選択肢に抗えない   作:さいしん

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めぐる攻防、というお話。



第124話 お姫様だっこ

 

 

 何はともあれHRの終わりを告げるチャイムが鳴った。皆がチャイムに気を取られた瞬間に俺は自分の座席に着く。所要時間0.72秒ってとこか(どやぁ)

 

 これで話も一応の決着は付いたとしてくれ。とりあえず乱は俺のマグネシウム1000mg配合なんだよ。

 

「……ではHRを終わる。1時間目の授業の用意をしておくように」

 

 ふひひ。

 流石の千冬さんも、時の流れには勝てなかったようだな! 

 

 まぁそらそうよ。

 俺と乱の関係性を暴くためだけに、まさかHRを長引かせる訳にもいくまいて。

 

 『公私混同はしない』とか言いつつ、割と公私混同しがちな千冬さんではあるが、なんだかんだ超えちゃいけないラインだけはしっかり線引きしてるからな。

 

「……以上だ。山田君、我々は職員室へ戻ろう」

 

「はい」

 

 普通、教師が終わりを告げた時点で、生徒は各々自由に話しだしたり立ちだしたりするものなのだが、あいにくウチのクラスの担任は千冬さんだからな。俺や一夏はともかく、他の連中はやっぱり萎縮しちゃうんだろう。

 

 千冬さんと山田先生が教室を出ていくまでは、何となく静寂を保っているのが1組のプチルールみたいになっているのだ。

 

 まぁ言うて、教壇から教室の扉まで数メートルだし、静寂なる空間が解かれるのもあっという間よ。

 

「………………………」

 

「「「…………………」」」

 

「………………………」

 

「「「…………………」」」

 

「………………………」

 

 いや遅っせぇな!?

 なにやってんの千冬さん!?

 

「………………………」

 

 え、進んでる? 

 いや進んでるけど、cm単位だろそれ!? 目視じゃ分かんねぇよ何だそのスピード、あんたノトーリアス・BIGにでも襲われてんのか!? スパイス・ガール!

 

「ええっと……お、織斑先生…?」

 

 ほら、山田先生が困ってますよ。 

 もう扉の向こうで待ってますよ。

 

「………イタタタタ」(棒読み)

 

「ど、どうしたんですか織斑先生!?」

 

「むかし脚に受けた古傷が少しな……アイタタタタ」(棒読み)

 

 あれは…!

 ぶりゅんひるで千冬さん!?

 

「……ええっと…あ、あはは…」(ち、千冬先輩……演技が下手すぎですよぅ…)

 

 そら山田先生も苦笑いするしかないわ。

 そんな大根芝居されてどう反応しろってんだよ。アンタ自分の地位と名声ちったぁ考えろよ、千冬さんに気軽にツッこめる奴なんざ、世界中探してもそうは居ねぇんだぞ。

 

 というか棒読みにも程があんだよ、そんなんで引っ掛かる奴いる訳ねぇだろ。それが逆にツッこみ辛さを増してんのよ。

 

「だ、大丈夫かよ千冬姉!?」

 

 ガタッと立ち上がり心配する一夏くん。

 まぁ一夏は……ほら、純粋だし姉思いだし。

 

「大丈夫ですか教官!?」

 

 ガタッと立ち上がり心配するボーデヴィッヒ。

 まぁボーデヴィッヒは……まだわがんね。

 だが少なくとも、千冬さんに対してはかなりの情を持っているみたいだな。明らかに俺たちに向けてた表情と違うもん。

 

 

【お前ら2人節穴すぎて草だけど2人にも穴はあるんだよな】

【千冬さんを保健室まで運ぶ。お姫様抱っこで】

 

 

 【上】の前半は分かるけど、後半が意味不明だしキモいので、僕は【下】を選びます(半ギレ)

 

 それに【下】だと俺にダメージないっしょ? 

 むしろ恥ずかしい思いをするのは千冬さんだけである! でもそれは策を弄じて失敗した千冬さんの自業自得なのである! これを機に演技力を身に付けるんだな!

