選択肢に抗えない   作:さいしん

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主車家は仲良し家族、というお話。



第13話 約束は守らなきゃ

 

 

 

「……よし、こんなモンか」

 

 目当てのモノを完成させ、額に流れる汗を拭い、小休止する事にした。

 

「お、よく出来てるじゃないか旋焚玖」

 

「ああ、これも父さんの教え方が上手いからだよ」

 

 俺の父さんは陶芸を生業としている。

 休みを利用して、俺もちょくちょく遊びでイロイロと作らせてもらっていた。

 

「しっかし、こんな物を作ってどうするんだ?」

 

「いつか使う日が来るかもだろ?」

 

「来ないと思うがねぇ」

 

「ま、念の為ってやつさ」

 

 しかし暑い。

 休憩してても、この暑さだけはどうにもならん。外から聞こえる蝉の鳴き声が余計に蒸し蒸しさせてくるのも厄介だ。

 

「……季節の移り変わりは早いな…」

 

 鈴が中国へ帰ってから、もう半年近くになるのか。

 この身体と同じで、精神的にもまだまだ若いつもりだが、時間の経過を早く感じてしまっているのも事実だったりする。

 

 今じゃもう俺も中3だ。

 2度目の中学最後の夏休みをしっかり満喫させてもらっている。高校受験もそろそろ本格的に考えなきゃいけない季節でもあるが……まぁ、どこでもいいや、あんま無理せず行こうと思う。

 

「……っと、そろそろ掲載されてんじゃねぇかな」

 

 取り出した携帯電話から、あるサイトへアクセスする。

 部活をしている者にとって、夏は暑くて熱い季節だ。中学高校問わず、サッカーにしろバスケにしろ野球にしろ、運動部に所属している学生が日々目指している大会……夏の全国大会がもうすぐ始まる。

 

 俺は終身名誉帰宅部だ。

 何の部にも所属していない俺は、本来なら夏の全国大会には縁のない人間なんだが、俺のダチが出ている可能性はある。

 

 

『篠ノ之はこれからも剣道続けんのか?』

 

『ああ、これからも続けるつもりだ』

 

『お前すっげぇ強いから、きっと全国大会にも出られるよ。その時は一夏と応援に行ってやるぜ』

 

『う、うむ!』

 

 

 篠ノ之を見送る直前、そんな話を俺たちはした。

 こんなのその場限りの社交辞令ってヤツだ。きっと篠ノ之も覚えてはないだろう。

 

 ただ、俺は何年経っても頭の片隅に残っていた。

 口約束でも約束は約束だ、俺はちゃんと守るぜ! なんて、そんな誠実っぷりからきている訳じゃない。ただ……その直前に篠ノ之からの貰ったプレゼント(謎失恋)がインパクト強すぎてな……ついでにコレも覚えちまってんだ。

 

 俺は剣道全国大会の出場選手覧に目を通す。

 理由はどうあれ、本当に篠ノ之が全国大会に出てたら応援に行くのも悪くない。いや、俺ひとりでは絶対行かんけど。一夏でも誘って行こうと思っている。

 

「篠ノ之……篠ノ之……………むぅ……今年も名前は無し、か……むむっ…!?」

 

 篠ノ之の名前は載ってなかった。

 だが、この名前は……?

 

 

『篠ノ木鳳季』

 

 

「しののぎ、ほうき……やけにクる名前じゃねぇか」

 

 篠ノ之が転校する前、千冬さんからチラッと聞いた事がある。これからの篠ノ之の生活は苦難が多くなると。今じゃ世界の関心の中心であるISを開発した、コイツの姉ちゃんが消えちまった。結果、嫌でもしわ寄せが篠ノ之にもきてしまう。篠ノ之束の妹というだけで、政府達が放っておいてくれないだろうと。

 

「……偽名か」

 

 確認する手立てはないが、十中八九、篠ノ之本人だろう。大会は3日後……そうと決まれば、さっそく一夏に電話だ! 

 

「……ってな訳でよ、3日後に篠ノ之の応援に行かないか?」

 

『おお、そりゃいいな! あ……でも、待ってくれ…3日後って……わ、悪ぃ、その日もうバイト入っちまってるわ…』

 

「む……バイトか…」

 

『ホントにすまん! でも、俺の分まで応援してきてくれよな!』

 

 バイトなら仕方ない。

 アイツの家庭の事情を知ってりゃ、そうそう休めとは言えんわな。千冬さんも相変わらず忙しそうだし……ってか、あの人なんの仕事に就いてんだろう。そういう話は一切俺たちの前ではしないんだよな。

 

 だがこれで、俺も篠ノ之の応援に行く事はなくなった。

 え? 行かねぇよ? 

