二天龍が笑った   作:天ノ羽々斬

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後書きに追記あります。


温泉の霧

修学旅行初日の夜。

 

イッセーは自分に割り当てられた部屋でうんうんと唸っていた。考えていることは色々である。

愛する主リアスのこと、セカンドフェーズのこと、乳語翻訳(パイリンガル)のこと、英雄派のこと、これからのこと……。

(俺が考えても、どうしようもないのは分かってるんだけどなぁ……)

それでも悩む。うんうんと唸りながら。はたからみれば変人であるが、生憎そこに目はない。

(あー、どうしよう……)

暇だった。以前の彼なら風呂覗きにいくのだろうが、今の彼はそれどころではない。見えないところで、心に負担がかかっている。

 

『イッセー』

 

紅い髪が揺らぐ。紅い瞳が潤む。

 

(……()()()。教えてください……俺は、どうしたらいいんすか?)

 

けれど、その幻想は答えを出さない。記憶の中の『以前』のリアスと、『いま』のリアスの姿が重なる。

今のリアスと前のリアス。それを無意識に比べていたことに彼は気付かない。

「……風呂、行くか」

最近ため息が増えたな、と思った。

 

―☆☆☆―

 

「ふぅ……」

露天風呂の使用時間。しかし、他の同級生はいないのでゆったりと一人で入ることができた。疲れがドッと抜けていくように感じた。

「……あ゛ー……」

イッセーは思考を放棄しながら、風呂に漬かっていた。

「おーイッセー、いるか?」

「アザゼル先生……?」

声のする方を見ると、湯煙に隠れながらもアザゼルがいるのが見えた。気持ち悪そうな顔をしている。

「……どうしたんすか?」

「いや、昔馴染みに会ってよ、かなり呑まされてな……酔い止め飲んどいて正解だよ、ったく」

そう悪態をつくアザゼルだが、顔は少しにやけていた。いいことでもあったのだろう。

「アザゼル先生が酔い潰されかけるって相当のですね」

「ああ、あいつは蟒蛇なんてレベルじゃないな……くそ、誰だあいつにスピリタスなんて渡した馬鹿は」

スピリタスはアルコール濃度90%を超えるほぼアルコールの蒸留酒(ウィスキー)である。本来なら果実酒を作るために使われるものだが、アザゼルの言うそいつは直飲みしていたのである。樽で。

「……で、そこに浮かべてる熱燗は?」

「迎え酒だ」

そう言うと徳利(とっくり)からお猪口(ちょこ)へ透明な酒を注ぐ。

「……っかぁー、旨い!」

「……生徒の前で呑まないでくださいよ」

「あぁ? 良いじゃねぇか別によ……」

そういいながら酒を煽る。

「お前も呑むか?」

「あー……じゃあ、一口だけ貰います」

「おいおい、未成年が酒飲むのか?」

アザゼルの言葉は決して間違ってはいないのだが、あいにくイッセーは酒の経験がある。

「いいじゃないですか少し位……酔わなきゃやってられない時もあるんです」

「おーおーガキンチョが一丁前に言いやがる。ま、いいぜ」

もうひとつあったお猪口に酒を注ぐと、イッセーに渡す。

「ストレス溜めんなよ? 無理してると色んなところに悪影響が出る。たまにゃあ酒に逃げるのも悪くねぇ」

「……ばれました?」

「おう、バレバレだ」

イッセーは、一気に酒を煽る。日本酒独特の喉を焼くような熱を感じながら、イッセーは過去への思考から漸く完全に抜け出した。

「っかぁー! 五臓六腑に染み渡るなぁ……ところでイッセー、つまんねーことを聞くが、いいか?」

「なんすか、アザゼル先生」

お猪口に酒を再び注ぎながら、アザゼルは問うた。

「オメーは普通のガキ共とどうも違う。落ち着きがあるってレベルじゃねぇ、その仄暗い感情を宿す眼をみりゃあ判るもんだ」

アザゼルは酒を煽りながらそう言う。 イッセーは訝しむような視線を向ける。

 

