選択肢に抗えない   作:さいしん

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focus on いちか、というお話。



第146話 一夏の景色

 

 

 アリーナにて旋焚玖がラウラとよろしくやっている頃。もう1人の男性起動者である一夏はというと。

 

「織斑くん!」

「織斑きゅん!」

「おり斑くん!」

「オリ斑くん!」

「オリオリくん!」

「オイヨイヨ!」

 

 なんかモブな女子連中数十名に囲まれていた。囲まれるだけならまだしも、売りたてホヤホヤのPS5を奪い合うが如く、一夏に無数の手が伸びてきている。しかし幸か不幸か、その手が一夏に届くことはなかった。

 

「ちょ、どきなさいよ!」(モブA)

「アンタがどけばいいでしょ!」(モブB)

「はぁん!? アタシを誰だと思ってんのよ!」(モブC)

 

 実は誰でもない。

 

「アンタ達邪魔だってば!」(モブD)

「アンタも邪魔よ!」(モブE)

「なによ!?」(モブF)

「なんなのよ!?」(モブG)

 

「(´・ω・`)?」

 

 一夏に押し寄せると見せかけつつ、何故か眼前で小競り合いを興じるモブ少女達。故に一夏はまだ直接的な被害を被ってないのだが、一体この集まりは何なのか。それすら分からないこの状況こそ、一夏にとっては疑問であり恐怖だった。

 

「ISのトーナメントは私と組もうYO!」(モブH)

「いやいや私と組もう!」(モブI)

「と見せかけて私と組むのが正解だよ~!」(モブJ)

 

 ようやく理由が分かりましたとさ。言葉の通り、彼女達は皆、学年別トーナメントで一夏とタッグを組みたいが為に、直接一夏をお誘いに来たという訳なのである。

 

「何が正解よこの不正解!」(モブ以下略)

「織斑くんと同じ寮に住んでる私こそが相応しいでしょ!」

「みんな同じ寮でしょうが! 主車くんが言いそうな事言って織斑くんの興味をひこうとしてんじゃないわよ!」

「いやいや主車くんはそんな事言わ……あ、言いそう」

「言いそうじゃない?」

「いやぁ主車くんは言わないよ」

「言わない言わない」

「言うよぉ!」

「なによ!?」

「なにさ!?」

「じゃあ多数決だね! 主車くんなら言いそうだと思う人は挙手!」

 

「(´・ω・`)ノ」

 

 挙手しつつも一夏は割と困っていた。

 こういう魑魅魍魎共に群れられた時、いつもなら助けに入ってくれる旋焚玖が今日は隣りにいないのだ。故にここから脱するには、自力で何とかするしかないのだ。

 

「うーんと……うーんと………!!」

 

 何やら妙策が浮かんだ一夏。

 ニッコリ具合からして自信満々である。

 

「あっ! あれは…!」(迫真)

 

 唐突に窓の方を指差す一夏くん。

 

「空飛ぶ千冬姉だ!」(迫真)

 

 信頼と実績の引っ掛けが炸裂した。

 こんなん引っ掛かるアホおらんやろ(旋焚玖談)

 

 

「「「「「「「 ダニィ!? 」」」」」」」

 

 

 エリートはエリートを知るとはまさにこれ。

 幼い頃から一夏と千冬と家族計画な仲だった旋焚玖がたまたま例外的存在なだけで、千冬に対する世界の評価は文字通りブリュンヒルデ。旋焚玖が思っている以上に、千冬ブランドはブリュンヒルデしているのだ。

 

 ましてここはIS学園である。

 かつてブレード一本で世界を相手にブイブイいわせまくっていたブリュンヒルデすぎる千冬に憧れていない生徒が、どうして居ようかいや居ない。

 

 世間知らずな旋焚玖が愚策と評した引っ掛けの正体は、実は諸葛亮も真っ青な神算だったのだ。しかも、策を実行する前から釣れる確信を持っていた一夏の姿まで、もうこの場から消え去っているオマケ付きだった。

 

 

 

 

「へへっ、絶対に引っ掛かると思ったぜ! 千冬姉は世界規模で大人気なんだって、千冬姉自身が言ってたもんな! やっぱり千冬姉は凄いぜ!」

 

 千冬姉は凄かった。

 そのおかげで難を逃れた一夏は満面の笑顔である。しかし、とある問題が浮上したのも事実だった。

 

