選択肢に抗えない   作:さいしん

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初めての2人きり、というお話。



第100話 シャルルくんの受難-序章-

 

 

「だ、大丈夫ですか、旋焚玖さん…?」

 

「……ああ」

 

 コーラを飲んで完全復活したぜ!

 

「わたくし……ちゃんと料理の勉強をしますわ」(嘘で誤魔化さず、それでいて旋焚玖さんは、ちゃんと食べてくれました。その心意気にわたくしも喝を入れられた気持ちになりましたわ!)

 

 お、そうだな。

 デュノアは知らんが、一夏も箒も鈴もお料理上手なんだ。コイツらに師事すれば、トントン拍子で上手くなるだろ。少なくとも一般的な料理は作れるようになる筈だ。

 

「失敗は成功の基だ。気にせずいこう」

 

「は、はいっ!……あのぅ、それでですね、そのぅ…」

 

 何か指先でモジモジしだしたぞコイツ。可愛い。

 

「次も、そのぅ……また旋焚玖さんに食べていただければなー、なんて……思っちゃったりしても、よろしいでしょうか…?」

 

 (よろしく)ないです。

 上目遣いで可愛く言っても嫌です、嫌なモンは嫌なのです。

 

 

【当たり前だよなぁ?】

【嫌に決まってんだろ死ねうんこ】

 

 

 辛辣すぎィ!!

 断るにしても言葉選べよバカ! そんな事言ったらセシリアに嫌われちゃうだろぉ! ていうか此処に居る全員に嫌われるわ!

 

「……当たり前だよなぁ?」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 嘘だよ。

 絶対嫌だよ。

 でも嫌われるのはもっと嫌だよ。

 

「……ああ」

 

「ありがとうございます! 此度は失敗してしまいましたが、次こそは旋焚玖さんを満足させてみせますわ!」

 

「……ああ」

 

 イギリス淑女の眩い笑顔、プライスレス(自己暗示)

 これは今後、コーラを常備しておく必要がありますね。あと持ち運びできるクーラボックス的なヤツもだな。

 

 しかし千冬さんのおかげで本当に助かった。ナイスタイミングと言わざるを得ない。しかもエクスポーションまで持参とは恐れ入ったぜ。エピタフの能力でも持ってんじゃないかこの人。

 

「フッ……」(何となく、という感覚は重宝すべきものだ。何となく旋焚玖の身に危険が迫っている気がする。何となく旋焚玖はコーラを求めている気がする。私はその直観に従ったまでさ)

 

 何かドヤ顔してるところを見ると、屋上でキンキンに冷えたコーラをキュ~ッとしに来た訳じゃなさそうだ。

 

「それで、どうしたんだよちふ…織斑先生。まだ昼休みだぜ?」

 

「ああ。デュノアに部屋割りの件を伝えに来た」

 

 部屋か。

 デュノアも男子だが、どうなんだろう。まぁデュノアはイケメンだし、学生寮で生活するのを反対する女子も居ないだろう。ここは同じ男子の一夏とルームシェアると考えるのが妥当かな。

 

 他の面子も俺と同じ考えに至っているだろうよ。

 

 大穴で俺のペンション・シュプールに来る事だが、普通にそれは御免被りたい。

 学生寮に入れない身分ってのも流石に慣れたし、何より1人部屋の心地良さを邪魔されたくないでござる。思春期真っ盛りな男子の夜を邪魔されたくないでござる。

 

「デュノアの部屋は……………」

 

 なぜ溜めるのか。

 

「主車と同室だ」

 

「「「!?」」」

 

(おー、旋焚玖と同室だったらデュノアも安心だな)

(大丈夫だろうか。禁断の恋に発展とかしないだろうな…?)

(大丈夫かしら。禁断の恋に発展とかしないでしょうね…?)

(大丈夫でしょうか。禁断の恋に発展とかされませんわよね…?)

(これで一夏のデータ盗みが遅くなる理由が出来たかな…?)

(オナニーでけへんやん)

 

「と見せかけて織斑と同室だ」

 

「「「!?」」」

 

 うっしゃぁッ!!

 流石は千冬さんだぜ! 

 今日もいい見せかけを披露してくれますねぇ!

 

「よろしくな、シャルル!」

 

「う、うん、よろしくね!」

 

 

【ズルいぞ一夏!】

【ズルいぞシャルル!】

 

 

 何だこの選択肢!?

