「気分はどうだい、夜刀くん」
「最悪な気分ですよ。
術の後遺症に依るものだろうが、少しばかり痛む頭を抑えながら返事をする。
相手は眼鏡を掛けた優男、薬師カブトだ。
大蛇丸の部下。
俺にとっては一応の
「其処は勘弁してもらいたいな。記憶を封印した状態が続いていたんだ、多少なりとも違和感は出るよ」
「別に文句がある訳じゃありませんよ」
多少の違和感が残るのは折込積みだったのだ。
ソレくらいのことは術の概要を聞けば理解は出来ていた。
大蛇丸の命令で木ノ葉隠れの里に潜入してから早数年。
封印術式と催眠でそこそこ真面目な子供を演じてきた訳だが、それを解除したということは、
「ところで―――父上が俺の身体を欲しがるには、この身体は未だに成長が足りないと思うんですが?」
不屍転生の器に俺を選んだということだろうか?
俺は現在のアカデミーの同期と比べても3歳ほどは年上だ。
同学年のくのいちにそこそこの人気があるのも、『物腰穏やかで若い時の大蛇丸に似てクール系イケメンの顔をしている年上の男』と言うのが理由に成っているのだろう。
だが年齢のため同学年のアカデミー生と比べればそこそこに成長をしているとも思うが、ソレは年相応と言えるレベルでしか無い。
大蛇丸が自身の体に今直ぐと考えるには早すぎるだろう。
まぁ、もっとも大蛇丸と言えど人間だ。
何処でどんな考え方をするのかなんて、完全に予想を付けることは出来ない。
もしも身体を奪うために、俺の記憶を呼び起こしたというのなら何としてでも逃げ出さなければ成らないだろう。
「いや、安心して良いよ。なにも次の肉体に君を選んだわけじゃない。流石に君の身体はまだ子供だからね。
それに最近、大蛇丸様は急遽不屍転生が必要になってね。既に新しい肉体へと生まれ変わられたよ」
「………あぁ、成る程」
木の葉の里の中枢がどんな事を企んでるのか?
ソレをリアルタイムで知ることは出来ないが、時系列を考えれば恐らくは暁に潜入した『うちはイタチ』に返り討ちにでもあったんだろう。
けど、ソレなら良かった。
大蛇丸は基本的に天才側に属する人間だからな、大抵の人間は自分よりも格下だと考えている。
自分と同じ三忍と呼ばれる、自来也や綱手のことすらもそう思っていそうだからな。
だがコレで、興味の対象がうちは一族の写輪眼へと移るだろう。
写輪眼の様な肉体へと変化を及ぼす血継限界は、術を扱う才能だけでは追い付けない部分が有るからな。
「なら音隠れの里が、ある程度の軌道に乗ったということですね?」
「そのとおり。………もっとも、一応は形になったと言うだけで本来の目的を行うにはまだまだ足りない。
準備は勿論だけど、才能のある人材も、ね」
「それなら、俺も音の里に行くんですか? ………この里で、俺はまだ何もしてませんが」
「ソレをし始めるために記憶を戻したのさ。確か、君は影分身を使えるんだよね?」
「えぇ、まぁ」
自分が未だに大蛇丸と行動を共にしていた頃、俺は奴から数多くの術を覚えさせられた。
その中の一つに影分身の術がある。
「コレを見てくれ。これは口寄せ契約をしてある札だ。今後、僕が定期的にこの札と予定表を君に渡す。君はその予定表に沿って、影分身に札を持たせて大蛇丸様の下へ向かうことに成る」
「影分身を父上のもとに?」
「音隠れの里を作った真の目的のためには優れた人材が不可欠。
大蛇丸様が、方々で様々な忍をスカウトしているのは知っているだろう?
君にはそんな者達を束ねるために、力を付けて欲しいんだと思うよ」
確かに、此処数年はマトモな師が居なかったため修行も停滞していた。
精々が地力を上げるための修行しか出来なかったことを考えると、大蛇丸から修行を受けられるのは嬉しい限りでは有る。
「ですが、俺は元々木ノ葉隠れで工作をする予定でしたよね? そっちは良いんですか?」
「本来はその筈だったんだけどね………。その役目は急遽僕が代わることに成った。
君は同学年に居る、うちは一族の子供の動向を報告するようにとのことだよ」
「うちは……サスケですか」
「流石、詳しいね」
「一応は同じ学年ですからね」
大蛇丸は方々の国々から、特殊な才能を持った人間を老若男女問わずに収集している。
だがそんな血継限界たちを見比べても、それでもなお写輪眼は手に入れたいモノの一つのようだ。
「でも、そうか。
「うん? どうしてそう思うんだい?」
「だって、里の忍―――中忍以上の範囲ですけど、随分と慌ただしいじゃないですか。
言ってはなんですが木ノ葉の里の忍がこれだけ慌ただしくなるような事態となると、現在の音隠れの忍の中では父上が直接動くしか無いのでは?
