選択肢に抗えない   作:さいしん

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箒ルート消滅(?)というお話。




第10話 旋焚玖、フラれたってよ

 

 

 

 俺は自分の強さを今一度見直すために、道場へやって来たんだ。自分の強さを見直すために来たんだ。

 

「世の中には言っていい事と悪い事があるんだよ。そんな事も今まで習わなかったのかよ? おい、聞いてんのかよ?」

 

「アッ、ハイ、キイテマス」

 

 何で人生見つめ直させられてんの?

 なんで俺、正座させられてんの? 

 座禅じゃないよ、正座だよ?

 

「根性だけの凡人が、意地汚いんだよ下賤な盗人が」

 

 下賎な泥棒はお前じゃい!

 堪らえる俺の前に立つ、篠ノ之の姉ちゃんからの口撃はまだ続く。

 

「だいたい図々しいんだよお前。ちょっとは身の程を知れよ。いきなり売り物のショートケーキのイチゴに手を出すような事言ってんなよ」

 

 そんなの分かんねぇだろ!

 ずっとショーウィンドウに張り付いてたら、黒人のおっちゃんが来て、買ってくれるかもしれねぇだろ! 前世でそういうCM観たことあるぞ!

 

「お前のその矮小な電池の電力で、箒ちゃんの1億Wの電球輝かせられんのかよ」

 

 じ、自転車操業(意味違い)で何とか…。

 

「可愛い可愛い箒ちゃんを迎えに行けるISは何だ? 言ってみろよ! 天使すぎる箒ちゃんに似合うISは何だ? 言ってみろよッ!」

 

 あ、あいえす…?

 ああ、なんか凄い乗り物だっけ。

 そう考えたら凄いよな、前世じゃあ創作の世界にしか存在しなかったモンだ。女にしか乗れないらしいが、それでも超未来モンに変わりはない。

 

 そういやアレを作ったのって誰だっけ?

 何かテレビでちらっと聞いた覚えはあるんだが……ま、いいか関係ないし。 

 

 篠ノ之に似合うISは……あぁ、ISがよく分からんからイメージ出来ん。でも篠ノ之に似合いそうな色なら、なんとなく思い浮かぶな。

 

「赤だな」

 

「は? 赤?」

 

「篠ノ之には赤色が映えると思う」

 

 何となくだけどね。

 フェラーリ・レッドをブイブイ乗り回す篠ノ之……うむ、アリだな。

 

「赤……赤かぁ……ふむぅ…」

 

 お……ふむふむ言ってるし、正解だったんじゃね?

 ほら見ろ! 別に独力で正解出来るタマなんだよ、俺は!

 

 選択肢?

 要らない子ですねぇ。

 

「箒ちゃんと赤……いや紅…? って、そんな事今はいいんだよ! 束さんが言いたいのは、お前の言葉に責任持てるのかって事!」

 

 

【持てますねぇ】

【持てますねぇ】

 

 

 お、おい…?

 なんか言い方が緩くない? 

 これじゃ煽ってる風に聞こえないか?

 

「(ブチッ)ああ、そんな感じなんだ? 少し言い方が足りなかったみたいだから、もう一度言うよ? お前がさっき言った事(妹さんを云々)に責任持てるの? ねぇ、命懸けられるの?」

 

 や、やべぇ!

 コイツ、眼がマジだ!  

 今からでも遅くはない、全力で冗談だったと否定するぞ! 土下座だ土下座! 謝り倒したら命だけはお助けくださるだろう!

 

 

【懸けられますねぇ(煽り)】

【懸けられます…!(ガチ)】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 言い方で意味合いが全然変わってくるぅ!!

 

「懸けられます…!」

 

「…………あっそ」

 

 それだけ言うと、篠ノ之の姉ちゃんは出て行った。

 どうやら俺は助かったらしい。

 

「……ふぅ、稽古するか…」

 

 旋焚玖は気付いていなかった。

 2人の会話をたまたま外で聞いていた少女の存在を。

 

(……しゅ、主車が私の事を…? 姉さんに直訴するくらい、私の事を…!?)