「それだけじゃねぇ、お前の動きは“ある程度は完成されている”動きだ。数ヵ月やそこら程度じゃあとてもじゃねぇが身に付かねぇ“経験”が見えた。それを踏まえて聞くぜ。お前は“何者”だ?」

 

その言葉に、イッセーは“驚愕”と“納得”の表情を浮かべた。

 

(アザゼル先生は……俺が決して見せようとしなかった“前”の事に関連する事柄を、“戦闘の経験”と“俺の雰囲気”、“瞳に写る感情”……たったそれだけの情報で……俺が普通ではないと気付いたんだ)

 

イッセーは迷った。自分に前世があることを話すかどうか、を。なまじファンタジーに近い存在……いや、ファンタジーそのものだけに、信じるのだろうが、それでもイッセーの持つ『結末』を安易に伝えていいのだろうか、と。

幸い、まだ伝えていない事柄、ガウェインのことがある。それを言えば信じてもらえるだろうか。

 

「俺がガラティーンを持ってるのは知ってますよね?」

「ん? ああ、知ってるぜ」

「どうやらアレには、最初の持ち主、円卓の騎士の一人、太陽の騎士ガウェインの魂が封じられていたようで、俺の中でそいつも生きてます」

「ハァ!? ……ちょっとガラティーンを見せてみろ」

アザゼルに言われるままにイッセーはガラティーンを出した。白熱の聖剣。アザゼルはじっくりとそれをにらむと、眉をひそめる。

「……なんだこりゃ、神器(セイクリッド・ギア)じゃねぇ。ケルト式の魔術で作られた似ているようで全く違う別物……さしずめ、法具(アーティファクト)ってところか。人工神器の研究にはちと使えねぇな」

アザゼル曰く、『魔術で再現された神器によく似た別のナニか』。

アーティファクトはケルト式の魔術で英雄や聖人の魂の封印と、人間の転生に合わせて誰かの肉体に宿るようにできている。

聖剣は魂を封じる媒体のようなもので、それ生まれる前に、肉体に無理矢理宿させることで英雄や聖人を何度も転生させることができる禁術指定間違いなしの恐ろしい秘法を使っている。

そして、弾き出された魂は消滅し、仮にそれに神器が宿っていたのならそれは別の主人を探しに行く……という仕組みなのだ。

 

しかし、封印が解ける前にイッセーの魂が肉体に宿っていたためにイッセーには中途半端に戦闘の才能と魂に染み付いた戦闘の勘だけが受け継がれ、ガウェインの魂が封印から解放されたあともイッセーもガウェインもドライグも弾き出されずに現存している。

つまり、今のイッセーの肉体には三つの魂が宿っているという奇妙な状態になっている。ここまで説明したアザゼルは、納得した表情を浮かべた。

「成る程な。しかし、ケルトの連中はなぜこんなこと……しかも他の勢力に何も言わずに……」

アザゼルは一瞬だけ思考の海に沈んだが、やがて考えるのをやめた。

「まぁ、そういうことなら分かった。悪かったな」

「いえ……さ、一杯」

「酌してくれんのか? しかし男に酌をされても嬉しくねぇなぁ」

「俺もそう思いますよ、アザゼル先生」

 

イッセーとアザゼルはにやりと笑うと、酒を煽った。

 

夜空の遠くで、流れ星がきらりと煌めく。月はそれを眺めているような気がした。

 

 

 

 




『真実を隠すという意味の霧』と、『湯煙という意味での霧』が掛けてありますね。……だからどーだこーだと言うわけではないんですがね。

……あ、未成年のみんな、お酒は飲んじゃ駄目だぞ。酒とタバコは二十歳になってから!

【追記】2022/10/3
実家で保管していた筈のハイスクールD×Dが一部紛失していました……しかも、丁度修学旅行編である9巻も。これでは更新をしようにも出来なさそうです。一応捜索は続けているので、発見したらまた報告します。
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