選択肢に抗えない   作:さいしん

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武術家、というお話。




第140話 軍人と

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 見つめ合うこと10秒。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 20秒。

 

「(´・ω●`)」

 

「!?」

 

 いや、しょんぼりされても困るんだけど。むしろ気合い入れて構えていた俺の方がしょんぼりするわ。『空飛ぶ千冬さんだぁ~』とか言われて誰が見るってんだよ。引っ掛かるの一夏くらいだろ。

 

 しかしこれは、違う意味でも困った。

 

 ボーデヴィッヒからの奇襲を華麗に捌いてみせて、『しゅごい! しゅきぃ♥』ってなってもらう予定だったのに……こんなん捌きようないやんけ。こっから後の先を取るとか無理だろ。

 

 はっ…!?

 もしやそれが狙いか…?

 

「(´・ω●`)」(おかしい……私がクラリッサに仕掛けられた時は、100発100中の確率で引っ掛かった信頼と実績の策だというに…! 何故、この男は引っ掛からん…!? まさか私だけ……いいや、そんな事あるもんか!)

 

 うん、ないな(確信)

 明らかに『どうして引っ掛からないんだぁ~』って顔してるし。むしろコイツはなぜ引っ掛かると思ったのか。コレガワカラナイ。

 

 何よりこの空気感が結構キツい。

 だんだん気まずくなっていくこの感じだけは、巷でブイブイいわせてる旋焚玖さんでも割と堪えるモンである。

 

 しかし何て応えるべきか。

 

 このまま釣られずにいたら、最悪コイツ泣くんじゃなかろうか。何かそんな気がする今日この頃。

 いや、でもなぁ……釣られたら釣られたで、何かしらの奇襲を受ける訳だしさぁ。奇襲されるってのに、よそ見とか自殺行為じゃねぇか。

 

 

【お前……アホちゃう?(真顔)】

【釣られてやるのが漢の勲章】

 

 

 心のえぐる言い方やめたげてよぉ!

 お前そんな事言ったらホントに泣いちまうだろぉ!

 

 という訳で【下】だよね(げっそり)

 だが、やるからにはマジだ。こういうのは中途半端にするのが、実は一番寒かったりするかな、うん。

 

「(´・ω●`)」

 

「ダニィ!? 千冬さんが空を!?」(迫真)

 

「!!!!!!」(やっぱり引っ掛かるんじゃないか! 不安にさせおってからに!)

 

 ババッと上見る僕。

 うん、本日も雲一つない青空が素敵な快晴である。同時に、忍び寄られてる気配ビンビンだぁ……腹筋とか殴ってくれないかなぁ、それなら痛くないし。

 

「……えいやっ!」

 

「サモハン!?」

 

 

意外! それは金的ッ!

蹴られた旋焚玖、前のめりに倒れるッ!

股を押さえて倒れ込む姿は何と無様な事かッ!

 

 

「軍事格闘技を甘く見たな、ふつめん」

 

「あばばばばば」

 

「戦場でのフェアプレー精神はむしろ悪徳。幼少期からそう叩き込まれてきた私が急所を避けると思ったか?」

 

「あばばばばば」

 

「武術家と聞いていたが、少々がっかりしたぞ」

 

「あばばばばば」

 

「……お、おい、大丈夫か…?」(潰してしまったらシャレにならんからな。かなり手加減したつもりだったのだが……)

 

 

せっかく軍人からのありがたいご高説だというのに、ひたすら『あばあば』言って悶えている旋焚玖。しかし仰向けになってもビクビクしている様子に、流石のラウラも心配になったようで、膝を折り顔を覗き込むように伺い――。

 

 

【おっぱいを掴む】

【頭を掴む】

 

 

「掴めるほどねぇだろ!」

 

「ぬぁっ!?」

 

 アイアンクローでこんにちは!

 

「お、お前、苦しんでたんじゃ…アイダダダダ!?」

 

「武術家をナメんなよ、軍人」

 

 お前に褒められた時点で嫌な予感プンプンしてたからな。その時からゴールデンボールは奥にしまいしまいしてたわ!(前話中盤らへんに伏線ぅ)

 

 やってて良かったコツカケ!

 不意に金的喰らっても安心!

