選択肢に抗えない   作:さいしん

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学生寮、というお話。



第102話 シャルルくんの受難?-一夏-

 

 

「じゃあ、改めてよろしくな」

 

「うん。よろしく一夏」

 

ペンション・シュプールな旋焚玖とは違い、シャルルは今日から学生寮で一夏と同じ部屋をシェアする事になっている。

 

「でも凄いね。部屋もそうだけど寮も豪華ホテルみたいだ」

 

「だよなぁ。世界一な学園だけあるぜ、ほんと」

 

一通り寮内の案内を終えた一夏とシャルルは部屋に戻って来ていた。

 

「部屋の説明は……まぁもう見た感じで分かると思うけど、こっちのベッドは俺が使ってるから、シャルルはそっち側を使ってくれ」

 

「うん、分かったよ」

 

「よし。これで一息つけるな」

 

近くのイスに腰掛ける一夏にならってシャルルもイスにチョコンと座った。

本来なら、これから私物を整理したりする筈なのだが、どうやらシャルルはそんなに荷物を持ってこなかったらしい。

 

「トイレも風呂場も教えたし……あ、そうだ、シャワーの順番とかどうする?」

 

「あ、僕が後でいいよ。一夏が先に使って」

 

「あー、そう言われたら逆に使いづらいな。シャルルだって実習終わってすぐシャワー浴びたい時だってあるだろうし」

 

「ヘーキヘーキ、平気だから。僕あんまり汗かかないし」

 

「やけに平気を押してくるなぁ。まぁシャルルがそう言うなら、ありがたく使わせてもらうけど。でもあれだぞ? たぶん旋焚玖にも言われただろうけど、遠慮なんかするなよ? 俺たちは男同士なんだからさ」

 

「うん。ありがとう」(う~ん、どうしよう。僕が命じられてるのは【白式】のデータ盗みだけど……ここで唐突にISの話を切り出すのは不自然な気がする。あっ、そうだ、名前も出たし、旋焚玖の事でも聞いてみようかな。別に深い意味はないけどね! これなら不自然じゃないからね、うんうん!)

 

とは言うもののシャルルは悩んだ。

旋焚玖のナニから聞けばいいのか、と。

 

(うーんうーん……あ、一つ気になってた事があったよ)

 

「ねぇねぇ、一夏」

 

「どしたー?」

 

「旋焚玖はどうして寮に住んでないの?」

 

「(´・ω・`)」

 

「!?」(ちょっ、なにその顔!? 午前に見た時も思ったけど、一体ナニがどうなったらそういう顔になるのさー!? あ、でも、とってもしょんぼりしてるってのは凄く伝わってくるよ。もしかして、聞いてはいけない事だったのかも…?)

 

旋焚玖が学生寮に住んでいないのは、別に一夏に非がある訳ではない。だからと言って、自分が住めて旋焚玖が住めていない状況をこの少年が歓迎できるだろうか、いやできる筈がない。

むしろ一夏は、この処遇を覆せない自分の無力さを悲痛に感じている。だからこその(´・ω・`)なのだ。

 

「俺たちが入学する前にアンケート調査ってのが行われたらしくてさ……」

 

ポツポツと一夏はシャルルに話していった。

 

「……そっか。旋焚玖が住むのに『反対』意見が多かったんだね」

 

「ああ。旋焚玖は気にしてないって言ってるけど、それでも……俺はまだ納得できねぇよ…」

 

客観的に見て、旋焚玖が学生寮に住めないのは完全に自業自得である。政府の人間複数を相手に大暴れ、『かかってこいよ』な声明文、街へ出れば喧嘩三昧。

これだけのトリプル役満をぶちかまして、IS学園に通うようなお嬢様たちに反対されない訳がない。

 

それに、旋焚玖本人も最初は内心めちゃくちゃ悲しんではいたものの、住めば都という言葉は伊達ではないらしく、今ではかなりシュプールでの一人暮らしを気に入っているのである。寮に入れないのは流石に寂しいらしいが。

 

「でも俺は信じてるんだ。きっと旋焚玖も今に寮に入れるってな!」

 

