選択肢に抗えない   作:さいしん

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メンタル療治、というお話。



第108話 立ち上がる者達

 

 

【一夏に賛成する】

【一夏に反対する】

 

 

 一夏が熱くなっているなら、その分俺が冷静にならねぇと。実際、【賛成】するのは簡単だ。シャルルに対して同情の余地もある。

 

 だが、俺までその場の感情に流される訳にはイカンでしょ。

 仮に一夏に賛同して、対策も思い付いたとしよう。正直、シャルルの問題を先送りにするだけなら、そんなに難しくないように思える。

 

 しかしそれは、文字通り『先送り』にしているに過ぎない。シャルルの正体が他の誰かにバレたら結局アウトだし、運良くバレずにいたとしても根本的な問題の解決になっていない。

 

 シャルルを匿うって事はだな、いずれ必ずデュノア社と対峙する未来に繋がるんだぞ。いや、そりゃそうだろう。デュノア社の呪縛から解き放たない限り、シャルルは恒久的に従わざるを得ないんだから。

 

 スパイ行為は見逃すけど、その後シャルルの身に起こった事は知らん。なんて性格してないんだよ、少なくとも一夏は。

 

 いやいやいやいや。

 よく考えなくても無理だろ。

 

 街中のやんちゃボーイに喧嘩ふっかけられるのとは訳が違うっての。スケールが違いすぎるわ。相手は腐ってもフランスで一番な、世界でもトップクラスな大企業様なんだろ?

 

 そんなモンと事構えんの?

 ちょっとIS動かせるだけの高校生2人が?

 

 無理に決まってんだろ!

 アホか!

 

 対象が箒や鈴なら話は別だが、そこまでシャルルに思い入れ無いわ! 知り合って間もない奴の為に、そこまで危ない橋渡る気しねぇわ! しかも俺をホモだと思ってるし!

 

 どうしてそんな奴を庇う必要があるんですか!

 悪い事は悪い! 信賞必罰! シャルルの境遇には心を痛めるが、それでも俺は【反対】させてもらうッ!!

 

 

【その前にシャルルが捕まった時の事を想像してみる】

【その必要は無し! 反対と言ったら反対だ!】

 

 

 何で想像する必要なんかあるんですか?

 捕まったらお前アレだろ、警察的な存在に取り調べ的な事されるだけだろ。……いやちょっと待て、取り調べだと…?

 

 

『知っている事を全て吐きたまえ』

 

『2人目の男子がホモでした』

 

『うっそだろお前ww』

 

『証拠はあるのか?』

 

『パンツを欲しがられ、手を繋ごうとされ、着替えを見ようとされ、着替えを見させられ、恋愛は自由だと言われました』

 

『うーん……これは逃れようのないホモ!』

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 そんな事になったらお前全世界に広まるじゃねぇか! 号外中の号外で瞬く間に取り上げられるじゃねぇか!

 

『灼熱沸騰大興奮!! 二人目の男性起動者はホモだった!?』

 

 そんなテロップが世界中を駆け巡るのかあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! 絶対に嫌だあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! 

 

 ふざけんなお前やめろバカ!

 

 こちとらただでさえ男にキャーキャー言われてんのに(漢気的な意味で)違う意味でもキャーキャー言われちまったらどうすんだコラァッ!!

 

 こちとらただでさえ女にキャーキャー言われてんのに(恐怖的な意味で)違う意味でもキャーキャー言われちまったらどうすんだコラァッ!!

 

 

【一夏に賛成する】

【一夏に反対する】

 

 

超賛成だこのヤロウ!!

 

「うわビックリした!? ど、どうしたの旋焚玖!?」

 

 うるせぇこのヤロウ!! 

 スパイが何だデュノア社が何だ、あァン!? んなモン天下無双の俺がシバいたるわ! 大船に乗ったつもりで居やがれコラァッ!!

 

「へへっ、旋焚玖はクールぶってても俺以上に熱い男だからな!」

 

 うるせぇ熱血バカ!

 お前と一緒にすんなバカ!

 

「で、でも2人に迷惑はかけられないよ。それに僕は……」

 

 ああ、なるほどな。

 ずっとコイツに感じてた違和感が分かった。今のシャルルに抗う気力なんて無くなっているんだ。だからそんな諦観した顔してんだな。

 

 だが、それじゃあダメなんだよ。

 お前をフランスに連れ戻させる訳にはいかねぇ、絶対に。

 

 損得勘定上等だ! 

 俺は俺の未来のためにお前を守ると誓おう!

 

 諦めてるってんなら俺がやる気を引き出してやる!

 口先の魔術師ナメんなコラァッ!!

 

「お前は風に吹かれっぱなしの草か?」

 

 アリューゼさん直伝だぞコラァッ!!

 ムッとなれオラァッ!! 睨んでこいコラァッ!!

