すごいぞ旋焚玖強いぞ旋焚玖、というお話。
「……ターゲット以外は?」
「篠ノ之箒以外に用はないとの仰せだ」
「いや、この男から足が付くと厄介だ……消すぞ」
なんか怖い事言ってる!? 篠ノ之は意味深なこと言い出すし、それが余計に恐怖を助長してんだけど!?
え、なになに、そういう世界観なの!? 俺が鍛えられていたのって、やっぱりこういう事に巻き込まれるからだったの!?
あれ、ちょっと待って! 前の人が持ってるの、もしかしてスタンガンですか!? バチバチいかれるアレなんですか!? いやいやいやいや! どうするどうする、やべぇよやべぇよ、マジで最大の危機じゃないのか、今って…!
【篠ノ之の後ろに隠れる(腑抜け)】
【あっ、UFOだ!(現実逃避)】
【はったりでこの場を切り抜ける(おすすめ)】
3つに増えたのにまるで役に立ってねぇぞこの選択肢! その()は誰の感情なんだよオイッ! だが、よく考えろ……時間は止まってんだ、選択よりも自分で有効な手立てを考えるんだ。
真ん中とかなんだこれ、こんなモンに引っかかる大人が居てたまるか。本音を言うと俺が一番選びたいのは上だが……流石に篠ノ之を盾にしたところで、状況が好転するとは思えねぇ……やっぱ一番下しかない、か。おすすめって書いてあるし。
すげェはったりで頼むぜオイ…!
それで切り抜けられたら言う事はねぇ、最高だ。無理だったとしても、次善策の用意に繋げてやる…!
ふぅぅぅ………選ぶぜぇ……!
気合入れろよ、旋焚玖ッ!
俺は一歩前に出る。
「ハッ……俺を知らねぇのか、アンタ達? 主車っツったら地元じゃ泣く子ももっと泣くで評判の野郎よ」
泣く子がもっと泣くのか……もうこの時点でダメな気がする。
「俺の兄キは叉那陀夢止の頭だしよ。姉キはあの韻琴佗無眸詩の頭だしよ。親父は地上げやってんしよ。お袋は飛天御剣流の使い手だしよ。テメェらみてぇな三下が楯突ける男じゃねェんだよ」
ダメだコイツ!
やっぱり悪ノリしやがった!
だが長い台詞だったのはありがたい…! おかげで自然にポケットに手を入れられた。わざわざ俺の戯言に付き合ってくれてありがとよ、俺の態勢も……整ったッ…!
手のひらに握りしめたモノを地面に叩きつける。破裂したソレは辺り一面を煙で覆った。
「「「 !? 」」」
「なっ、主車……!?」
この中で驚かないのは俺だけだ。
持って来ておいて良かった…!
思い出されるのは、つい最近交わした父さんとの会話。
『しっかし、こんな物を作ってどうするんだ?』
『いつか使う日が来るかもだろ?』
『来ないと思うがねぇ』
『ま、念の為ってやつさ』
マジで来ちまったぞ、父さん。
篠ノ之流柔術皆伝書にあった『煙幕玉を造れ』を初めて読んだ時「うひひ、煙幕とかどこの忍者ですかぁ? まじウケるんですけど、むぷぷ」とかバカにしてすいませんでした。
『煙幕玉の製造方法』がびっしり書かれたページを見て「ヒィーッヒッヒ! も、もうダメだ、こんなの初見殺しすぎる、うひゃひゃひゃひゃッ!」とか爆笑してマジすいませんでした。
造っておいて……持って来ておいて……本当に良かった…! ありがとう、師匠…! おかげで切り抜けられるッ!
「……ッ!」
煙で何も見えないこの状況で、俺だけが動ける。この状況を作り出した俺だけが、誰よりも早くこの空間で動けるッ!
視界が遮られた中で、目の前の男が何らかのアクションを起こすよりも先に、俺の手が男の右腕を掴めた。スタンガンを持つ腕を掴めた…!
『その手に持つスタンガンを、そのまま男に当てて痺れさせるッ! あとはコイツの斜め後ろに立っていた男の側頭部を蹴り刈り、そのまま身体を回転させ、最後の男には後ろ回し蹴りを喰らわせるッ!
俺の俺による華麗な立ち回りで痺れて動けない男が1人、蹲る男が2人。計、3人だ。そして余裕を持って篠ノ之とこの場から去る。』
完璧だ、完璧すぎる作戦だ!
