初めて目が覚めた時、自分は唯の赤子だった。
殺風景な鉄張りの壁が周囲を囲む部屋で、保育器の中に入って寝かされていた。
当然のように軽いパニックにも成ったが、しかしソレも一眠りすることで落ち着くことが出来た。
考えても、自分自身を思い出すことが出来なかった事が良い方へと働いたのだろう。
簡単に言えば、1+1=2の意味は解っても、ソレを何処で覚えたのかが解らない状態と言えば良いだろうか?
知識はそこそこに揃っているのだが、そのルーツが解らない。
そのため、当然だが自分に関しても解らない。
解らないことは、幾ら悩んでも解らない。
そう考え、俺は悩むことを止めたのだ。
だが身体が赤子だからといって何もしないで日々を寝たきりで過ごすのは面白みに欠ける。
少しでも出来ることが増えるようにと、せっせと体を動かし始めた俺は僅か数日で首が座り、身体を支えて立ち上がることが出来るまでに成長していった。
正直、自分でも首を傾げる自体であったが、ソレよりも恐ろしいことを同じ時期に体験をしてしまった。
「上手くいきそうね、コレ」
或る日のことだ。
青白い顔をしたロン毛のオネェ言葉を話す人物が、キョロっとした眼を向けながら俺の顔を覗き込んでいた。
突然の事に驚き息が詰まりそうに成るが、その男は身体を引いて覗くのをやめる。
なんだ?
誰だ?
そんな疑問を持った状態で居ると、俺の世話をしていた一人が言ったのだ。
「はい。未だに楽観視は出来ませんが、この調子なら『大蛇丸様』の提示された基準を大きく上回るかと」
妙にペコペコした態度とか、そんな事はどうでも良い。
奴は先程なんて言った?
大蛇丸、とか言わなかったか?
自身の聞き間違いを期待して自体を起こし、保育器から顔を出すように視線を向ける。
空中で視線が打つかってしまった。
イメージに沿った、凄まじく似ているコスプレと考えられなくもないが………。
アレは駄目だ。とてもそうは思えない。
アレは間違いもなく、本物だと。
俺は、俺の体全体がそう理解してしまったのだ。
射竦められるように脚の力が抜け、ストンと座り込んでしまう。
そして現在の自分の状況がどの様なものなのか、ソレが解った。
つまり、自分は大蛇丸が持っている研究所の一つに囚われている。そしてその理由は実験体としてに違いない、と。
いずれ、このまま何もしなければ俺に待っているのは実験体としての無残な末路だ、と。
―――やるしかない。
そう、殺るしか無いのだと決意をした。
俺が自由に成るにはこの状況を打破しなければならない。
強くならなければならない。
いずれは、あの恐怖を打倒できる存在へと至らなければならない。
俺は震える脚に力を込めてもう一度立ち上がった。
そして奥歯を噛み締め再び大蛇丸へと視線を向ける。
いずれ、自分が打ち倒す相手を頭の奥に刻み込むために。
「―――フフフ、面白いわね。気に入ったわ」
再び視線をぶつけ合った俺に対して、大蛇丸は舌舐めずりをして口元をニヤリと歪めてきた。
それでもジッと視線を逸らさずに居ると、奴はこう続けて言ったのだった。
「この子に名前を付けてあげましょう。―――そう、夜刀。貴方の名前は夜刀よ。精々強くお成りなさい」
まるで俺の決意を見透かすように、奴は此方を見据えながらに言ってきた。
あぁ、良いさ。
強くなってやるさ。
アンタが手を出せないくらいに、作ったことを後悔するくらいに。
※
大蛇丸との初めての邂逅から、俺の行動は修行と呼べる物へと変化することに成った。
以前が身体を使うためのヨチヨチ歩きだったとすれば、歩行器付きの訓練と言ったところか。
頭の奥にある知識を引っ張り出し、チャクラを練るといった行動に出てみたのだ。
精神エネルギーと肉体エネルギーの融合という、良く解らないモノではあるが、それでもこの身体は思いの外に優秀なようだ。
チャクラの生成、そして運用を試みた結果、上手く身体がソレを再現してくれる。
もっとも、幼児期の赤子に出来ることなんてたかが知れている。
只管身体を動かせるようにするための運動と、チャクラの生成ばかりをしていた訳だが、ある日ふと思ったのだ。
術を使うための印は兎も角として、チャクラの形質変化は練習できるんじゃないか?と。
とは言え、だからといっていきなり『螺旋丸』が出来ましたなんて突飛なことにはならない。
何事にも段階が必要だろう。
先ずは視認できるレベルのチャクラを練ることから始める。
そしてチャクラとは何なのかを確りと見て判断できるようにする。
その後はチャクラを少しづつ形を変化させるように、ちょっとづつ動かしていく。
そうやって試行錯誤の日々を送るうちにグニャグニャと動くチャクラは次第に寄り集まり形を変え、感覚とコツを掴むに至った。
その後も次々と考えを巡らせて出来ることを増やすべく修行に励んでいったのだ。
チャクラを上手く扱うにはチャクラを知る必要が有ると考えて感知能力を高め、感知能力で微細なチャクラの動きから対象の動きを理解するように精度を高め、把握したチャクラの動きを真似ることで術の構成を理解して模倣する。
数年も経った頃、研究所の中で行われていることならば俺は何でも知ることが出来るように成っていた。
もっとも、コレは研究所の職員が大したレベルの忍ではないことも理由の一つでは在ったのだろう。
当時の俺の師に当たる人物は研究所の職員だった。
彼らから体術を学び、術を学び、知識を学んでいた俺だったが、次第に彼らは俺に何かを教えることが出来なくなっていった。
あぁ、ひどい話だ。
どうしようもなく、変えようもないほどに、才能の差というやつが出て来てしまっていたからだ。
優れた肉体が彼らの動きを凌駕して打撃を加え、膨大なチャクラは同じ術でも桁違いの効果を生み出す。
数えで5つになる頃には、周りに対等に戦える人物など一人も存在しなくなっていたのだった。
もっとも、それでも俺の行動範囲は研究所から離れることはなかった。
表に出ることが許可されても、精々が徒歩で30分圏内の範囲だ。
しかもタイムリミット付きで。
時間内に戻らなければ体につけた呪印が反応して身体を燃やし尽くす―――といったモノが刻まれている。
とは言え、呪印を刻む瞬間を目撃した此方としては、いつでも解除することも出来るのであるが。
だが一つの転機が起きた。
俺に研究所の職員とは別の師匠が出来たことだ。
その人物は今までの忍と比べると桁違いに強く、桁違いに術の道理を知った忍だった。
………まぁ、大蛇丸だったんだが。
「今日から私が直々に鍛えてあげるわ」
と。
大蛇丸が言うには研究所は閉鎖が決まり、痕跡を残さずに処分することに成ったらしい。
ソレに伴い俺も研究所から表に出され、暫くの期間を大蛇丸と共に多くの国へ足を伸ばした。
そして忍として必要な心得を教え込まれ、更に高度な術式と体術を身体に刻み、8つになる頃には百では利かない数の人間を殺していた。
優れた素質とソレを鍛えるための鍛冶場。
自分で言うのも何だが、そういった言葉が当て嵌まるように、俺は着々と力を付けていったのである。
もっとも、それも一つの任務を言い渡されるまでの間だった。
その任務とは。木ノ葉隠れの里への潜入任務である。