 

 そして時は動き出す。

 同時に俺は千冬さんの元へ。

 

「「「 超スピード!? 」」」

 

 ゆっくり行ってる間に変な【選択肢】が出てこられても困るからね。そのための豪脚あとそのための神速…?

 

「俺が織斑先生を保健室まで運びますよ」

 

「しゅ、主車……すまないな」(鳳乱音との真実を聞きたいがために、名演技を披露してしまった私を許してくれ旋焚玖。だがそうでもしないと私は気になって夜も5時間半くらいしか寝れなくなってしまうのだ)

 

「おう、千冬姉を頼むぜ旋焚玖!」

 

 んまぁーかせろ!

 

 しゃがんで、千冬さんをお姫様抱っこしようとした時だった。

 

「異議ありッ!!」

 

 ボーデヴィッヒからの異議ありコールだ!

 

「どこの馬の骨かも分からん男に教官を運ばせられるか!」

 

「……ほう?」

 

 おぉ、この展開は何か新鮮だな!

 【選択肢】も出てこないし、問題もないっぽいぞ。

 

 それなら俺も自由にやらせてもらおうか…!

 

「ならお前が運ぶか?」

 

「当然だ!」

 

 

「いや、お、おい……?」(ま、マズい。想定していた流れと違う…! 何よりラウラの純粋な感情が私の良心をポコポコしてくる…!)

 

渦中の千冬は良心をポコポコにされていた!

 

旋焚玖は千冬の呟きを聞いていながら敢えてのスルー。

ラウラは千冬の呟きに気付かぬほどヒートアップなう。

 

 

「その華奢な身体で?」

 

「むっ…?」

 

 見たところコイツの身長は……146…いや148cmってところか。

 打撃格闘技において身長は重要な要素を占めるからな。篠ノ之流柔術を極めた俺が、よもや身長を見誤るわけもないのさ(どやぁ)

 

 それで、だ。

 鈴よりちっちゃいナリで、女性としては背が高い部類に入るであろう千冬さんを運べんのかってな話よ。 

 

 そりゃあ手段を選ばんかったらいけるだろうけど。引きずって運ぶとか。……ひきこさんかな?

 

 だがボーデヴィッヒは千冬さんを尊敬してるフシがプンプンしてるし、そんな手段を取るとは思えん。でも人を担ぐ方法なんて、そう何種類もないだろ。

 

 

【お前は織斑先生を横抱き出来んのかよ?】

【お前は織斑先生をお姫様だっこ出来んのかよ?】

 

 

 【横抱き】=【お姫様だっこ】なんだよなぁ。

 言い方が違うだけで一緒だっての。

 

 あ、もしかしてアレか? 

 【選択肢】的に、【お姫様だっこ】は譲れないポイントなのか? なら俺もウダウダ言わずその流れに乗ろう。

 

「お前は織斑先生をお姫様だっこ出来んのかよ?」

 

「なっ……きょ、教官はお姫様だったのか…!?」

 

 お前はいったい何を言っているんだ(困惑)

 

 この流れで『千冬さん=お姫様』な図式を描かれるのは、流石に想定してなかった。俺の予測を簡単に裏切ってくるかよ。

 

 やっぱコイツ只者じゃねぇわ。

 所々でただならぬセンスを垣間見せてきやがる。どうやら千冬さんを師事してたってのはマジらしい。

 

「いや、待てよ…? そうだ、思い出したぞ。教官は現役時代に『羅刹姫』とも呼ばれており、実際ブレード1本で世界をブイブイ言わせていたって教官自身が仰っていたではないか…!」

 

 千冬さんがそんな俺みたいな事言うわけないだろいい加減にしろ!

 

「と、当時は私もまだ教育者という立場に慣れてない頃だったからな、うむ! そういう思ってもない事をついノリと勢いで口走ってしまう年頃だったんだな、うむ!」

 

 本当に言ってたのか(困惑)

 千冬さんアンタ年下の娘っ子になに言ってんすか。

 

 しかしアレですねぇ?