 当たり前じゃん。俺ひとりで行ってどうすんの? こういうのは薄情って言わねぇから、むしろ空気が読めてるって言うから。

 

 全国大会の応援とはいえ、自分がフッた相手が1人で来てたらどう思うよ? 

 絶対気まずいって。気まずいだけならまだいいけど、「うわ、コイツひとりで来やがった。未練タラタラかよ」とか思われるかもしれねぇじゃん。

 

 いや、篠ノ之はそんな性格曲がった奴じゃないから多分思わないだろうけどさ。俺なら余裕で思うね! 俺が思うって事は可能性0%じゃないじゃん。万が一でもありうるなら、最初からやらない方が賢明なのさ。

 

 

【篠ノ之に会いにチャリで行く】

【篠ノ之に会いに新幹線で行く】

 

 

 俺は賢明だった。

 これだけははっきりと真実を伝えたかった。

 

 もう俺が行くのは確定事項なのね。で、交通手段を選べってか。大会は確か大阪だったような……うん、ここでわざわざチャリ選ぶほど、まだそこまで肉体信仰してねぇから。一夏と2人でならチャリで行くのも楽しそうだが、あいにく今回は1人だ。

 

 ここは新幹線を選ぶのが無難だろう。

 いや、待てよ…? なんか閃いちゃったかもしんない。新幹線だろ…? 当然、交通費が掛かる……って事は…こ、これはもしかしたら……ワンチャン行かずに済む可能性がある…!

 

 月々のお小遣いを貯めていない俺だからこそ勝機があるッ! 待ってろ、母さん! 今から図々しくも金をせびりに息子が帰るぜ! そんな息子に母親が取って然るべき行動は何だ!

 

 

.

...

......

 

 

「あら、いいじゃない! 行ってきなさい、旋焚玖。ハイ、これお金ね」

 

 ポンと出してくれました。

 違う、違うんだよ母さん! 

 違わないけど違うんだよ!

 

 断ってくれていいんだぜ!?

 

「遠くまで応援しに行くだなんて。旋焚玖が友達想いのいい子に育ってくれて、母さん嬉しいわ」

 

「あ、うん……」

 

 息子のワガママを笑顔で許す親の鑑。

 許すどころか褒めてまでくれる親の鑑。

 

 母さんがいい人すぎて涙がで、出ますよ……ホントに。

 

「ただいま~」

 

「……!」

 

 父さんが帰ってきた!

 諦めるのはまだ早い!

 

「父さ…「聞いてよ、パパ!」ッ!?」

 

 俺のターンを隙間縫って、母さんからの速攻が決まる。

 いやこんな俊敏な動きする人だっけ!?

 

「パパ、覚えてる? 篠ノ之さんのところの娘さんよ、ほら、ウチにも何度か遊びに来た箒ちゃん」

 

「ああ、一夏くんと一緒に遊びに来てたな」

 

「そうそう! その子がね、剣道の全国大会に出るんだって!」

 

「それは凄いじゃないか!」

 

 くっ、割り込めねぇ…!

 仲睦まじい両親の会話を邪魔できる程、俺の肝っ玉は太くない。

 

「それでね、旋焚玖ったらその子をどうしても1人で、1人で応援しに行きたいんだって! でもお金が掛かるからって、私に頭を下げて頼んできたのよ」

 

 何でちょっと脚色すんの!? わざわざ「1人」を2回言う必要なかったろ! それじゃまるで、俺が篠ノ之に惚れてるみたい聞こえるじゃないか!

 

「ハハハ! そうかそうか、旋焚玖! そういう事なら行ってこい!」

 

 そういう事って何だよ! 

 なにを分かったような顔してやがんだ!

 絶対それ勘違いしてるだろ!?

 

「パパは旋焚玖を応援してるぞ~」

 

「ママも旋焚玖を応援してるわ~」

 

 思った通りだ、ちくしょうッ!

 ソッチ方面に勘違いしてんじゃねぇよ!

 

 

【フッ……応援していてくれ】

【俺、実は……1度、篠ノ之にフラれてんだよね…】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 勘違いが勘違いを呼ぶ【上】は嫌だぁぁぁぁッ!! でも両親にフラれた事をカミングアウトはもっと嫌じゃぁぁぁぁッ!!

 

「フッ……応援していてくれ」(震え声)

 

「ヒューッ! カッコいいぞ、旋焚玖ぅ!」

 

「あらあら! 旋焚玖も一丁前な顔をするようになったわねぇ!」

 

 フッ……涙で前が見えねぇや。

 でも夕食はいつも通り美味しかったぜ。

 そんでもって、俺も腹を括った。決まったモンは仕方ねぇ、いつまでもウダウダ言ってらんねぇ…!

 

 

 俺は、篠ノ之に会いに行くッ!(諦めの境地)

 

 





今更箒ちゃんと会ってどうすんの?(真顔)

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