箒ルート消滅(?)というお話。
俺は自分の強さを今一度見直すために、道場へやって来たんだ。自分の強さを見直すために来たんだ。
「世の中には言っていい事と悪い事があるんだよ。そんな事も今まで習わなかったのかよ? おい、聞いてんのかよ?」
「アッ、ハイ、キイテマス」
何で人生見つめ直させられてんの?
なんで俺、正座させられてんの?
座禅じゃないよ、正座だよ?
「根性だけの凡人が、意地汚いんだよ下賤な盗人が」
下賎な泥棒はお前じゃい!
堪らえる俺の前に立つ、篠ノ之の姉ちゃんからの口撃はまだ続く。
「だいたい図々しいんだよお前。ちょっとは身の程を知れよ。いきなり売り物のショートケーキのイチゴに手を出すような事言ってんなよ」
そんなの分かんねぇだろ!
ずっとショーウィンドウに張り付いてたら、黒人のおっちゃんが来て、買ってくれるかもしれねぇだろ! 前世でそういうCM観たことあるぞ!
「お前のその矮小な電池の電力で、箒ちゃんの1億Wの電球輝かせられんのかよ」
じ、自転車操業(意味違い)で何とか…。
「可愛い可愛い箒ちゃんを迎えに行けるISは何だ? 言ってみろよ! 天使すぎる箒ちゃんに似合うISは何だ? 言ってみろよッ!」
あ、あいえす…?
ああ、なんか凄い乗り物だっけ。
そう考えたら凄いよな、前世じゃあ創作の世界にしか存在しなかったモンだ。女にしか乗れないらしいが、それでも超未来モンに変わりはない。
そういやアレを作ったのって誰だっけ?
何かテレビでちらっと聞いた覚えはあるんだが……ま、いいか関係ないし。
篠ノ之に似合うISは……あぁ、ISがよく分からんからイメージ出来ん。でも篠ノ之に似合いそうな色なら、なんとなく思い浮かぶな。
「赤だな」
「は? 赤?」
「篠ノ之には赤色が映えると思う」
何となくだけどね。
フェラーリ・レッドをブイブイ乗り回す篠ノ之……うむ、アリだな。
「赤……赤かぁ……ふむぅ…」
お……ふむふむ言ってるし、正解だったんじゃね?
ほら見ろ! 別に独力で正解出来るタマなんだよ、俺は!
選択肢?
要らない子ですねぇ。
「箒ちゃんと赤……いや紅…? って、そんな事今はいいんだよ! 束さんが言いたいのは、お前の言葉に責任持てるのかって事!」
【持てますねぇ】
【持てますねぇ】
お、おい…?
なんか言い方が緩くない?
これじゃ煽ってる風に聞こえないか?
「(ブチッ)ああ、そんな感じなんだ? 少し言い方が足りなかったみたいだから、もう一度言うよ? お前がさっき言った事(妹さんを云々)に責任持てるの? ねぇ、命懸けられるの?」
や、やべぇ!
コイツ、眼がマジだ!
今からでも遅くはない、全力で冗談だったと否定するぞ! 土下座だ土下座! 謝り倒したら命だけはお助けくださるだろう!
【懸けられますねぇ(煽り)】
【懸けられます…!(ガチ)】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
言い方で意味合いが全然変わってくるぅ!!
「懸けられます…!」
「…………あっそ」
それだけ言うと、篠ノ之の姉ちゃんは出て行った。
どうやら俺は助かったらしい。
「……ふぅ、稽古するか…」
旋焚玖は気付いていなかった。
2人の会話をたまたま外で聞いていた少女の存在を。
(……しゅ、主車が私の事を…? 姉さんに直訴するくらい、私の事を…!?)
とんでもない現場を見てしまった箒は、どんな顔をして旋焚玖と会えば良いのか分からず、その日は稽古を休み1日中部屋に引きこもるのだった。
そして、次の日の朝。
「あっ、篠ノ之」
「……ッ!」
ん?
何かいつもと違うか…?
【おはよう、今日のパンツ何色?】
【おはよう、今日のパンツくれ】
コイツは変わらんな。
「おはよう、今日のパンツくれ」
今朝も恒例の挨拶をする。篠ノ之と出会ってもう1年以上経つが、この挨拶だけは毎朝欠かした事がないんだ。
今日はアンパンマンの豆知識を教えてやろう。最近は小麦粉に含まれる栄養価だとか、小難しい話ばっかだったからな。これならいつも横で聞いてる一夏も退屈しないで済むだろうし。
だが、その日はいつもと違った。
顔を赤くさせた篠ノ之が竹刀を取り出す。え、取り出すの!? ちょっ、なんで振りかぶってんの!?
「ッ、だ、誰がやるかぁッ!!」
「ぬぇいッ!?」
脳天に直撃するよりも早く、俺の両手が反射的にそれを防いだ。
「おぉ!? 真剣白刃取りじゃん! すげぇよ、旋焚玖!」
お、おぉぉぉ……確かにすげぇよ、俺。
アレコレ考える前に、シュババッと身体が動いてくれた。やっぱ俺って強くなってんじゃん! ひゃっほい!
