ならダブルスでいくよ、というお話。
「聞こうと思ったが聴欲が抑えられなかった」
何言ってだこの人(ン抜き言葉)
聴欲って何ですか? そんな性欲みたいに言われても反応に困るわ。やばいと思ったが性欲を抑えきれなかったのかな(すっとぼけ)
しかし、千冬さんが聞いてくれないのは流石に想定外だった。というか、あれだけ囁いたのに全く聞こえてなかったとか、どうやって想定すればいいのかと。
【同じ内容を一夏に耳打ちる】
【同じ内容をラウラに耳打ちる】
【もう普通に話してしまう】
いやお前【上】と【中】いる?
普通に考えてありえんだろ。
しかも同じ内容ツってもアレなんだろ。どうせ一言一句違わず言わせるつもりだろお前。分かってんだよこのヤロウ。
がっつり『千冬さんおなシャス!』ツってんのに、ソレを囁かれても一夏とボーデヴィッヒが困惑しちまうわ。というかいつもの無駄なやり取りにしかならねぇわ。先に気づけた俺ナイス。
ボーデヴィッヒからしたら、千冬さんと一夏にもがっつり聞かれてしまって恥ずかしい思いをするかもしれねぇが、それで問題が解決するんだから安いモンだろ。数ある不自由と戦わずして、自由は手にできねぇんだぜ?(米崎)
という訳で。
【下】だよね。
【耳打ちなら自由に話せたけど【下】を選んだから一言一句違わず話す】
【耳打ちなら自由に話せたけど【下】を選んだから一言一句違わず話すぅ】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
クソうぜぇぇぇぇぇぇぇッ!!
純度100%な嫌がらせやめてよぉ!
後出しはズルいぞこのヤロウ!
お前アレか! わざわざ牌をめくって「あーあ、リーチしてたら一発ツモに裏ドラもついてたのにねぇ(ニチャア」とか言っちゃうタイプだろ! 天地創世喰らわせるぞコラァッ!!
「ボーデヴィッヒが一夏にプリプリしてるのは、千冬さんから家族愛をがっつり受けてて羨ましいからなんですよ!」
「なっ!? い、いきなり何を言い出すんだふつめん!」
うっせぇ黙ってろ邪魔すんな!
なお今の旋焚玖は強制的に絶対一言一句違わず話すマンと化しているので、ラウラの抗議を言葉で止める事は不可能である。
だから何じゃい!
止めるのに言葉なんかいらねぇんだよ!
「嫉妬ですよ嫉妬!」
「誰が嫉妬などふにゃん」
ボーデヴィッヒの背後に回って当て身。
ちょっと気ぃ失ってろお前。
その間にバッチリ話してやるぜ!
◇
話し終わったぜ。
しかしアレだな、改めて言い直しながら思ったが、ボーデヴィッヒから当たりが強かった一夏の立場に立ってみると「なんだそれ」って話だよな。
きっと一夏もイラっときてるだろうよ。そんな下らん理由で、コイツは出会いがしらにボーデヴィッヒから頭ハタかられてんだからな。千冬さんも千冬さんで、呆れて物も言えねぇだろうよ。
「やっぱ千冬姉はすげぇよ! そこまで人を魅了しちまうんだぜ!?」
「フッ……まぁ私はブリュンヒルデだからな」
え、なにその感じは(困惑)
おめめをキラキラさせて賛辞りまくっている弟と、それを受けてまんざらでもない感プンプンな姉の図か……うん、やっぱ織斑姉弟って一線を画してるわ。二人が気にしないんだったら、別に俺も気にしないでおこう。
「しかし、一夏とボーデヴィッヒにツライ思いをさせてしまった原因が私にあったとはな。私の魅力が凄すぎてすまん、一夏」
何言ってだこの人(ン抜き言葉)
「謝る事なんかねぇよ千冬姉! 千冬姉は悪くねぇって! なぁ、旋焚玖!」
「お、そうだな」
謝罪の言葉がおかしいと思った(小並感)
言わんけど。
それに、だ。魅力云々は置いておくとして、千冬さんが悪くないってのには俺も普通に賛同だし。
「悪いのは魅力が凄すぎる千冬姉の方さ!」
やっぱり千冬さんが悪いんじゃないか(憤怒)
お前ホント千冬さんが絡むと頭パープキンになるよな。ガキの頃から見てきたけど、これだけは幾つになっても変わんねぇな。
「なぁ、旋焚玖!」
「お、そうだな。……ん?」
「う、う~ん……」
どうやらボーデヴィッヒが気絶から回復したらしい。しかし時既に遅しだぜ。お前のプンスコ理由は大いに語らせてもらったわ。あとは千冬さんから良い感じに説得してもらって、一夏とも仲良くするんだな!
