NARUTOー蛇眼の忍ー   作:ニラ

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プロローグ

 

 私が『あの方』………大蛇丸様に出会ったのは偶然だった。

 だが、その偶然は私の精神を昇華させ、喜びと共に更なる高みへと導いてくれた。

 

 何故なら当時の私は、日がな一日精神を腐らせ続ける小さな存在でしかなかったからだ。

 医療忍者として忍びの里に飼われ、常に人間の可能性に関して思考を巡らせながらもソレを試すことが出来ない鬱屈とした毎日を送る。

 

 正直、どれほど頭が可怪しくなるかと思い悩む日々の連続だった。

 毎日毎日、里の上層部の馬鹿馬鹿しい命令を聞き、ただただ代わり映えのない私の澱んだ人生を、大蛇丸様が変えて下さったのだ。

 

「貴方、其の知識、技術、能力を私のために使いなさい」

 

 衝撃的な一言だった。

 だが、この人について行きたいと思わせる何かを、その当時の私は感じとったのだ。

 此の方の元ならば、私は自身の追い求める人間の進化を追求することが出来る。

 そう思えたのだ。

 

 大蛇丸様に誘われるままに里抜けをした私は、あの方の隠し拠点の一つを任されるようになった。

 其処で一つの研究、初代火影である千手柱間の細胞を使った実験をするように言われてのことである。

 

 千手柱間―――

 

 かつて、忍の神とまで言われた初代火影。

 後世の木の葉隠れの者達は、初代火影の類稀な能力を惜しんで其の能力を受け継ぐ者を作り出そうとしたようである。

 

 大蛇丸様はどうやら其の実験の更に先を目指しており、其のための研究を私に一任して下さったのだ。

 

 とは言え、其の研究とやらは木ノ葉隠れの里では既に中止に追いやられた物となっている。

 理由としては人道的に―――といった意味も有ったのだろうが、最大の理由は初代の死体から培養した『柱間細胞』を制御することが出来なかったからだ。

 

 何十人にも及ぶ、身寄りのない子供を対象に行われた柱間細胞の移植実験。

 木ノ葉隠れの里で行われた其の実験は、どうやら尽くが失敗したらしい。

 移植された柱間細胞の力に、移植者側の方が耐えられないのである。

 これが移植された細胞側ではなく、移植者側のほうが耐えられないと言うのが柱間細胞の恐ろしい所だ。

 

 これらの理由が拒否反応に依るものだというのであれば極端な話、免疫抑制剤でも作れば良いのかもしれないが、そんな物を使っていて果たして実験の成功と成るかと言えば答えは否であろう。

 

 私はより完璧な、柱間細胞の適合者を作り出さなければならないのだから。

 

 

 ※

 

 

 最初の実験は、木の葉隠れの里での失敗を踏まえて行うことにした。

 簡単に言えば、既に一つの生命体として存在しているモノに対して柱間細胞を植え付けようとするから拒否反応が出る―――と、そう仮説を立てて行った実験だ。

 

 つまり、胎の中の子供に柱間細胞を埋め込めば、結果が変わるのではないだろうか?

 そう、思い至っての実験である。

 幸いにして戦争中だということも相まって、戦場から拉致してきたくノ一の数は多い。

 非人道的(そういった)実験をするにあたって、実験体の数に関しては困ることはない。

 

 そうして適当に見繕った相手に、柱間細胞を埋め込む実験を数回に分けて行ったのだ。

 が………結果は見事なまでに失敗であった。

 

 第一、第二、第三と数回に分けて実験を行うも、其の全てが母体ごと柱間細胞に取り込まれてしまい、物言わぬ樹木へと成り果ててしまったのだ。

 柱間細胞の持つ、何とも恐ろしいエネルギーに驚きを隠せない。

 

 だが、失敗だったと言っても何の成果も無かった訳ではない。

 妊娠後から時間を置いた者程、柱間細胞の拒否反応がより早く顕著に表れたのだ。

 ソレはつまり、私の仮説が間違いではない可能性が濃厚ということだろう。

 

 しかし、その後に続けて行った実験は尚も失敗。

 母体への着床直後の受精卵へ柱間細胞を埋め込むことも行ったのだが、最終的には母体の方が耐えられなかったのだ。

 

 新たな方法を次々と平行して行い、其れ等が次々と失敗していく。

 そういった度重なる幾つかの失敗例を元に、私はもう少し踏み込んだ方法を試すことにした。

 

 母体のほうが柱間細胞に耐えられないのならば、その母胎の元と成る胎盤を柱間細胞で作ってしまえば良いのでは無いだろうか?

