選択肢に抗えない   作:さいしん

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中心の隅っこ、というお話。



第114話 氷解

 

 

ホモなんだろう?

ホモなんだろう?

ホモなんだろう?(エコー)

 

 

 コイツは一体ナニを言っているんだ。

 というかシャルは一体ナニを報告しているんだ。よしんば俺がホモだったとしよう。しかしスパイとしての報告でソレは別にいらんでしょ! 

 

 俺がホモだったら何か任務に支障があるんですかい!? 何でもかんでも報告してんじゃねぇよ! 仲良し家族か!

 

 今、この瞬間!

 俺の中で優先順位が入れ替わった! 入れ替わっちゃったよ! シャルをデュノア社の呪縛から解放するより、俺はホモ疑惑を払拭する事に専念するッ! 

 

 電話なんか知らんわ! 

 千冬さんにバトンタッチだ! 

 そのための千冬さんあとそのための一夏よぉ! しかし電話をマイクにしてなくて良かったと言ったところか。こんなモン2人に聞かれたらメンドクセェこと富士山の如しだ。

 

「おいシャル」

 

「なぁに?」(シャル)

「なんだ?」(千冬)

 

 どうして千冬さんも返事するんですか。

 聞き間違えたのかな?

 

 まぁいい、電話は千冬さんに任せる予定だったし、このまま頼むとしよう。

 

「千冬さん」

 

「…………(ぷいっ)」

 

 いや、何で顔を背けんの?

 とりあえず回り込んでもう一度。

 

「千冬さん」

 

「わた…ンンッ、僕はシャルだ」

 

 こんな時に何言ってだこの人(ン抜き言葉)

 いやいや、割と今は千冬さんのお茶目に付き合っていい場面じゃないっす。通話中だっての。シャルの親父さんを放置してたらイカンでしょ。

 

 あんまり無言を続けてたら『うほっ、この沈黙はやっぱりホモじゃないか!』とか思われちゃうだろぉ!

 

 えぇい、一夏だ一夏!

 俺の真似して場を繋いでくれ!

 

「おう!」

 

 元気良く携帯を受ける一夏。

 この勢いは期待できますねぇ!

 

「もしもし! 俺は旋焚玖だぜ! 俺は世界一位なんだぜ!」

 

『?』

 

 旋焚玖はそんな事言わない(憤怒)

 アカン、これ以上展開がイミフになる前に千冬さんを正気に戻さねば!

 

「フザけてる場合じゃないですって千冬さん。早く電話をお願いします」

 

「お前はどうするんだ」

 

「俺は……シャルにちょいとお話が」

 

「嘘だゾ。そんな事言ってエッチな事するんだろ、エロ同人みたいに。お前のパソコン内でジャンル別にフォルダ分けされてるエロ同人みたいに…!」

 

 何で2回言った!?

 何で2回目詳しめに言った!? 

 

 というか何で知ってんだアンタ!? 一夏と弾くらいにしか教えてねぇぞ! というかというか、する訳ないだろアホか! 二次元と現実はちゃんと区別できてるわ!

 

「しないですって」

 

「ホントに?」

 

「ホントに」

 

「ホントのホントに?」

 

 いやしつこいな!?

 どうした千冬さん!? 

 

 常識的に考えて俺にそんな度胸ある訳ないだろ! 一夏も千冬さんも居るんだぞ! というか(元)ホモに手を出す訳ないだろ! 

 

「イエーッ! 俺イエーッ!」

 

『?』

 

 旋焚玖はそんな事言わない!(憤怒)

 ほら、早く納得してくださいよ千冬さん! アホの一夏が全然似てない俺の真似してるウチに早く!

 

「むぅ……分かった、信じる」

 

 これで展開が進むぞー。

 

「シャルの親父さんは、シャルの事をただの道具と思っていないフシがあります。そこを上手く突っつけば、案外簡単に解決するかも?」

 

「……なるほど。なら、ここからは私が引き受けた。おい一夏、代われ」

 

「ん? もういいのか? ちぇっ、まだまだ真似したりねぇぜ!」

 

 そんな事しなくていいから。

 

「0.00001ミリも似てなかったからもう二度としなくていいぞ。私の前ではしなくていいぞ」

 

「(´・ω・`)」

 

 これには一夏も(´・ω・`)。

 辛辣すぎてプチ同情。

 

 しかしシャルの親父さんを千冬さんに任せられたのはデカい。これで俺も心置きなくシャルとお話が出来る。

 

「とりあえずシャルは俺と部屋の隅っこに行こうな」

 

「えっ、どうして?」

 

「つべこべ言わずに来いホイ!」

 

 部屋の真ん中でホイホイ追及できる話じゃないんだよこのデンジャラスパイが!