「私は……はっ…!」
あ、目が合ったでござる。
「ふつめん!! 一度ならず二度までも私を気絶させおって!!」
はわわ、顔を真っ赤にして詰め寄って来たでござる。これは怒ってますね、間違いない。まぁでも、そりゃそうか。一夏たちに話す事に夢中でさらっと流してたけど、ボーデヴィッヒからしたら無理やり昏睡させられたんだからな。
これは反省せなイカンでしょ。
言葉でボーデヴィッヒを制止できないからといって、紳士な俺とした事があまりにも安易に暴力的な手段を取ってしまった。
「お前という奴は!!」
うむ、ここは誠心誠意ボーデヴィッヒの怒りを甘んじて受けよう。肩パンくらいならしてもいいよ。
「ホントにとんでもない身体能力の持ち主だな!!」
うむ……ぅむ?
「この短期間で何度私を驚かせたら気が済むのだお前は! いつの間にか背後に回られては意識も刈り取られていたぞ!」
怒られると思ってたら褒められたでござる。
ああ、そういやボーデヴィッヒってこういう感じの奴だったな。ヤラれてもいちいちプンスコらない実力至上が信条な粋な奴だったよ。
そしてもっと褒めていいのよ?
と言いたいトコだが、これ以上は展開停滞の恐れがあるからな。ボーデヴィッヒの機嫌が良い今のうちに、千冬さんへバトンタッチするのがベネである。
「お前がクラリッサの言ってたニンジャというヤツだな!」
あ、お前バカやめろそんな香ばしいコト言ったらいけない! 此処にはコイツが居るんだぞ!
「す、すげぇぜ旋焚玖! お前忍者だったのかよ!?」
だああっ!
やっぱり! そんなワード言ったら一夏が食いつくに決まってんだろがい! というか一夏コラァッ!! お前コラァッ!! 何でそんな簡単に信じれんだお前は!
お前ホント俺が絡むと頭パープキンになるよな! ガキの頃から見てきたけど、これだけは幾つになっても変わんねぇな! おかげで本題が横道に逸れたまま戻ってきてくれねぇよ! 連れ戻すぞオイ!
「今は俺よりボーデヴィッヒの事なんじゃないのか? 分別を忘れるなよ、一夏」
「うっ……そ、そうだったな。すまねぇ、ついテンション上がっちまって」
「気にするな」
【語尾に『てばよ』をつける。小一時間くらい】
【忍者っぽい動きを披露してやる】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
やーめーろーよー!
せめて一夏に指摘する前に出してくれよぉ! 忘れた頃にワンテンポ遅らせてくるのホントやめてほしいんだけど!?
【上】も【下】も嫌だけど【上】の方がキツいだろ。視線的な意味で。一夏に注意しておきながらその語尾とか、お前どう考えても触れられてほしい奴じゃねぇか。そういう素直になれない意地っぱりなキャラ付けとか求めてないからマジで。
というわけで【下】を選びたいんだけどさ……【忍者っぽい動き】って何だよ! さらっと書いてるけど無茶ぶりにも程があるんだよこのヤロウ!
いいよやってやるよ!
【っぽい】ってのがミソだオラァッ!! おめぇら全員目ン玉ひん剥いて見さらせオラァッ!! 俺のしゅごさに驚き慄くがいい!