 

「だ、だって…! 僕の気持ちなんて関係ないじゃないか! 独りじゃどうしようもないじゃないかぁ!」

 

 その反応は既に予測済みだオラ!

 

「フッ……これは異な事を」

 

「な、なに笑ってるのさ…!」

 

「お前はもう独りじゃないだろう? お前の為に立ち上がった一夏が居る。そして俺が居る」

 

 これだけじゃ流石にまだ弱いか?

 いやでも、割と良いこと言ってると思うぞ。俺のキャラに全然合ってないけど。言ってて鳥肌がやべぇぜ。

 

 

【まだ弱い。更に畳み掛ける】

【もう言わない】

 

 

 む。

 アホの【選択肢】にしては珍しく良いモン出してくるじゃないか。お前のソレが躊躇っていた俺の背を押す…!

 

 追撃だ!

 畳み掛けるぞコラァッ!!

 

「やいそこのテメェ!」

 

「ん? 俺か?」

 

「俺は織斑家で世界何位の男だと言われている?」

 

「一位です」

 

「去年は何位だった?」

 

「一位です」

 

「今年は何位かい?」

 

「一位です」

 

「よしんば二位だったとしたら?」

 

「世界、一位です」

 

シャルルは思った。

それは二位なんじゃないの、と。

しかし決してツっこませない凄みが。

 

旋焚玖には凄みがあった…!!

 

「それでも立ち上がらねぇってんなら俺はもう知らん」

 

 これで飛車角は取った。

 しかしまだ王手には届いてない気がする。

 

 

【まだ弱い。更に畳み掛ける】

【もう言わない】

 

 

 まだまだァ!!(継続確定)

 

「代わりに一夏を殺してやる」

 

「えぇっ!? な、何言ってるのさ旋焚玖!?」

 

「(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)」(グルグル旋回)

 

 うわはははははは!

 

 ちょ、バカおいやめろバカ一夏!

 その顔で俺の周りをグルグル回んなって! 何アピールだお前笑っちゃうだろぉ! 

 

 此処はマジな感じで言わなきゃアカンの! 

 今俺は絶賛シャルルと駆け引き中なの!

 

「(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)」(グルグル旋回早め)

 

 うわはははははは!やめろツってんだろ! 速度上げんなコラァッ!!

 

 クソッ…!

 少しだけでいい。

 表情筋よ、耐えてくれ…!

 

「そして俺も死んでやる」(キリッ)

 

 ふぅぅぅ……これで王手だ。

 

「さぁ、どうするシャルル? お前が諦観してるせいで、俺たちは死んじまうんだってよ。なぁ……俺たちを助けてくれよ」

 

「……!(ピタッ)……シャルル…! 立ち上がる時は今なんだ! 俺と旋焚玖は絶対に裏切らねぇッ!!」

 

 ここにきて一夏のアシストが光りまくる! さっきまで回りまくっていた奴とは思えない機転の利かせっぷりだぜ! どうやら俺の意図を汲んでくれたらしいな!

 

 オラオラどうだオラァッ!!

 コレで響かねぇ奴は人間じゃねぇだろ! お前が人間の感情捨ててねぇならさっさと立ち上がれコラァッ!!

 

「旋焚玖、一夏……2人ともズルいよ。ここまでされて、独り殻に閉じこもってる訳にいかないじゃないかぁ…」

 

「やったぜ」

 

「へへっ、成し遂げたぜ!」

 

 こちとらズルくてナンボな流派の皆伝者なんでな。ヨロシクゥ!

 

「んもうっ!……でも、ありがとう」(ここまで言われて立ち上がらないなんて、天国のママが見てたら怒られちゃうよ)

 

 あらやだ可愛いらしい笑顔ですね。

 しかし元ホモだ。……元ホモって何だよ。

 

「よし、ならこれからもシャルルが此処に「あ、待って待って!」……む?」

 

「僕はもう2人の前ではシャルルでいたくない。僕の本当の名前はシャルロット。お母さんがくれた大切な名前。僕はシャルル・デュノアなんかじゃない! シャルロットとしての未来を歩みたい!」

 

 おぉ、何かカッコいい自己紹介になったな。

 今のシャルル…じゃない、シャルロットからは黄金の覚悟ってヤツを感じるぜ。

 

「へへっ、これにて一件落着だな!」

 

 落着も何も、まだ始まってすらないんだよなぁ。

 まぁでも、人間気の持ちようって言うし。ドンヨリしたまま対策を練るより、今の方が絶対いいだろ。しかしまぁ、シャルロットの気持ちも追いついたところで、ようやくスタートラインに立てたな。

 

「それじゃあ、これからの対策だな。はりきって練ってイクゾー」

 

「おう!」

 

「おー!」

 

 イクゾー。

 

 






オラオラオラオラ(選三・o・)三☆三(`ε´三シ)ムダムダムダムダ


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