 

「シャルさお前さ、親父さんに毎日報告してるツってたよな?」

 

「そうだよ」

 

 確かその日の出来事とかご飯のメニューとかだったよな。

 

「どうして俺がホモだと伝える必要があるんですか」

 

「え? だって旋焚玖ホモでしょ?」

 

 ホモはお前じゃい!

 女のくせにホモとか恥ずかしくないのかよ!

 

「俺はホモじゃない」

 

「うそだぁ、旋焚玖はホモだよ~」

 

 本人が否定してるのにどうして断言するんですか。どうしてちょっとご機嫌な感じなんですか。それに何だその生温い目は、ヤメろオイ『とぼけちゃってぇ』みたいな顔してんなマジで。

 

 しかしシャルの目がキランと光ったのを俺は見逃さない。

 どうやら過去の証拠を持ち出し、俺を説き伏せるつもりだな。

 

 いいぜ、こいよ。

 口先の魔術師ナメんなよ。

 

「だって僕が転校してきた日にパンツを欲しがったじゃんか。あの時はまだ男装してたんだよ?」

 

「箒と鈴にも言った事があるからセーフ」

 

「旋焚玖のエッチ!」

 

 可愛い(うっかり反射)

 しかしまだホモ。

 

「でもその後、一夏と手を繋いでたよね」

 

「女同士でも繋いでるだろ」

 

「あ、そっかぁ」

 

 そうだよ。

 

「でもその後、僕の着替え見てきたよね? 見ないでって言ったのに」

 

「見るなと言われたら見たくなるのが人のサガよな」

 

「あ、そっかぁ」

 

 そうだよ。

 

「でもその後、僕に裸を見せてきたよね」

 

「強靭な肉体ッ! 披露せずにはいられないッ!」

 

「あ、そっかぁ」

 

 そうだよ。

 

「でもその後、恋愛は自由だって言ってきたよね」

 

「差別は良くない。暴力と同じくらい良くない」

 

「あ、そっかぁ」

 

 そうだよ。

 オラ、これで分かったか? 

 

 俺に生半可な問答は通じんよ。

 たとえ決定的な証拠があっても、俺なら乗り越えられる自信がある。

 

「……もしかして、旋焚玖はホモじゃない…?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ようやく真理に辿り着いたか。

 疑念が晴れた時点で、ぶっちゃけシャルが捕まろうが、俺は痛くも痒くもなくなった訳だが。流石にここから手の平を返すのは、普通にイカンでしょ。俺にだって良心はあるわい。

 

「あれ、ちょっと待って。さっき、旋焚玖は僕の裸見たよね?」

 

「見たな」

 

 割とがっつり見たな。

 詩歌まで歌わさせられる始末。

 

「ホモじゃないって事は……その、僕のおっぱいとか見て興奮したの?」

 

「膳膳」(サントリー)

 

「やっぱりホモじゃないか!」

 

 ホモはお前じゃい!(2回目)

 お前がどれだけ女を心身ともに主張しようが、俺の中では依然ただのホモなんだよ! 言っとくが俺にTS属性は無ェ!

 

「あのな、シャル。お前が俺をホモだと疑っていたように、俺もお前をホモだと思ってたんだ」

 

「むむむ」

 

 何がむむむだ!

 何かまだ釈然としてないっぽい雰囲気アリアリじゃないか! こういう時は理路整然っぽい言葉をカマしてやるんだぜ。

 

「見損なうなよ、シャル。俺が女だと分かった瞬間に目の色変えるゲスだと言いたいのか?」

 

「そ、そんな事ないよ! ごめん、旋焚玖。僕の思い違いで気を悪くさせちゃった」

 

 やったぜ。

 上手い事シャルの良心もチクチクしてやったが、効果は見た通り絶大なんだぜ。これで今度こそ俺のホモ疑惑は払拭されたな!

 

 後はいつもの言葉で画竜点睛だ。

 

「気にするな」

 

「……ありがとね、旋焚玖」(旋焚玖はホモじゃなかったんだ。僕は勝手に勘違いして、嘘の報告までしちゃった。それなのに、旋焚玖は少しも怒ることなく笑って許してくれた。一夏が言ってた通り、旋焚玖は器が大きいんだね。……ん?)

