決戦前夜。
俺は眠れず、我が家の修練場で剣を振っていた。
無心に、振る。
剣を振るう度にひゅん、と風切り音がする。
ひゅん、ひゅん。
「イッセー、それじゃだめだ。もっと自由に振るんだ」
ひゅん、と言う音がびゅう、と言う音に変わる。
「……そうだ、もっと剣に身を委ねて」
びゅう、という音がぎゅん、という音に変わる。
ぎゅん、ぎゅん。
……。
「ゼノヴィアか」
「ああ、私も剣を振りたくなってな」
ゼノヴィアはデュランダルを肩に担いでいる。相変わらず巨大だが、以前のような攻撃的なオーラは感じない。もっと、静かなオーラだ。
「デュランダルが教えてくれるよ。あの悪魔には聖なる匂いが憑いてるってね」
「ディオドラか」
「ああ。あの悪魔、恐らく聖女を囲うのが趣味なんだろうよ」
きり、と歯噛みするゼノヴィア。元聖剣使いとして思うところがあるらしい。
彼女が一度、軽くデュランダルを振るう。風切り音すらしないその剣は、まるで空気を縫って斬っているようにも見えた。
「……イッセー。明日はアーシアと一緒にいて、彼女を守ってくれ」
「勿論だが……突然どうした?」
俺の言葉を聞くと、また剣を振る。
「嫌な予感がするんだ。それも、酷く嫌な予感がね」
「……成程。そういうときは大体嫌な予感が当たるもんだ」
アーシアの関連を知っている俺はそう答えるしかない。
「……そうか。ありがとう」
「なぁに、アーシアの心配よりも自分の心配をしてろ」
「……ふふ、そうするよ」
「じゃあ、軽く一試合頼むぜ? 確かそこに訓練用の木剣があった筈だ」
「いいよ。私とてなにもせず寝ていた訳じゃないからね」
カァン、と木と木のぶつかる音が鳴り響く。
―≧д≦―
「ふぅ……」
ゼノヴィアとの模擬戦も終えたが……やはり、眠れない。
……そうだ。
『Shield Bit!』
『Boost!!』
『Transfer!!』
『Harmonics……』
……よし。
英雄は遅れてやってくる……なーんてな。
孫子曰く、勝兵は先ず勝ちて
俺がグレモリー眷属にいる。その時点でお前の敗北は揺るぎないんだよ……ディオドラ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
冥界のある屋敷の一室。
「ふふ、君は面白いよ。僕の女達の中で唯一純潔を貫いてる」
男――ディオドラは少女へと手を触れようとして――それを魔力で弾かれる。
「……貴方が勝手に私を復活させただけ。私は貴方とそういう関係にならない代わりに戦闘面で全面支援する、というだけの契約よ。ボディータッチはタブーよ」
「……本当に、面白いよ――アリー」
ディオドラは面白がってそう言うと、少女――アリーは静かに怒る。
「その名で呼ぶなと言った筈だ」
言葉による拒絶。それをまるで聞いていないかのようにディオドラは続ける。
「アリシア・ディラン。ふふふ、
アリシア・ディラン。元々はヴァチカン直属の腕利きのエクソシストだった。
「……ッッ!」
ディオドラの言葉に彼女は――白い、聖なるオーラの剣を喉元へと突きつける。
「おっと……」
少し焦ったように声をあげるディオドラにアリシアは吠える。
「次、その名前を呼んだら、貴様の喉笛を抉り抜いてやるぞ……ッ! アリシア・ディランは死んだ。もう居ないのだ」
はじめは吼えるように、最後は弱々しく。
「……君は強いね。僕の甘言に屈しない。まぁそこが気に入ってるんだけど。ま、明日はグレモリー戦だ。清々休んでおいてよ」
「……チッ」
「ふふ、つれないね」
そう言うと、ディオドラは彼女の個室からでていってしまう。
「……行った、か。魔力反応なし」
ディオドラが居ないことを確認すると――アリシアは淀んだ青い瞳からボロボロと涙をこぼす。
「……ううっ……あぁ……ごめんよ……」
ごめんよ、ごめんよと誰かにしきりに謝る彼女。先ほどまでディオドラに対して吼えていた姿とはまるで別人だ。ディオドラに無理矢理着せられた白いワンピースを涙と鼻水で汚してゆく。
「私が弱いばっかりに……、あんなのの言いなりだなんて……ううっ……彼に顔向けなんて、出来ないよ……いっそ、また彼に……」
少女は元相棒に自らを殺させてしまい、人生が狂ったことを知っていた。
小さく、細々しく、想い人を思い浮かべるように、傷んだ金髪に
「……フリード……」
レーティングゲームまで――あと、16時間。