「イッセー、アーシア! 怪我はない? なにもされてない? 大丈夫!?」
「大丈夫、です、俺たちの、こと、悪魔って、認識してた、みたい、ですけど、なにも、されてません、だから、肩を、激しく、揺すらないで、吐きそう、です」
「ああっ、イッセーさんがどんどん青い顔にっ!?」
やべぇ、昼飯が、胃から込み上げてきて、嫌な唾液が口のなかに充満して揺れてうぷっ。
「うぉっぷ……」
「イッセーっ!? は、はやくトイレへ!」
ー少々お待ちくださいー
「ふぅ……ぅぇ」
「イッセーさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫……ぅぇっ」
まさかリアスに胃袋シェイクされるとは……それだけ、心配されてたんだろうな。誇らしく感じることにしよう。まぁ、アーシアに背中を擦られている時点で形無しだが。
『すまん相棒、俺も酔った。しばし眠る……ぅぉぇっ』
頑張れ、ドライグ。
「……表の部活動が終わってから、ソーナから教会の関係者が潜り込んできている、という話を聞いたわ。しかも、『聖剣』を手にしていると。それに、私達に交渉をしてくるそうよ」
あのオーラ、うっすら感じたけど、やっぱり、アレだよなぁ。
エクスカリバー。アーサー王が湖の精霊から預かった最強の聖剣。
かのデュランダルに並ぶ聖剣だ。たしか、三大勢力の戦争の時に壊れたんだっけか。えーと、
文字通り、それぞれ破壊、変化、透過、速度、幻術、加護、支配の能力を持つ聖剣だ。ゼノヴィアが破壊、イリナは擬態の聖剣を持っていた筈だ。
「聖剣所持者が、ですか……木場の奴が過剰反応しなけりゃいいけど……」
「……そうね。何か、嫌な予感がするわ。話ではこのまちを訪れた神父が次々と惨殺されているみたいだわ」
俺は思わずため息をついた。無駄だろうな。だって、あの二人が持っている聖剣は、エクスカリバーだしな。エクスカリバーを前にして、木場が我慢していられるとは思えない。……。
兎に角、今は前を見よう。がむしゃらに突き進むしかないんだ……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
イッセーくんとあった翌日。私達は金髪の男性悪魔に怨恨の眼差しを受けつつ、話を切り出す。
「……そう」
リアス・グレモリーは返答を返しただけ。目を閉じて壁に寄りかかっているイッセーくんが口を開く。
「……ご託は良い。大体わかった。お前らは何が言いたいんだ? さっさと言え」
そう彼がいうと、ゼノヴィアが言う。
「各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。奪った犯人はここに逃げ出したという訳さ」
イッセーくんは目を開かず、淡々と言葉を続ける。
「そうか。それで? 犯人は相当大物なんだろうな」
「ああ。『神の子を見張るもの』幹部のコカビエル」
ゼノヴィアの言葉にグレモリー眷属皆が驚く。ただひとり、イッセーくんを除いて。
「……コカビエル、古の戦いから生き残る堕天使の幹部が……まさか、聖書にも記された者の名前が出されるとはね」
リアス・グレモリーはあまりのビッグネームに苦笑する。
「成る程。部長から最近神父が次々と惨殺されている、という話を聞いたが……それがコカビエルの仕業、もしくはその部下の記されたというわけか」
イッセーくんがまたそう答える。淡々とした、抑揚の余り乗らない声。この声を私は知っている。昔から、何かを抑えてたりするときのイッセーくんの声色だ。
「私たちの依頼――――いや、注文とは、私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いにこの町に巣食う悪魔が一切介入してこないこと」
「端的に言えばこの事に関わるな、と? よく言うぜ。たった二人だけでコカビエルに挑むのか?」
ゼノヴィアのハッキリとした物言いにも怖じけず、挑発まで交えて答えるイッセーくん。
「そうだ」
ハッキリとしたゼノヴィアの言葉にリアス・グレモリーは嘆息する。
「はぁ……教会関係者の信仰は常軌を逸しているわね。死ぬ気?」
む。これは聞き捨てならないな。
「我々の信仰を馬鹿にしないでちょうだい、リアス・グレモリー。ね、ゼノヴィア」
