選択肢に抗えない   作:さいしん

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すごいぞ旋焚玖強いぞ旋焚玖、というお話。



第15話 武芸百般

 

 

「……ターゲット以外は?」

 

「篠ノ之箒以外に用はないとの仰せだ」

 

「いや、この男から足が付くと厄介だ……消すぞ」

 

 なんか怖い事言ってる!? 篠ノ之は意味深なこと言い出すし、それが余計に恐怖を助長してんだけど!?

 え、なになに、そういう世界観なの!? 俺が鍛えられていたのって、やっぱりこういう事に巻き込まれるからだったの!?

 

 あれ、ちょっと待って! 前の人が持ってるの、もしかしてスタンガンですか!? バチバチいかれるアレなんですか!? いやいやいやいや! どうするどうする、やべぇよやべぇよ、マジで最大の危機じゃないのか、今って…!

 

 

【篠ノ之の後ろに隠れる(腑抜け)】

【あっ、UFOだ!(現実逃避)】

【はったりでこの場を切り抜ける(おすすめ)】

 

 

 3つに増えたのにまるで役に立ってねぇぞこの選択肢! その()は誰の感情なんだよオイッ! だが、よく考えろ……時間は止まってんだ、選択よりも自分で有効な手立てを考えるんだ。

 

 真ん中とかなんだこれ、こんなモンに引っかかる大人が居てたまるか。本音を言うと俺が一番選びたいのは上だが……流石に篠ノ之を盾にしたところで、状況が好転するとは思えねぇ……やっぱ一番下しかない、か。おすすめって書いてあるし。

 

 すげェはったりで頼むぜオイ…!

 それで切り抜けられたら言う事はねぇ、最高だ。無理だったとしても、次善策の用意に繋げてやる…!

 

 ふぅぅぅ………選ぶぜぇ……! 

 気合入れろよ、旋焚玖ッ!

 

 俺は一歩前に出る。

 

「ハッ……俺を知らねぇのか、アンタ達? 主車っツったら地元じゃ泣く子ももっと泣くで評判の野郎よ」

 

 泣く子がもっと泣くのか……もうこの時点でダメな気がする。

 

「俺の兄キは叉那陀夢止の頭だしよ。姉キはあの韻琴佗無眸詩の頭だしよ。親父は地上げやってんしよ。お袋は飛天御剣流の使い手だしよ。テメェらみてぇな三下が楯突ける男じゃねェんだよ」

 

 ダメだコイツ!

 やっぱり悪ノリしやがった!

 

 だが長い台詞だったのはありがたい…! おかげで自然にポケットに手を入れられた。わざわざ俺の戯言に付き合ってくれてありがとよ、俺の態勢も……整ったッ…!

 

 手のひらに握りしめたモノを地面に叩きつける。破裂したソレは辺り一面を煙で覆った。

 

「「「 !? 」」」

 

「なっ、主車……!?」

 

 この中で驚かないのは俺だけだ。

 持って来ておいて良かった…!

 

 思い出されるのは、つい最近交わした父さんとの会話。

 

 

『しっかし、こんな物を作ってどうするんだ?』

 

『いつか使う日が来るかもだろ?』

 

『来ないと思うがねぇ』

 

『ま、念の為ってやつさ』

 

 

 マジで来ちまったぞ、父さん。

 篠ノ之流柔術皆伝書にあった『煙幕玉を造れ』を初めて読んだ時「うひひ、煙幕とかどこの忍者ですかぁ? まじウケるんですけど、むぷぷ」とかバカにしてすいませんでした。

 

 『煙幕玉の製造方法』がびっしり書かれたページを見て「ヒィーッヒッヒ! も、もうダメだ、こんなの初見殺しすぎる、うひゃひゃひゃひゃッ!」とか爆笑してマジすいませんでした。

 

 造っておいて……持って来ておいて……本当に良かった…! ありがとう、師匠…! おかげで切り抜けられるッ!

 

「……ッ!」

 

 煙で何も見えないこの状況で、俺だけが動ける。この状況を作り出した俺だけが、誰よりも早くこの空間で動けるッ!

 

 視界が遮られた中で、目の前の男が何らかのアクションを起こすよりも先に、俺の手が男の右腕を掴めた。スタンガンを持つ腕を掴めた…!

 

 『その手に持つスタンガンを、そのまま男に当てて痺れさせるッ! あとはコイツの斜め後ろに立っていた男の側頭部を蹴り刈り、そのまま身体を回転させ、最後の男には後ろ回し蹴りを喰らわせるッ!

 

 俺の俺による華麗な立ち回りで痺れて動けない男が1人、蹲る男が2人。計、3人だ。そして余裕を持って篠ノ之とこの場から去る。』

 

 完璧だ、完璧すぎる作戦だ!

