選択肢に抗えない   作:さいしん

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淫フィニット セ〇リアを読んだので初投稿です。





第1話 選択のプロローグ

 

 

「………………」

 

 カーテンの隙間から太陽の光が差し込む部屋で、俺は今日も目を覚ます。部屋の主を起こす為、ジリリリと鳴り続ける時計に触れる前に、自分の頬を抓ってみる。

 

「……痛い」

 

 その痛みが夢でない事を我が身に教えてくる。

 今日もまた、夢のような現実が始まってしまうんだ。

 

 喧しく鳴り続ける時計を止めてホウッとため息。目が覚めて頬を抓る。毎日毎朝、こんな事をもう何年も続けている。いつか自分の今が、全て夢なのだと教えてくれるのではないか……そんな淡い思いで欠かさず続けているのだが。

 

「今朝も夢じゃなかったか」

 

 そろそろ母親が呼びに来る頃だ。俺も気持ちを切り替えないといけない。今日も1日気を張って過ごさなくてはならないんだ。

 

「……よし」

 

 頬を何度か両手で叩き、心に活を入れた俺は机の上に置いてあるランドセルを背負って部屋を出た。階段を降りていくと、朝ごはんの良い香りが鼻をくすぐる。

 

「あら、おはよう旋焚玖!」

 

「おはよう旋焚玖。今日も1人で起きれて偉いなぁ」

 

「……―――ッ、オッハー!!」

 

 それは満面の笑み。

 自分でも引く程のにっこりスマイルで、両親へと元気に挨拶を返す俺。

 

「あらあら、今朝はずいぶんご機嫌さんねぇ」

 

「ははは、昨日はクールぶってたのになぁ」

 

「はは…あはは……………はぁ…」

 

 ハイテンションな挨拶を済ませた俺は、打って変わって曖昧な愛想笑いを浮かべながら食卓につく。

 

(……旋焚玖、か)

 

 この世界の両親から呼ばれる名前にも流石に慣れてしまった。

 『旋焚玖』と書いて『せんたく』と言う。

 

 それが俺の名前だ。

 由来は何なのか。何を意図して付けたのか。ぶっちゃけ洗濯なのか選択なのか。間違いなく俺は後者だと思う。

 

 ああ、俺のフルネームは『主車旋焚玖』。

 『おもぐるませんたく』だって? いいや『しゅしゃせんたく』だ。完全に取捨選択やんけ! アホか!

 

 言葉が話せるようになってから真っ先に母親に問いただしたが、何故かこの世界には『取捨選択』という四文字熟語が存在しなかったのだ。うぅ……意味分かんねぇ…。

 

「旋焚玖は今日何時に帰ってくるの?」

 

「んぐんぐ……んー、分かんない。一夏と遊んで帰るかも」

 

「そう? 遅くなるようだったら電話してね」

 

「ん、分かった」

 

 小学生の朝は早い。

 パパパッと飯を食って用意を済ませた俺は、忘れ物がないかのチェックをして玄関で靴を履く。

 

「行ってきます」

 

「あれ、旋焚玖、今日は頬っぺたに行ってきますのチューはいいの?」

 

「うぐっ……いや、それは…」

 

 ニヤニヤ顔を浮かべた母親が玄関まで見送りに来る。その後ろにはちゃっかり父親の姿もあった。

 

「あんなに昨日母さんにねだってたじゃないか。『ママぁ! 行ってきますのチューしてよぉ!』って地団駄まで踏んでなぁ?」

 

 おいマジでやめてください。

 息子の心を抉らないでください。

 

「き、昨日は昨日なんだよ! 行ってきまーす!」

 

 何をどう弁明すれば良いのか、まるで思いつかない俺は2人からの温かい目に耐えられず逃げるように外へと出るのだった。

 

「あっ……行っちゃったわね。昨日は久しぶりにママって呼んでくれたのに、あの子も反抗期なのかしら」

 

「小2で反抗期は早いだろ。きっと思春期なんだよ」

 

「あなたったら、思春期の方が早いわよ」

 

「ははは、それもそうか」

 

 

.

...

......

