第七章 プロローグ
『赤龍伝説……それは、赤き龍と契約を結んだ一人の下級悪魔が冥界の未来を担う、たったひとつの英雄譚――』
そんな謳い文句から始まったのは、俺をモチーフにしたアニメだ。皆で試視聴会をしている。
ストーリー構成、ミカエルさん。
音響と技術顧問、アジュカ・ベルゼブブ様。
デザイン監修、アザゼル先生。
まさに三大勢力初の合作
……いや、まぁね、うん。予想はしてたけどさ……。
体育大会が終わった直後、アザゼル先生から呼び出し食らって何をするかと思えば声優のお仕事だよ。ボイスサンプルが欲しいってさ。それで俺の声に限りなく近い人を探したらしい。
というかアザゼル先生が考えた台詞が小恥ずかしい……。
どうやらアニメの話は一ヶ月前に決まったらしく、タイトルは『赤龍伝説』。
悪魔になって数ヵ月、正義感溢れる新人転生悪魔の兵藤一誠が、ひょんな事から赤い龍の力を手に入れてしまう。そして、冥界を襲う卑劣なテロリスト達。それらから冥界を、世界を、未来を守るために戦い、天使や堕天使との協力、友情、努力、勝利、正義――。
そんなふうに様々な挫折と経験を得て、『冥界の英雄』と呼ばれる程の実力とカリスマ性を得る――
というのが大まかな流れらしい。
『ぐっ……お前、伝説のドラゴンなんだろ? だったら力を貸せ、赤い龍ッ!』
『よかろう! ならば、悪魔らしくその欲を、魂を見せよ、兵藤一誠!』
『俺の、欲……! 俺が欲するのは……仲間の、皆の笑顔だ! そうだ、我が魂は……! 我が魂は、正義と共にありィィィィーッ!!』
一話で、あるテロリスト組織(下っ端の雑魚)に襲われてピンチになった時に赤い龍の力が覚醒して、籠手が出現するシーンだな。
この『我が魂は、正義と共にありィィィィーッ!!』の所はボイスサンプリングの時に言わされたんだよな……まぁ、恥ずかしいけど熱い台詞だよな。思わず叫んでしまった記憶が……ああ、恥ずかしい。自分の声にそっくりなだけに更に。
これは試作の一話で、現時点で48話までは収録が出来ているのだという。冥界仕事はやっ!
ライバル役となる木場やヴァーリも出てきてない以上、まだなんとも言えないけど……面白いと思う。なんというか、一昔前のヒーロー活劇物の匂いがぷんぷんする。
「……」
熱心に見てるのは小猫ちゃんだ。そういえば、特撮とかアニメとか好きだったっけ。
『そんな、馬鹿な!? お前はごく普通の下級悪魔のハズだ、そんな魔力を持つハズが……!? まさか、その籠手は!』
『卑劣なテロリストめ! この赤き輝きを目に焼き付けよっ!
『ぐぁぁぁ!?』
赤い籠手にオーラを凝縮して、相手をオーラで赤く輝く籠手で殴るアニメの俺。すると敵は吹き飛び、呻き声をあげて倒れ伏す。
『勝った……!』
そう言うと、拳を突き上げるアニメの俺。
『(勝った。けど、これで終わりとは考えにくい。また、こいつらは来るハズだ。ここに彼女が、部長がいる限り……)』
と、ここでアニメの俺の独白が入り、そしてEDが流れる。
OPは俺、EDはヒロイン役のリアスのイメージソングらしい。
『謎の組織『ケイオス』の構成員一人を倒した一誠。しかし、その行動は『ケイオス』に目をつけられたこととなる! 次回、赤龍伝説、『狙われる主』。正義と共に、立ち上がれ! 一誠!』
と、次回予告が流れて終了。
「……面白かったです。後半の『正義と共にあり』と叫ぶシーンは凄く良かった」
と、小猫ちゃんの評価も上々。
……英雄、か。
怪物は英雄にはなれない。でも……英雄を目指すことは出来る。
あ、そういえばアニメで出てくる二つ名みたいなのがあってな。
アザゼル先生曰く『英龍帝』らしい。『乳龍帝』よりもよっぽと健全だ。
『英雄たる龍の帝、英龍帝か……ふふ、悪くない気分だ』
《僕的にも気分がいいよ。ガラティーンがアニメで見れるのを心待にしてるよ》
俺の中のミーハー達にも評価は上々だ。というかこいつらはいったいどこでこんな言葉を覚えてくるんだか……。
そして妙にそわそわしているグレモリーの女子達。
……まぁ、大体予想はつくけどさ……。
たぶん、ヴァーリとのデートの事だろう。少々複雑な気分なんだが……。
いや、大したことではないか。俺にとって、ヴァーリは元男という感覚がある。
でも、龍咲に見栄張ったからな。事実、そうだと思うし。
家庭的で抜け目がない俺に好意を寄せてくれている女の子。それでいいじゃねぇか。
そうだろ……? ヴァーリ。
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「へぇ、デート? 羨ましいなぁ」
と、ゆーちゃんがそう言う。
「ふふ、明日なんだ。こればっかりは譲れないよ」
私は……今、どんな顔をしてるのだろう。きっと楽しげな笑みを浮かべてるハズだ。
もしくは……不安と期待が入り交じった表情だろう。
しってか知らずか、ゆーちゃんは「急に仕事が入ったから……」と言ってさっさと転移してしまった。
……。
アルビオン、私を滑稽だと笑うかしら?
『笑うものか。お前がしたいようにすればいい。いつだってそうだったろ?』
そうだね。ありがとう。
『……お前から礼を言われるとはな。少々こそばゆい』
ふふ、そうかな?
『……そうだ。普段なら礼など言わんだろう。……本当に奴にあの事を打ち明けるのか?』
うん、もう決めたことだから。引き留めないでね……決意が揺らいじゃうから。
『……俺はもう寝る』
アルビオンはそう言うとさっさと神器の奥へと行き眠ってしまう。
あの時と同じ白いワンピースを着て、あの時よりも綺麗になって。
私は……イッセー君に伝えなきゃ。きっと、驚くよね。引いちゃうよね。でも……これ以上隠したら……。
隠し通せる自信はある。事実、今までそうしてきたし、これからもそうするつもりだ。
でも……彼だけには、イッセー君には知ってほしい。
これ以上彼に隠し事をしたら、胸が張り裂けそうだから。罪悪感で、押し潰されそうだから。分かってる、こんなの身勝手だって。
私に“前世は男”なんて事が無ければ、私はイッセー君と出会うこともなかったような気がする。でも、それさえなければ心配事もなくなるのに……。
ねぇイッセー君……“私”、ここにいるのかな……。
私の傍らにある剣は、その問いに答えることはなかった。