 (『』はあくまで旋焚玖の脳内シミュレーション)

 

 

 作・戦・開・始ッ!

 

 

 まずはスタンガンを男に当てるッ!

 オラ、痺れちまいなッ!

 

「あぎゃぁぁぁッ!!」

 

「「 !? 」」

 

 うぇいッ!?

 え、そういう感じなの!? スタンガンって「ビリビリしゅりゅ~」くらいじゃないの!? バチバチ言ってる! すっごいバチバチ言ってるよぉ! このヤロウ、どんな電力設定してやがった!?

 

 さっそく想定していない事が起こり、まだ零コンマレベルだが、それでも意識の切り替えに時間を掛けてしまったのは事実。このまま予定通り、次の標的を蹴りにいくのはまずい気がする…!

 

「ッ…動くんじゃねぇッ!! テメェらにも喰らわすぞッ!!」

 

 こんなのただの脅しだ。

 これこそただのはったりだ。

 

「「……ッ…!」」

 

 硬直した気配がする。

 さては、コイツらは持ってねぇな!?

 

 うだうだ考えている暇はない、すぐさま踵を返し、篠ノ之が居るであろう元へと駆けて手を伸ばす。

 

「……ッ!?」

 

(声を出すな! 逃げるぞ!)

(わ、分かった!)

 

 思わず手を握ってしまったが、こんな時にまで気遣っている余裕はない。煙幕の持続性なんてたかが知れている。アイツらが強張っている間に、俺と篠ノ之はこの場から急いで離れるのだった。

 

 

.

...

......

 

 

 安易に駅へ行くのは危険だと判断した俺たちは、町の方へは行かず住宅街に入って身を潜めていた。

 

「整備されてない空き家があるのはラッキーだったな。ボロっちぃが此処でやりすごそう」

 

「あ、ああ……」

 

 ようやく一息つける。

 だが、何が何やら俺にはさっぱりだ。軽い気持ちで篠ノ之の応援に来たら、まさかのコレだもんなぁ……そんなん考慮してへんよー。

 

 で、どうする?

 アイツらは俺ではなく篠ノ之を狙っていた。その理由は、篠ノ之本人に聞くのが一番手っ取り早いんだろうが……何となくなノリで聞いていいものか。聞いちまったら、これからも厄介事に関わっちまうんじゃ…?

 

 

【リア充チャンス! ここは根掘り葉掘り聞くべき!】

【篠ノ之が何も言わないなら、俺も何も聞かない】

 

 

 ハチャメチャが押し寄せてくる充実感は求めてない。

 篠ノ之には悪いが、俺からは何も聞かんぞうッ!

 

「アイツ達は……日本政府の者だ。強硬派の……」

 

 話し出しちゃった。

 しかも続きが気になる言い方をしよるわコイツぅ…!

 

「……強硬派って?」

 

 前世が平凡な人生だっただけに、スペクタクルすぎるこの状況は俺にとって毒だ。普遍的な平穏を望んではいるものの、今だけは好奇心に勝てる筈がなかった。

 吉良吉影だってサガには勝てなかったし、これは仕方ないと思うの。

 

 ぽつり、ぽつり…と話していく篠ノ之の言葉を、俺は黙って最後まで聞くのだった。

 

 

.

...

......

 

 

 全てを語り終えた後、篠ノ之は俺に頭を下げてくる。

 

「すまない、主車……私のせいで、お前まで巻き込んでしまった…!」

 

「気にするな」

 

 俺たちの地元を離れてから、篠ノ之がこれまでどんな日々を過ごしていたのか……それをも聞いてしまった今では、彼女に当たる事など、どうして出来ようか。

 

「それと……助けてくれて、その……ありがとう…」

 

「それも気にするな」

 

 あ、それに関してはもっと言ってもいいのよ? いや、別にお礼をもっと言ってほしいって事じゃなくて、もっと褒めてくれていいんですよ? 我を賞賛していいんですよ?

 

 だってさ、だってさ、実際俺って結構スゴい事したと思うの。

 いや、ちょっと待って……俺って実は……めちゃくちゃスゴい事したんじゃない? 落ち着いて振り返ったら、ホントにすごくない? いや、ヤバくね? 俺、なんかすごい組織の奴らを手玉に取ったんだぜ!?

 

 ヒューッ!

 俺、ヒューッ!

 

「お前は本当に変わらないな。覚えているか…?」

 

 あ、もう違う話にいっちゃう系?