 何も言ってないのに、釈明とかしだしましたよこの人。やっぱ照れてるんすねぇ?

 

「なんだよ千冬姉~、顔が赤くなってるぜ~?」

 

「うるさい殺すぞ」

 

「(´・ω・`)」

 

 今のは一夏が悪い。

 茶化すには強大すぎる相手だろうが。

 

 しかし、これで更に分かった事もある。

 少なくとも千冬さんからボーデヴィッヒに、そういう軽いノリを言えるくらいな関係を2人は築けていたと。

 

 という事は、だ。

 形式的なただの教官と生徒という枠組みとは、ちょいと違うと思っておいた方が良さそうだな。

 

「で、話を戻すがお前は織斑先生をお姫様だっこ出来んの?」

 

「ちなみにお姫様だっことは、どういう抱え方なのだ?」

 

 

【一夏で実践してやる】

【言葉で説明してやる】

 

 

「横抱きだ横抱き」

 

「ふむ……こんな感じか?」

 

「そうそう、それだ」

 

 身振り手振りで確認してくるボーデヴィッヒに頷く。

 俺ら人間はしゃべる事を許された生き物よ。いちいち手本とか見せてやらなくても、言葉だけで十分伝えられるんだよバーカ。バーカバーカww

 

「それで改めて確認するぞ。織斑先生をお姫様だっこ出来るのか?」

 

「むぅ……」(私に教官を横抱きできるか…? いや、悔しいが私の現在の筋力では難しいと言わざるを得ない…! だが、不可能とまではいかない筈だ!)

 

 むぅったなコイツ!

 ここは一気に畳み掛けるチャンスとみた!

 

「ただ持ち上げれば良いって訳じゃない。そこから更に保健室まで運ばにゃならんのよ?」

 

「むむぅ……」(そうだった…! ベンチプレスを持ち上げて何秒か耐えるアレとは訳が違う。移動距離を入れたら更にミッションの難易度は跳ね上がるじゃないか!)

 

 むむぅったなコイツ!

 更にダメ押しだ!

 

「そして運ぶ道中はもちろん、抱え上げる時に気合いを入れるのもダメだ。フンバッてもダメだ。少しでも重そうにしたら即重罪だ」

 

「な、なにぃ…!? それは教官がお姫様だからか?」

 

 お前はいったい何を言っているんだ(困惑)

 

 普通に千冬さんが女性だからだと思うんですけど(凡推理)

 女は男と違って、体重とかを気にする生き物だし。そこは世界をブイブイ言わせていた千冬さんも例外じゃないだろう。

 

「……まぁそうだな。だからな、ボーデヴィッヒよ。お前がヒョイっと抱えられて、ヒョヒョイっと保健室まで行けるなら、俺は何も言わんよ。だが、それが無理なら大人しくしとけって話だ」

 

「ぐっ……ぐぬぬ…!」

 

 あ、怒った?

 ねぇねぇ、怒ってんの? それでも言い返せないからそんな顔になってんの?

 

 くふふ、これで俺も少しは溜飲が下がるってなモンだ。俺はお前が一夏を殴ったのを普通に忘れてねぇからな。ついでに俺を殴って泣かせたのも普通に根に持ってるからな。

 

「俺が織斑先生をお姫様だっこする様子を指くわえて見とけ」

 

「むむむぅ…!」

 

 俺が小者だったのが運の尽きよ。

 そんでもって――。

 

「力の無さを恨みな」(エルク)

 

 それが嫌なら俺の器量の無さを恨みな!

 小者な俺は言葉で仕返し出来てとても満足ですぅ。女子だったらお肌がツヤツヤになってるところですぅ。

 

「ぬうううううううう!!!!」

 

 おっ、ほむほむか?