 男が男に男で嫉妬する訳ないだろバカ!

 

「ズルいぞ一夏!」

 

 俺だって3人目の男子であるシャルルと純粋に親睦を深めたいのに!的な意味で僕は言いました! それ以上でもそれ以下でもございません! 

 

 しかし、問題はこの面子がどう捉えるかだ。

 まぁコイツらはモブ連中とは違って腐ってなさそうだし、俺もそこまで心配はしてないが、どうだろう……?

 

「へへっ、旋焚玖には悪いがシャルルは貰ったぜ! 女子寮に男一人ってのは、正直心細かったんだよ。シャルルのおかけで少しはマシになるな、うんうん」

 

 一夏…!

 お前の何気ない返しがいつも俺を助けてくれる! 穢れなき一夏の心に圧倒的感謝を…! 不純なヤツはすーぐ変な方向に考えを広げるからな。まぁそんなヤツは此処には居ないけどな!

 

(やっぱりデュノアが気になっているじゃないか!)不純①

(やっぱりデュノアが気になってるじゃない!)不純②

(やっぱりデュノアさんが気になってますのね!)不純③

 

(これは……どういう意味で言ったんだろう。単純に僕と仲良くなりたいって思ってくれての言葉なのかな。それとも、やっぱり僕が女だって知っているぞって遠回しに言っている…? そうだよね、男の子が男の子に男の子で嫉妬なんて、普通はしないもんね。……しないよね?)疑心暗鬼①

(デュノアを気にする理由は…? なるほど、既に旋焚玖も気付いていたか、コイツの違和感に。フッ……流石だな)別格①

 

 うわわ…千冬さん以外が百面相ってる。

 これは深みにハマる前に話を進めるが吉である!

 

「デュノアの部屋は分かりました。でも、連絡事項はまだあるんじゃないですか?」

 

 これだけだと、別に改まって屋上まで言いに来る必要はない。他にもあると考えて間違いない筈。これは我ながらスムーズかつ自然な形で話を進められたぜ!(自画自賛)

 

「(私が直接デュノアを問い詰めるのが最善だと思っていたが、旋焚玖も気付いているなら話は少し変わってくるな)学生寮の事は、寮に帰ってから織斑に聞くといい。それと主車」

 

「はい」

 

「放課後、デュノアに学園の案内をしてやってくれ」

 

 施設案内的なヤツか。

 俺一人に頼むって事は、千冬さんも俺のさっきの発言を『普通に親睦を深めたい』的な意味で捉えてくれたらしい。実際、一夏はシャルルとはこれから寮でも話せるんだし。ここは俺が適任だろう。

 

「千冬姉、俺も一緒に案内しちゃダメなのかー? イテッ…」

 

 油断して普段の呼び方をしちまったな、一夏よ。千冬さんにペチッとデコピンを喰らいよったわ。

 

「織斑先生だ。お前は放課後、クラス代表の会議に出席せねばならんのでな」

 

「ふーん、そか」

 

「という訳だ。主車、デュノア、分かったな」(この間の侵入者をも懐柔してみせた旋焚玖だ。コイツに預けたら、また違う未来が見えるかもな。私なら有無を言わさず糾弾して終わりだしな)

 

「おかのした」

 

「はい」(おかのしたって何だろう……)

 

 と、昼休みの終わりを告げる予冷のチャイムが鳴った。

 午後からの授業もガンバルゾー。

 

 

 

 

放課後になり、旋焚玖は千冬に言われた通り、シャルルを連れて学園内を案内していく。売店の場所だったり食堂だったり保健室だったり。今後、この学園にて主に利用するであろう施設をメインに、2人は見て回るのだった。

 

「……だいたいこんなモンか」

 

「凄いね、学校とは思えない充実っぷりだよ」

 

 そこはまぁ、何と言ってもIS学園。

 世界最高峰の学園と言うだけあって、何かもう凄いのだ。それに施設だけじゃない、教師生徒のグローバル化が影響してるのか、部活の種類も豊富ときてるからな、この高校は。

 

 しかし、午前中は実習やら何やらのせいでバタバタしててアレだったが、ようやく落ち着いて会話らしい会話が出来るってなもんだ。まだ互いに最小限の自己紹介しかしてなかったし。

