選択肢に抗えない   作:さいしん

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千冬の言葉、というお話。



第132話 ラウラの疑問

 

 

「教官はどうしてそこまで強いのですか?」

 

 これは……私…?

 

「どうすれば強くなれますか?」

 

「……ふむ」

 

 私と教官が話している……夢、なのか?

 しかもこの会話は私の記憶にある光景だ。

 

 しかし何故今このようなモノを見ている? 私は先程まで、主車旋焚玖たちに織斑一夏の不甲斐なさを行動で証明していた筈だ。

 

 それがどうして夢を見る事態に陥っているのか。……いや、深くは考えまい。夢であれ幻であれ、教官との思い出を回想できるのだ。どうしてそれを拒む必要がある、いや無い。

 

 教官と過ごした刻は、私にとって何よりも尊いモノだからな。ふむ……尊い、か。

 クラリッサ曰く日本では『尊い』と書きつつも、場合によっては『てぇてぇ』と表現する事があるらしい(ラウラ流豆知識)

 

 この場合は『尊い』なのか『てぇてぇ』なのか?

 区別の仕方がイマイチ分からん私には難問だ。

 

 

『私にとってラウラ隊長は、いつ何時であろうと〈てぇてぇ〉存在でありますッ!』

 

 

 とか以前クラリッサに言われたが……ううむ、やはりよく分からん。シュヴァルツェ・ハーゼ隊において、私が部隊トップの座から転落した時も、アイツだけは変わらず私に接してくれた。

 我が隊でも導入されたISに上手く適応する事が出来ず、周りから出来損ないの烙印を押された私が、教官と出会うまで自壊を踏み止まれていたのは、クラリッサの存在がなければ危うかったかもしれん。

 

 今夜あたり改めて感謝の言葉を伝えようかな。理解不能な反応するからあまり言いたくはないのだが。

 

「私には弟がいる」

 

 っとと。

 思考に耽るのはここまでだ。 

 

「弟……ですか」

 

 覚えている。

 今でも鮮明に。

 

 この時の教官は、いつもと雰囲気が違ったんだ。

 

「姉は弟を守るべき存在だ。そして守るためには力がいる。ならば強くなるしかないだろう?」

 

「守るために強く……よく分かりません」

 

 弟のいない私には、教官の言葉を上手く呑み込めなかった。

 

 弟がいれば強くなれる…? 

 だとすれば、この世の姉はみな教官と同じ強さという事になってしまうじゃないか。そんなバカな、いくら教官のお言葉でも納得しかねる。

 

 その思いは今も変わっていない。

 

 そして私は、弟の事を話す教官の表情に、優しい笑みを浮かべる教官を見て心がチクリとしたのを覚えている。

 

「フッ……モチベーションは人それぞれだ。それに、強くなりたい理由も一つとは限らんだろう?」

 

「教官は他にも理由があるのですか?」

 

「当然だ」

 

「で、では教えてください!」

 

 我ながら必死だったと思う。

 教官の存在こそ、強さこそ、私の目標であり、私の存在理由なのだから。教官の居る高みへ近づけるのなら、知りたいと躍起になるのは当然だ。

 

「私には将来を約束した男がいる。ソイツの隣に胸を張って立ちたいから強くなるのさ」

 

「しょ、将来を約束した!?」(それはつまり……結婚!? パーフェクトな教官に釣り合う男がいるだと…!? そんなバカな! そんなヴァカなッ!!)

 

 結婚がどういうモノなのか、その時既に私は知っていた。

 

 以前やたらと『結婚したのか、俺以外のヤツと…』とクラリッサが口ずさんでいた時期があったんだ。あまりにも言ってるからつい『何を言っているのだお前は』と聞いてしまい、……まぁアレやコレや説明されたが、結婚の意味以外は分からんままだったな。

 

「ああ。約束した……っぽい男がいる」

 

「ぽい!? え、ど、どっちですか!?」

 

「約束した……ような、してないような」

 

「ような!?」

 

 この時も私は大いに驚かされた。

 私の知る限り教官が言葉をあやふやにしたのは、この時が初めてなのだから。というか、ここらへんからもう何もかもがおかしかった。

 

「仮に約束してない奴らが100億人いるとしよう」

 

「は……はぁ…?」

 

「その中に私を放り込めば、たちまち私が一番していると思われがちだな」

 

「思われがち!?」(何が!? 誰に!?)