 放っておいたら地団駄しそうな勢いだなオイ。

 

 プークスクス。

 くやしいのうwwくやしいのうww

 

 オラ敗者はどけ。

 勝者な俺に千冬さんを運ばせろ。

 

「ま、待て! そういう貴様はどうなのだ!?」

 

「む…?」

 

「まるで自分なら教官をお姫様だっこで運べるという物言い! しかし貴様は本当に可能なのか!? もしも失敗したらどう責任を取るつもりなのだ!」

 

「確かに一理あるな」

 

「そうだろうそうだろう! 私が無理だとしても貴様なら可能な保証はどこにもないのだからな!」

 

 千冬さんは……ふむ、166cmってところか。

 体重は……んん?

 

(考察したら泣くぞ)

 

 まぁ体重は別にいいな、うん。どうせ持てるし。

 

「主車くんなら大丈夫だよねぇ」

 

「大丈夫っていうか余裕っしょ~」

 

 クラスメイトからナイスなアシストが入った。

 

 フッ……ボーデヴィッヒの言葉を借りるなら、1組の全員が証人である! 何故なら既にコイツらには『旋焚玖くんは力持ち』な場面をもう何度も魅せてるけんの!

 

「む……貴様ら、何故そう言い切れるのだ?」

 

「え~? だって主車くんは一人でISも運べちゃうんだよ?」

 

「はぁ?」

 

「ISで突進してきた山田先生も生身で背負い投げしてたよね」

 

「はぁ?」

 

 フッ……我を讃えよ!

 

 そういうのは言われて嬉しいから、もっと日頃から言ってくれていいのよ? 何より勘違いが絡んでないのが何よりも嬉しいのである!

 

「馬鹿馬鹿しい。貴様らも、嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ」

 

 ホントなんだよなぁ(どやぁぁぁ)

 常識を覆すなんざ、俺にとっちゃ掃除機を裏返すくらい簡単よ(強者限定どやギャグ)

 

 しかしボーデヴィッヒが信じられんのも無理ないし、何か証明する方法はないかな。というか普通に千冬さんを担げばいいだけじゃん。有無を言わさずヒョヒョイと抱っこすれば、流石のボーデヴィッヒも納得せざる得ないだろうしな。

 

 

【箒をお姫様だっこしてみせる】

【鈴をお姫様だっこしてみせる】

【乱をお姫様だっこしてみせる】

【セシリアをお姫様だっこしてみせる】

【山田先生をお姫様だっこしてみせる】

【シャルの兄弟をお姫様だっこしてみせる】

【ボーデヴィッヒをお姫様だっこしてみせる】

【一夏をお姫様だっこしてみせる】

【①ボーデヴィッヒ②鈴③乱④シャルの兄弟⑤セシリア⑥山田先生⑦箒⑧一夏の順番でお姫様だっこしていく。多分これが一番効率良く差分CG回収できると思います】

 

 

 差分CGってなんですか?

 その順番には何か意味があるのですか?……身長順かな(すっとぼけ)

 

 しかし、これだけ名前が羅列されているにもかかわらず、ちゃっかり千冬さんだけ除外されているところにアホ【選択肢】特有の嫌らしさを感じますね。

 

 まぁこんだけ色々と書いてもらっても、余裕で一夏一択なんですけどねアホの【選択肢】さん。

 

 当たり前だよなぁ? 

 

 恋人でもないのに、そう簡単にお姫様だっこしたりねだっちゃイカンでしょ。それで嫌われたらどうすんの?

 

 むしろ此処に挙がってんのは、いずれ俺の彼女になる予定のリストなのさ! 乱はママだからちょいと違うが。あぁ、あと一夏も普通にないから。

 

 という訳で。

 

「やいそこのテメェ!」

 

「お、おう!?」

 

「こっち来いこのヤロウ! お姫様だっこさせろこのヤロウ!」

 

「「「「 ああ^~ 」」」」

 

 ああ^~るの早いよ!?

 まだしてないわ!

 

「なるほどな! 男の俺を軽くお姫様だっこ出来れば、千冬姉も余裕だって証明できるもんな!」

 

「そういう事だ」

 

 お前一夏中々いいフォローしてくれるじゃねぇか! 察しのいい一夏くんが戻ってきてくれて俺は嬉しいぜ!