「そうなの?」

 

「ああ! 実はな――」

 

 

 

 

それは一夏たち1年生が入寮した次の日の事である。

1日経っても、やはり納得出来ずにいた一夏は、同じく旋焚玖がシュプールられている事に不満を持つ箒と共に、千冬の部屋の戸を叩いたのだ。

 

「……なんだお前ら、もうすぐ就寝時間だぞ」

 

ドアを少しだけ開いて、一夏たちの前に顔を出す千冬は、如何にも不機嫌だと言った感じである。

 

「話があるんだ、千冬姉。部屋に入れてくれ」

 

「お願いします、千冬さん」

 

「……ダメだ」(一夏だけならともかく箒に中を見られる訳にはいかん。女の尊厳的な意味で)

 

短く断ると同時に、割と強めな威圧感を2人に放つぶりゅんひるで。千冬の凄みを喰らった一夏と箒は、思わず後退ってしまう。

 

(フッ……まぁこんなモンか。大抵の事ならこれで事足りる)

 

これこそが千冬の編み出した処世術だった。

彼女の覇気を前にして足を竦ませない者など、世界でも数える程しかいない。大半は勝手にビビって、自分の前からスタコラサッサしてくれる。……のだが。

 

「ダメじゃないね!」

 

「お願いします、千冬さん!」

 

一度は怯んだものの、すぐに気を引き締め直した一夏と箒は、なおも千冬に食い下がって見せる。少年たちにとっても、今回ばかりは大抵の範疇を越えていたのだ。

 

「む……」(引き下がらない、か。フフッ……強くなったな、一夏、箒よ)

 

確かな2人の成長っぷりを感じた千冬、心の中でホロリ。しかしソレはソレ、コレはコレである。

 

「ダメだと言ったらダメだ。どうしても入りたいなら私を越えてみせるんだな…!」

 

「「!?」」

 

先程とは比べものにならない圧迫感が2人を襲う。

それほどまでに千冬は部屋を見せたくなかった! とても汚いからである! 

 

理由が理由なだけに、たとえ相手が弟と幼い頃からの知り合いだとしても、マジで抵抗するぶりゅんひるで。しかしその実力はブリュンヒルデ。本気になった羅刹姫に力でこられたら、少年たちに抗う術は無し。

 

(くっ…! ここまで千冬さんが頑なに断るとは…!)

 

冷や汗がじっとり肌にしみるのを感じた箒は隣りの一夏を窺う。

 

(あー、これはどうせアレだろなぁ。部屋の掃除してないのが箒にバレたら女としての威厳がぁ…とかって考えてるんだろなぁ)

 

姉をよく知る弟にはバレバレだった!

しかしバレたところで、千冬の千冬による千冬のための強硬策に立ち向かえなければ意味はない。

 

(うーん……真正面からブツかったところで、相手は千冬姉だもんなぁ。箒と二人掛かりでもペチペチッと吹っ飛ばされるのがオチだ。こういう時はどうするんだっけ?)

 

一夏の脳裏に流れるは、昔交わした旋焚玖との日常風景。

 

 

『武は汚くてナンボだぜ、一夏』

 

『うーん、でも正々堂々戦って勝った方が気持ちよくないか?』

 

『……ンギモヂィィイイ!!!!』

 

『うわビックリした!? そこまで気持ちよくはないだろ!?』

 

『お、そうだな。……で、話を戻すが一夏の言う事も尤もだ。男ならやっぱ真っ向勝負で勝ちたいよな』

 

『おう!』

 

『ただ、相手が雲の上の存在でよ、それでも絶対に負けられないって時は策を用いて立ち向かうってのもアリだと俺は思う』

 

『絶対に負けられない時かぁ。確かに強敵を相手になりふり構って負けたら意味ないもんな』

 

『そういう事だ。電車にマトモに当たったら死んじまうんだよ。線路に小細工すんのがスジだろーが』

 

『おぉ……なんか今のカッコいいな! もっかい! もっかい言ってくれよ!』

 

『電車にマトモに当たったら死んじまうんだよ。線路に小細工すんのがスジだろーが』

 

『ヒューッ! 旋焚玖ヒューッ!!』

 

『イエーッ! 俺イエーッ!!』

 

 

回想終わり。

 

(千冬姉は電車どころか新幹線だぜ。ここは旋焚玖で言う策を用いて戦う場面だ!)