 

「改めて、これからよろしくなシャルル」

 

「うん、こちらこそよろしくね」

 

「しかし、シャルルが転校してきてくれて助かった」

 

「そうなの?」

 

 いや、そうだろ。

 なんで可愛らしく首傾げんだよ。

 男に可愛い子ぶられて、俺にどうしろってんだよ。というかお前も男だったら、理由なんざ皆まで言わなくても分かるだろうに。

 

「一夏も言ってたが、やっぱ女子校に男2人だとな」

 

 俺と一夏からすれば、世界一肩身の狭い高校だもん。いやホントに。それでも、部屋が完全に隔離されてる俺はまだマシだけどな。

 ただ一夏はそうじゃない。今まで女子寮に男一人な生活を強いられてたんだ。何かと気を遣うだろうし、メンタル的な疲労もあったろう。

 

 それがシャルルのおかげで減るんだから、朗報と言わずになんと言うかね。

 

「シャルルもやっぱアレか? 俺みたいに、男のIS起動一斉調査で見つけられた口か?」

 

「えっ? え、えっと、そうだね、うん。そんな感じかな、あはは」(思わず肯定しちゃった。でも正直には言えないし…)

 

 やっぱそうか。

 あれ、でもちょい待ち。

 

「その割にはかなり乗りこなしてるよな」

 

「えっ!?」

 

 今日の実習でもタドタドしさ皆無だったし。

 俺よりは勿論、何だったら一夏よりも軽快に動いてたまであったぞ。何気に専用機も貰ってるし。俺と違って。……俺と違って。ちくせぅ。

 

「えっと、それはね、あの、父さんの影響でね」

 

 どゆこと?

 

「僕の父はね、フランスで一番大きいIS関係の企業の社長なんだ。だからその、転入してくるまでに、そこでいっぱい訓練してきたんだ、あはは」

 

 ああ、なるほど。

 企業って言うくらいだし、学生レベルじゃなく本格的なモンを経験してきたって事か。つまり俺も企業レベルの訓練を受けたら、ちゃんと動かせる可能性が…!

 

「ちなみにシャルルのIS適性は?」

 

「え? 僕は【A】だよ?」

 

「うんち」(嫉妬)

 

「えぇ!?」

 

 ハッ……いかんいかん。

 今のは完全に失言だ。

 つい負け惜しみで呟いちまった。

 

 シャルルはシャルル、俺は俺だ。

 そこを間違えたらイカンよ。

 

「気にするな。噛んだだけだ」

 

「そ、そうなんだ、あはは…」(えぇ~……今、ぜったい旋焚玖、うんちって言ったよぅ。もしかして旋焚玖は適性値が低いのかな?……き、聞いてみてもいいのかな)

 

「せ、旋焚玖は適性どれくらいなの?」

 

「む……」

 

 言いたくないでござる。

 この流れで言ったら、確実に『フン、ザコカ!』とか思われるのが目に見えている。まぁ気を遣いがちなシャルルの事だし、必死にフォローしてくれるか、空気を読んで苦笑いに済ますかだろうけど。

 

 でもな、その優しさが刃になる事もあるんやで(哀愁)

 

「……バスターソードくらいかな」

 

「えっと……な、何かな、それは?」

 

「適性値」

 

「そ、そんな適性値は無いよぅ!」(何で誤魔化すのさー!? そんな言い方されたら、余計に気になっちゃうってば!)

 

 嘘は言ってない。

 山田先生からそう評価されたもん。

 

「僕も教えたんだから、旋焚玖にも教えてほしいな」

 

「……………」

 

 いやお前……何で上目遣いしてんの?(困惑)

 男にされても全然嬉しくないんですけど。……ま、まぁ深く考えない方がいいかな。何か指摘して気まずい雰囲気になるのも嫌だし。

 

 んで、何よ、適性値を教えろって? 

 

 

【素直に教える】

【素直に教えない】

 

 

 教えたくないでござる。

 正確には『まだ』教えたくない、だな。そもそも俺が自分の適性を教えたのは限られているのだ。一夏、箒、鈴、セシリアっていう、ちゃんと信頼関係を築けた奴にしか教えてないのだ。

 

 シャルル君はまだ出会って一日目な仲じゃないか。そんなんで俺の恥ずかしい秘密を教えてもらえると思ったら大間違いだぜ!