 

「まぁ約束したか否かと聞かれたら、正直してないんだが」

 

「してないのですね!」(やっと明確な言葉が来た!)

 

「まぁでも、してるに近いけどな」

 

「してるに近い!?」

 

 結局どっちなのか最後まで教官は教えてくれなかったな。

 だが約束してる、してないの話よりも重大な事があった。決して聞き逃す事のできない言葉があった。

 

 

『ソイツの隣に胸を張って立ちたいから強くなる』

 

 

 その言い方はおかしい。

 それではまるで……。

 

「その男は強いのですか?」

 

「ああ、アイツは私の100億倍強いぞ」

 

「強すぎィ!!」

 

 そんなフザけた人間が、この世にいてたまるか! ソイツは何者だ、宇宙人か!?

 

 今でもこの言葉だけは信じていない。

 倍率なんかどうでもいい。そもそも世界最強の教官より強い奴など存在しないって話だ。しかし教官がその男に、ただならぬ感情を抱いているのは確かだった。

 

「そ、その男の名前は…?」

 

「本人の承諾無しに明かす訳なかろうが」

 

「うっ……そ、そうですか」

 

「そうだぞ。だからお前が聞いても私は答えられんのだ。アイツにもプライバシーがあるからな。だから聞くなよ、いいな? 絶対に聞いてはいけないんだからな?」

 

「は、はぁ……」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「聞かんかァッ!!」

 

「えぇっ!? は、はい! えっと、その男の名前は何というのですか!」

 

「それは教えられんな」

 

「(´・ω●`)?」

 

「フッ……ここで教えずとも、そう遠くない未来、お前の耳にも入ってくるだろう。アイツの器は日本程度じゃ狭すぎるからな。いずれ世界中にアイツの名が知れ渡る……私はそんな予感がしてならんよ」

 

 誇らしげに。

 もうとてつもなく誇らしげに微笑むアナタの姿があった。

 

 違う…!

 違う違う違う…!

 

 アナタは誰よりも強く、凛々しく、堂々しているのがアナタなのに! 

 

「……やっぱり早口で言ってやろうか?」

 

「(´・ω●`)?」

 

「名前は無理でも、部屋の間取りとかなら教えるぞ?」

 

「(´・ω●`)?」

 

 こんな変な感じになってしまうアナタは、私が憧れるアナタじゃない! というかもう完全に別人レベルじゃないか!

 

 許せない。

 織斑一夏への憎しみが霞んでしまう程、私はその男が許せない。教官をこんな意味不明な感じにさせる存在を許してなるものか。

 

 そうだ。

 私はこの時に誓ったのだ。

 

 織斑一夏を排除した後。

 その男も見つけ出し潰してやる、と。

 

 しかしその男の名前は結局、最後の最後まで教えてくれそうで、やっぱり教えてくれなかったからな。まずはもう一度、教官に聞かねばなるまい。

 

 

 

 

「……うっ……あ…れ……?」

 

 わ、私はいったい、何を…?

 

「起きたか」

 

 篠ノ之箒…?

 

「あーっ、やっと起きたよ~」

 

 コイツは凰乱音…?

 というか私は何故ベッドで寝ているのだ?

 

「いや、割と早い方だと思うぞ。で、気分はどうだ、ボーデヴィッヒ?」

 

「主車、旋焚玖…………ハッ…!?」

 

 コイツの顔を見た瞬間、記憶が蘇ってきた。

 私が意識を無くす前の記憶が…!

 

「貴様…ッ! いったい私に何をした!?」

 

「不意討ち」

 

「は?」

 

「不意討ち」

 

 






『結果』だけだ!!
この小説には『結果』だけが残る!!(キング・クリムゾン)


と見せかけて次回『軌跡』から(*´ω`*)

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