「トーナメント戦のパートナーかぁ……俺も決めないといけないんだけど」

 

 困った事に自分から誘える相手がいなかった。

 今回のタッグトーナメント戦の出場条件の一つとして、『専用機持ち』同士または『代表候補生』同士でペアになる事は禁止されている。故に一夏は困っていた。

 

「俺の周りに居るのって、だいたい専用機持ちだもんなぁ」

 

 一夏が気軽に誘えて、かつ専用機持ちでもなく、代表候補生でもない人物はあまり多くない。数少ない除外条件を満たしている箒も、既に本音とペアを組んでいるし、清香と静寐は言わずもがなセシリア、鈴と組んでいる状態だ。

 

 となれば、残っているのは必然的に旋焚玖になるのだが。旋焚玖が政府から出場を見送るよう通達を受けているのは既に一夏も知っている訳で。

 

「政府から出場はダメだいって言われてなきゃ、旋焚玖一択なんだけどなぁ」

 

 とはいえ、この通達は別に旋焚玖をイジめるためのモノではなく、むしろ真逆な政府の温情からきているモノであり、それを一夏も分かっているので、別に不満を唱えるつもりなど無し。

 

「今回のトーナメントは外部からもたくさん人が観に来るって千冬姉も言ってたし」

 

 そのような中で、いまだ移動できない旋焚玖が出場した日には、アリーナに嘲笑の嵐が降り注がれるのは想像に難くない。そして次の日には、きっと世界中に知れ渡ってしまうだろう。

 

「んー……もう他にアテはないし、パートナーは当日の抽選に任せようかな」

 

 無理にペアを探したところで、先ほどのモブ連中にまた取っ捕まるのは目に見えている。それならもう割り切って、自分は鍛錬に専念した方がいいのかもしれない。

 

 そうと決まれば、さっそくアリーナへ!

 向かおうとした一夏の足が止まった。

 

「……いや、待てよ? ホントにそうか? 旋焚玖は確かにまだ移動ができない。けど……」

 

 一度は旋焚玖をタッグパートナーの候補から外した一夏の脳裏に『待った!』が掛かる。次いでフラッシュバックされるは、旋焚玖と他の面子の『夜のアリーナ♥』における鍛錬風景だった。

 

 

 

 

case.鈴音初夜

 

「いっくわよぉ、旋焚玖! 龍砲――ッ!!」

 

「む…!?」

 

 まるでノーガードかつ真正面から、見えない事に定評のある衝撃砲【龍砲】を喰らってしまった旋焚玖。砂埃が立ち込める中、手ごたえアリアリな鈴は思わずにやり。

 

(流石の旋焚玖でも、あたしの龍砲が直撃したらタダじゃ済まないわよね! ノーガードでブチ当たったのに、吹っ飛んでないのが気になるけど)

 

 鈴の心に少し暗雲が立ち込める。

 かわりに砂埃は収まり……何食わぬ表情で立っている旋焚玖の姿が明らかになった。

 

「ちょっ……ウッソでしょアンタ…!?」

 

 旋焚玖は吹っ飛んでいないどころか、後方にすら下がっていない。というかぶっちゃけその場から微動だにしていなかった。

 

「なんなんだぁ今のはぁ……?」

 

「ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!」

 

「うっさい一夏!」(あたしの龍砲が効いてない…? いやいやそんな訳ないでしょ! 龍砲はそんな安っぽい技じゃないっての!)

 

 【龍砲】は彼女のIS【甲龍】に備え付けられている主力兵装であり、鈴からすれば信頼と実績の【龍砲】と言っても過言ではない。実際、過去の模擬戦を振り返ってみても、しっかり相手にダメージを与えている。

 

「な・の・に! どうしてアンタはそんなピンピンしてんのよ! あ、何かしたのね? あたしに見えないくらい超高速で何かしたんでしょ!?」

 

「ふはははははははははは!!」

 

「ちょ、笑ってないで答えなさいよ!」

 

「ふはははははははははは!!」

 

「……なるほど、簡単に人に答えを求めるなって訳ね? いいわ、それなら滅多撃ちしちゃうんだから!」(確かにアレコレ考えるなんてあたしの性に合ってないもんね! とりあえず撃って撃って撃ちまくる! それでもダメならその時に考えたらいい!)