 もうちょっと浸らせてほしかった。

 

「小学生の時、男子にイジメられていた私を助けてくれた時も……お前は同じ事を言ったんだぞ?」

 

「む……」

 

 ぶっちゃけあの時の会話は碌に覚えてない。だって、それより抜けた歯の部分が痛かったんだもん。

 

「フザけている時は人一倍饒舌なお前が、私や一夏が困っている時は、決まって多くは語らず助けてくれていたっけ……」

 

 な、なんか…しみじみ語るのヤメてくれません? ちょっと照れるんですけど……っていうか、心の中では常に饒舌ですよ、私。

 

「ど、どうすればいいんだ…」(ボソッ)

 

 ん?

 

「これ以上、主車に優しくされてしまったら……私……」(ボソッ)

 

 聞こえたー!

 本人はボソッと言ってるつもりらしいが、はっきり聞こえちゃったー! どうして頬を染めながらそういう意味深なコト呟いちゃうの!? アレなの? ここにきて俺に靡いてるって、そう捉えちゃっていいの? 

 

 そういう事なら私、大歓迎ですよ!

 中3はロリコンじゃねぇからな! それに見ろよ、この子の美人っぷりを! こんな美人に「しゅき♥」なんて言われたら(言われてない)OKするに決まってんだろ、即だよ即、即決だよ!

 

 これは今度こそ春が来たと思って……思うかアホ! 鈴にフラれてまだそんな経ってねぇんだよ、あの悲しみはまだ忘れちゃいねぇぞ! 上げて落とされるのってすげぇツラいんだぞ、すげぇツラいんだぞ!

 

 これ以上惑わされる前に別の話題に切り替えよう! えっとえっと、何か話題話題……。

 

「し、しかし驚いたぞ!」

 

 うわビックリした!

 急に大声出すなよ、俺が驚くわ!

 

「お前がさっき投げていたヤツだ、あれは煙幕というヤツなのか?」

 

 おっ、ナイス話題提供。ここはその話に乗ろう、いやぁ、いいの振ってくれたな。正直、この話は俺もめちゃくちゃしたかったんだ。

 

「ぬふふ……キミが言っているのはコレの事かね?」

 

 残りの一つを篠ノ之に見せる。

 

「煙幕玉だ。俺が造った」

 

「お前が…?」

 

「フッ……素焼きの陶器で玉を造り、内部には……フッ……特殊な火薬を仕込んであるんだ」

 

「そ、そうか……すごいド…ンンッ…! すごい誇らし気だな」

 

 コイツ今ドヤ顔って言いかけたぞ。

 別にドヤ顔言ってもいいのに、蔑称じゃないし。

 

「主車は……あれからもずっと鍛えていたんだな…」

 

「ん、まぁな」

 

 鍛えさせられているだけなんだけどね。

 身体がね、毎日ね、俺の意思に反して修行したがるの。

 

「主車は変わっていない……アホなところも、強いところも…! それに比べて私はどうだ…!」

 

「……篠ノ之…?」

 

 あ、あれ…?

 割と和やかな雰囲気になってたじゃん。

 それがまた、一気に重くなってきてんだけど。

 

「お前はあの状況でも機転を利かせてすぐに行動を起こした……私は……私は目の前が真っ白になって、まるで動けなかった…! 私が今まで鍛錬してきたのは何だったんだ!? 主車と違って私は全然強くなってなんかない…!」

 

 ふぉ、フォローした方がいいのか…?

 でもなんて声を掛けりゃ……やべぇ、浮かんでこねぇ…! そもそも優勝した奴が強くない訳ないだろ……くそ、マジで言葉が思いつかん…!

 

「お前も観ただろう! 私のッ……最低の試合っぷりを…! あんな…相手を見下すような、力を誇示するように剣を振るう私の醜い姿をッ!」

 

「……!」

 

 ああ……そういう事だったのか。

 やっと全てが解けた。

 やっと謎が解けた。

 だから篠ノ之はあんな悲痛な表情をしていたのか。試合の後も、川を眺めていた時も、俺に声を掛けられた時も……そして、今も…。

 

 変に勘違いしてたのは俺の方だったのか。いやでも、選択肢も悪いと思う。生理痛とか言われたら信じちゃうじゃん……まぁいいや、篠ノ之が落ち込んでる理由も分かったし、後は……―――!?

 

 

【篠ノ之は今、精神的に参っている。上手く言葉で誑かせばコイツは俺の女になる】

【外道な真似はしない。落ち込む篠ノ之に全力で発破をかけてこそ、真の男である】

 

 

「……………………」

 

 俺、もう外道でもいいかなって。

 何の見返りもなく、ひたすら強いられ続けた15年間……そろそろ報われたいかなって。

 

 そう思うんだ……。

 

 





旋焚玖くんの選択は?
あ、私は余裕で上です。

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