 

 優秀な才能を持つ者達の遺伝子を掛け合わせ、柱間細胞を組み込んだ受精卵を柱間細胞で作り上げた揺り籠で育て上げる。

 ………元々が男である千手柱間の細胞から胎盤を作り上げるなんてのは、正直ゾッとする話だ。が、しかしコレこそが最適解なのではないだろうか?

 

 そう結論づけた私は、早速母親側の遺伝子提供者に『うずまき一族』の女を選び、父親側の遺伝子提供者として『大蛇丸様』を選ぶことにした。

 

 大蛇丸様は血継限界を持っては居ないが、それでも術を操る才能という意味では稀代の天才である。

 チャクラの全属性、そして隠遁に陽遁をも使いこなす御方だ。

 上手く行けば、うずまき一族が持つ生命力と大蛇丸様の術を操る才能。

 そして千手柱間が身に付けていた木遁忍術と、更には千住一族の膨大なまでのチャクラを受け継いだ子供が産まれる筈である。

 

 

 ※

 

 

 待ちに待った子供が誕生した。

 理論構築後にも幾つかの失敗を重ねたが、それでも遂に一人の赤子が無事に誕生することが出来た。

 

 コレで私の研究も一つの節目を迎えるのだろう―――と、そう思っていたのだが、残念ながらそうも行かないようである。

 

 誕生した子供は酷く弱々しかったのだ。

 うずまき一族の血を引いているとは思えないほどに、その身体は弱いものであった。

 

 このままでは、折角の成功例をむざむざ死なせてしまう可能性が出てくる。

 なんとか、何とか出来ないものか……。

 そう思い、悩み、ありとあらゆる方法を一月程行っていたのだが。

 ある日、遂に其の赤子の心音が停止した。

 

 そう、確かに『彼』はこの時に一度死んだのだ。

 

 心臓は止まり、呼吸も停止した状態を私は確認している。

 だが暫く後に、『彼』は自発的に息を吹き返したのであった。

 

 私は何もしていない。

 『彼』が自ら息を吹き返したのだ。

 

 この時の私は単純に、『唯一の成功体が持ち直してくれたか。良かった』程度にしか考えていなかった。

 

 だが、恐らくはこの時が『彼』にとっての変化の瞬間だったのだろう。

 その日を境に、『彼』は今までの弱々しさが嘘だっかたのように力強く活発に動くようになった。

 

 終始寝たきりだった身体を忙しなく動かすように成り、みるみるその活動能力を高めていく。

 手足をバタつかせていた子供がいつの間にか床を這うようになり、そして立ち上がって歩くようにも成った。

 もっとも、流石にこの頃になれば私も事の異常さに気付き始める。

 余りにも早いからだ。

 

 幾ら優秀とは言え、コレほどまでに成長が早いというのは可怪しくはないだろうか?

 

 『彼』は一度死んだあの日から僅か一ヶ月ほどで立ち上がり、そして二本の足で歩くまでになってしまっている。

 多少の優秀さでは説明がつかない成長を、『彼』は私の目の前で披露しているのである。

 

 この時、私は初めて『彼』に対して一つの恐怖を感じた。

 

 ちょうどこの頃に、『彼』は大蛇丸様から名前を与えられた。

 古い物語に出てくる、祟り神の一種から名付けられたのだろう。

 仮にとは言え自身の血を引いている者に付ける名前ではないと思うが、しかし大蛇丸様にとっては自身の野望成就のための駒の一つでしか無いのかもしれない。

 

 『彼』が順調に成長している或る日のことだ。

 備え付けられているベッドの上で、唸るようにしていた『彼』に気が付いた。

 体調が悪い訳ではない。

 本当に『彼』には驚かされる。

 

 最初は解らなかったが、何度も見せられれば嫌でも理解が出来てしまう。

 アレはチャクラを練っていたのである。

 いや、解っている。

 チャクラは感覚的な部分が強いので、幼少期から強いチャクラを発する例が無いという訳ではない。

 だが違うのだ。

 

 『彼』はソレを意識下で行っている。

 信じられるか?

 少し前までハイハイをしていたような赤子が、何を考えてチャクラを練ろうなどと考えるというのだ?

 

 そう、一体何のために?