 

 意図せず良い方向(?)に吹っ切れた鈴は、宣言通り旋焚玖に向かって龍砲を滅多撃ちしまくる。

 

「ぜったい! 後退させてやるんだから!」

 

「ふはははははははははは!!」

 

 しかし、それでも旋焚玖は不動を貫き通すのだった。なおシールドエネルギー切れで旋焚玖は普通に負けた。

 

 それを間近で観ていた一夏は(´・ω・`)していた。

 

 

case.シャルロット初夜

 

 シャルロットの専用機【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】の特徴は、何と言っても追加武器装備の豊富さにある。武器の数と種類から、シャルロットは近・中・遠どの距離でも戦う事が可能なのだ。

 

 さて、そんなシャルロットだが、ISを纏った旋焚玖がドンムブを強いられている事は既に聞き及んでいる。そして同時に、こうも聞かされていた。『不動なる旋焚玖を真っ向から打ち破るのは至難の業だ』と。

 

「いくよ、兄弟」

 

「きな、兄弟」

 

 何にせよ。

 動けない者を、ましてや兄弟分である旋焚玖をいきなり背後から襲うのも気が引けるシャルロットは、様子見も兼ねてミドルレンジからとりあえず【アサルトライフル】で旋焚玖に向けてBANGBANGBANG。

 

「ほいほいほい」

 

「えぇぇっ!? ちょっ、なに普通に銃弾掴んでるの!?」

 

「イエーッ! 旋焚玖、イエーッ!!」

 

「若林くんに弟子入りしたからな」(SGGK若林源三)

 

「誰それ!?」

 

「ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!」

 

「うるさいよ一夏!」(でも一夏がはしゃぐのも分かるよ…! 誰だよ、兄弟はISを展開したら人間に堕ちるって言ったの! じゅうぶん人外じゃないかぁ!)

 

 中途半端な距離からの射撃では埒が明かないと踏んだシャルロットは、すぐさま戦略を切り替える。射撃を続けながらも、旋焚玖との間合いをどんどん狭めていく。

 

 【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】の性能のおかげで、シャルロットはどの距離でも戦えるに過ぎない、という認識は実は誤りで、理由は他にある。

 

 戦闘の渦中にあっても常に流れを冷静に見極め、状況に応じた武器を瞬時に呼び出せる器用さを兼ね備えるシャルロット自身こそ、距離を選ばず戦える最大の理由であり、彼女の強さでもあった。

 

 故に旋焚玖の間合いに入ろうが、シャルロットの表情に不安も憂いも無し。相手が誰であれ、やる事は同じなのだから。

 

「いくよ、兄弟!」

 

 慣れ親しんだ1秒掛からずの武装呼び出し。通称【高速切替(ラピッド・スイッチ)】を今、旋焚玖の眼前で――!!

 

「これが僕のラピ「握手」……え…?」

 

 シャルロットが右手に呼び出した近接ブレード【ブレッド・スライサー】が顕現されるより疾く、彼女の右手に重ねられる旋焚玖の手。このまま武器を出してしまえば、旋焚玖に奪われてしまう可能性がある。

 

「くっ…!」

 

 刹那の判断でシャルロットはブレードの呼び出しを中止した。これで少なくとも旋焚玖に武器を奪われる心配はない。

 

 が、シャルロットの表情に動揺の色が消える事はなかった。もう片方の手にずっと持っていた筈の【アサルトライフル】を地面に落としているからだ。少なくともシャルロットは、自分の意志で落としたつもりはない。

 

(うっかり落としちゃった? いや、違う…! 旋焚玖に叩き落とされたんだ。その証拠に左手がジンジンしてるもん。右手はニギニギされてるけど)

 

 こうなると困るのはシャルロットの方である。この状況を打破するには何が最善であるか判断しなければならないのだ。

 

 とりあえず空いている左手にもう一度【高速切替】か?

 いや、もっと単純で安全な策があるではないか。旋焚玖の間合いから離れたら、余分な警戒無しで武器を呼び出せる。シャルロットもそれを思い付き――。

 

「……!」

 

 旋焚玖と目が合った瞬間、その考えを捨てた。

 一度の攻防だけで逃げ去るのか――。

 無駄に口を開かぬ旋焚玖の眼から、気のせいかそんな言葉が届けられた気がしたのだ(実は気のせい)

 

 故にシャルロットはこの場から留まる。

 旋焚玖の間合いで【高速切替】を成功させるために…!