(『』はあくまで旋焚玖の脳内シミュレーション)
作・戦・開・始ッ!
まずはスタンガンを男に当てるッ!
オラ、痺れちまいなッ!
「あぎゃぁぁぁッ!!」
「「 !? 」」
うぇいッ!?
え、そういう感じなの!? スタンガンって「ビリビリしゅりゅ~」くらいじゃないの!? バチバチ言ってる! すっごいバチバチ言ってるよぉ! このヤロウ、どんな電力設定してやがった!?
さっそく想定していない事が起こり、まだ零コンマレベルだが、それでも意識の切り替えに時間を掛けてしまったのは事実。このまま予定通り、次の標的を蹴りにいくのはまずい気がする…!
「ッ…動くんじゃねぇッ!! テメェらにも喰らわすぞッ!!」
こんなのただの脅しだ。
これこそただのはったりだ。
「「……ッ…!」」
硬直した気配がする。
さては、コイツらは持ってねぇな!?
うだうだ考えている暇はない、すぐさま踵を返し、篠ノ之が居るであろう元へと駆けて手を伸ばす。
「……ッ!?」
(声を出すな! 逃げるぞ!)
(わ、分かった!)
思わず手を握ってしまったが、こんな時にまで気遣っている余裕はない。煙幕の持続性なんてたかが知れている。アイツらが強張っている間に、俺と篠ノ之はこの場から急いで離れるのだった。
.
...
......
安易に駅へ行くのは危険だと判断した俺たちは、町の方へは行かず住宅街に入って身を潜めていた。
「整備されてない空き家があるのはラッキーだったな。ボロっちぃが此処でやりすごそう」
「あ、ああ……」
ようやく一息つける。
だが、何が何やら俺にはさっぱりだ。軽い気持ちで篠ノ之の応援に来たら、まさかのコレだもんなぁ……そんなん考慮してへんよー。
で、どうする?
アイツらは俺ではなく篠ノ之を狙っていた。その理由は、篠ノ之本人に聞くのが一番手っ取り早いんだろうが……何となくなノリで聞いていいものか。聞いちまったら、これからも厄介事に関わっちまうんじゃ…?
【リア充チャンス! ここは根掘り葉掘り聞くべき!】
【篠ノ之が何も言わないなら、俺も何も聞かない】
ハチャメチャが押し寄せてくる充実感は求めてない。
篠ノ之には悪いが、俺からは何も聞かんぞうッ!
「アイツ達は……日本政府の者だ。強硬派の……」
話し出しちゃった。
しかも続きが気になる言い方をしよるわコイツぅ…!
「……強硬派って?」
前世が平凡な人生だっただけに、スペクタクルすぎるこの状況は俺にとって毒だ。普遍的な平穏を望んではいるものの、今だけは好奇心に勝てる筈がなかった。
吉良吉影だってサガには勝てなかったし、これは仕方ないと思うの。
ぽつり、ぽつり…と話していく篠ノ之の言葉を、俺は黙って最後まで聞くのだった。
.
...
......
全てを語り終えた後、篠ノ之は俺に頭を下げてくる。
「すまない、主車……私のせいで、お前まで巻き込んでしまった…!」
「気にするな」
俺たちの地元を離れてから、篠ノ之がこれまでどんな日々を過ごしていたのか……それをも聞いてしまった今では、彼女に当たる事など、どうして出来ようか。
「それと……助けてくれて、その……ありがとう…」
「それも気にするな」
あ、それに関してはもっと言ってもいいのよ? いや、別にお礼をもっと言ってほしいって事じゃなくて、もっと褒めてくれていいんですよ? 我を賞賛していいんですよ?
だってさ、だってさ、実際俺って結構スゴい事したと思うの。
いや、ちょっと待って……俺って実は……めちゃくちゃスゴい事したんじゃない? 落ち着いて振り返ったら、ホントにすごくない? いや、ヤバくね? 俺、なんかすごい組織の奴らを手玉に取ったんだぜ!?
ヒューッ!
俺、ヒューッ!
「お前は本当に変わらないな。覚えているか…?」
あ、もう違う話にいっちゃう系?