 

「そうだな、色で言うと黄緑だな」

 

「黄緑!? いや、色で言われても分かんないよ! 黄緑色な適性って何さー!?」

 

「おにぎりの具で言うとえびマヨだな」

 

「分かんないよ! どうしておにぎりの具で言うのさー!? そうじゃなくて、僕が聞いてるのは……あ、そうだ! 【A】から【E】のアルファベットで言ってよ! それ以外は無しだからね!」(えへへ、これでどうだ! これで僕の勝ちだよね!……勝ちって何だろう。別に勝負はしてないよぅ)

 

 む……そうきたか、中々やるな。

 なるほど、シャルルは臨機応変に対応できる奴らしい。流石は史上3人目なだけはあるという事か。

 

 だが、相手が悪かったな。

 俺を誰だと思っている。世界に轟く口先の魔術師だぜ? そんなモンのらりくらり躱してやるわ!

 

 

【素直に教える】

【報酬はお前のチンコだ】

 

 

 僕は自力で躱せたんです。

 それだけははっきりと真実を伝えたかった。

 

「……【E】かな」(素直)

 

「あっ…」(察し)

 

 あっ…(察し)

 

(……や、やっちゃったぁ…! そうだよ、どうして気付かなかったの僕…! 言わないって事は言いたくないって事じゃないか! そんな簡単な事どうして見逃して……あ゛っ! そ、そうだ、今日だけで旋焚玖の凄いところを見てきたからだ! それで自然とIS適性も高いんだって思い込じゃってたんだ…! うぅ……完全にやっちゃったよぅ……旋焚玖、怒ってるかな…?)

 

 だーから有耶無耶にしてたんだろがい!

 すっげぇ百面相させちまってるじゃねぇか! コイツが遠慮深い奴だってのは分かってたろい! 

 

 こういう気まずい空気はホント苦手なんだって。しかもそんなに仲良くなってない相手だし、その分気まずさも倍率ドンじゃねぇか!

 

 チンコ選んでた方が、まだ良かったんじゃないかこれ?

 

「(えっと、えっと…! な、何か違う話題を切り出さなきゃ…! ここは旋焚玖も喜んでくれそうな……あ、そうだ!)旋焚玖ってとっても凄いよね! ほら、筋肉もバーンってなるし! ISに乗った山田先生にも何か凄い事したし! あんなのフランスでも見た事ないよ! どうしたらそんなに凄い事が出来るようになるのかな!?」

 

 おお、もう…。

 悲しいかな、シャルルの気遣いと優しさがビンビンに伝わってくる。

 

 何かもうスマンな。

 逆に謝るわ、うん。

 

 

【俺の背後にはな、女神が憑りついているんだ】

【こんだけ気遣ってくれてるし、ちょっとくらいチンコ触っても怒られへんか】

 

 

 お前アホちゃう?(真顔)

 

 女神って誰の事言ってんの?

 え、もしかしてお前の事言ってんの? 

 

 アホくさ(真顔)

 

 男に男のチンコ触らせようとする女神が居てたまるか。斬新すぎるだろ、なんだその神。

 お前ホント今日どうしたん? 何かおかしいだろ。そんなチンコキャラじゃなかったぞお前。……アレか、思春期がきたのか? 下ネタが楽しくて仕方ない年頃になったのか?

 

「……オレノハイゴニハナ、メガミガトリツイテイルンダー」(棒読み)

 

 まぁ【下】選ぶ訳にもいかんし、【上】を言うんだけどね。

 感情なんて込めらんないけどね。今まで一瞬たりとも思ったことないし。

 

「へ? め、女神?」(はわわ……予想外の答えが返ってきたよぅ。旋焚玖って、やっぱりちょっと変わってる…?)

 

 気にするな、適当に流してくれていいよ。

 違う話しようぜ、違う話。

 

 

【俺の背後にはな、とても愛らしい女神が憑りついているんだ(ちゃんと心を込めて)】

【こんだけ気遣ってくれてるし、ちょっとくらいチンコ触っても怒られへんか】

 

 

 なんだコイツ!?

 

 





(`・ω●´):ところで100話だゾ

選択肢:そうだよ

(`・ω●´):私の出番はまだか?

選択肢:今出てるよ

(´・ω●`):あ、そっかぁ・・・

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