「っていうか、何すんのさ篠ノ之」
「そうだぞ、箒。いつもの事だろ?」
「そ、それはそうだが…! どうしてか、無性に恥ずかしくなったのだ!」
ううむ、篠ノ之も思春期を迎えたのかなぁ。
まぁよくよく考えたら、今までの方が異常だったか? 女子に毎朝パンツをねだる男子が居るらしい……こう聞くと普通にアウト案件だもんな、うん。
「今まではスルーしていたが、お前も普通に雑学を言えばいいだろう!? 何故いちいち私のぱ、ぱ、ぱ…!」
「何言い淀んでんだ? パンツだろ、へぶぅ!?」
あ、一夏が篠ノ之にシバかれた。
ははは、バカだなぁ一夏。女子にパンツなんて、気軽に言っていいワードじゃないんだぞう?
「そ、そうだ、それだ! そのやり取りをヤメろと私は言ってるんだ!」
「すまない篠ノ之……それは無理だ」
「何故だ!? 私は間違った事を言ってるか!? 言ってないだろう!?」
うん、言ってないね。
俺も言わなくて済むなら言わないよ。むしろ言いたくないよ、その為に俺は毎晩、篠ノ之に教える雑学を調べてるんだぜ? 結構だるいんだよ、あの作業。
「それでも俺は止められない。止められないんだ、篠ノ之……」
「クッ……お、お前まさか、実は……本当は欲しがってるとかじゃないだろうな…?」
【ここは無言を貫く】
【そ、そそそ、そんな訳ないじゃん! 篠ノ之のぱ、ぱぱぱっ、パンツなんか興味ないよ!】
盛大にどもってんじゃねぇぞコラァッ!! 誰が選ぶかアホ! 欲しがってんのがバレバレじゃねぇか! 小娘のパンツなんか貰っても嬉しくねぇよ!
「……………………」
「な、何故黙っている…?」
(そんなに私のパンツを欲しているのか…? こ、コイツは私の事が好きなんだ、ならパンツを欲しがっても不思議ではない、のか…? 分からんッ、コイツの考えている事はまるで分からんッ!)
「もうパンツの話はいいだろ箒。それより旋焚玖! 今日も面白い話を聞かせてくれよ!」
女の子のパンツに一切興味がないらしい一夏からの、ナイスすぎる助太刀が入った。解ける……解けるぞぉ…! 呪縛が解けるぞぉ!
「むぁぁぁかせろいッ!」
「うわビックリした!? 急に元気になるよな、お前って」
何やら言い足りなさそうだった篠ノ之も、俺のアンパンマン講義に途中から笑みを零すようになった。良かった、機嫌が直ってくれて。
それからも何だかんだで俺、一夏、篠ノ之の3人で居る事が多くなった。俺の望んでいた平穏には程遠い騒がしい毎日だが、楽しくないといえば嘘になる。
これからも俺たち3人は、騒がしく共に過ごしていくのだろう……と思っていた。篠ノ之の転校が決まるまでは。
.
...
......
「わざわざ見送りなんていいのに……」
「そんな訳にいくか、なぁ旋焚玖」
「ああ」
俺と一夏は駅のホームまで来ている。
遠くへ引っ越してしまう篠ノ之を見送る為だ。
本当に急だった。
あんまり詳しくは聞いてないが、篠ノ之の姉ちゃんがある日突然、蒸発しちまったんだとか。その影響で篠ノ之も此処から引っ越す事になったらしい。
千冬さん曰く、これからの篠ノ之は政府の重要人物保護プログラムにより、各地を転々とさせられるとかなんとか。っていうか、篠ノ之の姉ちゃんがISを作った張本人だったんだな……ただの変態キ○ガイじゃなかったのか……。
「……少しだけ、主車と2人で話がしたい。いいか、一夏?」
「ん? おう、いいぜ! ついでにジュース買ってきてやるよ!」
一夏が走っていき、俺たちは2人になった。
よく見ると、正面に立つ篠ノ之の頬がやや赤い。
「しゅ、主車……」
「お、おう…?」
え、なにこのシチュエーション。
照れた表情を浮かべる女子と2人きり。こんなんアレじゃん、絶対告白されるヤツじゃん。やべぇよやべぇよ、女の子から告白されるなんて、前世と合わせて何年振りだ?(実は初めて)
問題はどうやって断るかだな。
え、なに? 断るに決まってんじゃん。篠ノ之の年齢考えろよ、まだ小4だぞ? 受けたらロリコン容疑で捕まるわ。まぁでも、コイツはきっと将来美人になるだろう。
む……そう考えたら惜しい気もする。ここはアレだな、篠ノ之に嫌われるような断り方は絶対NGだな。別に犯罪年齢じゃなくなった時の為に、とかじゃないよ。女の子を傷付けるのはいけない事だからね、うん。
「私は……わ、私は…」
おぉう、俺までドキドキしてきた。
ダメだ、にやけるな、カッコイイ表情を保つのだ!
