわ、勿論悪い意味でね。ソイツは襲撃の際のドサクサで家にあった財産を全て奪い去っていた。そして逃亡先で名前も立場も変えて盗んだ金で豪遊し、ワタシの家と同じように反乱を手引きして私腹を肥やす外道に成り下がっていたわ。そこで金庫内にそれはそれは大事に仕舞っていた財産とこれまでに関わっていた襲撃や反乱に関する計画書を盗んで、そしてそれらを裏付ける証拠としてもらった情報を全部記者やネット上にバラまいてやったわ。これがワタシの最初の犯行ってワケ。ワタシが今まで『ステラ』として活動していたのもワタシみたいに苦しむ人間を少しでも救うためにやっていたコトなの。・・・・・そう、これがワタシの・・・・し、しめ・・・・・」

…ど、どうした?言葉に詰まったと思ったら今度は前かがみになって身体を震えさせている。

 

「お、おい?どうした、大丈夫か?」

「・・・・・っふ、ウフフフ・・・・・アハハハハハハ!!」

さらに次は突如大笑い始めた。真剣な話をしていたのにあまりに突然のことで身体が凍りついてしまった。

「ちょ…ホントに大丈夫か?何がそんなにおかしいんだ?」

「フフフ・・・・ご、ごめんなさい、あまりに真剣に聞き入っていたから我慢できなくって・・・・」

真剣?我慢?……ま、まさか!!

 

「お前、まさかとは思うけど今までの話……!」

「やっと気づいたのね。そうよ、ぜーんぶウソ。別に貴族の生まれでもないし、襲撃なんかもされたコトないわ。なんなら親の顔も全く覚えてないわ」

い、今までの時間は一体何だったんだ…?

「まさかこんな与太話、そんなマジメに聞くと思ってなかったから…オチも用意してたけど我慢の限界になっちゃったのよ…フフッ」

まだ、笑ってやがる…。

「・・・盛大に時間を無駄にしただけだったのか」

「そういうコト。からかってゴメンね。でも一つだけ補足しておくけど、苦しむ人を救うためってのはウソじゃないわ。最初の犯行からそれだけはずっと変わっていないわ」

 

「“最初の犯行”ってのはさっきの話に出てたヤツか?」

「さぁね、ご想像にお任せするわ。じゃ、暇つぶしに付き合ってくれてありがとう。楽しかったわ、バイバイ」

それだけ言い残してさっさと出て行ってしまった。

…結局、アイツの事については何一つ分からなかった。けど、最初の犯行についてのはぐらかし方を見るに全部が嘘ってのは無いのかもしれない。その真相がアイツの口から語られる事はないだろう。

 

俺から言えるのはアレックスにもアレックスなりの正義ってのがあるんだろうなって事くらいだ。

 

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