 

 という訳で。

 

「ほーれ、ヒョイっとな」

 

「わーい」

 

「む…!」

 

 かる~くお姫様だっこ。

 

「ほーれほれ、たかいたかーい」

 

「わーい」

 

「むむ…!」

 

 かる~くたかいたかーい。

 

「ほーれほれ、いーちかいーちか」

 

「わーいわーい」

 

「むむむぅ…!」

 

 かる~く胴上げ。

 

「ほれ、見たかボーデヴィッヒ。俺はこんなにも軽々しくやってのけれんだぜ? これ以上の証左はないだろが。オラ認めろよ、敗北」

 

 決定的証拠ってヤツだ。

 これ見ても、まぁだウダウダ言えんのかよ?

 

「ま、まだだ! まだ私には反論材料が残っている!」

 

 ふむぅ。

 ここまできたら、もうその諦めの悪さはむしろ買いだな。それも千冬さんの影響か?

 

「確かに貴様は織斑一夏を軽くお姫様だっこした! それは認めよう、だが! だが教官の体重が織斑一夏より重か「ラウラ・ボーデヴィッヒ」…!……は、はい教官!」

 

 千冬さんの千冬さんによる千冬さんのための言動遮断。

 ボーデヴィッヒ、本日一番の背筋ピーン。声色に怒気が含まれているのを本能的に感じ取ったのかな。

 

「越えちゃいけないライン考えろよ」

 

 これはキレてますね、間違いない。

 まぁでも今の発言は普通に失礼にあたるからなぁ。むしろボーデヴィッヒは何で言おうとしたんだ。ドイツ人は女でも体重に無頓着な国なのかな。

 

 これに懲りたら不用意な発言は控え……ん?

 

「(´・ω●`)」

 

「!?」

 

 しょんぼりボーデヴィッヒだ!

 

 いやちょっと待て!

 その顔は織斑家秘伝じゃなかったのか…!? 口もちゃんと『ω』になってるし…! シャルの兄弟ですら完全に習得はできなかった代物なんだぞ!?

 

 

【兄弟にもしてもらう】

【そんな事しなくていいから】

 

 

「兄弟」

 

「なぁに?」

 

「しょんぼり顔を見せてくれ」

 

「へ? うん、いいけど。えっと……(´・▵・`)」

 

「ぶはははは! 何だよシャルその顔!? ぶはははは!」

 

「ひどいよ一夏!」

 

 やっぱりだ。

 兄弟ほどの女でも、あの顔はやはり真似できていない。ならば何故ボーデヴィッヒは出来るんだ?

 

「ボーデヴィッヒはドイツでは私の愛弟子的存在だったからな」

 

 え、なにその理由は(困惑)

 

 まぁいいや、話を戻そう。

 

「もう満足したか? 時間は有限なんだ。休憩時間も15分あるとはいえ、いつまでもグダグダやってりゃ1時間目が始まっちまうだろ」

 

「くぅぅぅ……な、ならせめて私を間に挟め!」

 

「……どゆこと?」

 

 これはまた意味が分からん申し出だぞ。

 挟むってどういう事だ。

 

「貴様が運べる筋力の持ち主なのは分かった。だがそれでも、どこの馬の骨かも分からん男に教官を易々と触れさせてなるものか!」

 

「ふむふむ。で、どうしろと?」

 

「だからまず貴様が私をお姫様だっこするのだ」

 

「うんうん……ぅん?」

 

「それで私の上に教官が仰向けで乗れば、貴様に触れられずに運ばれる形になるのだ。そう、私がフィルター的役割を果たすといった感じだな!」(どやっ)

 

 お前はドヤ顔でいったい何を言っているんだ(困惑)

 

 いや、まぁ……うん。

 言わんとしてる事は分かるし、コイツから『自分は傷ついてもいい! だからこの人だけは助けてほしい!』的な感情も、めちゃ伝わってくるんだけど。

 