「私はッ……お、お前の気持ちには応えられない…」
「ありが……………へぁ…?」
今、なんかおかしくなかった?
「お前が私を好いてくれているのは嬉しい……だが、私には…す、好きな人がいるんだ…」
「…………………」
え、何で俺がフラれてるみたいになってんの?
っていうか、何で俺がコイツを好きな感じになってんの?
「私の為に命を懸けられる……そうお前が言ってくれた時は、本当に嬉しかった。私なんかの為にそこまで言ってくれるなんて……」
き、聞いていたのか、アレを……。
あ、でもなんか色々納得出来たわ、だからあれ以来パンツな挨拶で怒るようになったんだな。
「そ、そうか……まぁアレだ、気にすんなよ篠ノ之、俺も気にしないからさ」
ごめん、結構テンション下がってる。俺が告白してフラれるならまだしも、なんだこれ? いや、別にいいんだけどさ? 何でフラれた俺がフォローしてんの? いや、そもそも何で俺がフラれてる感じになってんの?
「う、うむ……本当にすまない…」
なんていうか、俺の方こそすまない。
真面目な篠ノ之の事だ、きっとアレやコレや頭を悩ませてしまったに違いない。そう考えたらこの子は誠実ないい子なんだよな。
「あー、もう! この話はヤメだヤメ! あ~っと……篠ノ之はこれからも剣道続けんのか?」
「あ、ああ! これからも続けるつもりだ」
「そうかい。お前すっげぇ強いから、きっと全国大会にも出られるよ。その時は一夏と応援に行ってやるぜ」
「う、うむ!」
気まずい空気は任せろ。
こういう時の処世は心得ている。とにかくベラベラしゃべってりゃいいんだ。そうすりゃ……ほら、一夏も帰ってきたじゃん。
「「「 またな 」」」
こうして篠ノ之は転校していった。
それは同時に、柳韻師匠からの教えも途絶える事を意味していた。篠ノ之が居なくなって以来、俺を鍛えようとする【選択肢】も出てこなくなった。
そんな環境に甘んじて、俺もとうとう自主的に稽古する事をヤメた。
.
...
......
「旋焚玖~! あなたに荷物が届いてるわよ~!」
「今取りに行くよ」
今までなら休日は篠ノ之道場で汗を流していた。
今の俺はそんな生活を強いられていない。篠ノ之家が居なくなっても引き続き道場は使える事になっている。だが俺にその気はない、休日はゴロゴロして過ごすだけ。
別に変わったんじゃない、以前の俺に戻っただけだ。
一夏とは相変わらず仲良く遊んではいるが、千冬さんとは中々会わなくなった。高校を卒業してからは、どうやら忙しい日々を過ごしているらしい。
だが、そっちの方が俺にはありがたかった。千冬さんは決して何も言わなかったが、稽古をしなくなった俺を、時折寂しそうな目で見ていたのだから。
「重ッ!?」
玄関に置いてあるダンボールを運ぼうとしたが、その重さに驚いてしまう。一体、何を、誰が俺に……。名前欄に記されていたのは篠ノ之柳韻……俺の師匠からの贈り物だった。
「これは……本? いやに分厚いな…それに何冊入ってんだ…?」
タウンページなんて目じゃない、六法全書レベルな分厚さの本が、ぎっしり詰まっていた。
「……『篠ノ之流柔術』」
もしかして皆伝書…ってヤツなのか?
だけど、師匠には悪いが今の俺はもう……む?
1冊目に便箋が貼ってあるのに気付いた。
どうやら手紙のようだが……封を開け、中を見てみる。
『日々を無駄に過ごすな』
短く、そう書いてあった。
日々を無駄に……まるで今の俺を、どこからか見ているかのような言葉だった。だが、俺はそんな師匠や千冬さん達に期待される人間じゃない。
師匠には悪いが、俺はもうのんびり過ごしたいんだ。すまんね、過酷とか苛烈とか、そういう暑苦しいのは求めてないのよ。
この届いた荷物は全部物置にしまって……―――あぁ?
【読む事はないので手でビリビリに破って、足で踏んづけまくって、燃やしてしまう。その炎でイモを焼いて美味しくいただく】
【読むならマジだ。本気で取り組んでやる、逃げたりしない、俺はやってやる…!】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
良心を責める選択肢はズルいぞ、反則だぞ!? くっそ、いつまでも俺が真人間だと思うなよ!? 俺だって、俺だって……ホントに嫌なモンは嫌だってよぉ……NOが言える日本人なんだからな!?
その日の夜、街の商店街が俄かに湧いた。
もう見る事が無くなって随分経つ、あの光景が再び帰ってきたのだ。
「……むっ…く……ぬぅ……」
逆立ち歩きで進む、少年の姿が。
打ち切りエンドっぽい締め方ですが、まだ続きます。
次話から鈴ちゃんも参戦予定です。