木ノ葉隠れの里。
火の国と呼ばれる国に居を構える、忍の里の中では図抜けて大きな力を持っている里の一つである。
木ノ葉隠れの里を筆頭に、霧隠れ、雲隠れ、岩隠れ、砂隠れの計5つを忍び五大国と呼ぶこともあるらしい。
いやはや、何とも大仰な名前だ。
きっとこの手の呼名を考えた人は、随分な厨二的感性の持ち主だったに違いない。
いや、悪くはないと思うよ?
厨二的感性ってのは、心を豊かにしてくれると思うし。
そういった夢を育むっていうの? 俺は必要な物事だと思うね。
かく言う俺だって、何だかんだでそういったノリは嫌いじゃない。
ただまぁ、今現在の俺はそんなことにキャッキャウフフと喜んでいられる状況ではない訳だが。
「
「うん。また明日ね」
ニコヤカな笑みを浮かべて声を掛けてきた同学年の女子に対して、コレまた笑顔を貼り付けた表情で返事をする。
すると「きゃー♡」なんて声を上げながら女子は連中は騒ぎ出す。
「またね」
「帰り道に気をつけてね」
「明日まで会えないのは寂しいな」
などの言葉を、相手を変えるたびに口にしていく。
もっとも、俺からすると声を掛けて来てるのが誰なのか殆ど理解していない。
興味が無いからだ。
此方に声を掛けてくる面々に。
言っただろ。キャッキャウフフとしていられる状況じゃないって。
俺はそんな青春真っ盛りの様な物事にかまけている余裕なんて無いんだよ。
人間、余裕が無ければ他の事を楽しむことなんて出来ないってことだ。
だから言ってしまえば、コレから語るのは愚痴みたいなものだ。
他人のマイナス面なんて知りたくもないよって奴には申し訳ないけどな。
俺の名前は
名前だけで名字はなし。
年齢は恐らくは12歳程。
―――と、俺が自分自身について判っていることは非常に少ない。
コレは数年前、木ノ葉隠れの里に保護された時から記憶が無いことが原因である。
忍の里のほど近い森の中で意識不明の状態で発見され、木の葉の病院で目覚めたのが最初の記憶。
ソレよりも前のことは何も覚えちゃいないのだ。
唯一覚えていた記憶が、自身の名前が夜刀だということ。
しかしまぁ、自分で言うのも何だが、こんな怪しい人間を忍の里によく招き入れる気になったものだよ。
そりゃ怪我をしてる子供を善意で助けてくれたんだろうが、それでも色々と甘いんじゃないの?
勿論、助けられた当初はありがとう―――ともなったが、忍の世界を渦巻く状況を考えるとチョットな………。
どうしても甘すぎるんじゃないのか木ノ葉隠れの里ってやつはっ?
もっとも、だからと言って完全に善意だけという訳でもない。
寧ろ此処からが話の主題なのだから。
病院で退院を間近に控えた俺は里側の人間からある提案を提示された。
内容は『忍者学校に通って忍にならないか?』という話である。
突拍子もない内容だったが、俺はソレを受けざるを得なかった。
何故ならその話を断った場合、病院での治療にかかった医療費を一括返済するように脅されたからだ。
冗談みたいな話だが、しかしマジである。
行き倒れの上に記憶もなく、当然のように身寄りもない子供になんという仕打ちだろうか。
もっとも、忍者学校に通って忍を目指すのであれば当面の生活費は里側が用意してくれるし、医療費に関しては下忍になってからの忍務達成報酬からの天引きにしてくれると言うのだ。
そりゃ、俺からすれば忍者を目指すしか無いわけだ。
色々とブラック感漂う木の葉の里だが、コレでも他所の里よりもマシだというのだからマジで笑えない。
知ってるか?
他の里じゃ、学校の生徒同士を殺し合わせるような所もあったらしいぞ。
え、結構有名な話だって?
あぁ、そう。
まぁ、兎に角だ。
周りの子供達と比べても精神性が可怪しい俺だが。
そんな俺が聞いてもゲッと成るような状況が、この忍者の世界ということなんだよ。
だが正直な所、実技の面で俺は他の生徒達に自慢出来る様な成績を修めていないのである。
言ってしまえばギリギリ及第点の落ちこぼれよりもマシ程度だ。
チャクラを練るといった単純な作業一つとっても調整が上手くいかず、術を発動しようとすると構成が上手くいかなくなる。
体術に関しては訓練を積めば多少の変化は出るのだが、体が慣れてくると不思議と同じ動きが急に出来難くなってしまう。
当初は呪われてるんだろうか? なんて考えて、里内の神社に厄払いをして貰いに行ったくらいだ。
まぁ、残念ながら厄払いの効果は出ていないのだが。
しかし、だからこそ自主練を休む訳にはいかないのである。
※
演習場に到着してから俺がすることは、とにかく体力を作ることだ。
とあるゲジゲジ眉毛の忍者から授かった根性バングルを両手足に巻きつけ、根性ベストを身に着けてから広い演習場の中をひた走る。
一歩一歩がドスン、ドスンと音を鳴らし、ちょっとした足跡を作ってしまうのだが、この重量感を周囲へ漏らさないようにすることが最初に行うことだ。
そうすることで体力だけではなく、より上手く体を使う方法が解るのである。
1時間ほど走り回った後は日によってマチマチだ。
忍術の練習だったり手裏剣術の練習だったりと、その日に依って内容は変えている。
残念ながら対人戦闘の訓練が出来ないので、ソレが少しだけが不満だといえるな。
もっとも、俺は自主的なボッチなので、その辺りは仕方がないだろう。
「ハブられてるんじゃない。自分で孤独になってるだけだから」
益体もない強がりを口にしつつ次の訓練へと移行する。
この日は忍術の訓練に時間を割いたのだが、やはりチャクラのコントロールが上手くいかない。
どういう訳か途中で乱されるような、そんな感覚が身体の中に走るのだ。
それでも同じことを続けていれば微妙な精密操作を経て安定はする。
………結構努力を重ねてる筈なんだが、それでも俺は及第点ギリギリの落ちこぼれ寸前。
他のクラスの連中は放課後には遊び回って居ることを考えるに、俺は才能と呼べるものが無いのだろうな。
何だかんだで、血継限界を持ってる奴等や秘伝忍術を継承している連中はズルい。
写輪眼のうちは一族、白眼の日向一族、猪鹿蝶と呼ばれる山中家、奈良家、秋道家。
他にも犬塚一族、油女一族、猿飛や志村なんてのも居る。
同じ学年は不思議とそんな連中が集まっていて、中にはメガネが本体と成っているような奴も居る。
俺もそういった家に生まれていれば、こんなにも苦労をすることはなかったのだろうか?