 

 とんでもない現場を見てしまった箒は、どんな顔をして旋焚玖と会えば良いのか分からず、その日は稽古を休み1日中部屋に引きこもるのだった。

 

 そして、次の日の朝。

 

「あっ、篠ノ之」

 

「……ッ!」

 

 ん?

 何かいつもと違うか…?

 

 

【おはよう、今日のパンツ何色?】

【おはよう、今日のパンツくれ】

 

 

 コイツは変わらんな。

 

「おはよう、今日のパンツくれ」

 

 今朝も恒例の挨拶をする。篠ノ之と出会ってもう1年以上経つが、この挨拶だけは毎朝欠かした事がないんだ。

 

 今日はアンパンマンの豆知識を教えてやろう。最近は小麦粉に含まれる栄養価だとか、小難しい話ばっかだったからな。これならいつも横で聞いてる一夏も退屈しないで済むだろうし。

 

 だが、その日はいつもと違った。

 顔を赤くさせた篠ノ之が竹刀を取り出す。え、取り出すの!? ちょっ、なんで振りかぶってんの!?

 

「ッ、だ、誰がやるかぁッ!!」

 

「ぬぇいッ!?」

 

 脳天に直撃するよりも早く、俺の両手が反射的にそれを防いだ。

 

「おぉ!? 真剣白刃取りじゃん! すげぇよ、旋焚玖!」

 

 お、おぉぉぉ……確かにすげぇよ、俺。

 アレコレ考える前に、シュババッと身体が動いてくれた。やっぱ俺って強くなってんじゃん! ひゃっほい! 

 

「っていうか、何すんのさ篠ノ之」

 

「そうだぞ、箒。いつもの事だろ?」

 

「そ、それはそうだが…! どうしてか、無性に恥ずかしくなったのだ!」

 

 ううむ、篠ノ之も思春期を迎えたのかなぁ。

 まぁよくよく考えたら、今までの方が異常だったか? 女子に毎朝パンツをねだる男子が居るらしい……こう聞くと普通にアウト案件だもんな、うん。

 

「今まではスルーしていたが、お前も普通に雑学を言えばいいだろう!? 何故いちいち私のぱ、ぱ、ぱ…!」

 

「何言い淀んでんだ? パンツだろ、へぶぅ!?」

 

 あ、一夏が篠ノ之にシバかれた。

 ははは、バカだなぁ一夏。女子にパンツなんて、気軽に言っていいワードじゃないんだぞう?

 

「そ、そうだ、それだ! そのやり取りをヤメろと私は言ってるんだ!」

 

「すまない篠ノ之……それは無理だ」

 

「何故だ!? 私は間違った事を言ってるか!? 言ってないだろう!?」

 

 うん、言ってないね。

 俺も言わなくて済むなら言わないよ。むしろ言いたくないよ、その為に俺は毎晩、篠ノ之に教える雑学を調べてるんだぜ? 結構だるいんだよ、あの作業。

 

「それでも俺は止められない。止められないんだ、篠ノ之……」

 

「クッ……お、お前まさか、実は……本当は欲しがってるとかじゃないだろうな…?」

 

 

【ここは無言を貫く】

【そ、そそそ、そんな訳ないじゃん! 篠ノ之のぱ、ぱぱぱっ、パンツなんか興味ないよ!】

 

 

 盛大にどもってんじゃねぇぞコラァッ!! 誰が選ぶかアホ! 欲しがってんのがバレバレじゃねぇか! 小娘のパンツなんか貰っても嬉しくねぇよ!

 

「……………………」

 

「な、何故黙っている…?」

 

(そんなに私のパンツを欲しているのか…? こ、コイツは私の事が好きなんだ、ならパンツを欲しがっても不思議ではない、のか…? 分からんッ、コイツの考えている事はまるで分からんッ!)

 

「もうパンツの話はいいだろ箒。それより旋焚玖! 今日も面白い話を聞かせてくれよ!」

 

 女の子のパンツに一切興味がないらしい一夏からの、ナイスすぎる助太刀が入った。解ける……解けるぞぉ…! 呪縛が解けるぞぉ!

