選択肢に抗えない   作:さいしん

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シャルルくんの受難-トイレ編-開幕、というお話。



第103話 連れしょん

 

 

「で、シャルルとの共同生活は上手くいってるか?」

 

「うーん、どうだろう」

 

 シャルルが来てから1週間ほど経った。

 初日に比べたら、シャルルもだいぶこの学園に慣れたと思う。アホの【選択肢】にもな。

 

 少し思い出してやるぜ。

 シャルルとの交友録を。

 

 

 

 

追想の刻(転入2日目)

 

それは1時間目の授業が終わった時の事。

のんびり旋焚玖が2時間目の用意をしていたところにソレは来た。

 

 

【連れションにシャルルを誘う】

【シャルルをトイレに連れ込む。個室に連れ込む】

 

 

 ホモを個室に連れ込むとか、それもう告白だぜ?

 俺はシャルルとダチとして仲良くなりたいだけであって、ホモダチなりたい訳じゃないから。少しでも『気がある』と思われそうな行動はNG。マジでNG。

 

「シャルル」

 

「どうしたの?」

 

 幸か不幸かシャルルは俺の前の席なんだよな。

 アホの選択肢さえ居なけりゃ、どうって事ないんだが。つまりフォローしやすく、フォローさせられやすい席というアレだ、二律背反な席である。

 

「連れション行こうぜ。他意はないぜ他意は。マジで」

 

「連れ!? そ、それって……」(もしかしなくてもトイレのお誘いだよね…? ムリムリムリ! 男子は並んでするんでしょ!? そんなのバレるって! ていうか立ってした事ないよ僕ぅ! あ、でも個室はあるのか……って、それでも無理だよぉ! 普通に恥ずかしいよぉ! それに『他意はない』アピールとか余計に怪しいだけなんだけど!? やっぱり旋焚玖、僕の事そういう目で見てるよね!?)

 

 ううむ、百面相させちまったか。

 俺も少し言い方が嫌らしかったな。これは反省だ。ホモは繊細だって聞くし、無闇に傷つけたらイカンでしょ。

 

「え、えっと、僕はいいかな?」

 

 

【引き下がる】

【引き下がらない】

 

 

 お、これは良心的な【選択肢】ですねぇ!

 そうそう、こういうのでいいんだよ。というか、これが本来の【選択肢】な在り方だろ。【YES】or【NO】から俺の意思で答えを選ぶ。まさに選択肢だな!

 

「そうか、分かった」

 

「う、うん。ごめんね?」

 

「気にするな」

 

 いやホント。

 変に誘って悪かったね。

 

 

そして2時間目終了。

 

 

【連れションにシャルルを誘う】

【シャルルをトイレに連れ込む。個室に連れ込む】

 

 

 あっ(察し)

 いや、まだ分からん、分からんよ…!

 

「シャルル」

 

「どうしたの?」

 

「連れション行こうぜ」

 

「え゛っ!?」(ま、また!? さっき断ったよね!?)

 

 すっごい驚いてる。

 いや、でもどうなんだ? 確かにシャルルはホモだが、別に連れション程度で意識なんてする訳が……するのかも。してなかったら、こんな反応しないだろ。

 

 どうして意識する必要なんかあるんですか(自問)

 シャルルは俺に気があるからだと思います(自答)

 

 やったぜ。

 こんな俺でも好いてくれる男の一人や二人いるんだぜ。

 

 全然嬉しくないぜ。

 性の対象がおかしんだぜ。

 

 

「えっと……僕はいいかな」

 

 

【引き下がる】

【引き下がらない】

 

 

「そうか、分かった」

 

「うん。なんかごめんね?」

 

「気にするな」

 

「う、うん」(……今気づいたんだけど。旋焚玖はさっきも今も、僕が断るとそのまま着席してるんだよね。という事は……いや、考えないでおこう。うん、きっと僕の気のせいだよ。そうに違いないね、うん)

 

 すまんな、シャルル。

 先に謝っておくぜ。

 

 現実に謝ったら『じゃあ言わなくていいじゃん』的な、至極最もなツっこみが入る事間違いなしだから、心の中で謝っておくんだぜ。

 

 

3時間目終了。

 

 

【連れションにシャルルを誘う】

【シャルルをトイレに連れ込む。個室に連れ込む】

 

 

 知ってたあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

「……シャルル」

 

「な、なにかな?」

 

「連れション行こう」

 

「……えーっと。ちょっと待ってね?」(やっぱり気のせいじゃなかったよぉ! 変なループが出来上がってるよぉ! これアレだよね!? 僕が『うん』って言うまで聞かれ続けるヤツだよね!? ここで断っても後3回は聞かれる流れじゃないの!?)

