選択肢に抗えない   作:さいしん

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適正値に比例する適応力、というお話。



第105話 シャルルくんの適応

 

トイレ2日目。

 

 

 やはりと言うか何と言うか。

 シャルルは昨日と同じく個室に入ろうとする。それすなわち昨日のアレが繰り返される訳で。

 

「今日はうんこか? それとも定説外れずおしっこか?」

 

「定説ってなんだよぅ!? というかホントに聞くの!?」

 

 昨日ちゃんと言っただろが。

 それにもかかわらずシャルルってば、まぁた個室に行こうとするんだもん。そりゃこうなるわ。嫌なら昨日と同じ流れを踏むんじゃないよ。聞かれたくなけりゃ、普通に朝顔ですれば良かったんだよ。

 

 しかしお前はまたもや個室への道を選んだのだ。俺でもなく一夏でもなくお前が選んだのだ。

 

 ならば潔く答えられい。

 そして学ばれい。

 アレも嫌でコレも嫌、なんてモンは俺たちの世界では通用しないんだぜ?

 

「で、どっちなんだ?」

 

「えっと……き、昨日と同じ…じゃダメ?」

 

 

【ダメでしょうな】

【承諾の対価は個室への同伴】

 

 

「ダメでしょうな」

 

「でしょうな!? ダメならちゃんと確定系にしてよぉ!」(もしかしたら言わなくてもいいかも、みたいな思わせぶりはヤメてよぉ! 僕を変に期待させないでよぉ!)

 

 確定系って何だよ。

 

「落ち着けシャルル。昨日も言ったし、別にもう大丈夫だろ」

 

「そ、そうだけど……でも…1人で言うのはやっぱり恥ずかしいから……その、ね…?」(せめて旋焚玖と一夏が言った後に、僕が続く感じならまだ羞恥もマシだと思うんだ)

 

 うーんこの。

 これほどされて微妙な気持ちになるおねだりも珍しい。まぁでも昨日、俺らも言ってやらんこともないみたいな事言ったっけ。

 

 

【一夏と同時に言う】

【一夏と交互に言う】

 

 

 ほう……俺たちを試してきよるか。

 【同時】ってのは難しいようで意外に簡単だったりする。昨日今日会った者同士でも成功させるのは容易かろう。

 

 しかし【交互】に言うのは中々に困難である。

 一人1文字を交互に。それをまるで一人の人間が喋っているようスムーズに行うとなると、それ相応の連携が肝要になってくるのだ。そう、これには連携力が試されるのだ。

 

「一夏」

 

「どしたー?」

 

「『お』と『っ』は俺に任せろ」

 

 中でも『っ』はちと難易度が高いからな。

 そこはアレだ、客観的言いだしっぺの俺に任せろー。

 

「いやいや唐突に意味不明すぎるよ旋焚玖」

 

「……! じゃあ俺は『し』と『こ』を言えばいいんだな?」

 

「え? え?」

 

 いぐざくとりーだ。

 さぁ、俺にツヅケー。

 

「お」

 

「し!」

 

「っ」

 

「こ!」

 

 Foo~↑↑

 

 い~いリズムだった。

 テンポもいい。

 

 まさに会心の一撃。

 100点満点の出来と言えよう。

 

「えぇ……」(ふ、二人で交互におしっこを言われたよぅ。それを聞かされて僕はどうすればいいんだよぅ! 何で二人はそんなに誇らしげな顔なんだよぅ!)

 

 おっと、イカンイカン。

 思わずドヤ顔になってしまった。

 

「へへっ、スムーズに言えたな! 俺たち伊達に幼馴染してねぇぜ!」

 

「フッ」

 

 伊達にあの世は見てねぇぜ。

 

「え~っと……じゃあ、そういう事なので僕は」(これですんなり行けたりしないかな)

 

 個室の方へすすすっと進みよるシャルルくん。

 

 

【一緒に個室に入る】

【まだ言ってないでしょ!】

 

 

 絶対に言わせるマンやめろ。

 

「シャルルも言うんだよ」

 

 あくしろよ。

 

「あ、うん。えっと、おしっこ」(知ってた。出会って数日だけど旋焚玖は絶妙なタイミングで抜け目無いんだよね、うん)

 

「よし、行け!」

 

「行ってこいシャルル!」

 

「いや個室に入るだけだからね!? そういう感じで送り出す時じゃないからね!?」(何でそんな感じなんだよぅ! それに気付いちゃったよ! 一夏は別にそこまでおかしい人じゃないけど、旋焚玖と一緒の時はおかしくなりやすいんだ!……だから何だよ!)