「まあ、ね。それに教会は堕天使に利用されるくらいなら、エクスカリバーがすべて消滅しても構わないと決定した。私たちの役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手からなくすことだ。そのためなら、私たちは死んでも良いのさ。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけだよ」
これが、私たちの覚悟よ。神のためなら死ねるわ。
「そろそろおいとまさせてもらおうか」
「そう。お茶は飲んでいかないの? お菓子ぐらい振る舞わせてもらうわ」
「要らない」
「ごめんなさいね。それでは」
私たちはその場を後にしようとするが、私たちの視線は『魔女』アーシアへと向けられる。
「……兵藤一誠の家で出会ったとき、まさかとはおもったが、『魔女』アーシア・アルジェントか? まさか、極東のこんな所で出会おうとは、運命とは数奇なものだ」
そう。彼女は悪魔を癒す力を持った魔女。
そう、聞かされた。魔女と呼ばれて、肩をビクリと、震わせた。
「あなたが一時期噂されていた『魔女』になった元『聖女』さん? 悪魔や堕天使も癒す力をもっていたらしいわね? 追放され、どこかに流れたと聞いていたけれど……悪魔になっているなんてね」
「あ、あの、私は……」
「大丈夫よ。ここで貴女を見たことは上には伝えないから安心して、『聖女』アーシアの周囲にいた方々にあなたの今の状況を話したら、ショックをうけるでしょうから―――」
「聞いていれば、『聖女』だ、『魔女』だ、ね」
ここで、二度口を開いたものがいる。――イッセーくんだ。
「そうだよ。彼女は元『聖女』で今は『魔女』。そう呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」
ゼノヴィアはそう言う。カッ、と彼の瞳が開かれた。その眼には、酷く、怒りが宿っている。
「『聖女』だと勝手に祭り上げ、悪魔を癒してしまえば今度は『魔女』だと勝手に追放する。人間、どこへいっても変わらねぇな。じゃあ聞くがよ、いったい『聖女』ってのはどんなんだよ?」
彼は嘲笑する。まるで年上と相手しているかのような感覚に陥る。なにこれ?
「……『聖女』。それは隔てない無償の慈悲と慈愛を振り撒く者だ」
彼はゼノヴィアのその言葉を聞いてゆっくりと言う。
「じゃあ、こういうことだ。アーシアは優しいから、『悪魔にすら慈悲と慈愛を与える事が出来るんだ』。なら、こんな優しい少女を追放したのは何故だ? 少しでも求めていたものと違ったから? 悪魔や堕天使すら治癒する力が恐ろしいからか? それとも、悪魔を癒すということ自体がタブーなのか? ……文句があるなら答えてみな、シスター」
私には、反論ができなかった。否、反論の余地が私には見つからなかった。
ゼノヴィアは口を真一文字に結ぶ。
「……そうだ、悪魔を癒すのはタブーだ」
ゼノヴィアの苦し紛れの一言。それしか選択肢がなかったのだ。
「……だろうな。『教会』としてはそれは駄目だろう。当然、聖職者、特に悪魔祓いにとっちゃあな」
彼はその言葉を肯定し、真っ直ぐにこちらを向く。
「彼女は悪魔になった今でも神に祈ろうとしているときがある。お前達がもし同じ状況に立たされて、同じ様に行動し、同じ様に言われたらどう思う? 『悪魔を癒す恐ろしい女め』『魔女だ』……お前達には悪魔や教会云々以前に、魔女が云々以前に、他人への思い遣りが足りてねぇんだよ。言ってやらずに傷口が癒えるのを待つのも、優しさのひとつだろう」
私は、なにも言えなくなった。
思わず、ゼノヴィアが問う。
「……君は、何者なんだ?」
「リアス・グレモリーさまの眷属で、アーシアの友達だ、仲間だ、家族だ。お前達がアーシアを否定する以上、俺はお前達を肯定しない」
「……それは私達、教会側への挑戦か?」
「どう取るのもお前の自由だよ、シスター・ゼノヴィア……ただ、アーシアや仲間や家族を傷つけるのならば、俺は神だろうが堕天使だろうが倒しにいくのを厭わない」
イッセーくんから、赤い、血のようなオーラがうっすらと纏いはじめる。
「イッセー、お止め―――」
彼を落ち着かせようとするリアス・グレモリー。
そこへ、一人の男が介入する。
先程から怨恨の眼差しを私達に送っていた男だ。
「ちょうどいい。僕が相手しよう」
彼は特大の殺気を体から発している。ゼノヴィアが反射的に
「君は誰だ?」
「君達の先輩だよ。――――失敗だったそうだけどね」
その瞬間、部室内に無数の魔剣が咲き乱れた。
あれれー、なんかイッセーくんが説教キャラに……