 

 

 ※

 

 

 『彼』の成長を見続けていると、大抵のことは『まぁ、『彼』なら仕方がないか』といった感想が浮かんでしまう。

 

 赤子の頃にチャクラを運用し始めたことを皮切りに、地味では有るが普通ではない事を『彼』は行ってきた。

 それはチャクラの性質変化だったり、妙に正確で範囲の広い感知能力であったりと様々である。

 

 時折に『彼』が呟く言葉を拾うことで理解出来たのだが、『彼』は研究所内で働いている職員の場所や行動、そして事細かな動きさえも把握しているような素振りが有る。

 

 また大蛇丸様の命令の元に行われた忍術の習得訓練では、一度見た術を即座に再現―――とまではいかないまでも、多少の時間を於けば覚えてしまう。

 一度だけ、『彼』に直接確認をした時に言われた言葉は、

 

『視て、感じて、ソレを再現すれば忍術の習得自体は難しくはない』

 

 とのことだった。

 この辺りのセンスは大蛇丸様の血筋を感じさせる言葉だった。

 木の葉隠れの里には天才忍者と呼ばれた白い牙の息子………はたけカカシが居るが、『彼』の才はソレを優に超えるものが有るだろう。

 

 今の私は、日々が幸福に包まれている。

 自らの手で、最高の天才を作り上げることが出来た喜びに、身も心も震えているのだ。

 

 いずれ、そう遠くない未来に『彼』の力は大蛇丸様を超えるだろう。

 そしていずれは忍の神とまで言われた、あの千手柱間すら超えると私は信じている。

 

 今現在、私は数年間に及ぶレポートを大蛇丸様に提出し、その評価を待っている最中だ。

 ただの研究者でしか無い私が『彼』に御教え出来ることは、既に殆ど残っていない。

 今後のことを考えれば、正式な忍者に『彼』を預けるべきなのだろう。

 そういう意味では、私の仕事は此処で一応の区切りとなる。

 今後は別の研究所で、新しい研究を―――

 

「良いわね。この子」

 

 ―――と、現実に引き戻すように、大蛇丸様の声が耳に届く。

 相変わらず脳の奥に染み込むような声を発する方だ。

 だが、そうか。

 そうだとは思っていたが、やはり御褒めの言葉を頂けるのは嬉しいものだ。

 

「数年間、待ってみた甲斐があったわね。まだまだ見えてこない部分も有るけれど、少なくとも術を操る才能に関しては十分過ぎる程に合格だわ」

「は、はい。大蛇丸様。私は忍としては大した才も無い男ですが、しかし『彼』は違います。いずれ初代火影である千手柱間をも超えて―――」

「初代を超えて、ね。そんなに簡単な相手じゃないのだけれどねぇ。でもまぁ、良いでしょう。……この子は私が貰っていくわよ」

「はい。それは勿論」

 

 元々、私は大蛇丸様の命令で研究を行っていたのだ。

 大蛇丸が研究結果を認め、そして合格だというのならば私の方から文句など出るわけもない。

 

「実はね、私はほんの少し前に木ノ葉隠れの里を抜けてきた所なのよ。コレから暫くの間は闇に潜むため、大蛇丸という忍の痕跡を消さなくちゃならない。その始末も兼ねて此処に来ているのだけれど………此の子は私の予想以上の逸材かもしれないわ」

「……? え、っと、ありがとうございます」

 

 なにやら良く解らない言い回しをされる大蛇丸様に、私は首を傾げる。

 一体何を言おうとしているのだろうか?

 その言葉の意味が、どうにも理解しかねる。

 

「一度は諦めた研究だったけど、貴方の働きで光明が見えたわ。ありがとう」

「いえ。大蛇丸様の為に働けたことは、私にとってこの上ない幸運でした。今後も今まで以上に―――」

「―――あぁ。ソレはもう良いわ」

「もう、いい?」

 

 何がもう良いのだ?

 『彼』は確かに凄まじい才を持っているが、しかしその出生に関しては不安定なものだった。

 次なる研究では、その不安定さを無くして行かなければならないのに。

 

「言ったわよね、私? 大蛇丸という忍の痕跡を消すと。だから此の研究所は廃棄、そしてソレに関わったモノも全て廃棄することにしたのよ」

「廃棄……? この施設を?」

「やれやれ。コレだけの成果を出した人間にしては、存外に鈍いわねぇ。つまりは―――貴方はもう要らないのよ」

 

 大蛇丸様が幾分表情を険しいものへと変化させて、此方に向かって一歩足を踏み込んだ。

 そして次の瞬間には腕を横薙ぎに一閃させ、私の視界は意思とは無関係にクルクルと回転していったのだった。

 

 

 

 

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