 

 お、そうだな。

 しかし、ようやく俺も肩の荷が下りた気分だ。これで今日のノルマ達成した訳だし。……ノルマってなんだよ(疑問)

 

 

 

トイレ3日目。

初日2日目は完全に旋焚玖のペースと言って間違いない。確かな形で旋焚玖に主導権を奪われてしまったシャルルだが、少年(少女)はソレを甘んじ受け続けるような凡愚ではなかった。

 

「さて、シャルル」

 

「なにかな?」

 

「お待ちかねのうんこorおしっこタイムだ」

 

「別に待ってないから」(いつまでも僕が無策でいると思ったら大間違いだよ…! と言うか策を考えたくもなるよ! そうでなきゃまた『おしっこ』って言わされるもん! 僕こんな格好して男子トイレに来てるけど女の子だから! もうめちゃくちゃ女の子だよ!)

 

 ふむ…?

 何かシャルルの反応に強さを感じたが、気のせいか…?

 

「で、今日はどっちだ?」

 

「……もろっこ!」(何となく『おしっこ』に似てる言葉を言ってみました! これが僕の反抗だよ! 反抗で反攻なんだよ! ど、どうかな…?)

 

 何言ってだコイツ(ン抜き言葉)

 もろっこて。なに力強く言ってんだよ。

 

 コイツは個室でもろっこするつもりのか(困惑)

 もろっこするって何だよ(疑問)

 

 しかし……何の反応もないな、選択肢。

 という事は、だ。

 

「よし、行け!」

 

「うんっ!」(や、やったぁ!)

 

 俺自身がシャルルを困らせたい訳じゃないからな。

 アホの選択肢が何も言わんなら俺も何も言わんよ。思う存分もろっこしてきな!

 

 

妙策を用い、見事苦難を乗り越えてみせたシャルル。その表情はとても嬉しそうであり、同時に確かな手応えを感じていたようだった。

 

 

「さぁ、今日はどっちだ?」

 

「こけこっこ!」

 

「よし、行け!」

 

「うんっ!」

 

 

 

「今日はどっちだ!?」

 

「にらめっこ!」

 

「よし、行け!」

 

「うんっ!」

 

 

 

「今日は!?」

 

「かぎかっこ!」

 

「よし、行け!」

 

「うんっ!」

 

 

 あの日を境に、シャルルはもう男子トイレだからと言って、下を向くような事はしなくなった。今ではこんなにも自信に満ち満ち溢れている。フッ……俺に適応したようだな、シャルルよ。

 

 そんな日の放課後。

 シュプールにて。

 

「む……」

 

 まったり読書を楽しんでいた俺にプチ事件発生。買い溜めしていた瓶コーラのストックがとうとう切れたのだ。

 

 

【買いに走る。ベネチアあたりのステップで】

【今日はとことんカルキを堪能する】

 

 

 いやカルキて。

 お前ソレただの水道水じゃねぇか。飲んでポンポン壊したらどうすんだ。生理現象的に個室へ入る理由作ろうとすんのヤメろ。魂胆バレバレなんだよウンコやろう。

 

 普通に買いに走るわ。

 今まで何年周りから奇異な目で見られてきたと思ってんだ、今更コレくらいであ゛ぁ゛る俺だと思うなよ。思う事なかれ!

 

 イクゾー。

 

 

特に疑う事もなく自室から出てしまった旋焚玖だが。

結果的にソレが原因で、自身に、そして一夏とシャルルの2人にも、思わぬ契機をもたらす事になろうとは、この時まだ知る由もなかった。

 

 





シャルルは実は女の子(ネタバレ)
次回、シャルル正体バレる(予告)


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