 

 気付いたな、シャルルよ。

 俺も、そしてお前も。

 既に【選択肢】の螺旋に囚われてるんだぜ!

 

 いや、ホントにすまんね。

 出来ればこの状況を打破できる、今までとは違う反応を何かおくれ。俺のアドリブ力はそこできっと発揮される筈なんだ。

 

「えっと……僕はまだいいよ」

 

 若干の変化が見られます!

 

 だが、まだ弱い…!

 せめてもう一声ほしい!

 

「せ、旋焚玖も僕に気にせず行ってきていいんだよ?」

 

 よしきた、今こそ俺のアドリブ力を!

 

 

【オムツしてるからヘーキヘーキ】

【シャルルの居ないトイレなど……無価値(信長風)】

 

 

 お前のこと呼んでなあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! 

 

 ちょっとは考えろよ! 執拗に連れション誘ってくる男から『オムツ宣言』された時のシャルルの気持ちも考えてくれよ! マジで! というかオムツしてないわアホ!

 

 えぇ……コレ、どっちの方がマシなんだ?

 【オムツしてる】と思われるか、【シャルルがちゅき♥】だと思われるか。

 

 いや、待てよ…? 

 

 オムツ宣言したら、それこそ【ただシャルルとトイレに行きたいんだ!】感が増すんじゃなかろうか。『うわぁ、旋焚玖オムツしてるんだぁ』って引かれるだけならまだしも、そこから更に深読みされて『うほっ、やっぱり僕とトイレに行きたいんだね!』と悦ばれる可能性、あると思います。

 

 なにせ相手はシャルルだからな。

 ホモは鋭いってクロエも言ってたし。

 

 つまりどっちの【選択肢】も言葉は違えど、シャルルへの好意アピールな訳ですね。へへ、気付いてしまう俺の聡さが今は恨めしいぜ。

 

「シャルルの居ないトイレなど……無価値」(信長風)

 

 信長はそんな事言わない。

 いや、無双の信長なら言いそう(プレイ並感)

 

「そ、そうなんだ。えっと……そうなんだ、あはは…」(何かカッコよさげな雰囲気と渋い声で全然カッコよくない事言われたよぉ! 何て答えたらいいか分かんないよぉ! 苦笑いしかできないよぉぉん!)

 

 ホモに好意を含む言葉を投げかけたら苦笑いされたんですけど(憤怒)

 お前俺の事好きじゃないのかよ!(憤怒)

 

 思わせぶりな態度から一変するとかホモの風上にも置けないヤツだなお前な!……いやちょっと待って、おかしくない? おかしいでしょ。

 どうして僕が憤怒しなくちゃいけないんですか! 相手は男ですよ! 僕がプリプリするのはおかしいと思います!

 

 あ、危ねぇ…。

 もう少しで越えちゃいけないライン越えるところだった。

 

 でら恐ろしい男だぜ、シャルル・デュノア。

 コイツはただのホモじゃねぇ、頭脳派ホモだ…!  

 さっきの苦笑は俺のプライドを刺激し、熱くさせて俺から冷静な判断を奪う作戦だったんだな。まったく、恐れ入ったぜ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 て事は何か?

 やっぱりコイツ俺に気があるんじゃないか! しかも攻略する気満々ですよコイツ! やっぱ惚れられてるんすねぇ。全然嬉しくないですねぇ。

 

「という訳で次だ」

 

「えっ?」

 

「次の授業後、俺はお前とトイレに行く」

 

「えぇっ!?」(だからカッコよくないよぉ! そんな一大決心めいた雰囲気で言われても困るよぉ! ひたすら困るよぉ! どんだけ旋焚玖は僕とトイレに行きたいの!? というか旋焚玖、僕の事好きすぎだよぉ! 僕は男の子じゃなくてホントは女の子なのにぃ!)