 

「むぁぁぁかせろいッ!」

 

「うわビックリした!? 急に元気になるよな、お前って」

 

 何やら言い足りなさそうだった篠ノ之も、俺のアンパンマン講義に途中から笑みを零すようになった。良かった、機嫌が直ってくれて。

 

 それからも何だかんだで俺、一夏、篠ノ之の3人で居る事が多くなった。俺の望んでいた平穏には程遠い騒がしい毎日だが、楽しくないといえば嘘になる。

 

 これからも俺たち3人は、騒がしく共に過ごしていくのだろう……と思っていた。篠ノ之の転校が決まるまでは。

 

 

.

...

......

 

 

「わざわざ見送りなんていいのに……」

 

「そんな訳にいくか、なぁ旋焚玖」

 

「ああ」

 

 俺と一夏は駅のホームまで来ている。

 遠くへ引っ越してしまう篠ノ之を見送る為だ。

 

 本当に急だった。

 あんまり詳しくは聞いてないが、篠ノ之の姉ちゃんがある日突然、蒸発しちまったんだとか。その影響で篠ノ之も此処から引っ越す事になったらしい。

 

 千冬さん曰く、これからの篠ノ之は政府の重要人物保護プログラムにより、各地を転々とさせられるとかなんとか。っていうか、篠ノ之の姉ちゃんがISを作った張本人だったんだな……ただの変態キ○ガイじゃなかったのか……。

 

「……少しだけ、主車と2人で話がしたい。いいか、一夏?」

 

「ん? おう、いいぜ! ついでにジュース買ってきてやるよ!」

 

 一夏が走っていき、俺たちは2人になった。

 よく見ると、正面に立つ篠ノ之の頬がやや赤い。

 

「しゅ、主車……」

 

「お、おう…?」

 

 え、なにこのシチュエーション。

 照れた表情を浮かべる女子と2人きり。こんなんアレじゃん、絶対告白されるヤツじゃん。やべぇよやべぇよ、女の子から告白されるなんて、前世と合わせて何年振りだ?(実は初めて)

 

 問題はどうやって断るかだな。

 え、なに? 断るに決まってんじゃん。篠ノ之の年齢考えろよ、まだ小4だぞ? 受けたらロリコン容疑で捕まるわ。まぁでも、コイツはきっと将来美人になるだろう。

 

 む……そう考えたら惜しい気もする。ここはアレだな、篠ノ之に嫌われるような断り方は絶対NGだな。別に犯罪年齢じゃなくなった時の為に、とかじゃないよ。女の子を傷付けるのはいけない事だからね、うん。

 

「私は……わ、私は…」

 

 おぉう、俺までドキドキしてきた。

 ダメだ、にやけるな、カッコイイ表情を保つのだ!

 

「私はッ……お、お前の気持ちには応えられない…」

 

「ありが……………へぁ…?」

 

 今、なんかおかしくなかった?

 

「お前が私を好いてくれているのは嬉しい……だが、私には…す、好きな人がいるんだ…」

 

「…………………」

 

 え、何で俺がフラれてるみたいになってんの?

 っていうか、何で俺がコイツを好きな感じになってんの?

 

「私の為に命を懸けられる……そうお前が言ってくれた時は、本当に嬉しかった。私なんかの為にそこまで言ってくれるなんて……」

 

 き、聞いていたのか、アレを……。

 あ、でもなんか色々納得出来たわ、だからあれ以来パンツな挨拶で怒るようになったんだな。

 

「そ、そうか……まぁアレだ、気にすんなよ篠ノ之、俺も気にしないからさ」

 

 ごめん、結構テンション下がってる。俺が告白してフラれるならまだしも、なんだこれ? いや、別にいいんだけどさ? 何でフラれた俺がフォローしてんの? いや、そもそも何で俺がフラれてる感じになってんの?