 

幼少時代から現在まで通して、誰よりも神算鬼謀を間近で見てきたと自負する一夏。その表情に不安無し曇り無し、あるのは確かな自信。

 

(部屋に入りさえすれば俺たちの勝ちなんだ。すなわちそれは千冬姉の気を逸らせって事でもある。へへっ、そういう事なら我に秘策在り、だぜ!)

 

千冬と対峙する一夏は、あらぬ方向に顔をやり指を差した。

 

「あっ! 旋焚玖だ!」

 

「「むっ…!」」

 

一夏の指差す方へ顔を向ける千冬と箒。

 

(掛かったな千冬姉! 箒も引っ掛かってるけど特に支障は無いぜぇぇぇぇ!)

 

タイミングは十分。

あとは気力のみ。

 

「うぉぉぉぉッ!!」

 

咆哮と共に一夏は僅かな隙間を縫うように部屋内へとダイブ!

 

「なっ…!?」

 

「箒! お前も跳び込め!」

 

「う、うむ! とうッ!!」

 

「むぁっ…!?」(し、しまった! こんな古典的な罠に引っ掛かってしまうとは…! まったく、旋焚玖め! 不在でも私の心を盗むとは、根っからの恋泥棒だな!)

 

心の中で悪態をつく千冬。

しかし何故か嬉しそうだった!

 

「こ、これは……」

 

「うわぁ……千冬姉、これはやべぇって」

 

トントン拍子で部屋の侵入を二人に許してしまった結果、案の定一夏と箒にバレる散乱しまくりまくりなゴミ&服&ゴミ&下着&ゴミ&パンストetc...。

 

「……で、話とは何だ?」(まだだ…! まだ諦めんよ…!)

 

ぶりゅんひるでは諦めない。

普段通り威風堂々よろしくな感じで話を進めようとするが。

 

「いやなに普通に進めようとしてんの? こんな惨状の中で話なんか出来ねぇよ」

 

一夏には通じなかった!

 

【惨状】……見るに堪えない、ひどく痛々しいありさま。大惨事の状況。むごたらしい、目もあてられない、といった形容も用いられる(広辞苑参照)

 

「そ、そこまで酷くはないと思う……ような気がする」(声ちっちゃい)

 

「声が小せぇよ、自覚ありまくりじゃないか。……はぁ、これ見ちまったら、まずは掃除しなきゃだぞ。箒は……どうする? 今夜は帰るか? コレを片すだけでも結構時間掛かりそうだし」

 

「いや、私も手伝おう」(これくらいの労力、旋焚玖が置かれた状況に比べたら何でもない。まぁ正直、千冬さんがダメ美人だったのは驚いたが)

 

「おいおい、いいのか? 俺は身内だし、千冬姉の後始末も今に始まった事じゃないからアレだけど箒は違うだろ?」

 

「気にするな。1人より2人でやった方が早く済む」

 

「フッ……2人より3人だ」

 

ぶりゅんひるではまだ諦めてなかった!

 

「「…………………」」

 

しかし一夏と箒の反応はとても冷めていた!

 

「(´・ω・`)」

 

「はいはい、そんな顔してもダメだからな」

 

「(お前もよくしてる顔だぞ、言わないけど。というか千冬さんもその顔できるんだな。もしや織斑家にのみ許された秘術なのか…?)で、分担はどうする?」

 

3人は力を合わせてお掃除ミッションに取り組む。

だが敵も中々に粘り強く、全てを終わらせた頃にはもう――。

 

 

 

 

「そういう訳で、千冬姉の部屋を掃除し終えたら朝になってんだよ~。その日は俺も箒もネムネムで大変だったなぁ」

 

「そ、そうだったんだ」

 

「そうそう、次の日は次の日でセシリアがさー」

 

「いや旋焚玖の話は?」

 

「!?」

 

「!?」

 

!?

 





!?
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