  

「もう一度ラピ「握手」……うん、握手。……と見せかけて今度こそラピ「握手」……うん、握手しよう。……からのラピ「握手」……シェイクハンドは大事だよね」

 

 左手だけじゃない、右手も使っての両手【高速切替】で挑んでいるのに、その悉くが握手に終わる。

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「ラ「握手」……うー! うーうー!」

 

「そのうーうー言うのをやめなさい!」

 

「だってぇ……兄弟ってばさっきから握手ばっかりなんだもん!」

 

「【握撃】選ぶ訳にはイカンからね。しょーがないね」

 

「へ? あくげき?」

 

「気にするな。そして宣言しておこう。お前がこのまま低速切替をし続けるなら、俺も【握手】をし続ける。展開は硬直したまま動かない。それが嫌なら……」

 

「嫌なら……?」

 

「敗北、認めな」

 

「う」

 

 自分の得意な【高速切替】を低速呼ばわりされた事に対し、一瞬ムッとなるシャルロットだったが、現に握手されまくっているので、何とも異論を挟みにくい。

 というか1秒未満の武装顕現を低速扱いされた事自体初めてなので、シャルロットはもう考えるのをやめて素直に敗北を認めて旋焚玖の背後に回ってパイルバンカーをケツにしこたまブチ込みまくって旋焚玖はエネルギーが切れて負けた。

 

 それを間近で観ていた一夏は(´・ω・`)していた。

 

 

 

 

「くそっ! 旋焚玖は負けてねぇ! 負けてねぇんだ!」

 

 たとえ専用機持ちが相手であっても、見事な捌きを魅せる事に定評のある旋焚玖。しかし、その捌きっぷりが見事すぎるのが玉に瑕というヤツで。

 旋焚玖を正面から攻めるには、あまりにも難攻不落すぎて、最終的に旋焚玖の手の届かない背後からペチペチするしか手段が見出せないのだ。

 

「……やっぱり動けないとダメなのか」

 

 一夏からすれば、旋焚玖は勝負に勝って試合に負けているようなモノである。しかし一夏が何と思おうとも、結局その場から動けぬ限り、旋焚玖が背後からポッコポコにされる未来からは逃れられないのだ。

 

「でも旋焚玖から弱音とか不満らしい言葉を聞いた事ないんだよな」

 

 自分が一番旋焚玖との付き合いが長いという自負がある。

 それでもISに限らず、一夏は旋焚玖から否定的な言葉を聞いた事がなかった。どれだけ苦境に立たされようが、旋焚玖という男は常にポジティブ思考を絶えさせない。

 

 今回だってそうだ。

 旋焚玖はどう言ってた?

 

 

 

 

「動けねぇ事に不満? ないない、むしろワクワクしてんぜ?」

 

「わくわく?」

 

「ワクワクさん」

 

「へ?」

 

「気にするな。まぁアレだ、気の持ちようってヤツさ。俺はドンムブをかけられちゃいるが、裏を返せばソレはそのまま俺の伸びしろでもあんだよ」

 

「おー、そういう考え方もあるな! 何をするにも気持ちが大事だっていつも旋焚玖言ってるもんな!」

 

「フッ……確かに俺はその場から一歩たりとも動けねぇ案山子だ」

 

「(´・ω・`)」

 

「だが、ただの案山子じゃねぇ。背水の陣にて最強の案山子よ」

 

「イエーッ! 旋焚玖、イエーッ!!」

 

 

 

 

「……ちょっと待てよ…? 今何か、閃きかけたぞ。旋焚玖は後ろに回り込まれなきゃいいんだよな。だから背水の陣って…………あ!」

 

 その時一夏に電流走る――!!

 

「そうだよ、何でこんな簡単な事に気付かなかったんだ! 別にど真ん中で戦う必要なんてないんだ! 壁際で戦えばいいじゃないか!」

 

 一夏の言う通り壁を背にすれば、もう背後を取られる心配はなくなる。が、壁際で戦うのは良いとして、いったいどうやってそこまで移動するのか。

 

「試合の開始と同時に俺が抱っこして運んでやればいいんだ! 【瞬時加速】すれば捉えられる心配もねぇしな! へへっ、今日の俺は冴えてるぜ!」

 

 今日の一夏は冴えていた。

 

「そうと決まればさっそく旋焚玖を誘いに行くぜ! この時間ならアリーナでみんなの鍛錬風景を見学してる筈なんだぜ! でもアリーナは色んなとこにいっぱいあるから、いっこいっこ見に行かなきゃダメなんだぜ! けど何となく今日は第3アリーナに居る気がするぜ! 今日の俺は冴えてるから当たってる気がするぜ!」

 

 今日の一夏は冴えていた!