 

「う、うむ……本当にすまない…」

 

 なんていうか、俺の方こそすまない。

 真面目な篠ノ之の事だ、きっとアレやコレや頭を悩ませてしまったに違いない。そう考えたらこの子は誠実ないい子なんだよな。

 

「あー、もう! この話はヤメだヤメ! あ~っと……篠ノ之はこれからも剣道続けんのか?」

 

「あ、ああ! これからも続けるつもりだ」

 

「そうかい。お前すっげぇ強いから、きっと全国大会にも出られるよ。その時は一夏と応援に行ってやるぜ」

 

「う、うむ!」

 

 気まずい空気は任せろ。

 こういう時の処世は心得ている。とにかくベラベラしゃべってりゃいいんだ。そうすりゃ……ほら、一夏も帰ってきたじゃん。

 

「「「 またな 」」」

 

 こうして篠ノ之は転校していった。

 それは同時に、柳韻師匠からの教えも途絶える事を意味していた。篠ノ之が居なくなって以来、俺を鍛えようとする【選択肢】も出てこなくなった。

 

 そんな環境に甘んじて、俺もとうとう自主的に稽古する事をヤメた。

 

 

.

...

......

 

 

「旋焚玖~! あなたに荷物が届いてるわよ~!」

 

「今取りに行くよ」

 

 今までなら休日は篠ノ之道場で汗を流していた。

 今の俺はそんな生活を強いられていない。篠ノ之家が居なくなっても引き続き道場は使える事になっている。だが俺にその気はない、休日はゴロゴロして過ごすだけ。

 

 別に変わったんじゃない、以前の俺に戻っただけだ。

 

 一夏とは相変わらず仲良く遊んではいるが、千冬さんとは中々会わなくなった。高校を卒業してからは、どうやら忙しい日々を過ごしているらしい。

 

 だが、そっちの方が俺にはありがたかった。千冬さんは決して何も言わなかったが、稽古をしなくなった俺を、時折寂しそうな目で見ていたのだから。

 

「重ッ!?」

 

 玄関に置いてあるダンボールを運ぼうとしたが、その重さに驚いてしまう。一体、何を、誰が俺に……。名前欄に記されていたのは篠ノ之柳韻……俺の師匠からの贈り物だった。

 

「これは……本? いやに分厚いな…それに何冊入ってんだ…?」

 

 タウンページなんて目じゃない、六法全書レベルな分厚さの本が、ぎっしり詰まっていた。

 

「……『篠ノ之流柔術』」

 

 もしかして皆伝書…ってヤツなのか?

 だけど、師匠には悪いが今の俺はもう……む?

 

 1冊目に便箋が貼ってあるのに気付いた。

 どうやら手紙のようだが……封を開け、中を見てみる。

 

 

『日々を無駄に過ごすな』

 

 

 短く、そう書いてあった。

 日々を無駄に……まるで今の俺を、どこからか見ているかのような言葉だった。だが、俺はそんな師匠や千冬さん達に期待される人間じゃない。

 

 師匠には悪いが、俺はもうのんびり過ごしたいんだ。すまんね、過酷とか苛烈とか、そういう暑苦しいのは求めてないのよ。

 

 この届いた荷物は全部物置にしまって……―――あぁ?

 

 

【読む事はないので手でビリビリに破って、足で踏んづけまくって、燃やしてしまう。その炎でイモを焼いて美味しくいただく】

【読むならマジだ。本気で取り組んでやる、逃げたりしない、俺はやってやる…!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 良心を責める選択肢はズルいぞ、反則だぞ!? くっそ、いつまでも俺が真人間だと思うなよ!? 俺だって、俺だって……ホントに嫌なモンは嫌だってよぉ……NOが言える日本人なんだからな!?

 

 

 

 その日の夜、街の商店街が俄かに湧いた。

 もう見る事が無くなって随分経つ、あの光景が再び帰ってきたのだ。

 

 

「……むっ…く……ぬぅ……」

 

 

 逆立ち歩きで進む、少年の姿が。

 

 





打ち切りエンドっぽい締め方ですが、まだ続きます。
次話から鈴ちゃんも参戦予定です。
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