いや、まぁ、その場合は医療費の返還なんて話が無いだけで、どのみち忍者になる道は決められてるか。
それに、そもそも俺が悩んでるのは才能の話だもんなぁ。
優れた術が有っても使う人間がヘボでは意味がない、か。
訓練の最後に―――と考え、俺は体中の重りを外し、足下にチャクラを集めて木の木登り業を行ってみる。
速い!?
身体が軽く、まるで羽のようだ!!
地面の上を走るように樹を駆け上がる事が出来ている!
オリンピックに出れば金メダルは間違いない!
………木登り競技なんて聞いたこと無いけどなっ!
「―――あっ」
余計なことを考えていたからだろう。
足下に溜めたチャクラが強すぎて、身体が弾かれるように吹き飛ぶのであった。
「よっ!」
声を出し、空中で姿勢を整えながらスーパーヒーロー着地をする。
そして
「……大丈夫だったか」
小さく呟いて肩の力を抜く。
全くもって困ったことだが、コレは俺にとって安全確保のために身についた習慣である。
どういう訳か、俺はチャクラを操る才能よりもチャクラ感知の方に才能が偏っているようで、周囲数百mの範囲ならばどんな人間が居て何をしているのかを事細かに把握できるのだ。
単純に感知能力を『範囲内に何が居るか?』に限定すれば、有効範囲を里の半分ほどに広げることも出来る。
だが、それを行えるように成ってからが問題だったのだ。
チャクラ感知能力を使い初めて周囲を調べてから今日に至るまで、俺の周りには何人かの人間が付かず離れずに見張りをしている。
ある程度の一定の距離を保つように、俺のことを監視しているのだろう。
何だかんだで、外から入ってきた身元不明な人間を完全に信用していない。そういう事なのだ。
だから俺が何かしらの怪しい行動に出れば即座に始末できるように、監視役の人間が付いているのだろう。
連中からすれば、俺が広範囲のチャクラ感知能力を有しているとは思っても居ないはずだ。
なにせ、この能力のことは誰にも言っていない。
『誰にも言ってはいけない』といった、強い意志を自分の中に感じたからだ。
実際、ソレに従ったのは正解だったと言えるだろう。
御蔭で監視役の人間が居て、俺という人間を常に見張っていることが分かったのだから。
だが―――なにか可怪しい、今日は。
いつもは二人は居る筈の監視が、今日は一人しか居ない。
もしかして、里の中で何かが有ったのだろうか?
「………今日は帰るか」
諸々を考えた結果、今日は早めに帰ることにする。
もしも本当に里で何かが起きていた場合、俺が人目のつかない場所で一人で居るというのは問題ではないかと考えたからだ。
演習場を抜けて街へと戻ると、表面的にはいつもと同じだが街のあちこちで何人もの忍が動き回っているのが感じられる。
恐らくは最低でも中忍、でなければ上忍クラスの人間が駆り出されているのだろう。
こういう部分を感じてしまうと、この世界が生き死にの出やすい世界なのだと実感させられる。
道すがらの商店で適当な弁当を買い、自分の城であるボロアパートに向かって歩いていく。
一応は里側で部屋を用意してくれるのだが、『賃料を安く済ませる分、借金の医療費に回してほしい』との建前で築30年のコーポ山梨を借りているのだ。
まぁ、建前を必要とした理由はもう分かるだろ?
監視対策だよ。
民間の建物なので余計な工作はしにくく、またプライベートを護るという名目で四方を封印式で囲っても文句は出ない。
大家がOKを出せば取り敢えずは問題ないからだ。
これが里の用意した部屋ではそうもいかず、恐らく里に申請を出しても却下されていただろう。
まぁ、そういった事をした所為で、俺が外出している内に勝手に部屋に侵入している監視役が偶に居るのだが、ソレもまた仕方がない。
見られて困る物は置いては居ないし、それで里側が納得してくれるのなら此方としても文句はないからだ。
だが、今日の監視役は少し鈍いような気がする。
俺が部屋に戻ろうとしているのに、未だに部屋の中に居るのだから。
まぁ、流石に玄関を開ければ退散するだろう。
そう考えてドアを開けたのだが―――
「なっ!?」
瞬間、駆け出すように迫ってきた仮面の人物に驚き、声が漏れる。
対処をしようと腕を動かすが、相手の動きは早く対処が間に合わない。
相手は俺の腕を無遠慮に掴み、引っ張り込むように部屋へと引き込むとチャクラを込めた掌を額へと押し当ててくるのだった。