 

【ボーデヴィッヒの案に乗る】

【これ以上千冬さんを辱めるのはイカンでしょ】

 

 

 うむむ。

 【上】を選びたい気持ちもあるが、確かに【下】の言い分も最もだ。というか悪フザケしすぎたら、確実に後で千冬さんから仕返しされるし。ここらへんが潮時だろう。

 

 絶妙に説得力溢れる言葉で断るか。

 

「いや、でもなぁ……」

 

「む?」

 

「お前お姫様じゃないじゃん」

 

「!?!?!?!」

 

 青天の霹靂みたいな反応やめろ。

 笑っちゃうから。

 

「お姫様じゃないお前をお姫様だっこしちゃイカンでしょ。そんな事したらお前、お姫様な千冬さんを冒涜する行為にあたるぜ?」

 

「そ、それは…! 悔しいが確かに一理ある…!」

 

 一理あるのか(困惑)

 

 もうホントに何なんだコイツ。初対面で俺をここまで困惑させる奴なんざ初めてだぞこのヤロウ。あ、膝から崩れ落ちた。

 

「orz」

 

 うわ……その格好こそイカンでしょ。

 すっげぇ罪悪感が込み上げてくるんだけど。このままじゃ俺が悪者な感じになってしまうのではなかろうか。それが一番イカンでしょ!!

 

 とりあえず、千冬さんをヒョイっとな。

 

「わわっ……ン、ゴホンッ…」(すまないラウラ。欲望に勝てぬ弱い私を許してくれ。あとでコーラ買ってやるからな!)

 

 誤魔化し方が下手だと思った(小並感)

 んで、更にもう一丁。

 

「顔上げて立て、ボーデヴィッヒ」

 

「(´・ω●`)」

 

 しょんぼりボーデヴィッヒだ!

 どんだけ悲しんでんだお前!?

 

「保健室に織斑先生を運ぶのは俺の役目だが。道中、何が起こるか分からん」

 

 何も起こらんけどね。

 

「そこでお前に保健室までの身辺警護を任せたい。頼めるか?」

 

「う、うむ! 任せろ!」

 

 あらやだ、可愛いらしい笑顔ですね。

 ビンタされてなかったら惚れてたな!

 

「織斑先生も、それで良いですね?」

 

「ああ。ボーデヴィッヒなら安心だ」

 

「きょ、教官…ッ!」

 

 ふぃ~……っと。

 これでボーデヴィッヒのメンタル回復もOK……って、何でコイツのメンタルを俺が気にかけてやる必要なんかあるんですか!(自問)

 多分可愛いからだと思うんですけど(自答)

 

 まぁいいや、時間もあんま残ってないし、さっさとイクゾー。

 と言いつつ、別の不安が残っている。

 

 俺たちが居なくなった途端に、他の奴らが乱に詰め寄らないかって事だ。ただでさえ『マグネシウム1000mg配合』とか意味不明な事言って終わったんだし。

 

「安心なさい、旋焚玖」

 

「……鈴?」

 

 俺が後ろ髪を引かれてたのに気付いたのか、鈴が声を掛けてきた。

 

「アンタと乱の事は、あたしが上手く説明しといてやるわ。というか、あたし以外に適任はいないっしょ? あの話の当事者でもあるんだから」

 

 あの話ってのは、俺が中国に行った時にあった出来事を指してるんだろう。親父さんとお袋さんのアレだ。そういう意味では、確かに語り部として鈴以上に相応しい奴はいない。

 

 何より鈴だったら、話が変な方向へ拗れる、なんて心配もないだろうしな!

 

「ああ、任せる」

 

「ええ、任されたわ」

 

 よし。

 なら今度の今度こそイクゾー。

 

「付いて来い、ボーデヴィッヒ」

 

「うむ!」

 

 向かう場所は保健室だ。

 3秒で着いてやるぜ!

 




乱ママ編じゃない。
ラウラ編でもない。

これは乱ママ&ラウラ編なのだよ!(作者の意気込み)

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