「…………………」
「旋焚玖? どうしたんだ、急に無言になって……ん? どこ見てんだ、ボーデヴィッヒ?」
旋焚玖の仕掛けを初めに気付いたのはラウラ……と見せかけて千冬なのだが、千冬からすれば別段驚くような事でもないので、いつも通り『サスガダァ…』とか言ってた。
しかしその横に立つラウラは千冬と違って、口をこれでもかとあんぐりさせている。そんな彼女の様子を怪訝に思いつつ、視線を一夏も追わせて――。
「へ…? あ、あれは……せ、旋焚玖じゃねぇか!! え、あれっ、こ、此処に立ってるのも旋焚玖!? ど、どういう事だってばよ!?」
「アッチにもふつめん…!? こっちにもふつめん…!?」
一夏とラウラだけではない。
アリーナにいる千冬を除く誰もが目を疑う。
そこには信じられない光景があった。
「旋焚玖が!」
「ふつめんが!」
「「 二人居る!!!!! 」」
【忍者っぽい】動きなら任せろー。
菊丸先生に教えてもらったからな。
「あ、あれが噂に名高い分身の術というヤツか!!」
せっかくだし決め台詞も言っておくか。思えばここからテニヌ化の一途を辿っていったな。
「「ならダブルスでいくよ」」(菊丸)
「ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!」
「む……織斑一夏、ソレは何だ?」
「旋焚玖がしゅごい時に送る喝采さ!」
喝采だったのか(困惑)
8歳くらいから言われ続けてきたが初めて知ったわ。
「なるほど、喝采か! ならば私も言わねばならんな」
いやなんの使命感だよ。
そんな事しなくていいから(良心)
「ヒューッ! ふつめん、ヒューッ!!」
「おぉ! いい喝采っぷりじゃないか!」
「うむ、コレは中々どうして言ってみると気持ちがいいな!」
お前ら仲良いな!?
もう遺恨とか吹っ飛んでんじゃないのかこれ。
一人ダブルスを披露しながらも、そこは洞察力満点な旋焚玖。一夏とラウラの間に在った険悪な空気が、かなり薄れている事に気付く。
そして忘れてはいけないもう一人の存在、ブリュンヒルデな織斑千冬。旋焚玖が気付く事を彼女が果たして見逃すだろうか、否、見逃す道理などなかった。
「フッ……」(旋焚玖はラウラの説得に第三者は不要だと言ったが……目の前の光景はどうだ。旋焚玖を中心に仲違いを解消させているではないか。ドイツでは決して見られなかった、他者との会話で笑顔を咲かせているではないか。……ふふ、旋焚玖のおかげで、もう私の説得の方が不要になったな可愛い)
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
「は、はいっ!」
お、千冬さんがボーデヴィッヒに声をかけた。なら俺も忍者っぽい動きは終わらせていいだろ。
「お前は誰だ?」
「(´・ω●`)?」
んん?
ラウラ・ボーデヴィッヒだと思うんですけど(凡推理)
「ほれ、遠慮せず思った事をそのまま言ってみろ。お前は誰なんだ?」
「え、えっと……ら、ラウラ・ボーデヴィッヒ……です…?」
意図が掴めずオロオロしちゃってるじゃないか。
まぁでも特に問題ないだろう。アホの選択肢とは違って、今問いかけてるのは千冬さんなんだからな。ボーデヴィッヒも大船に乗ったつもりで身を任せちまいな!
「ああ、そうだな。お前はラウラ・ボーデヴィッヒだ。そんなお前が私の唯一肉親的存在な一夏と同じように接してもらえると思うなよ」
「(´・ω●`)」
これにはボーデヴィッヒもしょんぼり顔である。この感じからして、おそらく千冬さんからこうまでハッキリ言われたのは、コレが初めてなんだろう。
「そしてお前は、私の唯一弟子的存在だな」
「ゆ、唯一弟子的存在…ですか?」
「ああ、そうだ。一夏が世界でたった一人の弟なら、お前は私にとって世界でたった一人の愛弟子だ。ベクトルは違えど大切に思う気持ちは違わん、という事だ。……こんな事を言わせるなバカ者(ぷいっ)」
ぷいっとしましたよこの人。
これは自分で言って照れてますね間違いない。
「ふぉぉぉ…!」
これにはボーデヴィッヒもふぉぉぉ…!である。
堕ちたな(確信)
「えーっと……つまり、どういう事なんだ?」
「お前とボーデヴィッヒはダチになったって事だ。なぁ、ボーデヴィッヒ?」
「うむ、ふつめんの言う通りだ。今までキツく当たってすまなかったな、許せ織斑一夏!」
「おう! もう気にしてないぜ!」
よう言うた! それでこそ男や!
お前(選択肢)も見習わにゃいかんとちゃうんか?
「フッ……高校生活などあっという間に終わってしまうものだ。せいぜい今を楽しめよ、ガキ共……っと」
千冬さんがいい感じの言葉で締めてくれたし、これにて一件落着である! ばたんきゅぅ~っているセシリアと鈴を余裕で肩に担いでいるのは見て見ぬ振りをしておくのである!
「あ、そうだ、千冬姉!」
「ん?」
「旋焚玖もトーナメントに出られるぜ!」
何言ってだコイツ(ン抜き言葉)
(*^◯^*)来年もよろしくなんだ!
(*´ω`*)ハヤル