 

 よし、とりあえず言えたな!

 これでループから抜け出せる…! 内容なんか後でいくらでもリカバリーしてやるわ、今はまず展開を進める事が大事なんだい!

 

「えっと……もし、次の授業の後も断ったら…?」

 

 

【お前がトイレになるんだよ!】

【俺がトイレになるんだよ!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

「俺がトイレになるんだよ!」

 

「えぇっ!?」(へ、変態だぁぁぁぁ! ママー! 拝啓ママー! 異国の地で出来た初めての友達が実はホモでスカトロで僕の事が大好きなんだぁぁぁ! 助けて天国のママー!)

 

 ビックリしてんじゃねぇ!

 お前がトイレにならないだけマシだろがい! 

 傷つける方より傷つく方を選んだ俺に、むしろお前は感謝しなきゃいけないんだぜ!? 分かってんのかこのヤロウ! このハンサム! ホモハンサム! 略してホム! お前なんてホムで十分だこのほむほむが! 

 

「冗談だ」

 

「な、なんだぁ、冗談かぁ」

 

 

【ウソだよ】

【ホントだよ】

 

 

 メンドくせぇぇぇ!

 

「ホントだよ」

 

「……どうして念を押す感じで言うのかな?」(そんな言い方されたら疑惑が募るだけだよぉ! でもこのままだと埒が明かないのも事実。変に断り続けるより、ここは覚悟を決めるべきだ!)

 

 ふむ。

 瞳に闘志を燃やしたか。

 

 ようやく腹を括ったな、シャルルよ。……トイレ行くのに腹を括るって何だよ。

 

「気にするな」

 

「うん、気にしないよ。じゃあ、次の授業が終わったら……行こう!」

 

「その意気だ」

 

 めちゃくちゃ気合い入ってるじゃないか…。

 俺もつい『その意気だ』とか言っちまったけどさ。

 

 あのさ、トイレってさ、こういう感じで臨むモンじゃないと思うんだ。

 

『おーい、トイレ行こうぜ~』

 

『おーう』

 

 な感じで行くモンだと思うんだ。

 それがドコをドウ間違えたらコウなるんだ…。

 

 トイレって何かね(哲学)

 

 

そして運命の4時間目終了。

旋焚玖が声を掛けるよりも早く、シャルルは立ち上がった。

 

「よし。トイレに行こう! 旋焚玖!」(がんばれシャルロット! のまれるなシャルロット! こうなったら僕が主導権を握るんだ! それしか道はない!)

 

「……ああ」

 

 おかしい。

 いつの間にか立場が逆転しているでござる。……なんでぇ?

 

「ほら! 行くよ旋焚玖!」(旋焚玖のペースに付き合ってたらドツボにハマっちゃう! 僕が旋焚玖をリードするんだ!)

 

 うわシャルルつよい。

 俺の腕を引っ張り……いや腕に絡んでくんなよ何だお前!? 俺の事好きすぎか!? くそっ、箒たちにもされた事ないのに! 初の腕組歩きが男に奪われたのか……ちくせぅ。

 

 そしてそのままグイグイ出口へ引っ張られ……ん?

 

「(´・ω・`)」

 

 一夏が仲間になりたそうにこちらを見ている!

 

「!?」(しょんぼり一夏だ! 昨日も見たけどホントどうやってるんだろう…)

 

「お前も一緒に来るんだよ!」

 

 俺一人だとシャルルにナニかされるかもしれないだろぉ!

 

「(`・ω・´)」

 

「!?」(えぇぇぇ!? な、なにその顔!? そんな顔もできるの!? 何て言うか、シャキーンってしてる! シャキーンってなってるよぅ!) 

 

 ほう……一夏め、ここにきて更なる進化を遂げてみせたか。男子三日会わざれば刮目して見よとはよく言ったもの。一夏のフェイスには無限の可能性が秘められているんだな。

 

 パワーアップした一夏も付いて来てくれる。

 どんな苦境だって乗り越えられるさ。

 

 よし。

 気合い入れてイクゾー。

 

 





トイレに誘うだけで1話掛かるのか(困惑)



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