 

 

その時シャルロットに電流走る。

自分はずっと旋焚玖に惚れられていると思っていた。しかし、旋焚玖がノンケだと分かった今、少し話も変わってくる訳で。

 

 

(旋焚玖の僕への接し方は、自惚れじゃなければ好意を持ってくれてる人のソレだった。でも旋焚玖が惚れてたのはホモの僕であって、でも僕はホモじゃなくて旋焚玖もホモじゃなくて、でも僕への接し方は完全に好意を持つ人のソレであって、でも旋焚玖はホモじゃなくて……ううん?)

 

 

 何かシャルが百面相してるでござる。しかし、こういう時は触れない方が身のためなのだ。経験的に。

 

 

(あ、分かった、分かったよ! 旋焚玖はホモの僕じゃなくて、単純に僕自身が好きなんだね! ホモじゃないって分かった後でも、僕1人のために多くを敵に回しても安いとか言ってたし! これはもう間違いないね!……でもホントに当たってるか気になるなぁ。き、聞いてみてもいいのかな…いいよね? 旋焚玖なら違ってたら違うってハッキリ言うだろうし)

 

 ん?

 ナズェミテルンディス!!

 

「旋焚玖は僕の事が好きなの?」

 

「……なるほどな」

 

 なぁに言ってだコイツ(余裕あるン抜き言葉)

 そして感じるデジャブ感。

 

 以前、セシリアにも似たような事を言われたが、あの時ほどの動揺はしねぇぜ? 何故ならセシリアとシャルは違うのだ! 

 

 セシリアは初めて出会った時から超美人な女だった。俺の中でアイツの魅力は今でも留まる事を知らぬ! 可愛い!

 シャルは初めて出会った時からホモだった。俺の中でコイツのホモ幻影は今でも根付いている! 実は女でした、などという現実が霞むほどに! 

 

 それ故に冷静。

 それ故にクール。

 

 お前は俺にとっての男友達みたいなモンだ。ってな内容の返答をいい感じにしてやるぜ! 

 実際、コイツのノリはどこか弾に似てて好感が持てる。これからも上手くやっていけそうな気配プンプンなんだぜ。

 

 

【好き好き大好き! チョー好き! 初めて逢った日から毎晩シャルたんの事を考えて5分に1回シャルたんの事を考えて、もうホントに大好きっ! 結婚したい! 好き好き好きー!】

【俺を惚れさせてみな(キリッ)】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

「……俺を惚れさせてみな」(キリッ)

 

「んなっ!?」(想定してた返事と全然違う!? なにそれ、何をどうしたらそういう返答ができるの!? 旋焚玖はいったいどういう思考回路してるの!? 僕の事が好きなんじゃないの!? 何で僕が旋焚玖に惚れてるみたいな感じになってるの!? あーっ、ダメだ、考えがまとまらないよぉ!)

 

「ヒューッ! 旋焚玖ヒューッ!!」

 

「一夏は黙ってて!」

 

「(´・ω・`)」

 

 気付いたら一夏が俺たちのトコロまで来てたでござる。千冬さんのトコに居たと思うんだが、はて…? 何で頭をサスサスしてんだ?

 

「どうしたんだ?」

 

「千冬姉にドツかれた」

 

 いや何でだよ。

 千冬さんは電話中だろ?

 

「真正面に立って変顔したら殴られた」

 

 そらそうよ。

 何やってだコイツ(ン抜き言葉)

 

 真面目な場面で茶目っ気出すキャラじゃないだろお前。アレか、千冬さんに言われた言葉が悔しかったんかな。

 

 いやしかし、ホントに緊張感どこ行った。何かもう逆にシャルの親父さんに申し訳なくなってきたまであるぞ。俺たちはどういう集まりなんだっけ?

 

「はい…はい……ではその形で、はい」

 

 あ、電話終わったっぽい。

 どんな話ししたんだろう。シャルに夢中(語弊)で全然聞いてなかった。しかし千冬さんの表情から察するに、進展ありっぽいな。

 

「お、織斑先生、父とはどんなお話を…?」

 

「ん? ああ、とりあえず明日ここに来る事になった」

 

「明日!? え、なんで!?」

 

「電話で話すより直に話す方がいいだろう? 明日はデュノアも交えて懇談だな」

 

 いやはや流石は千冬さんの一言に尽きる。

 アウェーに乗り込むよりホームで迎えたほうが良いに決まってるもんな。しかし、ソレをデュノア社の社長相手に軽く了承させちまうんだから、ホントに頼りになるぜ!

 

「一夏と旋焚玖も明日は同席しろ。お前たちも既に他人事ではないからな」

 

「おう!」

 

「分かりました」

 

 

【デュノア社まで迎えに行くぜ!】

【負けじとウチの両親も呼ぶぜ!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 






どうして呼ぶ必要なんかあるですか(憤怒)


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