もうちょっと浸らせてほしかった。
「小学生の時、男子にイジメられていた私を助けてくれた時も……お前は同じ事を言ったんだぞ?」
「む……」
ぶっちゃけあの時の会話は碌に覚えてない。だって、それより抜けた歯の部分が痛かったんだもん。
「フザけている時は人一倍饒舌なお前が、私や一夏が困っている時は、決まって多くは語らず助けてくれていたっけ……」
な、なんか…しみじみ語るのヤメてくれません? ちょっと照れるんですけど……っていうか、心の中では常に饒舌ですよ、私。
「ど、どうすればいいんだ…」(ボソッ)
ん?
「これ以上、主車に優しくされてしまったら……私……」(ボソッ)
聞こえたー!
本人はボソッと言ってるつもりらしいが、はっきり聞こえちゃったー! どうして頬を染めながらそういう意味深なコト呟いちゃうの!? アレなの? ここにきて俺に靡いてるって、そう捉えちゃっていいの?
そういう事なら私、大歓迎ですよ!
中3はロリコンじゃねぇからな! それに見ろよ、この子の美人っぷりを! こんな美人に「しゅき♥」なんて言われたら(言われてない)OKするに決まってんだろ、即だよ即、即決だよ!
これは今度こそ春が来たと思って……思うかアホ! 鈴にフラれてまだそんな経ってねぇんだよ、あの悲しみはまだ忘れちゃいねぇぞ! 上げて落とされるのってすげぇツラいんだぞ、すげぇツラいんだぞ!
これ以上惑わされる前に別の話題に切り替えよう! えっとえっと、何か話題話題……。
「し、しかし驚いたぞ!」
うわビックリした!
急に大声出すなよ、俺が驚くわ!
「お前がさっき投げていたヤツだ、あれは煙幕というヤツなのか?」
おっ、ナイス話題提供。ここはその話に乗ろう、いやぁ、いいの振ってくれたな。正直、この話は俺もめちゃくちゃしたかったんだ。
「ぬふふ……キミが言っているのはコレの事かね?」
残りの一つを篠ノ之に見せる。
「煙幕玉だ。俺が造った」
「お前が…?」
「フッ……素焼きの陶器で玉を造り、内部には……フッ……特殊な火薬を仕込んであるんだ」
「そ、そうか……すごいド…ンンッ…! すごい誇らし気だな」
コイツ今ドヤ顔って言いかけたぞ。
別にドヤ顔言ってもいいのに、蔑称じゃないし。
「主車は……あれからもずっと鍛えていたんだな…」
「ん、まぁな」
鍛えさせられているだけなんだけどね。
身体がね、毎日ね、俺の意思に反して修行したがるの。
「主車は変わっていない……アホなところも、強いところも…! それに比べて私はどうだ…!」
「……篠ノ之…?」
あ、あれ…?
割と和やかな雰囲気になってたじゃん。
それがまた、一気に重くなってきてんだけど。
「お前はあの状況でも機転を利かせてすぐに行動を起こした……私は……私は目の前が真っ白になって、まるで動けなかった…! 私が今まで鍛錬してきたのは何だったんだ!? 主車と違って私は全然強くなってなんかない…!」
ふぉ、フォローした方がいいのか…?
でもなんて声を掛けりゃ……やべぇ、浮かんでこねぇ…! そもそも優勝した奴が強くない訳ないだろ……くそ、マジで言葉が思いつかん…!
「お前も観ただろう! 私のッ……最低の試合っぷりを…! あんな…相手を見下すような、力を誇示するように剣を振るう私の醜い姿をッ!」
「……!」
ああ……そういう事だったのか。
やっと全てが解けた。
やっと謎が解けた。
だから篠ノ之はあんな悲痛な表情をしていたのか。試合の後も、川を眺めていた時も、俺に声を掛けられた時も……そして、今も…。
変に勘違いしてたのは俺の方だったのか。いやでも、選択肢も悪いと思う。生理痛とか言われたら信じちゃうじゃん……まぁいいや、篠ノ之が落ち込んでる理由も分かったし、後は……―――!?
【篠ノ之は今、精神的に参っている。上手く言葉で誑かせばコイツは俺の女になる】
【外道な真似はしない。落ち込む篠ノ之に全力で発破をかけてこそ、真の男である】
「……………………」
俺、もう外道でもいいかなって。
何の見返りもなく、ひたすら強いられ続けた15年間……そろそろ報われたいかなって。
そう思うんだ……。
旋焚玖くんの選択は?
あ、私は余裕で上です。