 

 

 

 

 ルンルン気分で第3アリーナ観客席までやって来た一夏。

 

 も、束の間。

 目の前に広がる光景に強烈な違和感を覚える。

 

「きゅう」

「きゅ~」

 

 アリーナの中央で仲良くたれパンダっているセシリアと鈴。二人とも両目をぐるぐる回しているところを見るに、相応のダメージを負っているに違いない。

 

 そしてその傍ら。

 生身の状態で膝を突く旋焚玖の姿がハッキリ見て取れた。そして旋焚玖に対し両腕を差し向けているラウラの姿も。当然と言えば当然だが、ラウラは旋焚玖と違ってISを纏っている状態だ。

 

 視界の情報を頭が理解するよりも速く――。

 

「お……おおおおおッ――!!」

 

 一夏の身体は動き出していた。【白式】を展開した一夏は、咆哮と共にアリーナの舞台へと猛進し「へぷっ!?」見えない壁にブツかり、中へ入る事を妨げられてしまった。

 

 当然である。

 アリーナは観客席に戦闘の余波が及ばぬよう、常にバリアーによって仕切られているのだから。

 そんな事はIS学園の人間なら誰でも知っているし、一夏も当然知ってはいるのだが、その判断が出来ぬほどに今の一夏は冷静さを欠いていた。

 

「何だこの見えない壁は!?」

 

「アリーナを取り囲んでいるバリアーだよ!」

 

「誰だお前は!?」

 

「いやクラスメートの岸原理子だよ! しゃべった事あるよね!?」

 

「そうか! で何だこの見えない壁は!?」

 

 今の一夏は冷静さを欠いていた!

 

「だからアリーナを取り囲んでいるバリアーだって!」

 

「そうか! なら…!」

 

 右手に【雪片弐型】を構築すると同時に、エネルギーをブレードの刃に集約させた一夏は、禁じ手の【零落白夜】を迷わず顕現させた。

 

「邪魔だァーッ!!」

 

 自分の向かうべき処を遮るモノを切り裂いた一夏は、そのまま今度こそアリーナへと突貫する。

 

「旋焚玖に何してんだああああっ!!」

 

 迫り来る一夏を前にして、まるでラウラに動揺の気配は見られない。むしろこの機会を待ちわびていたかのように口角を上げる。

 

「これはこれは……願ってもない展開だ」(しかも私から喧嘩は売ってないし、これで教官にも怒られないぞやったー!)

 

 かつて千冬がモンドグロッソの決勝戦を棄権した原因に対するわだかまりは、ラウラの中でも一応収束に向かったと言ってもいいだろう。

 しかし、ソレとは別の理由で一夏をポッコポコにしたいラウラは、【AIC】の矛先を旋焚玖から一夏へと移行させた。

 

「あがっ…!? な……う、動けねぇ…!?」

 

「ふつめんの例もあるからな。もはや貴様相手であっても出し惜しみはせん! 存分に【停止結界×2】のしゅごさを味わうがいい!」

 

 セシリアも鈴も、効倍のかかっていない【AIC】だけでも動く事を許されなかった。というかこれまで【AIC】の拘束から逃れた者など、千冬を除けば旋焚玖だけである。

 

 【停止結界×2】とは、そんな【AIC】を更に倍加させ、更に更に千冬のお墨付きまで得ていて、更に更に更に旋焚玖をもドンムブさせてしまっているラウラの奥義なのだ。

 

 旋焚玖とは違い【白式】を纏っているとはいえ、セシリア達より技量の劣る一夏が対抗できる代物ではなかった。

 

「だから何だってんだ! 停止結界だか何だか知らねぇけど、怒りの臨界点を超えた俺をこんなモンで止められると思ってんじゃねぇッ!!」

 

 

「こんなモン!」

 

 

 

 

 

「こんな……こ、こんな…モ…ンんんんぅ~~~…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(´・ω・`)」

 

 






(*´ω`*)

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