 

 

「おはよう」

 

「あ、おはよう旋焚玖くん!」

 

 何事もなく通学路を抜けて、何事もなく教室までたどり着けた。今日はなんだか穏やかな1日を過ごせそうな気がする。教室に入り、何人かに声を掛けられたが無難に対処できた。

 

「ふぅ……」

 

 席に着いた俺はランドセルから中身を取り出し机にしまっていく。穏やか……無難……とてもいい言葉だと思う。

 

 生前はそんな生活が当たり前だったから麻痺してたんだ。激情なんか早々要らない、吉良吉影みたいな生活が実は幸せの形なんじゃないかと、最近割と本気でそう思うようになってしまった。

 

「ため息なんかついて、どうしたんだよ?」

 

「ん…?」

 

 下を向いていたから気配に全然気付かなかった。顔を上げると、2年に上がってからよく話すようになったクラスメートで、俺と隣の席の一夏が手を挙げて声を掛けてきていた。

 

「よっ! おはよう、旋焚玖!」

 

「ああ、おは……―――ッ!?」

 

 瞬間、目の前にある全てが停止した。

 音、物、空気、人、何もかも一切合切が動かなくなる。目の前の一夏も、その後ろの机にランドセルを置こうとしている少女も、瞬きすらせず完全に停止している。

 

 時が止まった世界とでも言えばよいのだろうか。そして、この不可思議な世界を認識しているのは俺だけだ。そう、俺だけがこのSFな現象を知っているんだ。なのに俺も他の皆と同じで全く動けない。ホントまるで意味ないよね状態だ。全然嬉しくねぇよ。

 

 そんな俺の目の前に『恒例』の【アレ】が現れた。

 

 

 

【元気良くおはようと挨拶を返す】

【アンニュイな感じで頷くだけに留まる】

 

 

 

 RPGやら何やらのゲームをしてたらさ、所々で【選択肢】が出てくるだろ。まさに今の状況がそれなんだよ。しかもどちらかを選ぶまで、ずっとこのままなんだ。動けないの、俺も。どう足掻いても動けないの、マジで。

 

 こんな生活をもう8年も送っている。頭おかしなるで、ほんま。今朝だって何が【オッハー!!】だよ。朝からそんなテンション高い奴いたらウザいわ。ただもう一つの選択肢が【うるせぇ、クソ共】だったんだ。流石にそれは選べんだろ……。

 

 母さんに頬にキスをねだったのも本心じゃねぇからな。アホみたいな選択肢しか無かった中でそれが一番マシだったんだよ!

 

 んで、今回の選択肢は……うむ、無難な選択肢じゃないか。こういうのでいいんだよこういうので。変にクールぶってるって思われるのも癪だし、ここは【元気良くおはようと挨拶を返す】で決まりだな。

 

 どちらかを選ぶと【指の形】をした【マウスカーソル】的なヤツが浮かび上がる。完全に俺の脳内とリンクしてやがるけど、もういちいち考察するのも諦めたさ。カーソルに動けと念じ、【元気良くおはようと挨拶を返す】の上まで持っていく。

 

 ポチッとな。

 ピコンっ♪と効果音が鳴ったと同時に、景色の全てが元に戻る。

 

「おはよう、一夏!」

 

 選択したら最後、必ずその選択肢の内容に沿った行動を強制的に取らされる事になる。俺の意思なんかまるっきり無視だからな。今までそれのおかげで何度変な目で見られた事か……あぁ、思い出したくない。

 

 だから俺はひたすらに願う。

 意味不明な場面で意味不明な選択肢だけはやめてくれと。

 

「なんだよ、元気じゃんか! ほら、箒も挨拶しようぜ」

 

「わ、分かってる! 今しようとしてたところだ!」

 

 一夏の後ろの席に座る篠ノ之と目が合った。俺は一夏ほど、まだこの子とはあまり話した事がない。一夏も最近ちょこちょこ話すようになったらしい。

 

「お、おはよう、主車」

 

「……―――ッ!?」

 

 目に写る景色がモノクロに変わる。

 いやいやまたかよ!? 間隔短いって、さっき止まったばっかだろ!?

 

 【選択肢】はいつでもどこでも突然やってくる。ホントのホントに俺の意思なんて汲み取ってくれない。全てが止まった世界で、羅列された文字が浮かび上がった。

 

 

 

【おはよう、今日のパンツ何色?】

【おはよう、今日のパンツくれ】

 

 

 

 はい死んだ。

 この物語は早くも終了ですね。

 

 






思いつきで書いてはいけない(戒め)
出オチすぎるので続くかどうかは未定です。

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