まぁ、俺が居ない数年の間に凄い人材が入ったと言うなら解りませんけど」
「………いや、確かに君の言うとおりさ。現在、この里には大蛇丸様が潜入している。目立つように痕跡を残しながら、ね」
「成る程」
頷いて、その理由に納得をした。
大蛇丸ほどの忍が本気を出せば、並の連中では気付くことも出来ない。
ソレを態々目立つように動いているというのは、常に俺を監視している暗部の視線を逸らすためのモノなのだろう。
とはいえ―――
「他にも理由、有りますよね?」
流石にソレだけの為に、大蛇丸が態々出張ってくるとは思えない。
そりゃ、写輪眼のうちは一族を監視させたいというのも理由にはなるだろうが、ソレだけでは少し弱い。
恐らくは、『何かのついで』に俺の封印を解くことにしたのだろう。
「つくづく、君は凄いな」
「………?」
「大蛇丸様が、君を特別扱いする理由が少し解るよ。
まぁ、コレは言っても問題がないことだから言うけれど、ちょっとした実験をすると言っていてね。
多分、最近になって開発された呪印を使う実験をなさるんじゃないかな」
呪印?
………あぁ、強制的に仙人化させるアレか。
という事は、みたらしアンコに呪印が刻まれるということか。
成る程な。『術の実験と封印解除を一緒にやっておくか―――』なんて理由か。
それなら、まぁ、納得もできる。
「君が卒業するまでまだ暫くは時間が有るだろう? その間に、君にはうちはサスケについての報告を定期的に行って貰う。
性格や人間性、チャクラの性質に大凡の実力など、分かる範囲で纏めておいてくれ。
そしてソレと並行して、音隠れの里で修行を行って貰う。
次代を担う音隠れの若い忍達を、君に統率してもらうと言うのが大蛇丸様の狙いのようだからね。君は、随分と大蛇丸様に大事にされているようだ」
大蛇丸の狙い………か。
確か究極的な話で言ってしまえば、『全ての術を扱えるようになる』というのが目的だったか?
結局のところ、大蛇丸が俺を気にしているのは器としての成熟度だろう。
例えばの話だ。
今現在の大蛇丸は不屍転生を行ったそうだが、元の体と比べてその能力は低下しているだろう。
何故ならば今までと勝手が違う肉体だからだ。
筋肉の付き方は勿論、チャクラの身体への馴染み。
遺伝的に使い易い術の違い。
そういった諸々が変わってしまう。
転生して直ぐの頃ならば、大蛇丸の基本能力は大きく低下してしまっているのだ。
だが、それが俺のような大蛇丸の血を引いた上位互換ならばどうだろうか?
自身の扱う術と同じモノを、自身の受け継いでいる才能と同じモノと更にプラスされたモノを、そして若い肉体を―――
大蛇丸が俺に求めているのはそういったモノの訳だ。
当然だが、そんな事を俺が受け入れるわけがない。基本的には自分の命は大切だ。
大蛇丸自身が俺の考えを理解しているかどうかは解らないが、少なくとも存在価値が在り従順にしている間は問題はないだろう。
だから今回、大蛇丸の注目が俺からうちはサスケに移ってくれたのは有り難いことだ。
もしかしたら、流れを無視してサスケではなく俺を器に選ぶのではないか? などと心配もしていたが………取り敢えずは安心しても良いだろう。
うちはイタチに、一方的に敗北したのが余程に堪えたようだな。
まぁ、俺は写輪眼と直接に戦ったことがないので何とも言えないのだが、ソレほどまでに万能な能力ならば、うちはマダラは千手柱間に負けなかったと思う。
要は、『便利な道具』程度の認識で居るべきだろう。
そもそも、万華鏡写輪眼に開眼しなければ物をよく見える程度の能力でしか無く、そのうえ仮に万華鏡に至ったとしても失明する可能性があるモノなど俺は欲しくはないな。
手に入れるのなら、もっと手軽で有用なモノが良い。
自身の地力を高めるのは、俺の目標である大蛇丸の驚異の排除にも繋がることだからな。