 

 仕掛けた罠に嵌ってくれて嬉しいぜ。嬉しいオイラは頭を掴んだまま、ボーデヴィッヒを持ち上げなう。

 

「ぬわぁぁ…! お、お前、痛がってたのはまさか…!」

 

「擬態」(ドヤァ)

 

 当たり前だよなぁ?

 

「正々堂々卑怯は軍人の特権だと思ったかよ?」

 

 反則があるなら即使え。

 普段は自重しているが、相手の方からこっちの土俵に上がって来るってんなら話は別だよなぁ?

 

「で、このまま続けんのか?」

 

 続けたくないでござる!

 拙者は続けたくないでござるよ!

 

 故に、ボーデヴィッヒに降りてもらうに全力を尽くす所存…! という訳で掴んでいる指に力をこめこめくらぶ。

 

「ぬおおおぉぉぉ~…!」(な、なんて力で圧迫してくるのだ…! この力、コイツ教官と同等レベルなんじゃなのか…!?)

 

「続けるツった瞬間、頭ァ陥没させる。引き際を見誤るなよ、軍人」

 

 ここであえて『軍人』というワードを使うところに巧みを感じますね(自賛)

 こういう風に言われた方が、お前も勝負から降りやすいだろう?

 

「う、うむぅ……悔しいが私の負けを認める…」

 

 やったぜ。

 クールに成し遂げたぜ。

 

 

 

 

「しかし、お前はどこから読んでいたのだ?」

 

「何が?」

 

「私がお前の急所を狙う事を、だ。そうでなければ、さっき説明してもらったコツカケ…だったか。そんな備え、してなかっただろう」

 

 コツカケについてはたまたまなんだよなぁ。

 タマタマなだけに(激ウマギャグ)

 

 というか本日が本邦初公開って訳じゃない。ガキの頃からヤバいと思った時は基本的にしてたし。ゴールデンボール蹴られたくないからね。

 

 

 

【1万年と2千年前から】

【今朝ですねぇ!】

 

 偶然だって言ってんだよなぁ。

 

 まぁでも読めてた方が、しゅごさは増しますねぇ! しかし、やーまだ先生が居ない状態で【上】を言ってはいけない(戒め)

 

「今朝ですねぇ!」

 

「今朝ァ!?」(な…なんという事だ…! そんな早い段階で既に見据えていたというのか、この男は…!)

 

 そんな訳ないじゃん(鼻ほじー)

 でもまぁ、別にこのままでいいかなーって。

 

「……お前はただの腕力自慢ではなく頭もキレるようだ」

 

 

【キレてないっすよ】

【お前に言われんでも分かっとる!(ブチギレ)】

 

 

 ネタが古いんだよこのヤロウ!

 というか意味が違うんだよこのバカ!

 

「キレてないっすよ」

 

「フッ……謙虚は美徳、というやつか」

 

 何かプラスの方向で勘違いしてるぅ!

 そういうトコまで千冬さんを摸倣しなくていいから(良心)

 

 あ、そういや千冬さんはまだかな?

 

「実はもう居るぞ」

 

 ヒェッ…!?

 何か背後に居たぁ!?

 

「きょ、教官! いつの間にお越しに…!?」

 

「『あれは…! 空飛ぶ教官…!?』のあたりだな」

 

 最初からやんけ! 

 

 いやはや、俺に気配を感じさせないとか、千冬さんもたいがい人間やめてるよな。絶の使い手かっての。これにはさすがのボーデヴィッヒもビックリだろう。

 

「流石です、教官! しゅごいです!」

 

「フッ……」(しかしラウラとは違い、旋焚玖に動じた様子はない。どうやら最初から気付いていたらしいな。フッ……流石だ)

 

 ビックリするどころか、目をキラキラさせていたでござる。しかし千冬さんもまんざらではない感出しまくりなので、きっとこの2人はこれで良いのである。

 あと俺への絶大な勘違いをしてる気配プンプンだけど、心の中で『サスガダァ…』とか言ってそうだけど、それはもう慣れっこだから気にしないのである。

 

「……で、私達に何か話があるのだろう?」

 

 ああ、そうだった。

 前座が濃すぎて忘れてたわい。

 

 ボーデヴィッヒは俺…ではなく千冬さんの方へと向き直した。まずは千冬さんからって訳か。

 

「単刀直入に言います! お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を!」

 

「いやだ」

 

「(´・ω●`)」

 

 






(´・ω●`):そんなー


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